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小説 「scene clipper」 Life goes on
「田島さん、僕も結構な年齢になりました」
リョウは少なからず驚いた。青木氏が叔父の墓に話しかけるその言葉遣いは意外だったのである・・・。
自身の胸の内を、秘めていたであろう胸の内を、誰かに聞かれることが分かっていながら吐露するとは、あの特別な世界にいる人は、他者に自身の脆さと受け取られかねない振舞いを是としない。そんな風に認識しているリョウにとって、目の前の青木氏の言動は意外に思えた。
それに、50歳を過ぎたご自分の事を「僕」と表すのには何だか好感を抱いた。
叔父が目の前に居たなら、そんな風に話しかけるだろう。本当に大切に思う人にならば、その接し方に生死の違いなど無縁である。
自身がそういう接し方を大事にしてきたリョウは、叔父に対する青木氏の話し言葉に誠実さを感じて嬉しく思った。
「田島さん、実はあの日、田島さんにお会いしたあの日の朝、僕はもう死のうと思っていたんです。
日本が戦争に負けて、何もかもが信じられなくなって、おまけに大切な両親を亡くして・・・それでも、もうちょっと頑張ってみようと、九州まで訪ねてきた親戚の叔父夫婦も空襲で亡くなっていた・・・それで、僕は生きる意欲を無くしていたんです。
そんな時でした・・・田島さんが僕を見つけて下さいました!・・・・・そして、
『子供が遠慮なんかするな、子供は食うて寝て大きゅうなるんが務めじゃ、ほれ、早く食え!』
そう仰ってお持ちになっておられた握り飯を下さった。
・・・あの握り飯の美味しかったこと・・・まるで昨日のように覚えております!・・・ありがとうございました!」
青木氏は、ほとんど叫ぶようにそう言って叔父の墓前に膝と両手の平をついて深々と頭を下げた。
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