第十章~笑う海賊王5



 ドゴーことメリークイニーク王がシグル先生のもとで読み書き(イエルカ語とルーテシア語・・・日本の古文と現代用語くらいの差)の猛勉強を始めたころ、アヤはウルク神殿の宿泊所の貴賓室にいました。

 窓からこぼれてくる月明かりを見ながら、「今頃同じ月を父上も、アスタリテや故郷のみんなも見上げているのかしら・・・」などと想いを巡らせると、自然に涙がこぼれてきました。

 すると・・・。

「俺のお袋もそうやって月を眺めては泣いていたよ・・・なあ、想う人がいるんならその人のとこへ行きなよ」

という声が聞こえてきました。

アヤ:・・・?

声の主は月明かりを背にしていたのでシルエットしか見えませんでしたが、ちょっと細身の青年の様です。

アヤ:貴方は・・・?

イカル:俺はイカル、一応あんたの婚約者ってことにされてる者さ。

アヤ:えっ・・・イカル殿下?

イカル:俺としては別に嫌々来て欲しくねえし、・・・お袋みたいになって欲
    しくもねえしな。

 イカル王子は仏頂面で言い放ちました。第一印象は性格にやや難ありのヒネたガキ・・・という感じです。
 アスタリテがいたらきっと「姉上がどんな気持ちでここまで来たかも知らないで!」と噛みついたことでしょう。

アヤ:お母様・・・?

イカル:ああ・・・、あんたみたいに時々夜空を見上げては泣いてたよ。もっ
    ともあんたとは反対側の、西の方を向いてたんだけどね。

アヤ:西?

イカル:そう、南オアンネスの生き残りだってさ。セレネイドの海の向こうに
    セレネイラって国があったんだって。故郷に想う人がいたのかな・・・。
    しょっちゅう西の海を眺めては泣いてたっけ・・・。それで、ある日
    厨房で変わり果てた姿に・・・。

アヤ:厨房?(゜;)・・・なんでそんなところでお亡くなりに?

イカル:ちょっと待ってくれ。別にお袋は死んでないぞ。

アヤ:だって、「変わり果てた姿」って言ったら・・・。

イカル:いや、それは・・・。

 イカルが慌てて何か言おうとした時・・・、

王妃:まあ!イカルったら、婚礼の儀もまだなのに夜這いなんかして!このス
   ケベ!

イカル:なっ・・・!?Σ(○ж○;

王妃:ははぁ~・・・、一刻も早く三国一の美人と評判のお姫様の顔が見たか
   ったのね~?もう手なんか握ってたりして!キャ~!!ホントにお父さ
   んに似てどスケべなんだから~~~!!m9(^^)

 甲高い声でマシンガンの様にまくし立てるのは、まん丸でパッチリとした目の、同じく身体全体がまん丸の、赤ちゃんがそのまま大人になったような王妃でした。さっきまで仏頂面だったイカルはあきらかに狼狽しています。

イカル:なっ・・・、何言ってんだお袋(〇o〇;)!?俺はただ・・・。

王妃はイカルにかまわずアヤに向き直って、

王妃:まあ、私の若い頃によく似てるわぁ~・・・。

アヤ:えっ!? (゛゛)・・・じゃあ「変わり果てた姿」って意味は・・・。

イカル:ああ、そういうことさ・・・。ヤケ食いで激太りしやがったんだ。(__;)

王妃:あっ、自己紹介まだだったわね。私イカルの母のレイゼラよ。末永くよ
   ろしくね~。
    私もね~、若い頃は貴女みたいに痩せててね~・・・、自分で言うの
   もなんだけど、そこそこ美人で通ってたのよ~。・・・まあ三国一の貴
   女程じゃないわよ。この国で一番ってだけだから・・・。だから、イカ
   ルなんか私の若い頃の肖像と今の私を見比べて溜息なんかついてるのよ
   ~。何かムカツクと思わない?

アヤ:はぁ・・・(¨;)

王妃:ね!?そうでしょ!?ムカツクでしょ~!?

イカル:お袋、もういい加減にしろよ。姫さん困ってんだろ?

王妃:まっ!!婚約者の前だからっていいとこ見せようとしてヤラしぃ~!!

イカル:もういいからそろそろお暇(いとま)しようぜ・・・。じゃあゆっく
    りな。・・・あ、そうそう。ホントに俺や親父に義理立てなんかしな
    くていいんだぜ。じっくり考えな。

王妃:またそうやってカッコつけて~。ホントは「外れクジつかまされなくて
   良かった~!しかも大当たり!!」って小躍りして悦んでたくせ
   に~!!

アヤ:「外れクジ」?「大当たり」?

イカル:(;゜)ワーッ!(;゜)ワーッ!・・・お袋っ!何捏造してんだ!もう黙って
    ろよっ!!

王妃:何が捏造よ、小躍りしてたのは事実でしょうが。

イカル:うるせえっ!もう、あんた退場!

 イカルは額から滝のような汗を流しながら王妃の両手を掴むとぐいぐい引っ張って部屋の外へ連れ出そうとしました。

王妃:母親に向かって「あんた」って何よ・・・ちょっと痛いってば!離しな
   さいよ! c(>_<。)シ*

イカル:まったく!ほっといたら何言い出すか解ったモンじゃねぇ。(O.O;)

 その後もなにやら言い争いながら母子は渡り廊下の向こうに消えていきました。

 アヤは何だか可笑しくなって吹きだしてしまいました。

 イカルの第一印象は気難しそうなひねくれ者・・・といった印象でしたので、頭をよぎったのは「前途多難」の四文字でした。
 でも、「ひょっとして殿下は、本当は優しい人で、繊細で傷付き易い心の持ち主なのではないか?あの仏頂面も、突き放すような物言いも、そういう内面を知られまいとするポーズだったのかも知れない」
 何となくそんな気がして来ました。

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 一方、数刻後、金獅子城では・・・。

国王:ああ、ちょっと目が疲れた・・・。今日はこれくらいにしようか。

シグル:はい、確かにあまり根を詰めてもお身体に障りますね。・・・では今
    日はここまでということで・・・。

国王:長時間ありがとな。それと、あんたの教え方は何だかとても覚えやすい。
   もう何日かいてくれるんだろ?この要領でしばらく頼めないかな?

シグル:恐れ入ります。婚礼の儀まであと1週間ですから、その頃まではこち
    らにおります。

国王:う~ん、1週間か~・・・。せめてあと1ケ月、いや3週間でもいい。
   どうだ?

シグル:はい?

国王:この国にはあんた程いい先生はいなかった。どうだろう?

シグル:それは身に余る御言葉・・・、光栄に存じます。ただ、私は観星官と
    しての職務もありますので・・・。

国王:ダメか~・・・。


シグル:3週間は難しいかと存じますが、2週間程度ならあるいは・・・。

国王:ホントかっ!?なら是非、是非頼む!

シグル:承知致しました。

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シグル:という訳で私は予定より1週間ほど長くここに滞在することになった。
    そこでこの手紙をラーズに託そうと思うのだが・・・、誰か使いに出
    てくれる者は・・・。

リク:だったら自分が・・・。

ミアキス:(⌒◇⌒)ノ.はーいっ!私が行きます!

リクΣ( ̄□ ̄; はぁ?

ミアキス:じゃあ行ってきまーす!

ノアロー:最近姉ちゃん変だゾ!?

ケディ:( ´-`)ふふふ。なるほどね・・・。

ケット・リク・ノアロー:何だ・・・?

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 ミアキスがウルク神殿を出たあと、何となく腑に落ちなくてシグルも金獅子亭に向かおうとしました。

 それに気づいたノアローが「先生、どこへ?」と訪ねて来ました。

シグル:ノアローか?金獅子亭だ。・・・他の者は姫の護衛があるからな。君、
    ちょっと一緒に来てくれないか?

ノアロー:何か気になることでも・・・?ま、いっか。団長に言ってくるね。

 ノアローはケットに外出を告げると身体には不釣り合いな長剣を持って出てきました。

シグル:それは君の剣か?

ノアロー:剣・・・?・・・ああ、うん。母ちゃんから貰ったんだ。父ちゃん
     が使ってたんだって。

シグル:君の父さんも山猫旅団に?

ノアロー:うん。先代の団長だよ。リュンクス(大山猫)ってんだ。

シグル:引退したんだ?

ノアロー:・・・14年前から行方不明だって。アムリア協議会に出る偉い人
     の護衛に出て・・・それっきりだって。

シグル:それは・・・、辛いことを思い出させてしまったね。済まなかった。

ノアロー:ううん、いいんだ。今は団長が父ちゃん・・・というにはちょっと
     若いか・・・兄ちゃん・・・というには老けてるな・・・う~ん。

シグル:あはは!(^▽^

ノアロー:あはははははは!(^◇^)

 その時です、街路樹の上から殺気を帯た何かがシグルめがけて降ってきました。

 とっさに身をかわし、二刀流のムドラを発現させて身構えましたがそこに敵の姿はありませんでした。

ノアロー:なんでぇ、大したことねえでやんの。

 ネズミ色の忍者装束のその男は、ノアローに踏みつけられて伸びている様です。

シグル:ノアロー・・・。

ノアロー:先生、俺をお供に選んで正解だったよ。身軽そうだし動きも早いけ
     ど、力はそれほどないみたいだ。こいつ(長剣?)で足を攫ってや
     ったら自分で頭打って伸びちゃった。

シグル:取り敢えず縛っておこう。従侍長に知らせて来てくれ。

ノアロー:あいよ!

 そう言ってノアローが背を向けた時、突然ネズミ男が目を見開いて、2人の腕を掴むと「デュクレール!」と叫び、高圧電流を発生させました。

ノアロー:何だよ、五大力の能力者か・・・。

シグルはそう呟いたノアローの声を遠くに聞きながら気を失いました。


つづく


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