「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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君が居た場所~後編~
心配したシンの熱も次の日にはすっかり下がり、俺たちには以前と変わらぬ日常が戻っていた。
今日は久々に取れた連休の初日で、俺たちは自宅から少し離れた大きな公園にキラの手作り弁当を持って、三人で出かけていた。
シンを膝に抱いてブランコに乗ったり、初夏の爽やかな日差しの中をシンを抱いて散歩したり。
ゆっくりと流れる時間の中で、俺は心から幸せだと思っていた。
昼食を済ませた俺は芝生の上に寝転んで少しウトウトし始めていた。
すると・・・・
「アスラン!アスラン!シンがっ!」
キラの叫びにシンに何か有ったのかと慌てて飛び起きた。
「キラ!どうした!?シンが何・・・。」
キラの声がした方へ視線を向けた俺は、その光景に固まってしまった。
「アスラン・・・シンが・・・。」
少し涙声のキラが手を差し出す。
その手の先にはおぼつかない足取りで、キラの手を求めて歩くシンがいた。
「シン・・・歩いて・・。」
俺は目の前の光景が信じられず、うわごとのように呟いた。
今までも掴まり立ちや伝い歩きはしていた。
でもなかなか一人で歩くことが出来ずにいたのだ。
それが・・・そのシンが今、俺たちの目の前で頼りなくも一人で歩いているんだ。
何度もしりもちをつきながら、でもそのたびにまた立ち上がって手を差し伸べるキラの元へ、一歩。
また一歩。
確実にその距離を縮めていた。
シンが転ぶたびにキラの顔は苦しそうに歪むけれど、それでも抱き起こすことなく辛抱強くシンが来るのを待っている。
頑張れ。
頑張れ、シン。
お前の求める手は、もうすぐそこだ。
頑張れ。
そして・・・・
「シンッ!」
とうとうシンがキラの手を握った。
「シン・・シン・・・。頑張ったね、痛くても頑張ったね。シン、大好き・・。」
キラがシンを抱きしめる。
シンはキラに抱かれて満面の笑みを見せている。
俺も二人の傍まで行き、二人をそっと抱き寄せる。
「シン。偉いぞ!お前は凄い!良く頑張ったな。頑張った・・シンも、キラも・・。」
「アスラン・・。」
キラは涙で潤んだ瞳で俺を見つめ、微笑みながら大きく頷いた。
「マー?マーマ?」
「え・・・・・?」
「シン・・・今っ。」
シンはご機嫌で「マーマ」と繰り返しながら、キラの頬をぺちぺち叩いている。
「今『ママ』って・・。」
キラが確認するように俺に視線を投げる。
「う、うん。言った。」
俺は何度も頷いた。
「シン、『ママ』言えたな?凄いぞ!」
俺は思わずシンの頭をくしゃくしゃになるほどに撫でた。
すると・・
「パーパ。」
俺を見てそう言うと、にっこり笑った。
「アスラン、『パパ』って。シンが『パパ』って・・。」
「うん、うん・・。」
気がつくと、俺の頬を涙が伝っていた。
俺は凄く気持ちが高揚している。
自分が泣いていることに気付かないほどに。
心が震える
きっとそんな表現がぴったりなのだ。
俺の心も、キラの心も。
俺たちは泣きながら笑った。
嬉しくて嬉しくて。
シンがここに居ることが、シンと一緒に居られることが幸せで。
「シンは凄いぞ!ほら、高い高~い!」
シンを抱え上げ立ち上がると、腕を伸ばし一番高い場所へと連れて行く。
「キャッ、キャッ!あ~。」
シンは嬉しそうに声を上げて笑い、そんなシンをキラも幸せそうに見上げていた。
このまま時が止まればいい。
この幸せな時間を、どうか奪わないで・・・。
だけど・・・。
キラがシンをこの家に連れてきて三ヶ月。
シンが歩き始め、初めて俺たちを呼んだあの日からひと月近くが経った。
あれからシンは次々に言葉を覚え、まだたどたどしいけれどそれらしい単語を喋るようになっていた。
「マーマ。まんま。」
今も夕食の準備をするキラの足元にすがり付いて、ご飯をねだっている。
