瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

January 4, 2007
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1月4日。 生名島シーカヤックキャンプツーリング二日目の朝。
目が覚めると、まだテントの中は薄暗い。 テントの中の気温は7℃ほどと、それほど冷え込んではいない。

ヘッドランプを灯し、本を手に取る。 『宮本常一を歩く_下巻(毛利甚八)』

***

昨年秋に周防大島であった宮本常一に関するイベントに、妻とそしてエクストリームNさんとともに参加した時、毛利さんの講演を聴いた後に購入した、サイン入りの本である。

上巻は家で読んだ。 以下、抜粋。
『それにしても、こうしてめったに人の訪れない土地を、ぼんやり歩いているこの時間の贅沢なこと。 なにしろこれは私以外の誰の役にも立たない旅なのだ』

『かつて辺境と呼ばれた地域を歩いても格別の楽しみがある訳ではない。 (中略) なにを好き好んで、と自分で思うことがある。 その反面、先にも書いたように歩きながら、これって究極の贅沢だよなあ、とニヤリと笑うのだ』

『辺境は美しい、と私は思う。 その景観や人の暮らしの中に、積み重ねてきた時の推移を不器用に魅せてくれるからだ』



この本を読んで、私がライフワークとしている『旅するシーカヤック』、『こぐ、みる、きく』に通じるものを感じ、共感を覚えた。
そしてこの下巻は、家でではなく、ぜひともシーカヤックの旅先で読もうと思い、今回の生名島ツーリングの伴としてザックに入れてきたのである。

***

朝から風が強い。 天気予報を確認し、天気図をチェックし、風が収まるのを待っていたのだが、強くなるばかり。
今日はシーカヤックを漕いで、弓削島に行き、潮湯に入ろうという計画だったのだが、これではクルマか徒歩で行くしか無さそうだ。 残念!

朝食を終え、コーヒーを飲んでいると、管理人さんがやって来られた。

『おはようございます。 今日は風が強いので、カヤックで弓削まで行くのはやめようと思います。 クルマで立石港まで行ってフェリーで因島まで渡り、歩いて家老渡港まで行き、そこからフェリーで弓削に渡って潮湯まで行って来ようと思ってるんですが』
『そうねえ。 歩いて行くのも良いけど、自転車はどう?』
『え、自転車あるんですか?』

『実はあるのよ。 タイヤの空気が無いので入れないといけないけど。 実はこれまでまだ誰も乗っていないの』
『貸してもらえるんですか?』 『もちろん。 書類には書いてもらわないといけないんだけどねえ』 『書きます書きます!』



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書類に記入して手続きを済ます。 その間にも、どこからどのフェリーに乗って行くのが良いか、電話で問い合わせていただいたり、空気入れを取りに行っていただいたり。 私が自転車を借りるために、いろいろとお手数をお掛けしてしまい、感謝の気持ちでいっぱいである。

『景色を楽しみながらゆっくり行くのが好きなのかなあと思って。 クルマよりゆっくり景色を楽しめるし、歩くよりいいでしょ!』

部屋の奥から出てきたのは、まだシートにビニールのカバーが掛かっている新品の自転車、『いきなスポレク15号』
今日の私の相棒は、内装3段変速、オートライト付きの高級ママチャリである。

パンフレットにも載っていない裏メニュー。 しかも料金は無料である(涙)。 これで、この島に来る楽しみがまた一つ増えた。


『自転車でのんびり島を走れば、新たな出会いもあるかもしれないしねえ』

あー、完璧に私の好みを読まれている。 この管理人さんにはすべてお見通しなんだ。

***

『じゃあ、行ってきます』 海沿いの道を、ママチャリのペダルをキコキコと踏んで走りながら、顔がにやけているのが自分で分かる。 最高!
まずは立石港まで走り、そこからフェリーに乗って因島の長崎港へ。 土生で昼食のおにぎりを買い、歴史を感じさせる商店街の狭い路地を、のんびりと走る。

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再び、『宮本常一を歩く_上巻(毛利甚八)』より引用。
『私は少し赤錆の浮いたような疲れた町が好きだ。 盛りが過ぎて、ひと休みしているような街並みを歩いているとワクワクする』

***

ここからは、アップダウンのあるクネクネ道を、造船所沿いに走り抜け、弓削に渡るフェリーが出ている家老渡港へ。
駐輪場に『いきなスポレク15号』を停め、フェリーに向う。

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片道10分ほどの短い距離を小さなフェリーで弓削に渡り、歩いて潮湯へ。

ドアを開け、サンダルを下駄箱に入れ、受付に。
『こんにちは。 ここに名前を書いて下さい。 それと、水着は持って来られました?』

??? (エッ! 水着って何? そんなの聞いてないよ!!! 観光用のパンフレットにも書いてなかったし) 『水着が要るんですか?』
『ええ。 ここは、水着着用になっているんですが』
『じゃあ、入れないってことですね?』(がーん。なんのためにここまで来たんだ) 『ええ』

『わかりました。 あきらめます』 『普通の風呂なら、弓削ロッジがありますが』

半分気を失いそうになりながら、ふらふらと潮湯の建物を出る。 何のためにここまで来たんや。。。
なんとか気を取り直し、近くの神社まで歩いて行く。 神社にお参りし、海岸に座って海を眺めながら昼食のおにぎりを頬張る。

