外伝~イエルカ興国譚2



 ユートムは活気に満ちた大都市でしたが、行き交う人々の笑顔にはどこかぎこちなさが感じられました。街の外周の防護壁には不自然に真新しい部分があって、その周囲の煤けた石材とのコントラストがちょっと不気味でした。

 サリエス(26歳・配偶者アリ)はまだ年若い青年ながら、街の人々から尊敬と信頼を集めている様でした。きっと優秀な神子なのでしょう。

 そのサリエスから「3柱神」の事跡、「捕食者」がかけた呪いによって放棄された魔法都市「グ・エディン」、遷都から1000年を迎える「ユートム」の歴史のあらまし、街の防護壁が「つぎはぎ状態」になった原因について聞かされた2人でしたが・・・。

 もちろん2人は神通力を備えた神などではなく、ジョカ(22歳独身)は祭器や装身具を造るアーティスト、スクナヒコ(19歳独身)は狩人でした。

 ジョカは仲間を追って先を急ぐ旅です。いつまでもここで足止めを喰っている訳にはいきません。こんなに手厚くもてなしてくれた皆さんには申し訳ないけれどもここは一つ意を決して・・・。

 一方のスクナヒコは居場所を探すためのあてのない旅をしていました。
 居心地がよければそこに定住するつもりの旅をしているスクナヒコが早々に立ち去ろうとしたのも、狩人の勘が「この街は何かヤバそうだ」と告げていたからです

 いずれにせよ神の出現と化け物退治を望んでいる街の人々の期待には応えられそうにありません。

 もう問題が解決した様に喜んでいるみんなの顔を見ていると、だんだん辛くなって来ました。だって完全に「ぬか喜び」なのですから。
スクナヒコ深く深呼吸すると意を決して・・・。

 一方、サリエスは2人が神ではないことは先刻御承知でした。

 初めこそ神の再臨を思わせる2人の風貌に興奮して気づきませんでしたが、素の状態でもオーラが見えるサリエスには、2人が特殊技能を持っていそうな通常の人間ということがちょっと前から解っていました。

 ただ、もうすぐ血塗られた夏がやって来ます。アムリルが「未来永劫アムリアの民を守るであろう」と神殿の最奥部に安置した「護神像」は一向に動き出す気配もありません。

 「捕食者」の脅威は、ここ数年で街の人々の中に「化け物に喰われるくらいなら」と、生まれて間もない赤ん坊を川に流す者、子供を道連れに自ら命を断つ者、街を捨てる者の増加と、「生け贄を差し出して最小限の犠牲で街を守ろう」という「恭順派」の台頭に拍車をかけており、3柱神の遺産であるこの街の伝統を守るサリエスにとっては、どれも胸が痛む事柄でした。

 だから「救世主が現れた」という安堵感に浸り、喜んでいる様子を見るとなかなか言い出せなくなっていました。暫くは子供を捨てたり、一家心中したりを思い止まって貰えるかも知れません。でもこの2人には迷惑な話だろうな~。ここは一つ事情を話してお詫び申し上げておいた方がいいだろうな~・・・(¨;)と思い意を決して・・・。

サリエス・スクナヒコ・ジョカ:あの~・・・。

スクナヒコ:あっ!いえいえ・・・お先にどうぞ!щ(。。)

ジョカ:いえ、あの・・・、どうぞ・・・щ(。。)

サリエス:いや、貴方様こそお先にどうぞ!щ(。。)

スクナヒコ:いや・・・実はかくかくしかじかで・・・ジョカさんは仲間を追
      って先を急ぐ旅なので、自由にしてやって下さい。

ジョカ:えっ!?・・・あの・・・。

スクナヒコ:ただ、私は行くあてもありませんし・・・、ここに残ります。

サリエス・ジョカ:ええっ!?

スクナヒコ:お望みの神様じゃなくてさぞがっかりされたことでしょう。でも
      私は狩人です。マルキッダ(熊)やウルガル(狼)と闘ったこと
      もあります。何かのお役に立てるかもしれません。

サリエス:いや・・・実はかくかくしがじかで・・・少し前からお二人が神様
     ではないことは解っておりました。ただ、街の人々が喜ぶ様を見る
     となかなか言い出せなくて・・・、今まで黙っていて申し訳ありま
     せんでした。

ジョカ:ええっ!?そうだったんですか・・・?