「おなかすいちゃった?ごめんね。もうちょっとだから、パパとお風呂行っておいで?」
しゃがんでシンと視線を合わせそう言うと、キラはシンを抱き上げて俺の元へ連れてくる。
「はい、パパ。シンをお願いね。」
「よっし、シン。パパとお風呂だぞ。な?パシャパシャ。」
『パシャパシャ』と言う言葉にお風呂と察知したシンは、俺の腕の中で暴れ出した。
もちろん、嬉しくて。
「ぱしゃ、ぱしゃ。パーパ。ぱしゃぱしゃ。」
そして自分の服を掴み脱ぐ格好をして見せた。
「よしよし、一緒に入ろうな。キラ、後で着替え頼むな。」
「うん。分かった。」
「あー、パーパ。ぱしゃっ!」
「あっ、こら。暴れるなよ、シン。お湯が掛かるから。」
湯船の中で手をばたつかせ水面を叩くシン。
俺も何度もお湯をかけられたけど、そんなに調子に乗ってると・・・
バシャッ
「ぶふっ!」
シンの手に叩かれて跳ね上がったお湯は、見事にシンの顔を直撃した。
「ほらぁ、言わないこっちゃない。シン、大丈夫か?」
思いがけない出来事に、一瞬電池が切れたように動きを止めたシンだったが、俺が手で顔の水滴を拭ってやると、我に帰ったようにまた水面を叩き始めた。
それもさっきよりも激しく。
「わ、シン。やめろって、こら。」
「なーにやってんの?」
俺がシンの攻撃にタジタジになっていると、キラが顔を覗かせた。
「キラぁ、シンにやめるように言ってくれ~。」
「マーマ!パシャパシャ!」
シンはキラの登場に気を良くして、手の動きをさらに大きくした。
「わー、凄いね~、シン。楽しそう!」
「キラ、助長せずに俺を助けろって。」
俺がキラに助けを求めたその直後。
「う~~~、パッシャー!」
今日最高の水しぶきが俺を襲った。
「シンー。」
睨みつけても、シンは楽しそうに笑っているだけで、キラはキラで
「大丈夫?アスラン。」
などと言いながらも、目に涙を溜めて笑っている。
ひとしきり笑った後、キラは
「じゃあ、着替え置いておくね。シンのも。シン、ご飯できたよ。早く出ておいでね?」
と言って、手を振って出て行った。
「パーパ、まんま。まんま。」
キラの言葉でシンの攻撃はピタリと収まった。
キラ・・・。助け舟、遅すぎ。
脱衣場で早くご飯を食べに行きたがるシンに、悪戦苦闘しながらパジャマを着せてドアを開けた。
シンは一目散に、まだ頼りない足運びで駆け出した。
「ふ~、やれやれ。シンには参ったよ。」
タオルで髪を拭きながらダイニングにいるはずのキラに声を掛ける。
でも、そこにはキラは居なかった。
「マーマ。」
シンの声がするほうに目をやると、リビングのフロアーに座り込んだキラがいた。
「まんま。」
シンに服を引っ張られご飯をせがまれると、キラはシンを抱きしめた。
「シン、シン・・・。」
「マーマ?」
そのキラの様子に、俺はいやな予感がした。
「キ・・ラ?」
キラの前にしゃがみ込みその肩にそっと触れると、涙を湛えた瞳が俺を捉え、
「アスラン・・・・・。」
瞬きと同時にキラの滑らかな頬を伝って、透明な雫は床に落ちた。
「キラ?キラ・・・まさか!?」
「電話が・・・・。さっき、警察・・から・・。」
やはり・・・・。
シンの親が見つかったのだ。
「明日・・・・シンを迎えに、来る・・・・って・・。」
シンを抱くキラの体は小刻みに震えていた。
「マーマ。マーマ。まんま。」
何も知らないシンが、またキラにご飯をねだった。
「ごめんね。シン。お腹・・すいちゃったよね?ご飯にしようね?」
キラは涙を拭ってシンを抱き上げた。
「アスランも、食べよ?」
キラは俺にも気丈に笑顔を見せた。
本当なら楽しいはずの夕食も何となく静かで、とてもおいしいはずのキラの料理が、今夜はやけにしょっぱく感じた。
「やっと寝たね・・。」
「あぁ、今日はやけにはしゃいでたな。」
広いベッドの真ん中ですやすやと寝息を立てるシンを、キラは愛しげに見つめる。
何となくシンも異変を察知しているのか、今日はなかなか寝たがらなかった。
