第九章~Voyage4



 ラーズはピロテーサの家の、そう広くはない中庭で光の弓矢を発現させて、胡楊(こよう)の木に向かって光の矢を放ちました。

 光の矢は胡楊の木の幹をすり抜けて、幹の裏に貼り付けた的だけを吹き飛ばしました。的は中央の図星の部分だけが破損していました。

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 それは4月11日(イエルカに帰る日)トリニトバル街道を北へ行くラーズとリクは西へ向かうミュカレとシジムの村の手前で別れました。

 ミュカレに礼を言って去ろうとするラーズをミュカレが呼び止めて、

ミュカレ:どうじゃ?我ながら大したモンだとは思わんか?

ラーズ:え・・・と、何がでしょう・・・?

ミュカレ:あの異人さんの奥さんじゃ。目を覆うばかりの大怪我が数分で8割
     方治癒したんじゃぞ。

ラーズ:あ・・・、いや、あの時は老師が後ろから気を送って下さっていたこ
    とは解っています。肩の辺りが妙に熱かったんです。

ミュカレ:ん?いやそうじゃなくてな・・・。

ラーズ:いくら何でも天眼を得ていない僕にアレは無理です。

ミュカレ:何じゃ、お前さん気づいてないのか?お前さん、まだ完全とは言え
     んが無意識下で天眼を使っておるぞ。

ラーズ:ええっ!?

ミュカレ:考えても見ろ。お前さんの頭の傷はこんなに早く治ったか?アレも
     ワシの治療だろうが。

ラーズ:あ・・・。

ミュカレ:お前さんのマハームドラ(サリエスやセージがオーラを具現化させ
     る時、ハートチャクラの部分に出現するオーラの大紋)を通すこと
     でワシの気が数倍の効果を発揮したんじゃよ。
      どうやらお前さんには他人の気を収斂して増幅する力がある様じ
     ゃな。これは天眼なくしてできる芸当ではないぞ。
      もっと自分に自信を持て。最初は思いこみでも勘違いでもいいか
     ら「俺は出来る」と念じ続けることじゃ。そのうち花開くこ
     ともあろうて・・・、ふぉっふぉっふぉ。

 そう言ってミュカレは去って行きました。しばらく呆然としていたラーズとリクは慌ててミュカレの後を追いました・・・が、

リク:変だな~・・・。何で走ってる俺達が歩いてる老師に追いつけないんだ?

ラーズ:うん、なんかどんどん離されてる感じだね。よ~し!

 ラーズの瞳の色が一瞬、薄緑に光ったかと思うと犬より早い爆走モードに切り替わりました。スネの部分には薄緑に光る羽ペンの様な形のムドラが現れていました。

 20秒程、爆走モードで走り続けたラーズですが、それでもミュカレとの差はじりじりとしか縮まりません。

 やがてスネのムドラが消えるとラーズは急速に失速して立ち止まり、膝に手をやり、大きく肩で息をしています。


ラーズ:(^u^;)ハァハァゼェゼェ…。さすがは大賢者様だ・・・。スゴイや!

 その頃、数十メートル先の木の陰では・・・、

ミュカレ:(^u^;)ハァハァゼェゼェ…。全くしつこいガキじゃ・・・。年寄りに
     無理させるんじゃないっ!!

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ラーズ:(なるほど・・・、老師の仰る通りだ。とにかくこれで・・・。(^ム^)えへへ。)

 ジュロー島でキサラを人質に取られた時、リクの機転で助け出せたものの、自分は手も足も出せなかった時のことを思い出しました。

 (もうあんな歯がゆい思いをしなくて済むかも知れない)

ラーズは口許に小さな笑みを浮かべて小さくガッツポーズをすると、屋内に戻りました。そして自室の机の引き出しから乳白色の石の塊を取り出すと「さて、うまい具合に僕の色に染まってくれるかな・・・?」と呟くと背嚢に仕舞い込みました。

ラーズ:じゃ、行ってくるよ。お土産は何がいい?

ピロテーサ:何言ってんのよ~!ヾ(^_^ 遊びに行く訳じゃないでしょ?いいわよ
    そんなに気を遣わなくても・・・。

ラーズ:・・・いや、ただの休暇だから遊びに行く様なもんなんだけどね・・・。

ピロテーサ:え~?何?

ラーズ:ううん、何でもない!(^^ゞ 行ってきま~~す!

ピロテーサ:はい行ってらっしゃい、気を付けてね。

ラーズはロンガーに跨ると、トリニトバル街道をマグオーリに向かって南下して行きました。

 途中、シグルに見つからないように測道にそれて暫く行くと花嫁行列が遙か下方に見えました。そしてその行列の中にシグルやケットの姿を確認しました。

ラーズ:出し抜こうったってそうはいかないよ~ン!

