・ FIO の醸造哲学
時間は前後するが、 2002 年にディルク・ニーポートはオーストリアの PR エージェント、ドルリ・ムーアと二度目の結婚をし(最初の妻はスイス人でダニエルの母)、二人でオーストリアのカルヌントゥムにある醸造所ドルリ・ファン・デア・ニーポート Dorli van der Niepoort を運営していた。しかし 2012 年に離婚。翌 2013 年にディルクはモーゼルのケッテルン醸造所を訪れ、ケッテルンとのコラボレーションに取り掛かった。ディルクの長男ダニエル-母はスイス人でドイツ語は堪能-がドウロからモーゼルに来て 4 年余り滞在し、ワイン産地モーゼルを学んだ。こうしてディルク、フィリップ、ダニエルの 3 人によるプロジェクト、 FIO Wines がスタートしたのである。(参考: Muhr-van der Niepoort wird zu Weingut Dorli Muhr - Falstaff )
ディルクはまず、ケッテルンの 2012 年産の中で特に気に入った一樽を購入した。そしてジュラのナチュラルワインの先駆者のひとりジャン=フィリップ・ガヌヴァにインスピレーションを受けて、長期間樽で寝かせることにした。瓶詰まで亜硫酸を添加せず、澱引きもせずにそのまま 2 年半フーダー樽で寝かせてから、ごく微量の亜硫酸を添加して瓶詰。それが醸造所名となる FIO -ポルトガル語で「糸」を意味する-のファーストヴィンテージとなった。翌 2013 年産は 2016 年 10 月に瓶詰したので、丸 3 年樽熟成したことになる。

フィリップ・ケッテルンの奥さんのリンダさん。
私が訪問した時はフィリップの奥さんのリンダさんが相手をしてくれたので、少しだけ顔を出したフィリップ氏からも直接じっくり話を聞くことはできなかった。ただ、 2017 年 2 月にドイツの有名ソムリエ、ヘンリック・トーマの YouTube で、ディルク、ダニエル、フィリップの 3 人を迎えてのトークセッションがあったので、その時の内容を織り交ぜて紹介する。( 29. Livestream "Das Fio Riesling-Paket von Niepoort und Kettern" (youtube.com) )
フィリップは言う。「発酵中の果汁を信頼することが大事。樽に長期間入れておくのはリスクを負うことではある。醸造期間中何度も試飲するが、変な臭いがすることもある。俺たちは何か間違っているだろうか、と不安になる。腐った卵のような臭いがすると、醸造学校ではポンプを使って樽を移して空気にふれさせよと教えるが、それはドイツ的な心配性の表れだ。失敗することへの不安から樽を移すなどいろいろ操作して、結局だめにしてしまう。そうではなくて、ワインと真摯に向き合い、信頼することから美しさは生まれる」と。
ドイツの常識はポルトガルのそれとは異なることを、ディルクは指摘する。「モーゼルでは一つの区画を 5 回にわけて収穫することもある。収穫期に入るとブドウは次第に色を変える。熟し始めの緑色を帯びている状態のブドウでカビネットを収穫し、次に金色に熟した房をシュペートレーゼ、過熟して貴腐が混じるとアウスレーゼというふうにスタイル別に収穫する。これはドイツ人らしい完璧主義のあらわれともいえる。
しかしポルトガルでは全部一度に、正しいタイミングで収穫する。この場合の正しいというのは科学的なものではなく感覚的なものだ。貴腐のついた房はえり分けるが、それ以外はいろいろな状態のブドウが一緒になっている。完璧を目指しているのではない。緑色のブドウや過熟したブドウはそれぞれに異なる要素をワインにもたらす。それが興味深いワインを生むのであり、ポルトガルのやり方だ」。
「ディルクはブドウ畑を一度に収穫するといったが」と、ドウロで収穫作業に加わったことのあるフィリップは言う。「ポルトガルで 35 種類のブドウを前に選別作業台に立ったときはすばらしかった。私はブドウを食べるのが好きで、その多様性に感動したし、これが一つのワインになると、また違う味わいになることに感銘をうけた。美しさは多様性から生まれるのだと学んだ。樹齢、品種、土壌、標高 … 」。
(つづく)
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