俺たちともっと一緒に居たいと言うように、キラに俺に渡り歩いては声を上げて遊んでいた。
シンと一緒に寝られるのも、今夜が最後。
明日には本当の親が迎えに来る。
シンの帰るべき場所へ帰るのだ。
「シン・・・・。」
キラがその細い指でシンの髪を優しく撫でる。
「もっと、一緒に居たかった・・・な。」
「キラ・・・。」
震える声にキラの顔を覗き込めば、思ったとおり大きな瞳には涙が溜まっていて・・・。
俺はキラの肩をぎゅっと抱きしめた。
「願掛けなんか、しなきゃ良かった・・。やだ・・・。やだよぉ。シンと離れるなんて・・・ヤダっ・・。」
シンと両親が早く会えるようにと願掛けをしたキラ。
そこに隠された、キラの本当の想い。
本当は分かっていた。
だって、俺も想いは同じだから・・。
「キラ・・。シンは本当の両親の元で暮らすのが、一番いいんだよ。キラだって、判ってるんだろう?」
それはまるで自分に言い聞かせているようだった。
手放したくない。
いつまでも三人で暮らしたい。
でも、それは叶わないこと。
「判ってる・・・。そんなこと、僕だって判ってるんだ・・・・。でも・・。」
「キラ・・・。」
絞り出すような声が、震える細い肩が痛々しい。
やはり、最初からシンを預かることを承諾するべきじゃなかったんだろうか。
シンの面倒をみるために、キラはカガリから特別休暇をもらった。
昼間行政府で通常通り働いている俺と違い、キラは行政府のシステム管理部の仕事を休み、四六時中シンと共に居たのだ。
こんな日が来て、キラが悲しむのは目に見えていたはずなのに。
「キラ、シンを迎えに来てもらうの、一日延ばしてもらう?」
一日ゆっくりと気持ちを整理していけば、キラも少しは楽になるのではないだろうか?
けれどキラは勢い良く首を横に振った。
「いいんだ。明日・・・来てもらおう?僕がワガママ言ってるだけなんだから。・・・それに・・、これ以上シンと一緒に居たら、離れ・・・・られなくなっちゃ・・・。」
大粒の涙をこぼし、シンと分かれる悲しみと闘うキラに、俺は何もしてやれないんだ。
こうやって、ただ抱きしめることくらいしか。
「アスラン・・・。」
「ん?何?」
「ね・・、抱いて?」
「えっ!?キ、キラ?」
思いもかけない言葉が、キラの口からこぼれた。
一度は無理にでもキラを抱こうとした俺だったけれど、キラの想いを知り触れることさえ極力避けてきたんだ。
「アスラン・・、お願い・・。」
「キラ、でも・・・。」
「もう・・・いいよね?願掛け・・。だって、願いは叶っ・・・た・・。」
「キラ・・・。」
俺の腕に縋りつくキラは、儚くて頼りなくて・・。
俺はキラの手を引き立ち上がった。
「おいで。」
「うん。」
寝室を後にし、薄暗いリビングのソファーにキラを寝かせる間も惜しいほどに、俺はキラの唇を求めその熱い舌を絡め取る。
「ん・・ふ・・。」
口付けの角度を変えるたびに苦しげに漏れるキラの吐息が、二人の唇が生み出す水音が、俺を煽り夢中にさせる。
中途半端に露になったキラの肌に纏わりつく衣擦れの音さえ、まるで麻薬の様に俺の思考を麻痺させていく。
キラが欲しい・・。
今はただそれだけ。
俺たちは互いを貪るように求めあう。
「キラ、キラっ。」
「アス・・ラン・・。あっ・・・はぁ・・・。」
キラの白い肌に紅い花が咲くたびに、その薄い背中を綺麗に仰け反らせ、敏感に反応を示す。
俺の中心は求めて止まなかったキラと早くひとつになりたくて、その存在を確かにする。
でも・・・
ゆっくりと優しく愛してやりたい。
今まで触れ合えなかった分、その間に募った想いの分、時間を掛けて・・。
「キラ、愛してるよ。」
キラ自身を愛撫しながら、耳元に愛を囁く。
熱く、甘く・・・。
「アスラン・・・アスラン・・・。僕・・も・・。あぁっ・・、も・・・やっ・・。」
キラは熱に浮かされたように、夢中で俺に縋りつく。
汗の滲む額に、柔らかな髪が絡む首筋に、紅く色づいた胸のつぼみに、硬く張り詰めたキラ自身に、優しく口付けながら、俺の唇は目的の場所へとたどり着く。
