箱根強羅にごり湯温泉 桐谷箱根荘Blog
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――宿の門松に託す責任年の終わりが近づくと、旅館という場所は、少しだけ空気が変わります。ただ新年を祝う為ではなく、無事に一年を終え、無事に次の年を迎えるための時間が、静かに流れ始めるからです。私たち旅館にとって、門松は単なる正月飾りではありません。お客様を迎える前に、まず宿そのものを整え、年の境を守るための設えです。宿は、人の人生の途中に、ほんの一夜、或いは数日だけ寄り添う場所。だからこそ、節目に乱れがあってはならない。門松には、そうした宿の覚悟が映し出されます。コロナ禍が落ち着いたある年の年末。毎年お願いしていた門松の業者さんが、クリスマスを過ぎても一向に連絡がない、という事態が起きました。電話をかけてもつながらない。折り返しもない…。時間だけが何事もなかったかの様に過ぎて行く。――門松が間に合わない。宿を預かる者として、胸の奥が冷やり…と致しました。年末の忙しさ以上に、「守るべきものが整わないかも知れない」という不安が、静かに広がって行ったのです。旅館は、「年が来るのを待つ場所」ではありません。年を迎える準備を、整えておく場所です。年の変わり目に、何事もなかったように扉を開けられるかどうか。それは偶然ではなく、日々の判断と備えの積み重ねです。いろいろなところに問い合わせて、門松が間に合うかどうか確認を致しましたが、殆どの業者さんが「間に合いません」「終わりました」などと言うお返事ばかり。唯一、年末ぎりぎりのところで助けてくださったのが、現在お願いしている業者さんでした。事情を汲み取り、慌ただしい中でも、誠実に、確実に。門松が据えられた瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、静かに解けて行きました。後日、気持ちが落ち着いてから、連絡の取れなくなった御殿場市の業者さんのところを訪ねました。しかし、そこに店はなく、看板も、痕跡も、何も残っていませんでした。その光景を前にして、強く思いました。宿は、もしもの時を想定し、備えておかなければならない。それは不信ではなく、責任なのだと。来年は、60年に一度の丙午(ひのえうま)。年運の力が強いとされる年だからこそ、迎え過ぎず、拒まず、静かにお客様と年を迎える門松…として令和8年の門松を仕立てていただきました。強さを誇るのではなく、強さを受け止め、鎮め、宿の中へ通さない。その佇まいに、深い安心を覚えます。宿を守るとは、派手に構えることではありません。静かに、確実に、整えておくこと。今年も門松の前で、その責任と有難さを、あらためて噛みしめています。桐谷箱根荘 女将
2025.12.29