第五章~シジムの浜で



 それにしてもガレー船の乗務員はどうしたことでしょう?乗客の避難誘導もせず、さっさと救命艇で逃げてしまったのでしょうか?

 シジムの村人達や、ガレー船の乗客達は桟橋で英雄達の帰還を今か今かと待ち構えていました。乗客達は死ぬほどの恐怖と、生還できた喜びを一度に味わい、身体を張って自分達を助けてくれたイエルカのシャルマンと、シジムの漁師達に御礼が言いたかった様です。

 カッター船が桟橋に着いた時、浜辺は上を下への大騒ぎで、ラーズやマガン、リク達は取り囲まれ、もみくちゃにされてしまいました。

ラーズ:いや、今回一番活躍されたのはあのご老人です。あのご老人がいらっ
    しゃらなかったら、またこうしてシジムの土を踏めたかどうか・・・。

 普段、漁をしているときは凛々しいマガンも、慣れない御礼責め、握手責めで、頭を掻きながら、顔から発火しているのではないかというくらい真っ赤な顔で、滝のような汗をかきながら照れ笑いをしています。

農夫A:貴方の機敏な動き、自分より頭1つ大きい相手にもひるむことなく向
    かっていった勇気、感動しました!

農夫B:貴方達は我々の命の恩人です。

農夫C:貴方達の英雄譚を孫子の代まで語り継ぎます。

マガン:え?命の恩人!?よせやい、俺はただ、カカアを残してあんなヤツら
    に殺されたくなかっただけさ・・・、英雄だなんてそんな、照れるじ
    ゃねえかバカヤロ~~。

 言葉とは裏腹に、顔が「もっと言って、もっと褒めて( ̄^ ̄)」と言っています。

商人A:今日は旅の途中なので大した御礼もできませんが、後日改めて御礼
    にお伺いさせて頂きます。エディゴ屋の名にかけて・・・。

商人B:お困りの時はなんなりとお申し付け下さい。エンスール屋の名にか
    けて・・・。

商人C:お手紙一つで何でも取りそろえます。タンパ屋の名にかけ
    て・・・。

商人D:同じく、ビハラ屋の名にかけて・・・。

商人一同:きっとご満足頂けます様、誠心誠意ご奉仕させて頂きます!!

 と言うと、商人達は、示し合わせた訳でもないのに妙に息の合った、歌舞伎役者顔負けの大見得を切っています。これって人類史上初のコマーシャル・メッセージかもしれません。

ラーズ・リク・村人達・・・(▽〇▽;

 商人達はそれぞれの目的地へと散って行き、ナディの農夫とその家族・若夫婦はシジムの村で泊まっていくことになりました。キサラももう1泊です。

キサラ:なんか、あんなお見送りして頂いたあとで気恥ずかしいんですけ
    ど・・・。

マナ:お姉ちゃん、今度はウチに泊まって!ねっ!ねっ!

ラーズ:そういえば、姉さんなんで島に残ってたの?マガン兄さんの船で浜に
    帰ったはずでしょう?

キサラ:(*‥*)・・・そっ・・・それは・・・。

マナ:こらっ!この野暮天!!無事に帰って来たんだから、そんなこと別にど
   うだっていいじゃない!!

ラーズ:えっ!?あ・・・はいはい・・・?ん?(・_。)?(。_・)?

 マナがラーズの頭をペチッとはたいたとき、カリアゲになって髪のボリュームが少なくなったために、ブカブカだった帽子が落ちて頭が露わになりました。

ラーズ:痛っ!!マナ!お兄ちゃん頭にケガしてんだから!乱暴すんなよ!

キサラ:・・・くっ・・・。

マナ:・・・くっ・・・くくくくくく・・・。

 突然2人が吹き出しました。

ラーズ:何だよ!

マジャホ:われぁ何だその頭!皿乗せたらカッパじゃねゃーか!ぎゃ~~~
     ~~っはっはっはっはっはっはっは~~~~~~~~~っ!!!
     !!!ヾ(^▽^☆彡

ラーズ:えっ!あ・・・。

 頭に手をやり、慌てて帽子を拾ってかぶり直しましたが時既に遅し、人類初のカリアゲ君ご開帳に浜辺は爆笑の渦です。「死ぬ~」「ちょっとこっち向かないでよ」などと笑い転げる群衆の脇を、そろ~っと逃げていく老人の姿がありました。

ラーズ:あっ!あのくそジジイ・・・。

 真っ赤な顔のラーズが老人を追いかけようと走り出した時、

ナギ:あれっ?ミギワがいない!!さっきまでここにいたのに!!(O.O;)

マガン:家に帰ったのか?

ナギ:そんなことないよ!あんた達に飲ませるんだってビール持って来てたん
   だから・・・。あそこに置いたまんまだし、どこ行っちゃったんだろう!
   (°°;))。。・・・・・。。・・((;°°)

 その時、ロバ(?)が「クーアッハ!クーアッハ!」と鳴いてラーズのローブの袖を引っ張ってきました。

土偶父:オオーッ!!コーレィワー“ルゥォンガー”デワ、ゴーザマセーンカ
    ー!?

ラーズ:“ロンガー”?ロバじゃないんですか?

土偶父:チッチッチ!“ルゥォンガー”デーゴーザマース!!

 土偶父は、巻き舌です。

ラーズ:ルゥォンガー・・・?