ちゅ
と軽く音を立てて口付けた後、そっと舌を伸ばしキラが傷つくことのないように丹念に愛撫を施す。
「ひぁっ!アスラ・・・・。そんな・・・の・・、ぁ・・だ・・め・・。」
俺の舌の動きに合わせて跳ねる、細い身体。
足りない。
もっとキラを愛したい。
もっともっと、キラを感じたい。
「あふぅ・・・、はぁっ・・・。アス・・・、もう・・・・キテ・・。」
ダメだ。
もっと、感じて。
もっと、もっと・・・・。
他には何も考えられなくなる位。
やがて訪れてしまう、明日のことさえ・・・・今は・・
ドウカワスレテ・・・・
「やっ!ダメっ・・・。アスラン・・・。来て、早・・・・く。お願・・・。」
大きな瞳に涙をためて、俺を求めるキラ。
愛しくて、愛しくて・・・。
「キラ・・・。いく・・・よ?」
「うん・・・。早く・・・。」
キラが大きく息を吐いたのを合図に、ゆっくりと身体を押し進め、俺の欲望をキラの中にうずめていく。
深く、深く・・。
「はあぁっ!アスラン・・・。」
「っ、キラっ!」
熱い・・・。
溶けてしまいそうなほどに。
きっとキラも今、この熱を俺に感じている。
「アスランっ、アスランっ!・・・くっ・・・あぁ・・。」
大きくキラを揺さぶるたびに、キラは俺の背中に爪あとを刻む。
この痛みさえもが、愛しい。
そして、悲しみに耐えるように声を押し殺すお前の耳元に、解放の呪文を。
「キラ、泣いて・・・。」
「アス・・・ラン・・?」
「泣いていい・・。今は、泣いて?明日は笑顔で。だから、今は。キラ・・、泣いて。」
「アスラ・・・ン。・・・んあっ、あはぁ・・・・、んんっ・・・あぁ・・。」
頬を伝う涙が、ほのかにあかる照明に照らされ、キラキラ光る。
それはとどまることを知らず、後から後からあふれキラの髪を濡らしていく。
乾く間のない目じりに口付けて、涙を受け止めた。
お前の痛みを、俺にも分けて?
「キラっ、イク・・・よ・・。」
「アスラン、アスラン・・・。もぅ・・・・・。あっ!う・・あ・・、あああぁぁぁ!」
「クッ・・キラぁ・・。」
きつく抱きしめあい、互いの熱を放つ。
荒い息遣いのまま口付けを交わすと、呼吸も一つになった。
「キラ・・・。」
「アス・・・ラ・・・ン・・。」
そっとそっと、抱きしめる。
髪をなで、背中をさする。
未だ止まらない涙は、何度でも拭ってあげるから・・・。
だから・・・。
「キラ・・・。明日は笑ってシンを送ろう?ね?」
「うん・・・、うん・・。ごめっ・・・今だけ・・・。今だけ・・・だか・・ら・・。」
「いいよ。」
「アス・・・・。ふっ・・うぅ・・・。うあぁぁぁぁぁぁ・・・。」
今日までのシンとの思い出は、悲しいほどにたくさんで、残酷なほどに楽しくて・・。
こんなことで明日お前が笑えるのかどうか判らないけど、泣きたいだけ泣けばいい。
俺は、いつでもお前の傍に居て、その涙を受け止めるから。
「可愛いよね。ほんと。」
「あぁ。」
泣くだけ泣いたキラは驚くほど落ち着いて、シンの隣で寝顔を眺めている。
俺も同じように、ベッドのいつもの場所でシンの寝顔を眺めている。
「逢えて、良かったんだよね?シンと。幸せをたくさんくれたもんね。」
「そうだな。凄く幸せな時間だったな。」
俺たちは結局、そのまま朝までシンの寝顔を眺めていたんだ。
「もう、これで全部かな?」
「ん~~~、多分・・・。」
「えー?多分~?頼りにならないな~。」
朝食を済ませた俺たちはいつシンを迎えに来てもいいように、いつの間にか増えてしまったシンの荷物をまとめた。
服も靴も、あの日のベビーカーも、何百枚と撮った写真も。
全て、シンと一緒に連れて行ってもらおう。
「一枚くらい写真残しておいてもいいんじゃない?」
と訊くと、キラは
「顔見ちゃうと、会いたくなっちゃうでしょ?余計に、辛いよ・・。」
と嫌がった。
「マーマ。だ、だ。」
シンがキラに向けて手を伸ばし、抱っこをせがむ。
「もー、甘えっ子だなぁ、シンは。」
