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Kid Blue

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October 22, 2010
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カテゴリ: 法律・判例・勉強


(ABA責任規範EC7‐13より抜粋)

―――――

少し時間ができたので、最近あれこれ考えていたことを書いてみようかな

大阪地検特捜部の主任検事が、証拠隠滅罪で起訴されたのに引き続いて、
元特捜部長および元特捜副部長が、つい先日、犯人隠秘罪で起訴されましたね。

でも、ここでは「犯罪」という観点からではなく、
証拠等の取扱いという観点から、この事件を見直してみようと思う。
(組織上の問題については私が書かなくても多くの場所で論評されてるしね・笑)



まず、消極証拠の取扱いの点について

私としては、FD改竄が論外であることは勿論、
村木元局長の有罪を否定する証拠の存在を知っていたにもかかわらず、
これを明らかにせず、公訴を維持したこと自体に問題があると考えている。

日弁連は、以前から、取調べ全面可視化や検察官側の証拠全面開示制度を求めていて、
今回の事件を受けて動きが強まっているみたい。声明も出ていたし。

刑訴規則189条の2により証拠が厳選される結果、
検察官にとって有利な一部の証拠ばかりが開示される現行の制度には問題がある。

証拠の握り潰しを防ぐには、証拠全面開示制度の導入しかないと私も思う。


ただ、更に進んで、たとえ証拠全面開示制度が導入されていない段階であっても、
検察官が被告人の有罪を否定する証拠を発見した場合には、
積極的に当該証拠を開示するべきではないか、と問題提起したい。

日本では、検察官について消極証拠の積極的開示義務を定めた規定はない。
しかし、刑事事件では「事案の真相を明らかに」するという目的(刑訴法1条)があり、
検察官は公益の代表者であることから、積極的真実義務を負っているものと考えられる。

無辜の処罰を避けるため、法曹倫理上、
証拠の開示ないし公訴取消しが要請されるのではないか。

例えば、アメリカでは、ABA業務模範規則3,8条(d)という明確な規定が存在している。
※ちなみに、ABAとはAmerican Bar Associationの略で、アメリカ弁護士会のこと。
なぜ弁護士会が検察官の業務模範規則まで定めているのかというと、
アメリカでは裁判官・検察官は弁護士出身者しかなれないため。

ABA Model Rules of Professional Conduct
Rule 3.8 Special Responsibilities of a Prosecutor
The prosecutor in a criminal case shall:
(d) make timely disclosure to the defense of all evidence or information known to the prosecutor that tends to negate the guilt of the accused or mitigates the offense, and, in connection with sentencing, disclose to the defense and to the tribunal all unprivileged mitigating information known to the prosecutor, except when the prosecutor is relieved of this responsibility by a protective order of the tribunal;
ABAのサイト 参照。

長文なので区切って和訳すると、
ABA業務模範規則
第3,8条 検察官の特別な職責
検察官は、刑事事件において、
(d) 被告人の有罪を否定し又はその違反の程度を軽減するのに役立つ、検察官が知っているすべての証拠又は情報を、弁護側に適時に開示しなければならない。刑の宣告に関連して、被告人に有利な情状に関するもので秘匿特権の対象になっていない、検察官が知っているすべての情報を、弁護側及び裁判機関に適時に開示しなければならない。ただし、検察官が、裁判所の開示制限命令によって、開示の義務を免れている場合を除く。

「法曹の倫理と責任(第2版)」(塚原英治ほか編、現代人文社)P459以下参照。

これを見ると、検察官に高度の開示義務が課せられていることが分かる。
「適時(timely)」の開示が要求されていることと、例外事由が限定されていることが特徴的。
この義務は、1963年のBrady v. Maryland, 373 U.S. 83事件判決で示され、
その後も判例に引き継がれ、規則として明文化されたものらしい。 この サイト 参照。

日本では弁護士については弁護士職務基本規程が存在するのに対し、
検察官には公務員としての服務規律・倫理規程の適用はあるが、
検察官独自の倫理は当然のこととして理解され、明文化されたものがない。

しかし、検察官の権限の強大さ、責任の重大さ、公益の代表者たる地位に照らせば、
検察官には、このような消極証拠の積極的開示義務があって然るべきではないか。
刑事訴訟は単に「勝てば良い(=有罪にすれば良い)」という問題ではないはずだ。


はっきり言って、証拠改竄という犯罪レベルに達して初めて問題になるのでは遅い。

法曹倫理の問題であれば、消極的に証拠を握り潰したという段階であっても、
懲戒の対象となり得ることになり、問題を顕在化しやすくなることが期待できる。
間接的ではあるが、証拠の握り潰しを防ぐ手立てになる気がする。

本件では、同僚検事が上司に改竄を報告するなど、
本当の意味で正義感がある検察官もいたわけで、
そういった人が勇気を持って声を挙げられるように、個人の良心に任せるのではなく、
検察官の証拠取扱いに関する法曹倫理を明確化する必要があると思う。



次に、取調べメモの取扱いの点について

村木元局長事件では、取調べメモがすべて廃棄されていたという。
ここですぐピンと来るのが、取調べメモが証拠開示の対象になることを認めた最高裁決定。
証拠開示の対象になりうる物を廃棄するのは、当該決定の趣旨に反するはずだ。
(なお、当該決定後、取調べメモの取扱いについての最高検の通知も出されていたらしい)

取調べメモというものに対する意識が低いからなのか、
それとも、故意に廃棄したのかは、結局分からないけれど。

せっかくの証拠開示制度も、対象物が廃棄されてしまうと無に帰してしまうわけで、
そういう常識的な部分が守られないのであれば、
廃棄できないような厳格な制度作りをするしかないように思う。






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Last updated  October 23, 2010 02:35:32 AM
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