シンデレラ・7



イリ-ナ:「ねえ?どうやってお母様を説得したの?」

クラウス:「それがよく解らないんだけど、昨日君の家の前
     で不思議なお婆さんに会ってね~、この木の枝?
     を握って交渉すればきっとうまくいくって言われ
     たんだ。サイレントヒル(州)のキツネは人を化
     かすときにこれを使うんだって。なんなんだろう
     ね?」

イリ-ナ:「それは!(イライザもジニ-も持ってた七文字
     のル-ンが刻まれたスタッフにそくり)」

クラウス:「何~?」

イリ-ナ:「いえ・・・なんでも・・・」

 なんと、あの二人はトランシルバニアの魔女でありながら、その正体(というか変化を身につける前)はこのザクセン王国のサイレントヒルに住んでいた狐が妖怪化したもので、イライザは九尾(完全体)の銀狐、ジニ-は三尾(まだ未熟)の金狐だったのです。
 その昔、妖怪化できなかったジニ-の母ジェ-ンが猟師に弓矢で射殺されて、まだ仔狐だったジニ-がお腹を空かせて泣いていた時、買い出しに来ていた、まだ11歳のイリ-ナにパンとミルクを分けて貰って飢えを凌いだことがあったのです。
 仔狐ジニ-はお腹いっぱいになって、イリ-ナの横でうとうとしはじめました。なんとなく家に帰りたくなかったイリ-ナはしばらく仔狐の背中を撫でていました。ジニ-は久しぶりにぐっすり眠りました。母親に抱かれている夢を見ながら・・・。
 ジニ-が目を覚ますと、イリ-ナは
 「起きた?じゃあもう行かなきゃ・・・。元気でね」
と言って去って行きました。ジニ-がこっそりついていくと、「ラザイエフ商会」の裏口から、あの継母の「どこで油を売っていたざます!この不良娘っ!!」という声と平手打ちの音。
自分を助けてくれた少女は幸せではなかったのです。
「何とかしてあげないと・・・!」
 その思いが変化の術の修行へジニ-を駆り立てたのです。
 ジニ-は娘の急を聞きつけてトランシルバニアから駆けつけたイライザの許で6年間、猛特訓の日々を重ねて来ました。
 もちろんイリ-ナは覚えていませんでしたが、イライザもジニ-も、いつかイリ-ナに恩返しがしたかったのです。

 茂みの奥から緑色に輝く四つの目が見ている・・・。九尾の銀狐と三尾の金狐でした。

ジニ-:「ねえ、お婆ちゃん。よくあのごうつくババアが二
    つ返事でイリ-ナをお嫁に出したよね。ただの人に
    なっちゃったクラウスに」

イライザ:「なあに、あのオバハンの前じゃ王子様だったの
     さ。ル-ンブランチの魔力でね(^^)V」

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 それは夕べのこと、既に平民になった王子様が、継母の二クラシコワに直談判した時・・・、

クラウス:「我が身の貧道もかえりみずお嬢さんを迎えに参
     りました。僕の伴侶として迎えたいのです」

 だがル-ンブランチの魔力で、平民の服を着たクラウスがニクラシコワには羽帽子を手に持った、フリフリのついたゴ-ジャスな装束を身に纏った王子様に見えていました。

ニクラシコワ:「まあ!?貧道なんてとんでもござぁ~ませ
       んわ。勿体ないお話ざぁ~ますわ。なんたっ
       て皇族の外戚ともなれば・・・オホホホホ!」

クラウス:「(何を言ってるんだこの人)それじゃあ宜しい
     んですか?」

ニクラシコワ:「勿論ざますわ!!長女のエゴノワざます
       ね?」

クラウス:「いや・・・(‥;)」

ニクラシコワ:「じゃあ次女のブコロスカヤざますか?」

クラウス:「何で!?(▼▼)」

ニクラシコワ:「イリ-ナ!?あれはよした方が賢明ざま
       す!掃除と洗濯と炊事と店の切り盛りぐら
       いしか能のない娘ざますっ!!」

クラウス:「へぇ~。良くできた娘さんですね。それでは貴
     女方は何が出来るんですか?」

ニクラシコワ:「!!!!!(何もできないざます(..;))」

クラウス:「捧げられるものは何もありませんが、きっと幸
     せにします・・・」

ニクラシコワ:「宅を今後もご贔屓いただけるのなら、異論
       はござぁ~ませんことよ」

クラウス:「それならお安い御用です。では明朝迎えに参り
     ます」


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クラウス:「ねえ?ホントに良かったのかい?」

イリ-ナ:「どうして?」

クラウス:「一生かかっても身につけきれない程の宝石もド
     レスも、もうなぁ~んにもないんだよ。僕が君に
     あげられるのは12枚の金貨と母上の形見の指輪
     だけだよ」

イリ-ナ:「私なんか着の身着のままよ」

二人:「あははっ(^◇^)」

クラウス:「あのさ、まだ話してなかったよね?君ってジパ
     ングの姫様に似てるんだよ。髪も青みがかった黒
     だし、瞳も鳶色なんだけど、何て言うかこう、心
     が安らぐ感じがさ・・・。あ、そうそう、舞踏会
     のあと、父上が縁談のためにこの姫様を捜して国
     中の港や街道の要所に検問を張って探したけど見
     つからなかったんだって・・・。」

イリ-ナ:「ふ~ん(私だってばっ!!(-.-))」

クラウス:「ん?(何だ?怒ってるのかな?)・・・それにしてもね~、父
     上の我が儘にもあきれたよ。“お前もヨハンセンなんてやめて、
     英語名のジョンソンを名乗りなさい”って言ったりね・・・、
     “お前とモニークを結婚させて、自分がジパングの姫様と再婚す
     ればプロイセンの武力もジパングの黄金もワシのモノじゃ~!”
     なんて言い出してね~・・・。」

イリーナ:「えっ!?(^^=)」


クラウス:「顔色悪いけど、酔ったの?ちょっと止まって休もうか?」


イリ-ナ:「ううん!平気平気!それよりねえ!?これからどうするの?」

クラウス:「そうだな~・・・、リンゴ農園でもやって見よ
     うかな?退官した元・執事のリンツ伯爵の荘園
     を譲ってもらったんだ。そこで僕の植えたリンゴ
     の木が育ってる。ずっとず~っと北の方だけど
     ね」


 木陰で覗いていたイライザがしみじみと言いました。

イライザ:「結局、私たちが何もしなくても、あの二人は結ばれたんだろう
     ねぇ・・・、魔法よりもあの娘の笑顔の方が王子様には効いたみ
     たいだね」
 ジニ-はただ、黙ってうなずきました。自分もあの笑顔に魅了された一人でしたから・・・。
 ザクセンの秋は、すでに冷たい冬の風が混じり始めていました。寒風吹きすさぶ冬はもうそこまで来ています。
 遙か北に続く、白く細い道を駆けて行く二人を乗せた騎影が地平線の向こうに消えても、二匹の狐はいつまでもいつまでも二人が消えた方向を、祈るような目差しで見つめつづけていました・・・。

終わり


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