キラは花のような笑顔でシンを抱き上げる。
これが最後の抱っこかもしれない。
キラもそう思っているのか、少しだけ笑顔が曇った。
「マーマ?」
首をかしげキラの顔を覗き込むシン。
「なんでもないよ。ごめんね?シン。ママちょっと顔洗ってくるね。パパに抱っこしてもらっててね。はい、パパ。」
「あ、あぁ。」
俺にシンを渡したキラの目は少し潤んでいた。
ずっと笑顔で・・・なんて無理だって判ってる。
『笑ってシンを送ろう』
なんて、酷・・だよな・・。
「ごめん、アスラン。はい、シン。おいで。」
パタパタとバスルームのほうから小走りでやってきたキラには、もう涙は無かった。
数十分前、警察から電話があった。
その時聞いた話では、もう直ぐシンを迎えにやってくるシンの本当の両親は、小さな会社を経営していたそうだ。
それが、悪意を持った取引先に騙され、経営が破綻。
何とか従業員の生活だけは確保すると、自分たちには莫大な借金だけが残っていた。
将来を悲観したシンの両親は心中を決意。
でも、シンだけは巻き込むことができず、あの公園に置き去りにしたのだ。
遠くからキラがシンを連れて行くのを確認して、公園を後にした。
キラに、俺たちにシンを託したのだ。
もし、そのまま両親が現れないままなら、シンはこのまま俺たちの子どもで居る筈だったんだ。
シンの本当の親が見つかった事を、心から喜べない自分はなんて醜く浅ましいのだろう。
そんなことを思いながら荷物のチェックをしていると、突然背中に重みを感じた。
「パーパ!おぶ、おぶ。」
「え?シン?おんぶ?」
「シンがおんぶだって。パパ。」
どうやらキラが乗せたらしい。
最近シンはおんぶがお気に入りだ。
「よし、じゃいくぞ?シン。」
「きゃー!」
シンをおんぶして部屋を走り回ると、シンは俺にしがみつきながら歓声を上げた。
そんな俺たちをキラが、微笑みながら見ていた。
永遠に続きそうな・・・・いや、続けばいいと願った時間は、無機質な電子音で動きを止めた。
ピンポーン
俺は走るのを止めキラを見た。
キラも俺の方へ視線を向けて表情を強張らせた。
おんぶしていたシンを下ろし、無言でキラに渡す。
キラはシンを抱いて、俺の眼をまっすぐに見てから大きく頷いた。
わけの分からないシンだけが、俺におんぶの続きを強請っていた。
「パーパ、おぶ。」
「シン、パパはお客様のお出迎えだからね。ごめんね?シンも一緒に行こうか?」
俺の後ろにシンを抱いたキラが続いた。
ドアノブに手を掛け、一度深呼吸。
後ろでキラも息を呑むのが分かる。
カチャッ
ゆっくりとドアを開くと、スーツ姿の中年の男性が一人、その後ろに俺たちより10歳ほど年上に見える男女が俯いて立っていた。
「アスラン・ザラさん、キラ・ヤマトさんですね?」
前に立つ、スーツ姿の男性が尋ねた。
「はい。」
「私はケイ・シマノと申します。」
そう言って男性は、警察官であることを示すIDカードを俺たちに示した。
俺たちが頷くと、シマノと名乗った警官は後ろの二人を促して、俺たちの前に進ませた。
「こちらはユズキご夫妻。シン君のご両親です。」
判ってはいても改めて紹介されると、心臓を鷲掴みにされたような気分になった。
キラは俯き、シンを抱く手に力を込めた。
「ユズキさん、こちらが・・。」
「アスラン・ザラです。ユズキさん。初めまして。」
シマノが紹介しようとしていたのを、俺は勝手に自分で名乗った。
「ほら、キラも。」
「うん・・。」
俺の背に隠れるように立っていたキラを前へ出るように促す。
俺の体で死角になっていたシンが、キラに抱かれて両親の前に姿を現した。
「シン・・・・。」
母親が小さく名前を呼び、瞳を潤ませた。
「キラ・ヤマトです。初めまして・・。」
「この度は私どもの勝手な振る舞いで、大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。」
シンの両親は深々と頭を下げた。
今この二人はどんな思いでここに居るのだろう?
もし、あの日キラがシンを連れ帰らなければ、誰にも見つけられなかったら、この二人はどうしていたんだろう?
なかなか頭をあげようとしない二人を、俺たちはただ何を言うでもなく見つめていた。
目の前のこの光景がとても現実とは思えなくて。
止まったような時間。
意外にもそれを動かしたのはキラの言葉だった。
「こんなところでは人目にもつきますし、中へどうぞ。」
「キラ・・。」
「いいでしょ?アスラン。」
「・・あぁ。さぁ、どうぞ。」
「では、私はこれで。」
一礼して警官は帰っていった。
最初は家へ入るのをとても躊躇っていた夫妻を招きいれ、ソファーへ腰掛けるように勧めた。
お茶を用意すると言うキラに、夫妻はそこまでしてもらったら罰が当たると、お茶を遠慮した。
そして今までのいきさつを語り始めた。
シンを公園に置き去りにし、キラが連れ帰るのを確認して公園を去った後、結局は心中することも出来ないまま、遠くの町で細々と日雇いの仕事をして日々をやっとの思いで暮らしていた。
そんな夫妻の前に、以前一度やった機械の修理の仕事の技術の高さの噂を聞きつけ、一人の男がやってきた。
それは地元では名の知れた機械メーカーの社長で、その技術を買われ社員になることが出来たそうだ。
そして生活が安定した今、シンを迎えに来たのだ。
「今回のことは私たちの身勝手な行動のせいです。どんなお叱りも受けます。私たちに出来る償いが有るのでしたらなんでもします。どうか何でも仰ってください。」
夫妻はテーブルに頭をこすり付けるように、何度も何度も俺たちに謝る。
けど、そんなことを言われても、何もして欲しいことはない。
有るとすれば
『シンを俺たちに下さい。』
それだけ。
そんなことを言ったら、この人たちはどんな顔をするんだろう?
「もう、やめてください。ユズキさん。僕たちはこの子と一緒に過ごせて、とても幸せでした。本当はこのままこの子を返したくないくらい。」
俺が言いたかった言葉を、キラがさらりと言ってのけた。
キラの言葉に夫妻は顔を上げ、怯えたように俺たちを見た。
「そんな顔しないで下さい。シン君はお返しします。本当の両親に育てられるのがこの子の為には一番いいことなんですから。ね?シン。」
腕の中のシンにキラが微笑みかける。
「マーマ。マーマ。」
シンはキラにしがみついて、頬を摺り寄せる。
その光景を夫妻は切なげに見つめていた。
キラはシンを抱いて立ち上がり、母親の元へと歩み寄った。
ユズキ夫妻も立ち上がり、キラのほうへ向き直る。
「シン、本当のママだよ。さ、ママに抱っこしてもらおうね?」
キラがシンを母親の方へ差し出すと、母親は躊躇いがちに両手を差し伸べる。
わけが分からないといった顔で、シンはキラと母親の顔を見比べている。
それでも、なかなか母親の方へ行こうとしないシンを、キラは無理やり母親に抱かせその場を離れた。
突然の出来事にシンは驚いて、キラの腕を求めて母親の腕の中で暴れ始めた。
「マーマ!マーマ!だぁ!マーマ!」
キラは俺の腕にしがみつき、今にもシンを抱きしめに行きたい衝動を抑えていた。
「シン・・・。ごめんね。シン・・・。」
母親が暴れるシンを抱きしめ優しく撫でてやると、シンも少しずつおとなしくなっていった。
もしかすると、本当の母親の腕の温もりを思い出したのかもしれない。
「どうかもう、行って下さい。荷物はこれで全部です。俺たちと過ごしていた間の写真も持って帰ってください。」
父親に荷物を渡すと、写真の余りの多さに驚いたようだった。
「こんなに・・・・。こちらに残す分はちゃんとあるのですか?」
