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2005年01月25日
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カテゴリ: 思い出すこと。
ペリカン

 朝、下から御主人の声が掛かって出陣となる。4時くらいだったと思う。
 畑は何箇所かに分かれてあり、事前に苗の成熟状態を調べて今日はどの畑からどれだけ収穫するかを決める。その下調べはお爺さんの役目で、彼が「まだ若い」と一言言うとそこは当面収穫を見合わせるのである。

 収穫即出荷であるから、この状況判断は極めて重要だ。村中が親戚のようなこの地でも収穫の決定だけは各戸別々の独自の判断になるようだった。川上村の天候、他の生産地の天候や動向、市場の相場等々も当然関係して来るし、レタス自体も時期を失すると葉が硬くゴワゴワになって刈り遅れになってしまう。ただ、絶好の出荷のタイミングを待ったがために、逆に全てが御破算になってしまうこともあった。

 雹(ヒョウ)が降るのである。雹は局地的に降るので、自分のところはやられても、隣の畑は全く無害ということもしばしばである。雹にやられた畑のレタスは概ねボロボロになるから出荷どころではなく、取敢えずそのまま放置して回復を待つしかない。

 現場に着くと、旦那さんが先頭に立って包丁でレタスを切りはじめる。それを奥さんと我々二人で箱詰めして行く。状況によっては、奥さんは切り方に回ることもあった。
 私ともう一人は春先から来ていた劇団員で、ナナハンをブンブンいわして東京から乗りつけたらしい。S、M、L、LLと大きさがあってそれぞれ箱に入れる数が違って来る。箱が満杯になるとシールを貼る。シールが貼られた箱は運び屋の若い子が封をしてトラックに積み込む。
ホッチキスのお化けのような機械でバンバン打ちつけて封じるのである。

 詰める前に一仕事あって、詰め屋さんは片手に塩水を含ませたスポンジを持っていて、それでレタスの切り口を拭くのである。根から切り離されたレタスは暫くすると切り口からジワジワと乳白色の液体を染み出させるからそれを止めるのである。見た目は牛乳みたいできれいだが、これが乾くと黒ずんでなかなかとれない。作業着もこの汁液がついたところは真っ黒になる。


 7時か8時頃現場で朝食である。一汗かいた後で気持ち良く食べられそうなものだが、実際の私たちは早くもバテバテになっていることが多かったように思う。魔法瓶に入れた水がとてもおいしかった。森ではカッコウも鳴くのだが「迂闊に入るな」とも注意された。みなが『野糞』をするのでそれを踏んづける惧れがあると言うのだ。
 みながすなる『野糞』といふものを、吾れもしてみんとてすなり、という感じで私も数回試みたが、あれは実に気持ちいいものである。
 その後昼前後まで収穫は続き、予定を終えると農協へ直行して納品である。この出荷が終る時期が旦那は一番リラックスしたいい顔をみせる。奥さんは一足先に軽トラックで帰宅して昼食の準備。午後のおやつの菓子パンや缶ジュースも人数分買って来る。

 午後我々は昼寝した後主として草むしりで、一番「安気な」(気楽な、という意味)時間を過ごした。雑草は抜いても抜いてもどこからか生えてきてきりがなかった。

我々はアルバイト3人だけで午後の草むしりに出掛けるのが常だった。出掛ける際には『おやつの道具』というのを持たされる。水の入った魔法瓶、各自一本の缶ジュース又は缶コーヒー、そして菓子パンは1つずつだったか2つずつだったか忘れたが、それが『おやつの道具』だった。
 たまに草むしりは中止になって他所の畑に応援に行くこともあった。応援のときの奥さんはとても張り切っていて、持病の腰痛を押し隠すように先頭に立って頑張っていた。
「余所者だから」と後ろ指指されないようにしてるのでは、と私に解説する人もいた。どこへ行っても人間関係というものにはいろいろあるんだろうと、私は思った。

 水道の水がとてもおいしい村だった。着任して間もない頃「生で飲んで大丈夫か?」と聞いたら、「川上の水を生で飲めなかったら生で飲む水などない!」と本気で怒られた。
 南アルプスの天然水そのものだったのである。但し、
「側溝の(勢い良く流れている)水だけは飲むな!農薬が入っているから」とまで注意されたりもした。
 私たちは草むしりから戻り、翌日の準備も終えた夕飯前、手足や顔を側溝で洗う習慣だったのだ。とても気持ちいいものだったが、流石にそれを飲もうなんて気にはさらさらならなかったのだが。


 今はコンビニまであるらしいから、世の中は変わって行くものである。

 結局、なんだかんだで私だけが最後まで残ることになった。最後の仕事は畑のマルチを剥がして古タイヤと一緒に燃やしてしまうことだった。プラスチックの杭を全て集め、土がこびり付いている黒ビニールを一箇所に集めて火を掛ける作業は、確かに一人でも出来る仕事だった。
 旦那さんは「来年も、今度は頭から来てくれ」と誘ってくれたが、私は辞退するしかなかった。いい人たちばかりだったし、私も出来ることなら再訪したかったのだが、土を相手に中腰の体勢をとり続ける作業は私には辛過ぎて、はっきり言って、もう懲り懲りだった。ww














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Last updated  2005年01月25日 22時07分31秒
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