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 その頃、花嫁行列に加わっていたシグルは、

シグル:山猫旅団って4人だったっけ?確か・・・。

ケット:ああ、もう一人「ノアロー」ってのがいるんだが・・・あいつは徒歩
    でついて来てる。馬車の振動が苦手なんだってさ。

シグル:五色大牛の速度について来てるって?人間の脚で?

ケット:ああ、あいつは全力で走ると犬より早いんだ。それにロバなみの持久
    力があるからな・・・。この程度の速さでなら半日くらいは休みなし
    で走れるよ。

シグル:驚きだな~・・・。もっとも瞬間的にっていうならそんな人間を他に
    も1人知ってるけどね・・・。

ケット:ああ、あの坊やね・・・。最高速はいい勝負かな?じゃあじきに追い
    ついてくるか先回りしてんじゃないのか?

シグル:まあ、彼の性格からして十中八・九はね・・・。でも彼が最高速で走
    れるのは数十秒だけだし、持久力は可哀想なくらいないんだ・・・。
    ああ、ロンガーがいたな・・・。でもまあ、ルーテシアの御用船には
    姫君も私達も乗らないんだよ。

ケット:ええっ!?じゃあお姫様は?

シグル:随行車に女官のお姿でおいでだ。

ケット:じゃあここにいるのは?御用船には誰が乗るんだ?

ミアキス:あたいだよ。

 アヤが座っているとばかり思っていた御簾(みす)の向こうの後部座席から聞こえてきたのはミアキスの声でした。そしてするすると御簾が上がると、そこにはイエルカの貴婦人の正装を纏ったミアキスがいました。

ケット:Σ( ̄□ ̄;)

シグル:そう、マグオーリ港に着く御用船には彼女と聖戦士見習いが1名と観
    星官に扮装した囚人達が乗る。そして私達は隊商に扮してデジュラ港
    から・・・。

ケット:ぎゃ~~~~っはっはっはっはっはぁ~~~~~~!!!!!こいつ
    ぁ傑作だ!!馬子にも衣装っていうけどよ!よりによりによっててめ
    えがお姫様の身代わりぃ~?・・・しっかし似合わねえな・・・。

ミアキス:な・・・なんだよ・・・。あんたに笑われたかないよ!この顔面暴
     力っ!! ε-(`へ´)

ケット:何をぅ~~~!歩く活火山が!!(▼▼メ)

シグル:ケット!今のは女性に対して失礼だぞ。ミアキス!君も君だぞ。無事
    ルーテシアの港に着くまでは姫君の御代理なんだから、言動には気を
    つけたまえ。

ミアキス:はぁ~い・・・(´ヘ`;)

ケット:おお、悪かったな・・・。

シグル:え~と・・・どこまで話したっけな?う~ん・・・君が話の腰を折る
    からだぞ!!

ケット:え~?俺~!?

シグル:あそうそう、デジュラ港から「いくらなんでもお姫様がこれには乗ら
    ないだろ?」っていう船に乗って・・・。

ケット:なんだそりゃ?

シグル:メリキニク陛下のお計らいだ。で、もしミアキス達が御用船の船内に
    異常がないことを確認したらルーテシアの港に着く前に寄港地で我々
    と交代、囚人達はイエルカに戻ってさえ来なければ無罪放免という運
    びだ。

ケット:異常があったら?

ミアキス:あたいが制圧すりゃいいんじゃん。

ケット:失敗したら?

ミアキス:失敗なんてするわけないじゃん!!・・・もっとも「聖戦士見習い」
     とかいうヤローがドジ踏みやがったらちょっとヤバいかもしんない
     けどさ。

シグル:姫君代理!口の利き方には・・・。

ミアキス:はいはい、ごめんあそばせ~。

ケット:しっかし・・・、覇王のメリキニクが用心のいいこったな。自分とこ
    の御用船が信用できねえってか?こいつに・・・ぶふっ!! 

 「お姫様のカッコまでさせて・・・」と言いかけてケットはまた吹き出しました。  

ミアキス:ほら、またそうやって笑う!(▼▼メ)

シグル:相手方の裏事情が解らないうちは用心にこしたことはないさ・・・。
    ミアキス、君と行動をともにする聖戦士見習いは巨漢で腕も立つが実
    戦経験は殆ど皆無だ。うまく助けてやってくれ。それと・・・、もし
    刺客が潜んでいたとして、そいつと戦闘になった場合、できるだけ生
    け捕りにしてくれ。メリキニク陛下の御前に突き出すんだ。

ミアキス:まかしといて!


つづく


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