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2006年06月30日
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カテゴリ: 犬ネコ半蔵コラボ
『誰が為に銃は鳴る』

気付けば男は朽ち果てたビルにいた。
もうどれだけ走っただろう?
疲れ果て、鉄骨の剥いた壁にもたれかかる。
コンクリートの無機質な冷たさが気持ちよかった。

そのほんの刹那。
緊張は解れ、不意にも男はその場に坐りこんでしまった。
粘りつく汗と土埃を手の甲で拭い取り、煙草を取り出す。
頬をなでる微風が心地よかった。

その音を耳に煙草を強く肺まで押し込み、そのまま天を仰いだ。
次第に意識は薄れていった。

どれだけ時間は過ぎただろう?
辺りはまだ明るく、蝉の鳴く声が聞こえる。
どうやら疲れ果て、寝入ってしまったようだ。
周囲に人気の無いのを確認すると、男は煙草に火をつけた。
涼しい風が吹いている。
土埃を皮膚に粘着させ、吹かす煙を掻き散らしている。
蝉の鳴く声と地を這う風の音。
男は廃墟の中で、違和感すらある静寂を感じていた。

遠くで人の駆ける乾いた足音が聞こえてくる。

次いで甲高い叫び声と銃声。
男は煙草を揉み消し、身を硬くした。
脳は一気に冴え、聴覚に神経を集中させる。
恐怖感に包まれていくのを感じる。
心臓の鼓動と息遣いの荒さを感じる。

人の呻く声が聞こえた。

一体なぜこんなことになってしまったのだろう?
男は運搬業に従事する小市民であった。
細やかながら満ち足りて生きていた。
それがなぜこんなことに?
俺はなぜここで身を硬くしているのだ?
俺はなぜ怯えなくてはならないのだ?
もはや発端の見えぬ自問を繰り返す。
ただ男の右手には、45口径の銃が強く握り締められていた。

聞き慣れぬ言語を発し、数名の声が近づいてくるのが分かる。
やがて足音がじょじょに近づいてくる。
男の鼓動は一層高鳴り、吐気すら覚えた。
否が応にも、過去は走馬灯のように流れる。
俺には家族がある。
満ち足りた場所がある。
なぜ俺がこんな目に?
無党派で我も強くない俺がなぜ?
男の顔は恐怖と悲壮でぐしゃぐしゃになっていた。

政治家はきっと今頃、贅沢な昼食に満足しているだろう。
夜の悦楽を夢見て、昼寝でもしているだろう。
俺達は所詮チェスの駒なのだ。
俺は何を守ろうとしている?
薄汚い政治家か?
愛すべき家族か?
自尊心か?
男の思考は次第に錯乱し、目蓋が痙攣を始めた。
溜息をつき、ゆっくりと煙草をくわえる。
マッチを擦る音が、廃墟に虚しく響いた。

寄り掛かる壁の背後で、遂に足音は止まった。
不思議と鼓動は納まっていた。
目蓋の痙攣が止まらない。
もうどうでもいい。
男は立ち上がり、勢いよく後ろへ振り返った。
機関銃を構えていたのは、まだあどけない少年達であった。

廃墟に銃声が鳴り響いた。





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Last updated  2006年06月30日 22時22分59秒
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