***

まあ、文句を言っても仕方が無い。 潮湯の傍にバス停があったよなあ。 もし良い時間のバスがあったら、『弓削ロッジ』まで行ってみるか。

再び潮湯まで戻り、バスの時間を確認する。 うん、あと10分ほどで下弓削まで行くバスがある。
バスでのロッジへの行き方を聞くために、再び潮湯へ。

ここでは、先ほどの受付のお姉さんが、親切に帰りのバスの時間や降りるバス停などを教えてくれた。 ありがとうございました。

***

バスの到着時刻数分前になると、潮湯から3人のおばさん達が出てきた。 このバスで、下弓削まで帰るのだろう。
『こんにちは』とまずは挨拶。 『いやあ、この潮湯に入ろうと思ってきたんですが、水着が無いと駄目だということで入れなかったんですよ』

『まあ、それはかわいそうに』 『ここは海水風呂だから、出た後もサッパリして湯冷めもしないし気持ちいいのよ』 『露天風呂も良いし、なんといっても体に良いの。 リュウマチの人もここに来るようになってから、だいぶ良くなった人が居るのよ』 『ここは、本当に気持ちいいの』

『えー、そうなんですか。 話しを聞けば聞くほど入りたくなりますねえ』 『今度はぜひ、海パンを持ってきます』
『ここは水着だけじゃ駄目よ。 帽子、スイミングキャップも要るの』 『えー、そうなんですか? 次に水着を持ってきても、また入れないとこでした!』

***

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バスに乗り込んでからも、運転手さんに『この人はロッジ前で下ろしてあげて』と教えてくれたり、両替機が無かったので困っていると、『私が両替してあげる』と、親切にも500円玉を両替して下さったりと、いたれるつくせり。
本当にありがとうございました。

***

無事、弓削ロッジに到着し、高台にある眺めの良い風呂でのんびりまったりと潮を流す。 あー、さっぱりサッパリ。

上弓削港まで行く帰りのバスは、役場前まで行かないと無いし、この島にはタクシーも無いようだ。 バスの時間まで、まだまだたっぷりあるので、弓削ロッジの休憩室で時間をつぶす。 適当な時間にロッジを出て、白砂青松の海岸沿いの道を歩いて役場前に向ってトボトボと歩いて行く。

バス停に着いてもまだまだ時間があるので、ベンチに座り、『宮本常一を歩く_下巻(毛利甚八)』を開く。
そこには、いきなりこんな記述があった。
『中間報告として、実体験からの私なりの辺境の定義を試みてみたい』
『一、辺境とは交通手段の選り好みができない場所である(たいていは本数の少ないバスか船、集落に入れば歩くしかない)』

まさに、今の私が置かれている状況そのものじゃないか! 本との出会いは、まさに不思議な縁だ。

***

バス停で本を読んでいると、おばあさんが一人歩いてきた。
『こんにちは。 バスはここで待っていれば良いんですよねえ』 『こんにちは。 ええ、そうよ』 『ありがとうございます』

しばらくすると、別のおばあさんがやってきた。 そのおばあさんは自動販売機で暖かい甘酒を買い、ベンチに座り、缶を開けてゆっくりと飲み始めた。

『こんにちは』 『あんたは向こうまでバスで帰るんね?』 『ええ、そうです』 『今日は買い物に来たのに、どの店も早う閉めてしもうたんで、もう家に帰るとこ』

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ようやくバスの時間。
甘酒を飲んでいたおばあさんは、どうやらこのバスには乗らないようだ。

最初に挨拶したおばあさんが、海側に歩いて行くので、『そっちで待てば良いんですか?』と確認し、一緒にバスを待つ。
家老渡行きのフェリー乗り場に一番近いバス停を教えてもらい、到着したバスに一緒に乗り込んだ。

***

狭く曲がりくねった島の道を、運転手さんは慎重に走って行く。 途中のバス停で、そのおばあさんは降りるようだ。
『どうもありがとうございました』 『じゃあね、気を付けて』 『さようなら』

バスは静かに発車した。
おばあさんはそのまま立ち止まり、私の方を見て、ニコニコと小さく手を振って見送ってくれている!
私は思わずうれしくなってバスの車窓から振り返り、なんどもうなずきながら『ありがとうございました』と繰り返す。 なんという幸せな瞬間。

潮湯に入れなかったショックも全て忘れ、今日、弓削島に来て良かったと心から思った。

***

今日は、強風でパドリングをあきらめ、また水着が必要なことを知らなかったため潮湯に入れなかったことで、予定外のバスを使って弓削島を巡る旅をすることとなった。
でも、そのおかげで様々な人達に巡り会うことができ、お世話になったのだ。 ハプニングも、大切な旅のエッセンスなんだなあ。

***

2007年のシーカヤックによる『あるく、みる、きく』生名島編の二日目は、思いもかけない様々な出会いによって、私に至福の一時を与えてくれた。
これぞ、『旅するシーカヤック』の醍醐味だ。

さあ、生名島に戻るぞ。 走れ、『いきなスポレク15号』!





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Last updated  January 6, 2007 04:49:56 PM
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