もそもそ

もそもそ

忠犬の証明


1.疑われて

 アキは、道路に面していない庭で飼われていたせいか、めったに吼えることがなかった。道を歩いていて、わんわん啼く犬に会っても冷静にじろっと見るだけ。当時、シェルティがはやっていて、その鳴き声を消すために、声帯手術がマスコミで騒がれていた。アキがあまり啼かないので、近所で、あの犬は声帯手術をしたらしいと噂がたった。まあ、ごくまれにアキが吼えると「あ、啼いた」と言われるほどだったから。

2.お客様

 お客さんが来ると当然アキは啼いて知らせる。ところが「アキ、わかったよ お客さんだよ」と言うとぴたっとなきやむものだから、来る客来る客「まあ、なんてかしこいワンちゃんでしょう」となった。別に訓練をしたわけでもないが。

3.行きと帰りは同じ数

 アキと近所の小川へ散歩に行くことが度々あった。私1人のときもあり、父や母と一緒の時もあった。たまに、「もう疲れたから私は近道をして帰る」と母が言うときや、父の長話にしびれをきらして「私、先に帰る」と言うときもある。
しかし、そこにアキがいると話は別。お母さんが近道するなら、アキも近道。お父さんを置いて帰るなんてとんでもない。てこでも動かない。必ず行った人数と帰る人数は一緒でないと。家に帰りさえすれば、そこからまたどこへ出かけようと気にはしなかったが。

4.ではむりやりわかれたら

 アキは決して人間の近くをはなれなかった。たとえノーリードにしても、人の数歩先を淡々としてあるく。けっして暴走したりしない。で、母と2人で散歩に行ったとき、どうするだろうと川を挟んで両側を母と私が別れて歩いてみた。(なんと悪い人間だろう)アキはしばらく橋を渡ってあっちこっちしていたが、だんだん橋が遠くなると、アキはあきらめてなんと、川(浅かった)の真ん中を歩き出した。ちょうど母と私の真ん中だ。

5.田んぼの歩き方

 アキの行く河川敷は周りを田んぼに囲まれている。アキも時には、おしっこをしたり、においをかいだりして、人から少し離れることがある。離れると「アキ」と呼ぶと勇んで駆けてくる。田んぼは四角い。そこを斜めに横断すれば近いのに、アキはけっして田んぼに足を踏み入れることなく、あぜ道を走ってくる。


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