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僕は夢を見る。
何度目になるかはわからない夢。
でも、それは今までとはちがう夢。
僕は段ボール箱に入っていて
そのはじをしんちゃんがヒモで三輪車に結びつけている。
三輪車が勢いよく走る。箱ががたがたゆれて、ちょっと気持ちが悪い。
ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。
小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。せなかには真っ黒なランドセル。
シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって見せてくれたランドセル。
まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。
自転車のかごが一回り大きくなる。
くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。
自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。
そういえば、よくお母さんに怒られたとき、
ナイショだぞって僕を、
こっそりフトンの中に入れてくれたよね。
もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、それでもやめなかった。
二人だけのヒミツがあった
きらきらしてまぶしい、夏。
ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。
代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。
しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。
お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。
でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に目がいくのは変わらない。
こまった癖だなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。
いつまでも変わらないでいて欲しかった
少しだけ乾いた風が吹く、秋。
寒い冬。
あんまり話してくれなくなった。
お散歩も、少なくなって。
こっちを見てくれることも少なくなった。
見えるのは横顔だけ。
楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。怒っているような、悩んでいるような。
そんな、横顔だけ。
寒い冬。小屋の中で
ひとりで丸くなっていた、冬。
寒かった冬。でも、冬は春への始まり。
あたたかな春への始まり。
僕は丸まって、わたあめのようになって、あったかいうでの中で。
春の始まりをまっている。
たとえそれがほんの一瞬のものでも。
かしゃんという、なにかがたおれる音がして、僕は目を開けた。
電灯がぽつりぽつりとついた、暗い道の真ん中で、見なれた自転車が横になっている。
のろのろと首を上げると、しんちゃんの前髪が顔に当たった。
道のはじっこの壁に、
もたれかかるようにしてしゃがみ込むしんちゃん。
その体はひっきりなしに震えていて、とても寒そうだった。
僕を抱きしめたまま、動こうとしないしんちゃん。
しんちゃんに抱きしめられたまま、動くことができない僕。
雨だれか僕の代わりに、しんちゃんを抱きしめてあげて。
「ごめんな、ごめんなシロ。オラ、何にも出来なかった。」
ぽつりぽつりと、しんちゃんが話しかけてくれる。
「いっぱい病院回ったんだ、でも、どこも空いて無くて。
空いてるトコもあったんだけど、大抵シロを一目見ただけで...何も。
あいつらきっとお馬鹿なんだぞ。お馬鹿だから、何にも出来ないんだ。」
しんちゃん、泣いてるの? ねえ、泣かないで。
「でも、ホントにお馬鹿なのは......オラだ。」
しんちゃん泣かないで。
「オラっ......シロがこんなになってるの、気付かなくて...!!
ずっと、一緒にいたのに...親友だって......
思ってたのに、なのに!!!」
なかないで、もういいから。
「シロっ............。」
しんちゃんが泣いている。
僕はなにもできない。
せめて元気なところを見せようと思って僕はしんちゃんのほっぺたをなめた。
しんちゃんのほっぺたは、少しだけ早い春の味。
僕がメスだったら、しんちゃんのために子供を作っただろう。
僕が居なくなっても、寂しくないように。
僕がわたあめだったら、しんちゃんのために精一杯、甘くなっただろう。
僕が食べられても、甘さが少しでも長く口に残るように。
僕が人間の手を持っていたら、しんちゃんを抱きしめただろう。
僕がしんちゃんにもらった、温もりを返すために。
僕が人間の言葉をしゃべれたら。
きっと、いっぱいいっぱいのありがとうと大好きを、君に。
ひっきりなしにこぼれる涙を舐めながら、僕はあることに気が付いた。
僕はここを、今、しんちゃんが座り込んでいるここを、知っている。
ここは、僕と君が初めて会ったところ。
僕と君との、始まりの場所。
僕は待っていた。
諦めながらも、いつか。
いつか、落っこちたわたあめでも。
美味しそうだって言ってくれる人が。
拾いあげて、ぱんぱんってして。
まだ食べられるぞって、言ってくれる人が、来てくれるって。
「シロ。」
名前をよばれて、僕は顔を上げる。
しんちゃんが、笑っていた。
まだまだ涙でいっぱいの顔で、それでも笑っていた。
「シロ、くすぐったいぞ。
そんなにオラの涙ばっか舐めてたら、しょっぱい綿飴になるぞ。
しょっぱいシロなんて、美味しそうじゃないから。
だからシロ、オラ、待ってるから。
今度はオラが待ってるから。」
しんちゃん。
「だから、もう一度、美味しそうな綿飴になって。
そんでもって、戻ってくるんだぞ。」
大好き![]()
ぼくはしんちゃんに抱きしめられながら、最後の夢を見る。
もう一度、わたあめになる夢を。
もう一度、お砂糖になって、解かされて。
くるくる回って、甘い、甘いわたあめになる。
目ざめたときに、誰よりも、
君が美味しそうだって言ってくれるわたあめになるために。
ふわふわのわたあめ。さくら色の、あったかなわたあめ。
君が大好きだっていう気持ちを込めた、君だけのわたあめ。
僕はシロ、しんちゃんのしんゆう。十三年前に拾われた、一匹の犬。
まっ白な僕は、ふわふわのわたあめみたいだと言われて。
美味しそうだから、抱きしめられた。
僕はシロ、しんちゃんの親友。
今度はさくら色の、ふわふわのわたあめになって。
君に、会いに行くよ。
おしまい

なんだか、胸がキュンとなりました。
もちろん、読み終わって、ミルキーとトレジャーを
思いっきり、抱きしめた乳母でした![]()
そして・・・・・ちょっと嫌がるミルトレでした![]()
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