スクナヒコ:何だ・・・ご存じだったんですか。

サリエス:ええ、ホントに申し訳ありませんでした。

 3人は胸の支えが下りると、なんだか可笑しくなって、誰からともなく「くすくす」と笑いだし、そのうち大声で笑い出しました。

スクナヒコ:あっ、あと御願いがあるのですが・・・。私はまだ19歳ですし、
      ただの狩人です。私より年上で高貴な御身の方にそこまで持ち上
      げられると・・・何て言うかこう・・・恐れ多いっていうか、こ
      そばゆいっていうか・・・ねっ!普通で結構ですから。

サリエス:いいえ!貴方様にはもう暫く神様でいて頂かなければなりませんの
     で・・・普通という訳には参りません。はい!

スクナヒコ:(/--)/あ・・・そうですか・・・。

 その時、スクナヒコは背後にかすかに人の気配を感じた様な気がしました。

サリエス:どうかしましたか?

スクナヒコは後ろを気にしていましたが、誰もいなかったので、

「いえ、何でもないです」と答え「気のせいか・・・」と一人呟きました。

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 翌日のまだ夜が明け切らぬ早朝、ユートムの東門に3つの人影がありました。
 旅装束のジョカと見送りに出たサリエスとスクナヒコでした。

ジョカ:何のお役にも立てず・・・ご期待にも添えずに申し訳ありません。そ
    の上私の我が儘を快くお許し頂いて・・・。

 ジョカは2人に別れを告げ門外へ歩き出そうとしましたが、一瞬立ち止まると小さく頷いてスクナヒコの方に駆け寄って来てました。

ジョカ:これはお師匠様から頂いた水輪宝珠の指輪です。受け取って頂けます
    か?

スクナヒコ:私に?いいんですか?

ジョカ:はい、我が国の御神祖オアン(イアヌス)様の守護霊獣をあしらった
    ものです。貴方様に御神祖様と大海王ミズガルドオルムの御加護があ
    ります様、御無事をお祈りしています。

 それは金剛石の両端に2つ、淡い水色の小さな魔精石(持つ者の魔力・霊力を高める鉱石)をあしらったオリハルコンの台座の指輪でした。そしてどうやって細工したものか、金剛石の中には淡い水色の海王(水竜)像が埋め込まれていました。彫像も魔精石で出来ているとのことです。

スクナヒコ:これってとても大切な物なんですよね?

ジョカ:ええ、でも人の役に立ってこその祭器です。それに、いつかそれを超
    える祭器を作るのが私の夢なんです。

スクナヒコ:解りました、大切にします。夢が叶うといいですね。

 東に向かって歩き始めたジョカの姿は登り来る朝日に熔け、やがて見えなくなりました。

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 スクナヒコとジョカがユートムを訪れたのは雨期の終わり頃でした。例年なら雨期が明ける直前は激しい雷雨に見舞われる時期なのですが、今年は雨の日も雷の鳴る日も少なく、沼や池の水位も少しばかり下がっています。

 そして数日の後、ついに血塗られた夏がやって来ました。

 スクナヒコは、「御神祖はどうあれ自分は自分のスタイルで闘うので多少の違和感はあるかも知れないが、必ず化け物を退治する。巻き込まれるといけないからくれぐれもついて来ない様に」と、街の人々を説き伏せていました。

 するとそこへ「恭順派」のリーダーだった筈のイツァークが、「これは我が家宝“武神の鎧”と“雷の鉾”です。どうぞお使い下さい」と、荷馬車にいかにも頑丈そうな金色の鎧と、これまた宝飾品の様な長柄のついた鉾を積んで現れました。

 スクナヒコが「自分は軽装の方が動きやすい。弓矢で闘うから他の武器は結構だ」と断っても、「そう言わずどうか!どうかこの通り!」と嫌がるスクナヒコに無理矢理同行し、「捕食者」が毎年潜伏するという山に入って行きました。

 サリエスは「恭順派」というより「捕食者崇拝」に近かったはずのイツァークが化け物退治に協力的なのはいい兆候だと最初こそ喜んでいましたが、妙な胸騒ぎがしてこっそり後をついて行きました。

 山道を踏み分け進む毎に木々や雑草が深く繁り、昼なお暗い密林の様相を呈する様になりました。

 やがて一行は木立の隙間に、雑草や小木が焼け焦げてできた円形の広場の様な所に出ました。

イツァーク:さっ、シバ様、具足をお召し下さいませ。

スクナヒコ:いや、この陣鉢(じんぱち)と手甲と脚絆(きゃはん)が私の戦
      装束です。それに白兵戦は私のスタイルではないので、どうか街
      へお戻り下さい。

イツァーク:まあ、そう仰らずに・・・。これ!お前達!

