第十章~笑う海賊王4



 シュルッパグは頭を「ぶるぶるっ」と振って一息吸うと、気を取り直して「陛下がお待ちかねです」とアヤ・シグル一行を王宮に招き入れました。

ルーテシアの王都の規模は、イエルカ王都の倍はありそうな巨大で堅牢な城塞都市でした。しかし・・・。

ミアキス:ねえ・・・、王宮にしてはさ~、都の規模のわりに
     ここってちっちゃくない?それに何?この格好。秘
     密結社かなんかのローブ?

確かに言われてみればミアキスの言うとおりです。

シグル:うん・・・。私もこの国の内閣府には何度か来てるけ
    ど王宮は初めてでね・・・。でもこの感じは、どっち
    かっていうと神殿かな~?

従侍長:はい、仰るとおりでございます。ここは王宮・金獅子
    城の一部ではありますが、王宮そのものではありませ
    ん。ここはウルク神殿です。皆様には巡礼者の装束を
    お召しになっていただいております。

ケット:ウルク神殿?・・・っていうと北方民族が崇めてる「力
    の神」か・・・。お国柄からすればいかにもって感じ
    だが・・・。

従侍長:はい、国王陛下は武勇に長けた御方で、お若い頃は長
    い金髪を振り乱して戦うお姿から「金獅子」の異名を
    取った程です・・・が、「正義無き力は暴力にすぎない。
    力無き正義もまた無力である」が持論でございます。
・・・が、「そんな無力な小さな正義でも守れるも
    のなら守りたい」も口癖でして、それ故ウルク神を祀
    られ、御自らを律しておられるのです。

ミアキス:えぇ~!?でもさぁ・・・。

 何か言いかけたミアキスをアヤが制しました。

 シュルッパグもミアキスの言わんとすることを察してか表情が曇りました。

従侍長:仰りたいことはだいたい解ります・・・。アムリア評
    議会(現在のサミットのようなもの)において我が国
    の対外通商が不誠実極まりないと、貴国をはじめとす
    る国王陛下や大賢者様からお叱りの声や抗議があった
    と聞き及んでいます。
     陛下はそのことに胸を痛められ、何かの間違いであ
    ることを祈りたいが、迷惑をかけたのなら謝罪をせね
    ばならぬ。併せて再発防止の徹底もな・・・と仰せら
    れました。

シグル:そうですか・・・。どうも対外的な評判と陛下の実像
    が咬み合わない気がしていたのですが、もしや内閣府
    か通商機構に腐敗があって陛下の目の届かないところ
    で汚職が横行しているのでは?

従侍長:・・・詳しいことは陛下の御前でお話し致します。祭
    壇脇に隠し扉があって、地下道から謁見の間に抜けら
    れます。

ミアキス:随分用心のいいこと。国賓なんだから堂々と王宮の
     正面から行けばいいのに。

従侍長:これも万が一の事態を想定してのことです。

ケット:何となく国情が垣間見えるよなあ。

 ケットの言葉を遠くに聞きながらシグルはアムリア評議会で逢った、握手を求めても絶対に応じないあの男・・・、痩身・青白い顔・眼光鋭く左目の眼帯が印象的な怪人物を思い出していました。勺(関白)のバトウです。

 国王はどちらかというと「旗印」というイメージで、実際にルーテシアの行政を掌握しているのはこの男です。この男があるいは「錦の御旗」の影でこの国をいいように操っているのかもしれません。

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 程なくして一行は謁見の間に着きました。

アヤが一歩前に出る形で跪(ひざまづ)いて待っていると。

国王:よーよーよー!遠いとこ御苦労さん!お!可愛い可愛い!
   ウチの倅(せがれ)にゃ勿体ね~な~!ワハハハハハ!!

 と、そこらにいる普通のオヤジが乱入してきたような具合でドゴー・メリークイニーク1世王が現れました。

ノアロー:(。^。)ズルッ!・・・何あれ、まるで普通のおっさん!


 リクは思わず吹き出しそうになりましたが、ケディはノアローに軽い肘鉄をくれると、

ケディ:しっ!・・・あちらさんは海賊王なんだから、聞こえ
    たら斬られちゃうかもよ?

 と言いました。ノアローは「おおう」と言って身震いすると再び顔を伏せました。

アヤ:メリークイニーク1世陛下には御機嫌麗しく・・・。

国王:はぁ!?そういうカタいのはナシにしようぜ。お互い楽
   に行こうぜ。ワハハハハハハハ!!!

シグル:国王陛下、我が君よりの親書にございます。

 シグルが恭(うやうやしく)しく捧げ持って、国王の横に立つシュルッパグに親書を手渡し、シュルッパグが国王に親書を手渡しました。すると・・・。

国王:あ、そう?・・・フン。

と言って、放り出すようにシュルッパグに返してしまいました。
 それを見て烈火の如く怒ったのは意外や意外・・・、アヤ王女でした。アヤはシュルッパグから親書をひったくると、

アヤ:陛下!苟(いやしく)もこれは今からよしみを結ぼうと
   いう国の国王の親書ではありませんか!それを貴方様は
   まるで放り投げるように・・・!だから評議会で袋叩き
   の目にお逢いになられたのですよ!

国王:;;(゜ロ)な、な、なんだぁ?えれぇ元気のいい姫さんだ
   な~。さすがはオースィラ陛下の娘さんだ。
    う~ん・・・。ま、むしろ海賊王の家に嫁入りすんだ
   からこれくらいの元気がなきゃ~な!ワハハハハ
   ハ!!こりゃいいや!!

アヤ:笑いごとではございません!!

シグル:(〇o〇;)アヤ様・・・。

国王:おい、この姫さんとあんた(シグル)以外は出てくんね
   えか。・・・悪ぃが人払いだ。今すぐな。

国王はそういうと海賊の顔になりました。

 (まさか2人を斬るつもりか!?)とケットが腰の長剣をいつでも抜ける様に左手を剣に添え、親指を剣の鍔に当てました。
ミアキスも腰に差した左右の短剣をすぐに抜ける様、両手をだらりと下げました。

 リクは2人の様子を察知して脇を絞め、腰を落としました。

従侍長:お3方とも落ち着いて、大丈夫ですから・・・ちょっ
    とだけ控えの間でお待ち下さい。

ケット:でもよぉ・・・。

従侍長:私の命に替えても姫君と賢者殿の安全は保証します。

ケット:・・・あんたがそこまで言うなら・・・解った。

 従侍長の曇りのない瞳を見たケットは、彼を信じることにしました。

 リクと山猫旅団の4人、従侍長以下の召使い達は謁見の間から退出しました。

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 一方、王都近くの洞窟の奥に、何やら妖しい祠かありました。
その祠の前には黒いローブを来て、ローブに付いたフードをすっぽりと頭から被った魔導師がいて、何やらブツブツと呪文を唱えていました。顎と口周りしか見えませんが唇が薄い、痩せた男のようです。

 祭壇にはガンメタル色に鈍く光る双頭の鷲のような彫像が祀られ、その背後の壁には額に第3の目があって、長い角が一本生えたドクロが安置されていました。
 そこに黒ずくめの甲冑を着た兵士がやって来ました。

魔導師:王宮の動きに変化は?

兵士:はっ!ウルク神殿に巡礼者が来た以外はこれと言って動
   きはありません。

魔導師:巡礼者?どんな連中が何人?

兵士:はい、男女あわせて7人です。

魔導師:7人か・・・微妙ですね。斥候に監視を怠るなと伝え
    なさい。御用船から消えたイエルカの姫君の報告は?

兵士:はっ!カルディナ港から商船と思しき船に乗ったきり依
   然として行方不明です。お供の賢者達は散会したそうで
   すし、我が方の間者3名も消息を絶ったままです。

魔導師:そう・・・。商船に偽装した海賊船に攫(さら)われ
    たか、或いはそれ自体が偽装なのか・・・。イエルカ
    の草に伝令を。「海賊からの諜状、有りや無しや」とね。

兵士:はっ!

 程なくして、アルムレーべ港沖の小島から、色彩鮮やかな狼煙(のろし)が上がりました。

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国王:いきなり本題なんだけどさ、俺、字が読めねぇんだ。

シグル・アヤ:は?(・〇・;)(・.・;

国王:字が読めねえの。まして外国語なんてね。(^^ゞ
   若い頃はケンカ三昧だったし、国を作ってみればあっと
   いう間に国がでかくなっちまってお客さんがしょっちゅ
   う来てさ・・・勉強どころじゃなかったんだ。
    だから「偉そうにふんぞり返って読んだフリして、こ
   っちに渡してくれればあとは何とかするってバトウが言
   うからさ・・・。

アヤ:それならそうと早く仰って下さればよかったのに。

国王:だけど、国王が「バカです」って言ってるみたいで拙
   いだろ?

シグル:バトウ閣下は陛下に読み書きを修学されることをお勧
    めにはならなかったのですか?従侍長殿は?

国王:シュルッパグは読み書きできるよ。でも外国語はちょっと
   苦手みたいだな・・・。バトウはね~・・・、最近は忙し
   いみてぇでここにゃ寄りつきもしねえ・・・。
    いいヤツだったんだよ。頭が良くてさ・・・、でも俺
   を見下したりバカにしたりしないでさ、いい顔で笑って
   たんだよ。でも・・・、10何年くらい前かな?俺の代
   理でアムリア評議会に行った帰りに目を怪我したとかで
   寝込んじゃってさ・・・それから人が変わったみたいに
   なっちまってな・・・。

シグル:!

国王:・・・俺がこんなだからさ、大抵の王様は俺の顔色ばっ
   か見てんだ。・・・でもイエルカとアプラサスの王様はガ
   ンガン本音をぶつけて来る・・・。何かカッコいいんだ
   よな。
    アプラサスの王様にゃ男の子しかいねえし、俺にはイ
   カル1人だ。イエルカの王様にゃ姫さんが3人もいるっ
   ていうからさ・・・。そんな人と御縁を結んでさ、いろ
   いろと教えて貰えたらなぁって思ってさ・・・。

アヤ:だったらこれからは私がお側にいてお教えします。シグ
   ルも婚礼の儀が相済むまではいてくれるでしょう。彼は
   我が国の最高学府の教授ですから優秀な先生になってく
   れますよ。

国王:そうか、済まねえな。・・・これで人任せじゃなくて自分
   で親書も読めるようになるかな?

シグル:(そうだったのか・・・政略上の人質って訳じゃなかっ
    たんだ・・・)

 これからアヤが辿る道は、案外不幸ではないかもしれない・・・。シグルは今、開放感にも似た安堵を覚えていました。

つづく

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