外伝~思い出は玉葱の香りとともに3



 シエラとジャミルの2人を見失ったラーズが商店街を抜けて港に隣接する総督府に向かっていると、ばったりとテオに出くわしました。

ラーズ:先生!?どうしてここに?

テオ:やあ・・・、いやなに、ちょっと野暮用でね・・・。どうだい分校の様
   子は?

ラーズ:ええ、レベルはお世辞にも高いとは言えませんがいい人達ばかりで・・・
    楽しくやってます。あっ!済みません・・・、ちょっと急ぎますので・・・。

 そしてラーズが右に避けると右に、左に避けると左に・・・、互いに避けようとして出前がかちあっているという具合にラーズが先へ進もうとするとテオが前に“スッ”と出てきます。

 しかし3回目に右に行くと見せかけて左に行った時は意図的に通せんぼしている・・・という感じでした。

ラーズ:先生?ひょっとしてワザとやってません?

テオ:正解d(°°)!

ラーズ:えっ!?

テオ:いや!・・・その・・・あははは! ;;;(^_^;;;

 その時、手を前に組まされ縄を打たれたレガートが、シグル達捜査官に取り囲まれる形で総督府の車寄せから王府法規局の牛車に乗り込んで行きました。

 野次馬が総督府の周りに集まっています。その中に「スンダール」店長の姿を見つけたラーズが「何事ですか?」と訪ねると「いや、俺もよく解んないがだけど、さっきあっちの倉庫んとこでこの人ンち(捜査官達)が変な衆を逮捕したさ。ヤローっち変な頭巾被って顔ンとこぐるぐる渦巻き書いてあったがだよ。おかしながだ~(変なの~)って思ってたら今度ぁシエラちゃんのお父さんさ・・・、いい人ながよ。(なんだけど)ま~ず、どうなってるだか?」

 どうやらテオはこの事態をラーズに見せたくなかったためにさりげなく邪魔をしていた様です。

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 数日後、レガートはミルファ地方のアビスという開拓後間もない金鉱の町への左遷とイエルカ本国における5年間の公民権の停止を言い渡され、シエラも同道を命じられました。

 アビスは町というより労働者が住む長屋と倉庫がそれぞれ5棟あるだけで、総督府も倉庫の一部を改装した飯場の様な所です。

 本来なら汚職に手を染めた者は終身禁固か終生遠島、家族も市民権剥奪のうえ国外追放が常識でした。

 しかし、彼が受け取った袖の下はほんの僅かでしかも1度きりだったこと。

 それはお金の工面に難儀している父に気を遣って自分の小遣いをアルバイトで稼いでいる娘の荒れた手を見て、つい魔が差してしまったということ。

 本当の黒幕は別にいて、かかるはずのない膨大な治療費と称する賄賂を要求されていたこと。

「妻の王立医薬院への入院に特別に便宜を払ってやるから、その見返りに協力しろ。ヘタな絵を描きやがったら・・・解ってるな?」とありもしない「恩」を着せられ脅されていた事などがシグルの掌陽観で解りました。

 しかし、レガートが「“口を割った”と見なされれば妻が何をされるか・・・」と気遣う気持ちが強かったのか、シグルに見えたイメージは顔にモザイクがかかり、音声も変換された黒幕の姿でした。

 裁き自体は辺境の開拓地への左遷とは言いながら、その実は重罪に科せられる所を、こうした事情を勘案したうえで5年後には市民権の復活の可能性も残された、国王からの温情溢れる裁可だったのです。

 しかも黒幕の息がかかった連中が少ないマグオーリの王立医薬院にレガートの妻を移送し、後任の総督には優れたサジ(医師)であるカディールを配するなど、心憎いばかりの配慮がなされました。

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 レガートとシエラがマグオーリを去る時に持って行くことを許された私財は衣服と僅かな雑貨と当面の生活費、そしてアファール大陸からやって来たもう一人の家族でもある、この地域では珍しいヒトコブラクダの「バラクーダ」でした。

 朝靄煙る早朝だというのに野次馬がけっこういます。
別れを惜しむ声、息災を祈っているという励ましの声、すすり泣く声等が聞こえて来ます。

 しかし中には「俺達の血税をすすったんだってなぁ!この吸血鬼野郎!」などと叫んで投石する者がいました。

 石は「やめろよ!」と前に立ったラーズのおでこに当たり、左の前頭部が切れ、流血しました。

 「スンダール」の店長が駆けて来て、ラーズのおでこを手拭いで押さえながら。「誰だ今石投げたのは!ワレが四の五の言うかまないが(お前なんかにどうこう言う資格ないぞ)!あの親子はいい人らだったが!」

 その時、野次馬の中に紛れていたケットが投石していた男に向かって「お前、見かけないヤツだよな・・・?この辺のヤツじゃないだろ?誰に頼まれてそんなこと言ってんだ!?あぁ!?(▼▼メ)」と誰何すると、周囲の人達からも「そうだそうだ!」「お前等こそ悪党の手下じゃないのか?」と凄まれてすごすごと逃げて行きました。どうやら王都の黒幕の手の者だった様です。

 その時シエラの姿が見えました。バラクーダに寄り添う様に俯いて歩いていました。思わず駆け寄ろうとしたラーズの手をシグルが掴みます。

ラーズ:先生!?

シグル:総督は吸血鬼(国民の血税を貪った鬼=汚職官僚)の咎で出て行くん
    だ。娘もな・・・。ヘタに関わると辛くなるだけだぞ。

ラーズ:それっておかしくないですか?シエラさんは何もしていませんよ。な
    のに何故?

シグル:現行の法律では吸血鬼の家族もまた吸血鬼なんだ。仕方のないことだ。

 シグルは自分の言葉に対して「心ならずも・・・」と言いたげな悲しげな表情をしていました。

 その表情からシグルの気持ちを察したラーズは何も言えなくなりました。

ラーズ:これだけ渡してもいいですか?

 それは総督に渡しそびれていた粒胡椒と、子どもの頃に何かに突き動かされるように自分で作って、それからずっとお守りのように首に下げていた勾玉の首飾りでした。

シグル:許可できない。でも、「あっちに向かって投げ捨てる」っていうなら
    私は関知しない。

ラーズ:ありがとうございます。

シグル:関知しないって言ってるだろ。不要品の処分は私が向こう向いてる間
    に速やかにな。

ラーズ:はい!・・・シエラさん!

 ラーズはシエラに向かって勾玉の首飾りを重石にした胡椒粒の入った袋を投げ、シエラは両方の掌でそれを受け取りました。

 シエラは驚いた様な顔で周囲を見渡していましたが、群衆の中にラーズの顔を見つけると両手を胸の前で合わせて贈り物を包み込むようにして、会釈してくれました。

レガート:ラーズ君!・・・来てくれたのか?君には・・・。

 そこまで言いかけた時レガートは周囲を見渡して口を閉ざし、「ぷくっ」とほっぺたを膨らませて見せました。何か言いたいことがあったのに誰かを気にして身振りでそれを表現していた様です。

 それこそ、この事件の黒幕の正体を明かすヒントだったのですが、その時まだラーズは知りませんでした。あの男が仲間内でそんな風に呼ばれていたなんて・・・。

 「もしもあの時、総督の仕草の意味に気づいていたら・・・あんなに多くの血が流れずに済んだのだろうか?」そんな想いがイエルカ滅亡後に新しい国を築いた後もラーズを責め続けることになります。

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 それからというもの、誰かの後ろ姿を見るたびに、あの親子の後ろ姿を思い出してなんとも切ない思いが胸にこみ上げて来ます。そして香味野菜を炒める様な匂いがすると、思わずシエラの姿を探す様になっていました。

 あれから2年7ヶ月が過ぎ、少しずつ薄れかけていた思い出がピエトリさんの腋臭臭で蘇ってしまうとは・・・。

 その時、浜辺の外れに工房を作ろうとDIYに励んでいたピエトリさんがおやつを食べに帰って来て、洗濯中のジュリエッタと洗濯物を振り回して脱水しているラーズを見つけました。

ピエトリ:オー!ジュリエッタ。イツモゴーメナサーイデース・・・(^^ゞ
     ラーズサンダイジョビデースカー?自分DEMOコノヲイニーヤー
     ナルデース・・・(´ヘ`;)

ジュリエッタ :イエイエ・・・。ラーズサン嫌イジャナイソウデース。ヨカッタデ
     ースネ~!(^^)

ピエトリ:オー!マジッスカ!?ダッタラfreshナ~flavorヲドゾ~~~!!

 ピエトリさんはそういうと作業服の上着を投げ捨てて、上半身裸で抱きついて来ました。

ラーズ:えっ!?何!?ちょっと!!

 それはシエラの飴色タマネギのような香ばしく優しい香りではなく、炎天下に放置されたスライスオニオンの匂いでした。

 ラーズ:う゛ぉえ゛え゛え゛え゛え゛え゛~~~~~!!(゛゛)前言撤回!!
     こっ・・・殺す気か~~~~!!!!!ヾ(〇曲〇;)/!!

ピエトリ・ジュリエッタ:アハハハハハハハハハハハハ!!!!(((^▽^(((^▽^

ラーズ:笑うな~~~~~~!!!!!((((〇ж〇;))))!!


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スリカンタ :ね~?ラーズさん聞いてます~!?

ラーズ:・・・えっ、あ、聞いてますよ。うん、聞いてます。

 つい、感傷に浸ってしまい、スリカンタの話に生返事ばかり繰り返していたために、スリカンタに突っ込まれてしまいました。それにしてもあの時に出来たおでこの傷跡が何だか疼くような気がします。

 彼曰く、レガートのお陰でミルファ人の識字率は驚くほど上がっている。

 シエラはアカデミーで教わる「骨法整体」を更に発展させ、神経や靱帯、筋肉の緩弛のバランスまで調整できる「神骨整体」を編み出して、「不具者」扱いされていた大勢の領民を「健常者」として社会復帰させている。

 オタマジャクシみたいな不思議な形の首飾りをお守りの様に大事にしている。

 ジャミルという若い助手が、時々跳び蹴りを食らいながらも健気に頑張っている・・・。

 船倉の中で、スリカンタからそんな話を聞いていると嬉しくなってついつい「へ~、追っかけて行ったんだ~。相変わらず恋仲にはなれてないのか~」などと言ってしまい、スリカンタに「何で知ってるの?」と突っ込まれてしまいます。

その時、彼が連れてきたラクダがラーズの顔を嘗めて来ました。

ラーズ:バラクーダ!!

スリカンタ :えっ?バラクーダを知ってるんですか?・・・貴方やっぱり・・・。


ラーズ:いや、わっ!ラクダー!!って叫んだのさ・・・。(^^ゞ

スリカンタ :( - ""-)ジロッ!!

ラーズ:えへへ;;;v(^ ^)ピース!;;;



“あのさ・・・、姉さん、あのね・・・、ホントのこと言っちゃうとね・・・、`s(-.-;)エート... ・・・やっぱり言わない。

 ねえ?今、幸せ?”




つづく


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