備忘録その5 . Weingut Jürgen Leiner
その日最後の訪問先は南ファルツのユルゲン・ライナーだった。
なだらかな丘陵地帯が箱庭の様に広がり、低くなだらかな丘に葡萄畑が広がり、丘と丘の間を流れる川が、風の通り道となって昼夜の気温差をつくり、葡萄栽培に適した環境を作り出しているという。
醸造所のあるイルベスハイムは美しくこぢんまりとした村で、伝統的なハーフティンバーの建物が建ち並び、通りの上にメルヒェンに出て来そうな看板が突きだしている様子はアルザスのワイン村を彷彿とさせた。オーナー醸造家のスヴェン・ライナーとは、つい 2
ヵ月くらい前に東京で会ったばかりだった。その時彼は新しい剪定手法を試していると言っていた。葡萄樹本来の姿はどうあるべきかを考えて行う、とても高度な理解と技術を要する剪定方法だと言った。中世に剪定は熟練したマイスターの仕事だった。今では季節労働者が収穫後の空き時間を利用してやってしまうが、本来はそんなものじゃない、と。
そのやり方を実際の葡萄樹を前に説明してもらったが、素人の私にはやっぱり難しい。葡萄樹の樹液の自然な流れを考慮して、母枝に一定間隔でならぶ新枝から 1
本か 2
本の梢を伸ばす。枝を前の年と同じ位置まで単純に切り戻すのではなく、成長した将来の形を考えつつ剪定するのだそうだ。あとで録音を聞き直せばもうすこしわかるだろう。
以前Nさんが感動したというコンポストの山も見せてもらった。近郊の牛や馬を飼っている畜産農家から譲り受けた糞、敷き藁、木くず、葡萄の絞りかすを交互に積み重ね、内蔵のようにうねるような形にしている。ただ、今年は乾燥と暑さが厳しかったせいかコンポストも乾き気味で、虫たちも山の中の方に隠れているようだった。コンポストの堆積所はここだけではなく、三ヶ所にあるという。 
2000
年に父の病気で 20
歳で醸造所を任されたスヴェンが、まず始めたのが化学合成肥料から有機肥料への転換だった。 2003
年に病の癒えた父が戻ってきた時にはビオに転換し終わっていて、 2005
年にビオディナミに基づく堆肥の熟成を始めた。同年 EU
のビオ認証を取得して、 2011
年にデメターの認証を取得。そして今も取り組んでいるのが、上述の剪定方法である。南ティロルのアロワス・ラゲダーを始め、いくつかのビオディナミの生産者も取り組んでいる「やさしい剪定 Der sanfte Schnitt
」と言われるものだ。代表的生産者にマーティン・ゴーヤー Martin Gojer
がいて、スヴェンの他にオーディンスタールのアンドレアスとも親しいそうだ。気のせいか、南ティロルとドイツの生産者のコンタクトが近年目立つ。
醸造所の建物は近年改築したばかりで真新しい。モダンでシックで、大抵の醸造家がうらやましがりそうだ。清潔なコンクリート打ちっ放しの空間にバリックとシュトゥック樽が並び、隣接する昔からある醸造設備にはタイル張りのコンクリートタンクがあり、整備して今も使っている。そういえば、バーデンのクルンプの醸造所も最近非常にモダンになってリニューアルオープンした。ドイツワインの勢いを感じる。
スヴェンのリースリングは畑によって明確に味が異なり、冷涼な畑は直線的なボディにシトラスの酸味、暖かい畑はたっぷりとして滑らかでエキゾチッックな果実が香る。その日飲んだシュペートブルグンダーはしかし、どうも大人しくて、日本で飲んだ時の繊細で女性的な魅力は出てこない。今にして思えば気温がすこし暖かすぎたのか。それとも直前に訪れたフランク・ヨーンのインパクトが強かったのか。多分、もう一度飲むとまた印象が変わるだろう。
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