第十章~笑う海賊王2



アヤ王女に扮したミアキスを人質に取った刺客は辺りを見回し、

刺客(水兵C):おい相棒!まだ動くなよ。まだアジトにつくまでは船員に紛
       れているんだ。おい、航海士に西南西に舵を取れと言え!言う
       こと聞かねえとこうだぞ!

 と、ダガーで突き刺す仕草をしました。

その時、ラーズが光の弓矢を発現させて狙いをつけていました。

ラーズ:ミアキス!この矢は君を傷つけない!大丈夫だから!

 そう言って弓を放とうとした瞬間、「ちぃっ!」と舌打ちして視界の隅から何かが飛び出して来るのが見えました。水兵に紛れていたもう一人の刺客の様です。弓を放つと同時にラーズは脇腹を軍靴で蹴り上げられ甲板の上に転倒しました。

ラーズ:ぐっ!!(>_<)

刺客(水兵D):ちっ!遅かったか!

 その時、スリカンタがギャグを言いながらラーズを蹴飛ばした刺客を指差しました。後ろ手に木槌を隠し持っています。

スリカンタ:「死角の刺客」・・・死角から出てきただけに・・・。

刺客(水兵D):(-_^)は?

スリカンタ:お?「刺客の死角」

刺客(水兵D):さっきから何だお前?(´ヘ`;)

 刺客がギャグに気を取られた一瞬の隙をついて騎士のなりをした巨漢が斜め後ろから飛び出して来ました。同時にスリカンタが木槌を騎士の後方に向かって投げつけました。
 巨漢の騎士は刺客(水兵D)を殴り倒し、更に後ろから飛びかかってきた3人目の刺客(水兵E)も後ろ回し蹴りで倒してしまいました。

 3人目の刺客のおでこには大きなコブができていました。スリカンタが投げた木槌がヒットしていた様です。

 ラーズの放った光の矢はミアキスの鳩尾あたりをすり抜けて後ろの刺客の腹に吸い込まれる様に消えました。

 その時ラーズが脇腹を押さえながら「弾けろ!」と言うと、刺客(水兵C)は「ぶふっ!」というゲップの様な声とともに、鼻の穴と口から閃光を放ってよろめきました。

 弾かれる様に解き放たれたミアキスは瞬時に刺客の方に向き直り、鳩尾に正拳をくれるとダガー持つ手をねじり上げて、合気道の要領で刺客を投げ飛ばして背中から甲板に叩きつけました。

 水兵達はうめく刺客3人を縛り上げ、口々に「お怪我はありませんか?」「お見事です」「まさか我々の中に刺客が紛れていたなんて・・・」と言いました。

 ラーズが座り込んだまま脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべていると、心配そうにこちらの様子を伺っている騎士と目が合いました。

ラーズ:リク!?

リク:やっぱりラーズか!?何だその格好?何でここにいるんだ?

ラーズ:それが・・・。

 ラーズはマストの影にいるダウドを指差しました。ダウドは滝の様な汗をかいています。リクは三白眼でダウドを睥睨し、肩を揺すりながらながら「ほ~ぉ・・・」と言って近づいていきました。

ダウド:ひいっ!!

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 リクはラーズが纏っている遊牧民風の装束と「まさか御用船にいるわけない」との思い込みから、はじめは他人の空似と判断していました。しかし光の矢を見て「(-""-;)ややっ!?」と思った様です。

ラーズ:いててて、・・・肋骨2~3本いっちゃってるかもな~。

 ラーズは脇腹に手を当て、その手にリクが手を添えています。2人とも掌が黄緑色に光っています。

ダウド:申~~~~し訳ありませんでした~~~~~~!!!!!。m(_ _)m
    貴方様はともかくこちら様がお姫様をお守りする隠密の聖戦士だとは
    露知らず・・・、ホントに申し訳ありませんでした~~~~!!!

リク:は?こいつ(ラーズ)はそんなんじゃなくてセージ・・・。

ラーズ:(;゜)ワーッ!(;゜)ワーッ!

 ラーズはリクに「後ろにいるスリカンタ君には黙ってて・・・彼の夢を壊したくない・・・」と身振りでリクに伝えました。

リク:夢を壊したくない・・・何で?・・・まあいいか。・・・少年!ありが
   とうよ。君のお陰で悪党を一気に捕縛できたよ。

スリカンタ:あ、いえ・・・。(^_^)

リク:君、戦士になってもいいセンいくかもよ。なかなかの機転とコントロー
   ルだ。あんな遠くから木槌をゴ~ン!だもんな。
    あ、そうそう、君が言ってたアレ・・・。あれって呪いの呪文か何か?
   刺客が魂抜かれたみたいにガクッとなってたみたいだけど・・・。

ラーズ:Σ( ̄□ ̄;)・・・呪いの呪文・・・?

スリカンタ:Σ(゜◇゜)ガーン!!

リク:あれ?違うの?

ラーズ:・・・( ̄▽ ̄;)

スリカンタ:・・・(T_T;)

 その時、スリカンタは心に固く誓いました。

「どんなにギャグセンスのないヤツでも腹の底から笑える様な“究極のギャグマスター”になってやる」と・・・。(留学の目的はあくまで立派な観星官になってミルファで完璧な暦を作る・・・です)

 その時、ミアキスが侍女に扮したケディとともに船倉にやって来ました。

ラーズ:ミアキス!ケディ!その格好・・・、それどうしたの!?

ミアキス:なんだい!?あんたも笑おうっての?(-_-メ)

ラーズ:いや、似合うよ。

ケディ:あら、嬉しいわ・・・。( ´-`)ンフ~

ラーズ:(この人も恐いくらいに違和感ないな・・・(;´_`;))

リク:確かに、どっから見てもお姫様だよな。

ケディ:あら、そうかしら・・・(●^o^●)

リク:いや、あんたじゃなくてあっち。

ラーズ:(・-・)(。_。)(・-・)(。_。)ウンウン

ミアキス:えっ?(*‥*)

ラーズ:ホントに綺麗だ~・・・。今度からこれで通したら?

ミアキス:もう!人をからかうんじゃないよ!

 ミアキスはそう言ってラーズにスナップの利いた平手打ちをすると、顔を真っ赤にして出て行ってしまいました。

リク:おーっ!綺麗な紅葉・・・。

ラーズ:・・・何で・・・?僕が何か気に障る様なこと言った?・・・ねえ?

ケディ:さあ・・、嬉しかったんじゃない?

ラーズ:ええっ!?嬉しいと殴るの!?何で?  ??(@_@;)??

ケディ:さあ・・・、女心は複雑なのよ。 ( ´-`)

ラーズ:・・・女って不思議だ~・・・。(゜;)

リク:お前って女難の相があるんじゃない。前にもキサラさんに絞め落とされ
   てるしな・・・。おっといけないお姫様の護衛、護衛っと。

 リクはやけに「お姫様」のところを強調して船倉から出て行きました。

ラーズ:ねえ、ケディ・・・。あのさ、リクって凄いよね。たった2日逢わな
    いうちに、もう一人前の聖闘士みたいだ・・・。この2日で一体どん
    な訓練したらあんなに強くなれるんだろう?

ケディ:あら、あれはこの2日で身に付いたものじゃないわよ。だって結団式
    やらなにやらで殆ど訓練なんてしてないもの。あれは天性のものよ。

ラーズ:ええっ!?

ケディ:後ろから襲われたら普通の人なら振り返るでしょ?目で確認しようと
    するから一瞬遅れるのよね。でも彼は目で確認する前にいきなり蹴っ
    たでしょ?しかも正確に鳩尾をね・・・。

ラーズ:確かに僕は周辺視に入ってた刺客にも反応できなかった・・・。リク
    は死角の敵にも反応してた・・・。

ケディ:彼はもっともっと強くなるでしょうね・・・。

ラーズ:そうなんだ・・・、ありがとうケディ。

ケディ:あ、いえ、どういたしまして。・・・(‥?

 それからの7日7晩というもの、ラーズはブカブカの革手袋を付けたままで過ごしました。
 手袋の甲の部分には乳白色の輝石が埋め込まれていて、3日後くらいからその輝石に弓矢の様な絵柄が浮かび始め、1週間目の今ではまるで筆で描いた絵柄の様にくっきりとした弓矢の絵柄になっていました。
 手袋を着けるようになってから酷く疲れている様子で、アプラサスに着いた頃にはげっそりと痩せていました。

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 2日後、メリークイニーク号の甲板にいたシグルが斜め左前方を指差して、

シグル:あの艦影は御用船か?

 と言うと、ヤジルが望遠鏡を覗き込んで、

ヤジル:確かにあれはルーテシアの御用船でさあ。追いつきましたぜ!
・ ・・しかしあんな遠くの物がよく見えましたね?

シグル:職業柄ね、目はいいんだ。

 現代の基準で言えば常人の視力が2・0~3・5のこの時代に、彼の視力は左右ともに8・0(マサイ族並?)でした。 彼が優秀な観星官である理由の一つがこのずば抜けた視力の良さです。

 それは幼い頃に両親を失った寂しさ故に知らず知らずのうちに身に付いたもので、「お父さんとお母さんはどこ行ったの」という問いかけにピロテーサから「月の道に行った」と聞かされたため、月に向かって空を歩いているはずの両親を捜して毎日遠くの空を見上げているうちにそうなってしまったのでした。

ヤジル:どうします?乗り込みますかい?

シグル:いや、日が暮れたら私一人で行こう。貴殿らはこのまま付かず離れず
    で追尾してくれ。何かあったらこの火薬玉で合図する。

ヤジル:あいよ!

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 数時間後、御用船の船尾の方向から夜陰に紛れて1艘の手漕ぎボートが近づいて来ました。すると御用船の船尾近くでくるくると光が回転しました。

 手漕ぎボートには2人のマッチョな海賊の男とシグルが乗っていました。

シグルはイエルカ電灯(*)の明かりをくるくる回して光に応えました。

 その合図に応えるように船縁から縄梯子が垂らされ、シグルは海賊達に礼を言うとゆっくりと昇って行きました。

 手漕ぎボートはメリークイニーク号に戻り船縁ではリクが待っていました。

シグル:何か変わったことは?

リク:はっ!(ロ_ロ)ゞ 刺客3名を捕縛しております

シグル:・・・(¨;)2日ですっかり板に付いたね。・・・うん、お手柄お手
    柄!

リク:実はそれにつきましては協力者の存在が大きいかと・・・。

シグル:協力者?

リク:はっ!(ロ_ロ)ゞ

ミアキス:凄いんだよ!光の矢がスーッって通り抜けるんだよ!o(^-^)o

シグル:光の矢~!?(- _´:)・・・で、その協力者は今どこにいるんだ・・・?

リク:肋骨にヒビが入っている様でして・・・それが原因かどうか解りません
   が酷く疲れている様で船倉の厩(うまや)で就寝しております。


シグル:厩?

リク:はい、ここの生活班の青年に、短期就労の少年と勘違いされて引っ張り
   込まれたそうです。で、この際だからアプラサスまで仕事を手伝うと言
   っています。

シグル:そうか、密航ではないのだな?

リク:はい。他の客船に乗るつもりだった様です。

シグル:それにしても動物の世話なら「天職!」って張り切りそうなもんだが、
    この時間に寝ているなんてそれほど酷い労働環境なんだろうか?

ミアキス:あの手袋って関係なくない?手袋の石に絵が浮かんできてからだよ、
     やつれて来たの ・・・。

シグル:石って乳白色の?

ミアキス:うん、そうだよ。一昨日までは無地だったんだけど昨日あたりから
     弓矢の絵が出て来てるんだ。

シグル:何だって!?じゃあ2日間ムドラを出しっぱなしか!?

リク:起こして来ましょうか?

シグル:いやいい、私が行こう。

ミアキス:じゃあお供に加えるのね?o(^-^)o

リク:何?お前悦んでんの?

ミアキス:べつに!ただ弓使いがいれば便利だなって思っただけだよ。

リク:ムキになってやんの。

ミアキス:ムキになんかなってないって!

リク:え~~?σ(^^)σ

 しかしシグルが2人のやりとりに一瞥をくれるでもなく船倉に降りて行くので、2人も慌てて後に続きました。


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(*)イエルカ電灯=単1電池くらいの大きさの「イエルカ電池」を電源に
          使った照明器具。現代の懐中電灯と同等の性能を発揮
          する照明器具。

          フィラメントではなく通電すると発光する輝石を光源
          に使う。

          イエルカの主産業の宝飾品の次に売れている。


          「イエルカ電池」は素焼きの壷に銅製の筒が嵌め込ん
          であり、その中心に鉄の棒が挿してあって、銅製の筒
          に酢酸を注ぐと2~5Vの電流を発生する。



つづく

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