「いえ。写真は残したくないと、キラが言うので。シン君も俺たちのことは忘れた方がいい。だから、俺たちと一緒に写ったものはありません。」
「でも、それでは・・。」
「いいんです。それで・・。」
優しく微笑みながらキラがそう言うと、父親はもう何も言わなかった。
だけど、俺はどうしても・・・・。
荷物を全て車に積み終え、後はシンを連れて帰るだけの夫妻を俺は呼び止めた。
「すいません、待ってください。」
「アスラン?」
玄関で見送ろうとしていたキラが、不思議そうな顔で俺を見る。
「もう一度だけ、シン君を抱かせてくれませんか?」
俺の申し出に、母親は微笑んでシンを俺に抱かせてくれた。
「パーパ。おぶ。」
「こーら、おんぶはダーメ。」
シンを抱くと、俺はカメラを父親に差し出した。
「一枚だけ、3人の写真を残したいんです。お願いできますか?」
「はい、もちろん。」
と、父親は快く引き受けてくれた。
俺はキラの元に戻り、シンを抱かせた。
「ほら、キラ。笑って。」
「アスラン・・。でも・・。」
「シンと過ごした時間を、一つだけ形に残したいんだ。な?」
キラはしばらくシンを見つめて、
「そうだね。」
と、小さく頷いた。
「マーマ。」
キラを呼び一点の曇りもない笑顔を見せるシン。
シンを抱いたキラも、キラの肩を抱く俺も、笑顔で。
「はい、いきますよ。」
カシャ
シャッターの音が、まるでシンとの生活の終わりを告げているようだった。
「シン・・・・。大好きだよ。君を愛してるよ。」
キラはシンの肩口に顔をうずめ、強く抱きしめた。
「俺も、お前を愛してるよ。シン。」
俺はそんな二人を抱きしめる。
「ありがとうございました。」
俺は父親からカメラを受け取り、キラはシンを母親に返した。
「シン。元気でね。・・・・・バイバイ・・。」
「本当にありがとうございました。ご恩は生涯忘れません。」
ユズキ夫妻は深々と頭を下げ、車に乗り込んだ。
後部座席に乗って、シートに立ち上がり窓越しに俺たちを見るシン。
手を振る俺たちに別れを感じ取ったのか、バタバタと手をばたつかせ、その顔が歪んでいく。
静かに走り出した車が一度だけクラクションを鳴らし、遠ざかっていった。
「シン・・・・。」
俺たちはその車が見えなくなるまで、エンジンの音が聞こえなくなるまでずっと同じ場所に立っていた。
「キラ・・・。」
泣いているのではと思い方に手を掛け名を呼ぶと、意外にも穏やかな表情で俺に振り向いた。
「行っちゃったね。」
「うん。」
「シン、泣いちゃってた。」
「あぁ、そうだな・・。」
視線を外し俯いたキラが、そっと俺の手に指を絡めた。
「ね、アスラン・・・・・。」
「ん?」
「デート、しよっか?」
「は?」
こんなときにデートなんて・・・。
キラ、何考えてるんだ?
「どうせ今日、一日お休みもらってるんでしょ?」
「まぁ・・そうだけど?」
「ずっとシンが一緒だったから、二人でゆっくりお出かけなんてできなかったじゃない?だから・・ね?」
寂しさを紛らわそうと思っているのか、何を考えてるのか、全然わからないけど・・。
キラが笑ってるから、まぁ、いいか。
俺たちは手を繋いだまま、家へと向かう。
久しぶりのデートの準備のために。
「キラはどこ行きたい?」
「とりあえず映画?」
「映画か~。何見る?」
「ホラー映画!」
「うっ・・・・それは・・・ちょっと・・。」
「あはははははは。」
明日からは又、シンに出会う前の日常が戻ってくるんだ・・・。
☆
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