第四章~ジュロー島の激闘3



 背ビレ岩の裏側にはさっき捕縛した敵兵の乗ってきた高速艇がアンカーを下ろして停泊しており、飛行艇と敵兵の乗る高速艇はジュロー島の周りを周回しながら逃走と追跡を続けていました。

 後ろで弩弓(ボウガン)を構えていた兵士が、仲間達がいないことに気づき操縦士に何か叫んでいます。

敵兵:μψοψαδε!!νακαμαγα・・・δαλεμοε-θψν!!
  (変だぞ!!味方機が・・・誰もいない!!)

操縦士:θονμα~!?(ホントか、おい!?)ζασθ-κξνα?(座礁
    でもしたか~?)θαψοσενα~(こっちもちゃっちゃと始末し
    ないとなぁ)ιφαγαο-τεμετ=ψακοφξφα~!(こう
    岩が多くちゃ、ヒヤヒヤモンだぜ全く~!)

 操縦士がコクピットに潜り込む様な仕草をすると同時に、まるで捕鯨でもするのかというくらいの巨大なモリが船首から発射され、飛行艇の機体に突き刺さりました。
 モリには鎖が付いていて、これによって高速艇の操縦士はエンジンが不調の飛行艇を捕らえたつもりになっていました。

敵兵:ιψα!!μυτψασψναψα!(おい!!無茶すんなよ!)
   “δεβξσε”γακοφαλετεμο-ταλαδοτυκαλ
   ενδε!!(機体が壊れちまったら厳罰モンだぞ!!)

操縦士:“πιλοτ”τφο“μαγθινα”σαεβυζιφατ=α
    λα、θοκαφακαμεθενψαλο?(操縦士と動力源さ
    え無事ならガキや女房がどうなってもかまわんだろ?)

敵兵:σεψανα(まあな)(`ー´)σψα-κεδο-“δεβξσε”
   νψα-κψζυτσυκεναψα(でも、機体にはこれ以上傷付け
   るなよ)

操縦士:ο-λξ!(了~解!)

 どうやら黒装束の連中の狙いは飛行艇(と操縦士)の拿捕(だほ)にあって、母親や子供は始末するつもりの様です。むしろ無傷で捉えて人質にした方が、操縦士の感情を考えると効果的の様な気もするのですが、凄惨な光景を見せつけることで抵抗する意志を奪い、力ずくで従えさせるのがこの戦士団のスタイルなのでしょう。

 一方、飛行艇の後部座席では・・・。

子供:μαδλψ~!!(お母さ~ん!!)ξψο~!!ρψετλψ!ρ
   ψετλψ~!μαδλψγα!!(わぁ~~ん!!お父さ~ん!お
   母さんがぁ~!!;;;(>〇<。);;;ビェェ~~~~ン!!!)

母親:τονψ・・・、ε-νψο・・・υτψαθετψαλαψα
   ν・・・。(トォニイ・・・、いいのよ・・・私は大丈夫だか
   ら・・・(--;))

 さっき高速艇が放ったモリが後部座席付近の側壁を斜めに突き抜けたために脇腹にケガをしている様で、ゴーグルの下から覗く顔からは血の気が失せています。

父親:μαδλψ!!δονξσψτεν!?(お母さん!!どうかしたの
   か!?)ιμα=νζψοσψταλυσακξ!!(すぐになんとか
   するから!!)κψβαλψοσι!!(頑張るんだぞ!!)

 父親は操縦桿を一杯に引き、出力を上げて上昇を試みました。すると、一瞬だけ機体が宙に浮き、飛行艇はジュロー島を飛び越え、再び着水しました。

 そして空を飛べない高速艇は・・・。

操縦士:νανσψονχα!!θυκ=ψου-ασθολε!!(何てこ
    としやがんだ!!このくそバカヤロー!!)

兵士:ξψο~~~~~!!σψνυλυφα~~~~~!!(うわぁ~~
   ~~!!死ぬ~~~~~!!)

 自業自得果というべきかお気の毒というべきか、鎖で連環していた高速艇は飛行艇に引っ張られて空中にジャンプし、すぐさまジュロー島の岩場に叩きつけられ横倒しになりました。

 兵士も操縦士も投げ出され、倒れ伏しています。

 一方、様子を伺っていたラーズ達は、自分達の頭上を飛び越えて行った飛行艇に度肝を抜かれ、一瞬我を忘れていました。
 ところが飛行艇に引っ張られて自分達の方へ吹っ飛んで来る高速艇に気づいて慌てて飛び退きました。

リク:ねえ、今あれ飛んでなかった!?飛んでたよね!?

ラーズ:あれがテオ先生が授業で言ってた「航空機」かな~?

老人:テオが見たら喜びそうじゃの~。南オアンネスの末裔かの?

 騒動に気づいてマジャホとマトゥラが、どこから出したのか麻縄を持って背ビレ岩の向こうから駆けて来ました。少し遅れてキサラが心配そうな顔で走ってきました。

キサラ:何だか凄い音がしましたけど、皆さんお怪我とか・・・大丈夫ですか?

マジャホ:あのナマコに羽根ん生えたみてゃあなヤツぁ何ずらなぁ?

マトゥラ:びっびっびっ・・・びっくりした~!!

ラーズ:たぶん「航空機」って、空を飛ぶための乗り物だと思うんだけど、
    はっきり解らないな~。

マジャホ・マトゥラ:!!!!!!????(‥?

リク:「コウクウキ」っていう、神様の子孫が大昔に使ってた機械だそうで
   すよ。

マジャホ:へっ!?ふんじゃぁ、乗ってるシ(人達)は神様の・・・?

 その時、飛行艇がジュロー島に接岸し、パイロットが操縦席から飛び降りました。そのパイロットスーツは遮光式土偶をスマートにした様な格好でした。かなり大柄な逞しい体格をしています。

マジャホ:あれン神様~?

マトゥラ:ぶっぶっ、ぶっ・・・ブッサイク~・・・。

キサラ:まあ・・・個性的な神様・・・(¨;)

 後部座席からは同じ姿の小さな土偶が降りてきました。小さな土偶は「μαδλψ~!!μαδλψ~!!ξψο~~~~~!!」と泣き叫んでいます。

 後部座席には、パイロットより少し小柄な土偶が座り込んでいました。自力では降りることができない様です。

ラーズ:マードリー?・・・お母さんの名前かい!?

 ラーズが小さな土偶に話しかけると、土偶は(〇o〇;)とした様に身震いして大きな土偶の後ろに隠れてしまいました。

 身長195cmのリクが三つ又のモリを持っており、161cmで小柄とはいえラーズが弓を握っていたので、さっきの兵士の仲間だと思った様です。

 父親と思しき大きな土偶も手に短剣を握りしめて身構えていました。しかし、後ろにキサラの姿を認め、さらに横たわった敵兵をマジャホとマトゥラが縛り上げているのを見て、短剣を握った手を下ろしました。

 土偶は頭部の飛行帽を取り、革製のマスクとゴーグルを外しました。
黄銅色と褐色が入り交じった髪、碧の瞳、朱を差した顔、巨大で高くそびえる鼻・・・アスラ(戦鬼)!?今度はラーズが身構えてしまいました。


 アスラとは古代オアンネスを武力で制圧し、最後は島もろとも海中に没したとされている伝説の巨人族のことです。

 しかし、目の前の異人さんは戦鬼というには迫力に欠けるというか、何となく普段のラーズに似た雰囲気を醸(かも)し出しています。

子供:ρψετλψ!ρψετλψ~!μαδλψγα!!(お父さん!お
   父さん!お母さんが~!! (>〇<。)ビェェン)

父親:ξψο~・・・(おお~・・・)(°°;))。。オロオロッ。。・・
((;°°)

老人:何だか知らんが誰ぞ具合が悪いのかね?さっきの騒ぎでケガでもしと
   るのか?

 異人さんは老人の手を握ると跪(ひざまづ)いて「オネゲシマース・・・カカアシンデマイマース!タシケテクラサーイ!」と、片言のイエルカ語で懇願して来ました。

老人:そうかそうか、あの人はお前さんのカミさんなんじゃな?お~い坊や
   達、ちょっと手伝ってくれんかの?

 老人の呼びかけに、ラーズとリクは飛行艇の後部座席からもう一人の土偶を抱き上げ、下に降ろしました。

老人:ゆーっくり、ゆーっくりじゃぞ・・・。よーしよし。

 ラーズとリクがローブを脱いで岩の上に敷き、女性と思しき土偶を横たえました。飛行帽を取り、マスクとゴーグルを外すと・・・、流れる様に金髪が垂れ、透き通る様に白い女性の顔が露わになりました。

キサラ:綺麗~~~~・・・。(*‥*)

マジャホ:おお~~~~っ!!天女様だ!!すっげぁ~~~!!

マトゥラ:ぶっ!!(鼻血が出た模様・・・(__;))

 横たわる女性はパイロットスーツの脇腹が大きく裂けていて、周りに大量の血が滲んでいます。老人は、ラーズの時と同様に光のナイフでパイロットスーツの脇腹を切り裂き、大きな裂傷を確認すると光のナイフで傷を撫でつけ、取り敢えず止血をしました。そして、

老人:ラーズ・・・とか言ったな?ちょっとやってみんか?

ラーズ:えっ!?僕がですか?

老人:そうじゃ、見たところお前さんシャルマン・ドーヴァ・・・いやエイ
   カーくらいじゃろ?それもそろそろセージを狙うくらいの・・・。

ラーズ:えっ?(〇o〇;)

リク:何でそんなことまで解るんですか?(¨;)

老人:解るともさ~、だてに長く生きてはおらんよ。さっ、やってごらん。 

 ただならぬ巨大な気(オーラ)を纏(まと)った正体不明の老人、命に関わるケガを負った異人の女性、固唾(かたず)を呑んで見守るリク、キサラ、異人パイロット、しゃくりあげている小さな土偶とマジャホとマトゥラ・・・。ラーズは正直言って震えが来るほど緊張しています。でも、

ラーズ:(落ち着け、落ち着けよ・・・いつもテオ先生が言っている通り、
    いつも通りだ)  

 そう自分に言い聞かせると、ゆっくりと深呼吸して患者の横に立ちました。

 左の踵(かかと)から吸収した大地の気を、左半身の経絡を通して左右の膝上20cmくらいのところに存在する第1チャクラ、陰部の第2チャクラ、丹田の第3チャクラ、鳩尾(みぞおち)の第4チャクラ、喉の第5チャクラ、眉間の第6チャクラ、頭頂の上20cmの所に存在する第7チャクラの順に流していきます。次に、右手のひらから天空から降り注ぐ気を吸収して第7チャクラから順に右半身に降ろして行き、鳩尾のあたりで収斂(しゅうれん)させます。

 そして左右の手を傷口に添えて、収斂した気とともに優しい光のベールが傷をふさぎ、切断された組織を再生するイメージを送り込みます。

 それを見ていた老人が・・・、

老人:ふうむ・・・、お前さんのオーラ・・・、総量だけなら新米のサリエ
   スにも匹敵するだけの力はあるのぉ・・・、だが~・・・どうも放出
   量が・・・、お前さんちょっと手のひらを見せてごらん。

ラーズ:はい・・・(‥?

老人:んっ!?このムドラ(具現化したオーラの形状)右が矢で、左が梓弓
   か?左右非対称とは珍しいの~!!お前さん、両手ではなく左手を傷
   口に添えて、右手は弓を引き絞るようなつもりで左の上腕に添えてみ
   なさい。

ラーズ:え・・・と、こうですか?

 老人に言われた通りにラーズが構えたその途端、第7チャクラの上方に何かが光り、ラーズの身体をまばゆいばかりの光が包みました。
 胸の前には光るラハドス紋(明けの明星をシンボル化した紋章・寺院などにある輪宝紋に似ています)が浮かび上がり、やがて光の帯となって両腕に流れ、左手首には光の弓、弓をつがえるように結んだ右手には光の矢が現れました。

老人:よーし、矢は引っ込めるんじゃ。そして、収斂した癒しの気を送り込
   むんじゃ。

 ラーズの左手から放たれた気は、さっきの数倍にはなったでしょうか・・・、傷口どころか女性の全身を包み、蒼白だった顔に血の気が戻って来ました。

 この結果に一番驚いているのはラーズ本人の様で、老人に向き直った顔は唇の端がひきつり、右の鼻の穴から鼻水が垂れています。

 そして、意識が戻ったのか、女性がうっすらと目を開けました。それは湖水の様に透き通った、淡い水色の美しい瞳でした。

 固唾を呑んで見守っていたギャラリーから歓声があがり、小さな土偶は飛行帽とゴーグルを投げ捨てて、母親の胸に飛び込んで行きました。母親似のそれはそれは可愛い男の子でした。

母親:θψα!!δοναισψτεν!?φακεφακαλαθεν?
  (えっ!?どういうこと!?何の騒ぎ?)

 一方、ラーズは土偶の父親に抱きつかれ、ホッペにはキスの嵐です。

父親:ワリガットゴザマース!!アナタ、チサイケドスゴイデース!!」

ラーズ:小さいって、何がッ!?

老人:ラハドス・・・夜の終わりを告げる星・・・、我等星の民の滅亡の兆
   しか、希望の光か・・・、ふ~む・・・、面白い素材を見つけたなあ
   シグルよ・・・。

 しばらくして、シジムの浜からマガンの操るカッター船が、ジュロー島に残った4人と、捕虜となった4人の敵兵を迎えに来ました。

 拿捕した高速艇、捕虜の敵兵、異人の親子と飛行艇の処遇などを巡って、今日は長い1日になりそうです。

つづく

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: