第九章~Voyage6



 ルーテシアの御用船の船倉の隅でトールとダウドが揉めていました。

トール:ダウド、お前なにやってんだ?誰なんだあいつは?

ダウド:ええっ!?いや、スリカンタ君じゃないんですか?あんなに珍しい生
    き物も連れてるし・・・。

トール:アホか!スリカンタは向こうの少年だ。珍しいラクダを連れてるだ
    ろ?

ダウド:だって俺ミルファ人なんて見たことないし、こっちの彼も見たところ
    15~6歳くらいだったし、それに彼、「スリカンタ君?」て聞いて
    も否定しなかったし・・・」

   (↑注:否定する暇さえ与えなかった、が正解)

トール:う~ん・・・、するとヤツの狙いは何だ・・・?

ダウド:密航・・・ですかね?

トール:ああ、まあそんなとこだろうな。・・・だとするとタダの密航じゃな
    いかもしれんぞ。

ダウド:へっ?というと・・・(・〇・;)?

トール:アプラサスやルーテシアに行きたいだけなら、なにもこの御用船に入
    り込む必要はないだろ?貨物船とか客船なら他にいくらでもあるじゃ
    んか。

ダウド:というと・・・(@_@;)

トール: d(-_-;)ズバリッ!花嫁の暗殺のためだ!

ダウド:ええっ!?暗殺ぅ!!Σ(〇o〇;)

トール:バカッ!声がでかい!下手にヤツを刺激するとヤヴァイだろ!・・・
    いいか?ひょっとするとヤツはルーテシアとイエルカにくっつかれた
    ら都合が悪いヤツらが送り込んだ刺客かも知れんゾ。

ダウド:刺客ぅ!?

トール:バカッ!声がでかいってんだ!

ダウド:でも誰がそんな・・・(O.O;)

トール:例えばアプラサスだ。

ダウド:アプラサスぅ!?

トール:だから例えばの話だって!

ダウド:そうですよね。あそこの王様は文武に長けた名君って噂ですからね。

トール:それにひきかえウチの王様は「モト海賊の成り上がり」とか「雑種」
    って同じアムリアの王族からバカにされてるだろ?そんなとこへアム
    リアの宗主国からお嫁を貰って「固く握手」なんて他の国は面白くな
    いさ。

ダウド:そうか、ルーテシアは武力はあっても家柄がチョメチョメで、イエル
    カは経済力があって毛並みがいいけど武力はからっきしだもんな。


トール:そうだ、でも2つがくっつけば潤沢な経済力で、ますます軍備は増強
    されるよな。そうなったらイエルカとルーテシアに物申せる国はこの
    地域では殆どなくなるだろ?一番不利益を被るのは隣のアプラサスだ
    がな・・・。だからアヤシイって俺は思うんだ。
     それにだ・・・、スリカンタの目印が「珍しい生き物を連れた少年」
    だって知ってたってことはだ、この船に内通者がいるかもしれない
    だろ?

ダウド:内通者!?(@△@;)

トール:そうだ。そしてヤツはまんまとこの船に乗り込んだ・・・。

ダウド:あわわわわ!おおお・・・おれ、俺、俺ひょっとして取り返しのつか
    ないことをしちゃったとか?どどどどうしよう、ねえっ!?親方ぁ(((;д;)))

トール:狼狽えるな。まだそうと決まった訳じゃない。こういう時こそ平静を
    装ってヤツの動向を探るんだ。いいか、いつも通り、何もなかった様
    に、但し目を離さずだ!

ダウド:ふぁーい・・・(*_*;・・・ガクガクブルブル

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 船倉の隅でひそひそと深刻な顔で議論している2人を横目で見ながら・・・、

ラーズ:何か問題でもあったのかな?(←注:原因は君だよ)


 スリカンタ少年は木の板に無数の縞模様や細い線を書いてよこしました。

ラーズ:ナンだこれ?・・・木の板に線・・・?板にシマシマ・・・?木に縞
    と線・・・、木に縞線・・・あーっ!「気にしません」?

スリカンタ:(・-・)(。_。)(・-・)(。_。)ウンウン

 スリカンタは親指を立てて大きく頷きました。

ラーズ:(なんだろう、この沸々と身体の底から沸き上がる様な感情の猛り
    は・・・?ライバル出現?え~と・・・。)

スリカンタ:牛が笑った!「うっしっし」・・・猫が寝ころんだ!「ゴロゴロ
      ゴロ」 カラスが3羽で「かーさん」だ! 特技は手芸って「し
      ゅげー?」 気が付いたら尻に矢が刺さってた「やややっ!」

ラーズ:Σ( ̄□ ̄;ドーン(矢継ぎ早に重いのを連発とは・・・こいつ、ただ者
    じゃない!・・・よ~し)

ラーズ:それを見てお母さんが言いました「や(矢)~ね~!」

スリカンタ:(--;)うっ!

ラーズ:「鳥が何か落としたよ」「ふ~ん」「そしてあんたの肩に付いたよ」「く
    そっ!!」 「貴方!私のおシリ触ったでしょ?」「シリません!」

スリカンタ:Σ( ̄□ ̄;ドーン(鋭い切り返しを立て続けに・・・こいつ、ただ
      モンじゃない!)

 暫らくシベリアギャグ(*1)の応酬が続いたあと、2人ははっと我に帰りました。

スリカンタ:あの~・・・短期就労者は僕一人だって聞いてたんだけど貴方は?

ラーズ:え?ああ、僕はアプラサス行きの船に乗ろうと思って桟橋を歩いてた
    らあのお兄さんに君と勘違いされたみたいで引っ張り込まれちゃった。

スリカンタ:ええっ!?それってちょっとやばくないッスか?

ラーズ:うん、最悪の場合密航者扱いになっちゃうよね・・・でも事情を話せ
    ば解って貰えるんじゃないかな・・・(^^ゞ

スリカンタ:僕、スリカンタ。3月で15歳になったんだ。貴方は?

ラーズ:僕はラーズ、あと2ヶ月で18歳になるんだ。

スリカンタ:ええっ!?

ラーズ:(*_*;ビクッ!!・・・な、何?

スリカンタ:いや、ちょっと知ってる人と同じ名前だったから・・・でもあの
      人は遊牧民じゃないから・・・。あ、でも僕よりちょっとお兄さ
      んだったんですね。タメ口利いてごめんなさい。(>_<)



ラーズ:僕と同じ名前の人?ひょっとしてセージだった人?ティアマ・・

 ティアマトの・・・まで言いかけたラーズでしたがそれを遮る様に、

スリカンタ:そう!そうなんです!!尊敬してるんです!!

ラーズ:そうか・・・それを聞いたら母さ・・・いやピロテーサ様も悦ぶと思
    うよ。

スリカンタ:そうですか?でも「だった」じゃなくて「なったばかりの」です
      よ。ホントに凄いですよね~・・・。その人は17歳10ヶ月で
      アカデミーを次席で卒業したんだそうです。それもアモリ人やア
      ズール人以外の外国人としては初めて王都本校からの卒業ですか
      らね~。

ラーズ:○ ○;えっ!?ちょっと待って。君が言っているのはティアマトのラ
    ーズじゃなくてイエルカの方?

スリカンタ:ティアマトにも同じ名前の人がいたんですか?知りませんでした。
      でも僕が尊敬しているのはイエルカの人です。・・・でも、あの
      人はこんなオヤジギャグなんて言わないんでしょうね・・・普段
      からもっと高尚な会話を楽しんでおられるに違いない。トオイメ( - -)     

ラーズ:(〇o〇;)ギクッ!(思いっ切り言ってますよ。しかもアンタに対抗意識丸
    出しでね・・・)そ・・・そうでもないかもよ。

スリカンタ:いいえ!アカデミーの王都本校と言えばルーテシア世界の最高学
      府です。きっといずれ劣らぬ天才・秀才ばかりです。僕も来月中
      旬からマグオーリ分校で学べることになったんですけど・・・つ
      いて行けるか正直不安なんです・・・。でも血がそうさせるん
      ですかね~?つい駄洒落に走っちゃって・・・(^^ゞ

ラーズ:いや、大丈夫だよ。僕の知り合いに帽子の台くらいにしかならない頭
    の持ち主の2等修道士がいるけど、今でも頑張ってるよ。 


スリカンタ:えっ?そんな人でも揉まれてるウチに秀才になっちゃうんです
      か?やっぱスゴイや!・・・でも何でそんなに内部事情に詳しい
      んですか?

ラーズ:(〇o〇;)!!いや、その知り合いの受け売り・・・僕にはよくわかんない
    けど・・・(この子の夢は壊しちゃいけないよね。僕があのラーズだ
    ってことは黙っとこ。)とにかく頑張ってね。(^^ゞ)

スリカンタ:はい!ラーズさんも頑張って下さいね・・・ヤギの世話。

ラーズ:うん・・・って何でヤギなの?


(*1)シベリアギャグ=聞いたモノが瞬間凍結してしまうという燃えるほど
    に寒い極寒のオヤジギャグ。

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 以下はスリカンタが牛や馬の餌やりと、敷き藁を取り替えながらラーズに語ったことです。

 スリカンタの家族はミルファ地方のアビス近郊で牧畜を営んでいて、周期的に牧草を求めてあちこち移動しているんだそうです。

 で、ヤギたちが牧草を食い尽くしてからの移動だと、次に繁るまでに時間がかかってしまうので、豊かに繁った牧草地を効率よく巡回出来るように、と十数年前に各部族の長老達が智慧を出し合って暦を作ったんだそうですが1年が10日くらい短い暦が出来てしまい、5~6年で暦の上と実際の季節に狂いが生じてしまったんだそうです。アバウトな性格の人達故、修正方法も良い案が浮かばなかったのでアビスの総督に相談したんだそうです。

 アビスの総督はどこかから左遷されて来た様で、ちょっと影のある感じの人でしたが、公休日には自宅で入植者やミルファの子ども達に読み書きを教えたり、医師のタマゴである自分の娘に薬草と毒草の講座を開かせたりと、入植者にもミルファ人にも優しく接していたため、何かと頼りにされていたそうです。

「閏月を作ればいいんだが私も専門家じゃないしなあ・・・。そうだ!スリカンタ君は利発な子だからイエルカで勉強させるといい、私がアカデミーのシャーディ先生に紹介状を書いてあげよう」

ということになって、貧しい遊牧民の家計を知る総督が、自分のポケットマネーで留学させてくれることになったんだそうです。

 だから、甘えすぎてはいけない、食費くらいは自分で稼ごうと思って3月からいろんな船でアルバイトをしている・・・ということでした。

 その話を聞いたとき、ラーズの胸が「ズキッ!」と疼きました。

ラーズ:そうなんだ、レガート閣下は御壮健か・・・。

 レガート閣下とは、マグオーリの前総督で2年前に汚職の嫌疑で左遷された人であり、それを摘発し、断罪したのがシグル達王府付きの観星官だったのです。

 穏やかな人で、少し小心者だったためか保身のために、某元老と悪徳商人の密貿易を見て見ぬ振りしていた(そしてちょっとだけ袖の下を握らされた)というのが実状の様でした。が、何かいわく因縁があるのか誰かに弱味を握られていたのか黒幕の存在を一切口外せず、「吸血鬼(領民の血税をすすった害虫役人)」の汚名を一身に背負いアビスに流されて行きました。

 ラーズにとってそれは辛くちょっと切ない思い出として今でも胸に影を落としています。

つづく


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