イエルカ興亡史(仮)・序章



 有史の遙か前、スメールと呼ばれた世界最高峰があり、その麓に小さな湖がありました。
 その湖畔の町の郊外に、西方から移り住んできた移民達が作ったモニュメントがあって、時折その移民達のリーダーがモニュメントに登って何かの儀式を行い、移民達が神妙な面持ちでそれを見上げていたため、町の人は「遠い故郷を偲んでいるのだろう」と思い、いつしかそこは「望郷の丘」と呼ばれるようになっていました。
 今、「望郷の丘」の上に佇み遙か西方を見つめている父と娘の姿がありました。移民団のリーダー、ラーズと娘のククリです。

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ククリ「ねえ、私たちってあっちから来たんでしょ?」

ラーズ「そうだよ、ククリの故郷はね、あのハイバラ峠を越えたずーっと向
   こうにあったんだ」

ククリ「どんな町?」

ラーズ「うん・・・、昔は緑が一杯あった水郷都市だったらしいんだけど、
   お父さんがククリくらいの頃には紅い砂埃が舞う砂漠の町になってて
   ね、それでも町の周囲に堀を巡らせてあってね。レンガ造りの家が
   チェス版みたいに整然と建ち並んでいる、ホントに綺麗なオアシスの
   町だったんだ。
    お母さんの故郷はそこからずっと東に10日くらい歩いたところに
   あったんだ。ウラルスっていう山の麓で、イアン湖っていう湖があっ
   てね、その湖畔の港町だったんだよ。」

ククリ「ふ~ん・・・、そうなんだ。ねえ!お父さんのお父さんもイエルカ
   にいたの?どんな人?」

ラーズ「え?お父さんのお父さん・・・?う~ん・・・、解らないんだ。お
   お父さんの母さんもね・・・。変わった模様の服を着た女の人がマ 
   ジャホのおじさん達にお父さんを預けて行方知れずになったんだっ
   て。
    その時に置いて行ったのがあの変わった形の弓と矢筒だったんだけ
   ど・・・。
    それで10歳の時にお父さんを迎えに来たのがククリの本当のお父
   さんだったんだ」

 一瞬目を伏せたラーズは、寂しそうな顔でククリに笑いかけました。

ククリは「まずいこと聞いたかな?(..;)」と思って話題を変えました。

ククリ「ねえ、私の本当のお父さんって、どんな人?カッコよかった?」

ラーズ「・・・うん、立派な人でね・・・」

 そこで言葉が途切れ、ラーズの頬を一筋の涙が伝い、驚くククリ。

ククリ「どうしたの!?」

ラーズ「あっ!ご免ご免・・・、逆さまつげ。ホラ、お父さん一重瞼だか
   ら」

ククリ「なぁんだ!ビックリした~。(・・・前もこんな感じだったんだよ
   な~、聞かない方がいいのかな?)」

子供ながらに結構気を遣っているククリでした。

 ハイバラ峠の向こうに聳える峨々たる山々に日が沈み始めました。二人の影が長く長く伸びています。

 遠くから「御飯よ~!」とキサラの声が聞こえてきました。

ククリ「あっ!お母さんだ。御飯だって。行こ行こ!」

ラーズ「あっ!ちょっと待って!転ぶんじゃないよ・・・。ロンガー!」

 ラーズの声に応える様に、どこからか一頭のロバ(?)が現れました。
「イエルカ」から数千kmの旅を共にして来た朋友のロンガーです。
 ロンガーは二人を乗せると夕暮れの町並みの中に消えて行きました・・・。

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 私の名前はククリ。これから話すことは、お父さんとお母さんの思い出の中にある物語なんだ。

 私の御先祖様が住んでいた島がず~っと昔、海の底に沈んだらしいんだけど、その島の言葉で「絆(きずな)」って意味なんだって。

 私を生んでくれたお母さんはその島民の生き残りで王女様だったんだって。
 お母さんは私がいることで、お父さんやお母さんや、その国に住む人達みんなが仲良くできるようにって願いを込めて「ククリ」ってつけてくれたんだって。

 でも、私が生まれてすぐに本当のお母さんが死んじゃって、私の生まれた「イエルカ」の国も10年前に海の底に沈んじゃったんだって。
 お爺ちゃんは優しい王様で、お父さんはすごく立派なサリエス(賢者・神官)だったんだって。
 でも、お父さんもお爺ちゃんもその時に死んじゃったんだって・・・。

 今、私を育ててくれているお父さんは、血は繋がってないけどお父さんの従弟にあたる人で「セージ(識者・神官補)」っていう神官見習いの仕事をしてたんだって。
 だからかな?いろんなことを知ってて穏やかな性格だから町の人からは尊敬されてたりもするんだけど、実はけっこうドジで時々お母さんに怒られてる・・・ヾ(^▽^☆彡

 今のお母さんは東隣りの「エルモ」っていう国の人だったんだけど、イエルカに綿糸の紡ぎ方を教えに来ていて戦争に巻き込まれて一緒に逃げて来たんだって。お父さんより4つ年上のしっかり者だ。
 「もう!しっかりしてよ!」なんて怒ったあとに、お父さんが「へえへえ」なんて言って困った顔で頭を掻いてると、後ろ向いて「くすっ」って笑ったりするんだよ・・・。「何で笑うの?怒ってたんじゃないの?」って聞いたら「貴女にもいつか解る時が来るわよ」だって。大人って不思議だ~・・・(・・;)


 お父さんやお母さんの故郷ってどんな所だったのかな?
 本当のお父さんやお母さんってどんな人だったのかな?

 だから、いつか大きくなったら、お父さんやお母さんと一緒に必ず行くんだ!私たちの故郷が眠っているルーテシアの海に・・・。


つづく

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