「知る権利」より安全保障を優先 

 「知る権利」より安全保障を優先
       ブッシュ政権下で情報統制強化
               (時事通信世界週報 2004年11月16日号)

(無断引用、無断転載を禁じます)

「どの資料を出してどの資料を出さないか、ということを政府が決めれば、米国の歴史の客観性が失われる恐れがある」アメリカン大学歴史学部のアンナ・ネルソン教授は、ブッシュ政権以降ひどくなった情報統制に危機感を抱いている。

情報統制の一つに、アシュクロフト司法長官が2001年10月12日に発表した情報自由法(FOIA:The Freedom of Information Act)に関するメモランダムがある。同長官は、「健全な法律的な根拠 (sound legal basis)」がある場合はFOIAによる情報公開請求を拒否してよい、と連邦政府機関に指示した。この内容は、リノ前司法長官がクリントン政権時代の93年に「法律によって守られている権利を害することが予測できる場合のみ (“foreseeable harm” standard)、連邦政府機関はFOIAによる情報公開請求を拒否するように」と明言したメモランダムと全く対照的である。「情報の自由(FOI)」侵害の監視活動を行っているNPOのThe Reporters Committee for Freedom of the Pressはこのメモランダムにより、「情報の自由」の危機が最高レベルに達していると警告している。

また2002年11月に制定された国土安全保障法(Homeland Security Act)も、反対派から「三十七年のFOIAの歴史上、最もFOIAを弱体化させることになる」と見られている。

ネルソン氏は「クリントン政権は安全保障と「知る権利」のバランスを取る際に「知る権利」を優先させたが、ブッシュ政権は常に安全保障を最優先させている」と言う。

ブッシュ大統領はまた、9・11の2ヶ月後にあたる2001年11月1日に大統領記録法(Presidential Records Act)に関する大統領命令(executive order)を出した。大統領記録法は1978年に制定された法律で、大統領が政権を離れて12年後に大統領文書を公開できることを定めている。しかしブッシュ大統領が出した大統領命令では、現職の大統領や前大統領、死亡した大統領の家族が大統領記録 (Presidential Records)の公開を拒否できることになる。もし前大統領が大統領記録は公開すべきでないと考えた場合、現職の大統領が前大統領の考えに賛同せず、公開すべきだと主張しても公開を拒否できる。また逆に、現職の大統領が公開すべきでないと考えた場合、前大統領が現職の大統領の考えに賛同せず、公開すべきだと主張しても公開を拒否できる。


ホワイト・ハウスは大統領命令は大統領記録法を「再解釈するもの」と主張しているが、専門家は大統領命令は大統領記録法に「反するもの」と主張している。この大統領命令は、現在の政策が後にどう評価されるか、歴史がどのように書かれるか、ということに関して大きな懸念材料になり得る。


ネルソン氏は「ブッシュ大統領は、大統領記録法の問題点を正したと言っているが、私は、彼は単純明快な大統領記録法の前に地雷原を敷設したに等しいと考えている。国立公文書館はプライバシーの保護や安全保障の重要性はきちんと理解しており、文書の公開も非常に注意深く行っている。従って大統領命令などは必要ない。大統領は同法の意義を台無しにしてしまった」と厳しく非難している。
「ブッシュ大統領は、自分が政権を離れた12年後にも自分自身の記録を完全にコントロールしたいと考えている」。


またネルソン氏は、記録公開の判断が政治的に利用される恐れもあると指摘する。「大統領は、自分や過去の大統領の記録を公開するかどうかを大統領特権を行使して決定することができるようになった。ブッシュの後に民主党の大統領が政権を握れば、政治的な理由から公開を拒否する可能性がある。共和党の大統領になっても同じことが起こる。米国では大統領の権限が肥大化しており、その中で政治的判断で記録公開がコントロールされるようになることは非常に憂慮すべきことだ」。


国の資料をFOIAを通して請求することを専門に行っている民間の研究機関、ナショナル・セキュリティー・アーカイブのトーマス・ブラントン氏はワシントンポストのインタビューで「大統領記録法は、大統領記録に関する権限を大統領個人から政府へ、最終的には国民へ移行させることを目的に制定された。大統領命令はこの流れを元に戻してしまった」とコメントしている。


実はブッシュ大統領は9・11のテロが起こる前から秘密主義だった。ブッシュが大統領になった最初の年度である2001年度のclassification action(情報を機密として公開しないと決定すること)の件数は史上最高に上り、前年度よりも44%増えて3302万件だった。これは、情報を機密にする際の監視や、安全保障に対応した情報公開を促進する活動をしている政府機関Information Security Oversight Office(ISOO)の調査でわかった。


資料の情報統制がいかに危険であるかということを示す事例で、ネルソン氏はニクソン・ペーパーを挙げた。「ニクソン・ペーパーの多くの部分は今だに公開されず機密情報になっているため、我々は当時の情報を知りたいと思えばニクソンやキッシンジャーの 回顧録に頼るしかない。しかし、ラリー・バーマンという人がキッシンジャーとベトナムについて、最近公開されたニクソン・ペーパーの一部に基づいて本を書いたが、彼は本の中で、公開されたニクソン・ペーパーの内容はキッシンジャーが言っていることとは異なっており、ほとんど反対であることを指摘している」。「No Peace, No Honor―Nixon, Kissinger, and Betrayal in Vietnam」というタイトルの本の中でラリー・バーマン氏は、公開された資料からキッシンジャーの交渉の隠された事実を明らかにしており、ノーベル平和賞を受けたキッシンジャーとニクソンの行為は、戦って死んでいった米国の兵士に対する「裏切り行為」にほかならず、ノーベル平和賞にほど遠い行為であったと断定している。


ネルソン氏は「我々は歴史を正確に書くために、資料が必要なのである」と強調する。


ネルソン氏は大統領の任命を受けて1994年から1998年にケネディ暗殺記録再調査委員会のメンバーになった。オリバー・ストーンの映画JFKが政府の陰謀を示唆していたため、議会が激怒し、すべての情報を開示するよう政府機関に求めたジョン・F・ケネディ法を制定した。この法律によって設置されたのが再調査委員会だった。


国家の安全保障と知る権利のバランスをどのように取るか、ということについてネルソン氏は、「時間が問題を解決してくれる」と言う。「25年や30年たった資料は、いくつかの例外を除いて順番に公開していくべきた。それらの古い資料を公開しても国家の安全保障を損なうということはなく秘密にする理由はない。もちろん(テロの脅威がある)現在は以前に比べて資料の公開に慎重にならなければならないが、資料の重要度は5年ごとに減っていく」。


また、新聞などで多くの人々が知ることになった事柄については、その時点で資料を秘密にする必要はなくなったので公開すべきだと言う。「政府は「ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズが言っていることをいちいち気にしない。資料は公開しない」と答えることが多いが、そうすることで政府は信頼を失ってしまう。資料を長い間秘密にして、人々から疑いの目で見られるよりも、資料を公開してすべての事実を知ってもらう方がはるかに良い」。









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