手下達:「e~!」x5(ショッカーかオノレら!(>_<))

スクナヒコ:ちょ・・・ちょっと!

 イツァークの手下どもは、テコや滑車を遣いK林S子の紅白の衣装にも匹敵しそうな、重く、無駄に煌びやかな鎧を、兜を、手甲を、具足を手際よくスクナヒコに着せていきます。

手下達:「e!」「e~!」「e!」「(喉に)e~!」

イツァーク:いかがですか?

スクナヒコ:う・・・動けないッス!

イツァーク:おや?それは可笑しゅうございますね。神様なら鵞毛の様に軽く
      感じるのでは?ホホホホ・・・!

スクナヒコ:・・・ひょっとしてあんた!?

イツァーク:え~え、先刻御承知ですとも二セ神様。吹っ飛んでおしまいな
      さい。私達「アヌンナキ」には目の上のタンコブなのよ貴方達
      ディンギルは。でも~、それも今日でおしまい。剛力無双の神
      様も吹っ飛ばされたとなれば愚民どもは我がアンラ・マンユ様
      の言いなり!いわば貴方は生け贄の仔羊・・・い~え小猿かし
      ら・・・?オホホホホホホ!!!

スクナヒコ:アヌンナキ!?何だそれは?

イツァーク:お前達「ディンギル」とは不倶戴天の旧敵だわよ!恨むなら
     「御神祖」とやらを恨むことね。それっお前達、ズラかるわよ!

手下達:「e~!」x5

 なんということでしょう・・・。「3柱神」の子孫だけでなく、「捕食者」の血を引く子孫までが、この地球に存在し、ユートム市民の中に紛れ、復讐の時を、地球の覇権を握る時を狙っていたのです。

スクナヒコ:ちょっと待てこら~!!俺はアスカ人だっ!!ディンギルなん
      て知らん!!

イツァーク:クククッ!おバカさん・・・、自分に流れる血のルーツも知ら
      ないなんてね~・・・、お気の毒様。

 イツァークと手下どもがくるりと身を翻すと銀色の全身タイツの上に同色のプロテクターをつけた怪物が重力など無視する様に木から木へ跳躍と滑空を繰り返してやって来ました。

スクナヒコ:くっ!・・・おのれ・・・!

 渾身の力で鉾をやっとの思いで持ち上げた時、怪物の手の甲で何かが煌めき、次の瞬間スクナヒコは凄まじい衝撃を感じ、意識が薄れて行きました。そしてスクナヒコの姿は閃光の彼方へ消えて行きました。

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 半時ほど後、ユートムの街路を走り回るイツァークと手下の姿がありました。

イツァーク:怖いわぁ~!!シバ様がアンラ・マンユに負けてしまったん
      ですってぇぇぇ!?怖ァァァァ~~~~~い!!

果物屋:何だってぇ!?いい加減なこと言うと口ン中、手ェ突っ込んで舌
    引っこ抜くぞ!

パン屋:そうだ!シバ様は雷帝神様だぞ!化け物風情に負ける訳ぁねえ!

イツァーク:ウソなわけないでしょう!ホラ・・・山でもの凄い音がしたで
      しょう?ビックリして見に行ったら森の奥にこ~んな大きな穴
      が空いてて、まだぶすぶすと煙が出てたわよ。そこに落ちてた
      の・・・、私が奉った雷の鉾・・・見事に真っ二つ。シバ様は
      跡形もなく吹っ飛んじゃったのね~。髪の毛一本残ってなかっ
      たわ。(ザマミロだわ!クククッ!(`ー´))


果物屋・パン屋:む!むむむむむ・・・・!!!!

 買い物客で賑わう夕方の露店市、買い物客も商人も、道行く街の人々も、通りすがりの旅人も「ズゥゥ~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!!」と合掌抜けた様に落ち込んでしまいました。

 黄昏時は逢魔が時、滂沱と涙を流し天に祈る者、地に伏してただただ泣き叫ぶ者、呆然と立ちつくす者・・・。絶望の夕闇が街を飲み込もうとしていました。

つづく

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