土偶父:ジェ!(そう!)“ルゥォンガー”デース!アファール大陸ノォー、
    ナセルイーナン(以南)ニセソーク(棲息)シティールキィーショシ
    ュー(希少種)デース!!ロバトチャイマンガナー!!ナキゴエカラ
    ー、“クワッガ”トゥオモヨーバレーテマース!!

ラーズ:そうか、お前“ルゥォンガー”って言うんだ。

 しかしロバ(?)は「なんかイマイチ」とでも言いたげに首を傾げています。

ラーズ:ヤなの?ロンガー?

ロバ(?)は「そう!それ!」とでも言う様に、何度も立ち上がりました。

ラーズ:ロンガーがいいんだって。

土偶父はスネたように、砂浜の小石をつま先で転がしながら、

「ダッテー、“ルゥォンガー”ダモ~ン(~,~)」

とつぶやき、膝を抱えて座り込みました。

トォニイ:ピエトリー・・・。

 土偶父を慰めるように、トォニイが父親の肩に手を置きました。

 ロンガーは早く乗れ!と足をカタカタ鳴らして催促しています。
ラーズがロンガーに跨(またが)りながら、「貴方、ピエトリさん?」と聞くと、

土偶父:ジェ。ワーダシ、コノコノ“ピエトリ”デ~ス。

ラーズ:詳しいことはまた後ほど・・・ロンガー、頼む!

 すると、ちょっと離れたところでパニック状態になったナギをなだめていたリクが、

リク:おおい!どこ行くんだよ!?

ラーズ:解らないけど、ロンガーが乗れって!

リク:ロンガー!?

ラーズ:この子の名前!そう決めたんだ!

 ラーズはロンガーに乗って走って行きました。

リク:俺も行く!・・・あれっ?大牛がいない・・・。!!まさか!!おお~
   ~~い!!大牛がいないぞ~~~!!カダージが拉致したんじゃないか
   ~~~~っ!!

マガン:カダージって・・・最近この辺をうろついてる変質者か!?畜生!!
    人のカカアをよくも!!ぶっ殺してやる!!

マガンは烈火の如く怒って、三つ又のモリを持って駆け出しました。

リク:おい!相手はカディール総督の息子だぜ!!マズいよ!!洒落んなんな
   いよ!!

リクも慌てて駆け出しました。

===================================

 その頃、シジムの浜から少し離れたヤシの林の中では・・・。

ミギワ:ちょっと!やめてよ!!ヤだってばっ!!放してってばっ!!

カダージ:うるせえっ!!静かにしねえと腑(はらわた)ブチ撒けるぞ!

 そう言うと、ダガーの様な刃の厚い短剣をミギワに突きつけました。ミギワは「ひっ!」と息を呑み、抵抗する意志を失った様です。

カダージ:てめえだけは許さねえ!!バカにしやがって!!めちゃめちゃにし
     てやる!!

 カダージは以前、痴漢行為をした時に股間を蹴られたことを根に持っていました。その仕返しにミギワを弄んでやろうとしていたのです。

 ミギワの麻の服を、襟元からゆっくり切り裂いて行きます。

その時、林の入り口の方から

「おい!腐った牛糞野郎!ミギワから手を離せ!!」

 という怒気を含んだ声が響き渡り、そこには弓を八相(斜め)に構えたラーズが、カダージに狙いをつけて立っていました。

ミギワ:スクナ!!(◎▽◎)

カダージ:何だよくそチビ!セージ候補が人殺しか?月の道に行けなくなっち
     ゃうよ~ん!(注1)

ラーズ:脅しじゃないぞ!痛い目見る前にさっさと手を離せ!!

カダージ:ふん!そんなオモチャみたいな弓で何をしようってんだ!?昆虫採
     集でもすんのか?

 心底頭に来たラーズは思いっきり全開パワーでムドラを発現させました。巨大な光の弓を見たカダージは顔面蒼白です。

カダージ:お・・・おい!な・・・何すんだよ!よせよ・・・、よせ
     よォッ!!じゃないと刺すぞ!この女刺すぞォッ!!

 ダガーの先がプルプル震えています。それを見て取ったミギワは思いっきりカダージの手首に噛みつきました。

カダージ:痛ぇあああ~~~~~っ!!!この・・・!

 カダージがダガーを振り上げた時、ラーズが矢を放ちました。それを見て、カダージは「ひっ!!」と頭を抱えて目をつぶりました。(やられたっ!?)

 しかし、矢はカダージの遙か上方に飛んで行きました。外れたと思い、急に強気になったカダージは肩をいからせて、

「へっ!!どこを狙ってんだ!?てめぇがヘナチョコだから矢もヘナチョコってか?ああん!?」

 と悪態をつきましたが、次の瞬間、カダージの頭にヤシの実が落ちてきて、カダージはその直撃を喰らって鼻血を出して卒倒しました。

つづく

(注1)
 月の道に行けなくなる・・・イエルカでは、生前に良い行いをたくさん積み重ねた人の魂は死後、月の道を通ってこの世に再生し、前世より良い環境に生まれ、悪行を重ねた人の魂は雲の道を通って、雨となって地に降り注ぎ、四つ足の獣か鳥や魚に生まれ変わって人や自分より大きな生き物に食べられる運命を辿る・・・とされています。
 殺人を含め、故なき殺生は月の道から無条件で外されて行く・・・とされています。

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: