VALKYRIE2



メイ2
       “なめくじ横丁にて”

 毎日、日中の暑いときは「なめくじ横丁」の物陰で涼み、時に網戸越しにゴハンをねだり、夜は何処ともなく消えて行く。これが「ノルちゃん」の日課であった。
 雨風がしのげるとはいえ、「なめくじ横丁」の(波板の)壁に設えたキャットドアからは、ウシネコも、新たな脅威である「こまったちゃん」(困った様な顔の巨大茶トラ)も侵入して来る。
 ただ、生まれて半年にはなるだろうか・・・、完全室内飼いを願う私の気持ちをよそに「ノルちゃん」にはすっかりノラが板についてしまい、なかなか家の中まで入ろうとしない。二度とあの世界には帰って欲しくないのだが・・・。
 6月に段々お腹が膨らみはじめ、はち切れそうになってきた7月12日、「ノルちゃん」は忽然と姿を消した・・・。
 7月13日、朝になれば帰って来るだろうと思っていた「ノルちゃん」は、昼を過ぎても、夕方になっても戻って来ない。何かあったんだろうか・・・(‥;)
 夜になって激しい雨が降り始めても「ノルちゃん」は帰ってこない。きっと何かあったんだ!居ても立ってもいられず懐中電灯片手に裏庭に飛び出した。かすかに子猫の声がする。出産したのか!?ノルちゃんはそれで動けないのか!?
 だが、声の主は、生後40日前後のキジトラだった。ストックハウスの下にうずくまっている。骨と皮だけのガリガリの身体・・・。こっちを見た、口が開くのに声が出ない。限界が来ている様だ。
 「ごめんな・・・。別の猫を探してるんだ。ミルク置いてくからお飲み」
だがうずくまったまま出てこない。人が恐いのか?歩くこともできないのか?
 心配ではあったが「ノルちゃん」を探して床下、コンテナハウスの下、お隣りさんの農機具置き場まで探したが、「ノルちゃん」の行方は依然として不明だった。
 一方、ストックハウスの前に置いたミルク皿は知らぬ間に空っぽになっていた。
 その子猫「ち-太(後にメスと解り“ち-たん”に改名)」が「なめくじ横丁」の住人になったのは、7月15日の夜のことであった。後にこっぴどく「ノルちゃん」に苛められるこの子は、鬼の居ぬ間に「なめくじ横丁」のノルちゃんのベッドを寝床にしていたのだ。
 新たな居候をもたらした豪雨は15日の夜に止んでいた。
 7月16日午前4時。ノルちゃんが呼んでいる様な気がして飛び起き、何かに突き動かされる様に庭に出てみると、霧に煙る池の畔の石の上にうずくまるノルちゃん!かなり弱っている。
 私を見ると「ウニャ~・・・」とお腹を向ける。撫でても逃げない!抱いても逃げない!ウソっ!!(◎-◎)小躍りする様に家に招き入れた。今日から我が家で一番日当たりと風通しの良い、掘りごたつの部屋が「ノルちゃん」の居室だ。

 この時、確かに「ノルちゃん」が笑った。安堵した様な顔で・・・。

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 9時になるのを待って「ユウ動物病院」で診察してもらう。
「臨月ですね。もう今週中に生まれるかも知れませんから、産室を作ってあげて下さい」
 との診断。
 だが、小学校時代図工2、中学時代美術3(10段評価でよ)の私が、丹誠込めて作った産室はお気に召さなかった様で、7月20日の深夜、院長先生の見立てどおり「ノルちゃん」は掘りごたつの中で5匹の子猫(3男2女)を出産した。
 女戦士はしばらく休業だな・・・。

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