Laub🍃

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2017.05.19
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カテゴリ: ●少年漫画
人は忘れるから生きていける。
人は忘れないから生きられる。

「辛い思いをした瞬間さえ知らなければ人は傷に対していくらか鈍感になれる」
「アイリウムはそういうドラッグだ」
「その瞬間を乗り越えるのに酷く苦労する奴の為に…」


「今 この瞬間は後でどういう思い出になるのだろう?」ー売れない映画監督

「ここでこいつを殺しても 後で綺麗さっぱり忘れる事が出来るんだ」ー兵士
「ー本当に 何も変わらないのか?」
「あいつは明日に辿り着けなかった」



「昨日少し変化を遂げた相手を今日少し変化した自分が改めて好きになるんだ」
「オレは洋子の記憶を愛していたんだ」ー別れた妻子持ちのロックンローラー

「早く抜けなきゃ」「このまま記憶を失うのは危険すぎる」ー逃げたいホスト

「逃げたい気持ちなら私にも」「何故私は飲まないんだろう」ー汚れ役の女医

「目覚めたらパッと次の人生なんて アイリウムみたいだね」ー夢の中の彼女
「ごめん」
「オレやっぱり…」ー現実を捨てかけていた薬学の研究者



アイリウムは平等に忘れさせる薬。
良い事も悪い事も、無駄な事も為になる事も、憎しみも愛も、
自分自身の変化さえも。

飲んだ直後から、服用者は『裏側の自分』ーいつかくる未来の自分にとっての、感知しない自分として生きることになる。



半錠飲めば、6時間の記憶を。
四分の一錠飲めば、2時間の記憶を。


何錠も飲めば、何年、何十年もの記憶を失う。


その間に得た名誉も、ぶち当たった壁も、対立した時の衝撃も、支え合った温もりも全てがリセットされる。

ドラえもんの秘密道具、「退屈な時間を(体感時間の加速によって)飛ばすことが出来るタイマー」と原理も皮肉も似ているといえば似ている。






ある漫画で、「心理療法だとかいって忘れてたトラウマを掘り起こしたらそのトラウマに殺された奴が居る」と語った軍人の話があった。

ある漫画で、「俺が覚えていなければ誰もあいつらのことを覚えてない」と語る復讐者の話があった。

ある漫画で、「ここに来て3年目 死のうかな と 思う」と語るくたびれた格好の副村長の話があった。

記憶はあやふやな癖に人を殺せるし壊せる。
だからこそ忘れる事も一つの選択肢なんだろう。

だけど、本著の主婦編での
「記憶の裏側なら何を言っても許されるっていうの?」
「知らないままでよかったとは思えない」
や、
ホスト編の
「オレらには優しいし…」
「オーナーが何でろくに稼げない俺達に優しいか知ってるか?」
や、
女医編の
「医者が人の死と向き合わずにどうする」
や、
映画監督志望の
「この身に刻んでおけばよかった」
を見るにつけ、

悪い記憶と向き合うからこそ得られる武器はあるんだと思う。

特に、現在未だ壁とぶつかっているなら、未だに脅かされ続けているのなら、忘れていないからこそ立ち向かえるんじゃないかな。


記憶がなければ夢も抱かず、
記憶がなければ人を憎まず、
記憶がなければ己を壊さず、


ずっと目の前のものだけ追って行ける。
衝動に身を任せ続ける人生、後先考えなくていい人生。

それは一つの天国かもしれない。

奪われたものすら感知できない天国。


それに対し、最終章の研究者はこれからどう接していくのか。

続きを是非読みたいです。


***


・この話の中であまり出てこない概念について。

 ・日記。
  絶望の世界(精神汚染系日記)やバタフライエフェクト(日記でタイムスリップ)のように、「忘れていた事」と「日記」の相性はとてもいい。
  日記に叩き付けるからこそ普段は忘れていられることもあるし、書かなければ思い出さなかったのにと後で感情がぶり返すこともある。

 ・いくら身体が覚えているからといっても忘れまくってる人が映画作ったり戦い続けたりできるのか?
  All You Need Is Kill(精神遡行して鋼の精神を造る軍人)のように、罠を罠として、得た道具を次から有効活用するものとしてとらえるからこそできる闘い方を、アイリウム服用者は出来ない。

 この答えとしては「どうせ忘れるんだから思い切った挑戦が出来る」「どうせ忘れるんだから罪悪感抱いて躊躇・容赦することがない」といった本人たちにとっての長所?が短所?を上回るからなんだろうな。

 ホスト編の記憶トリック犯罪では完全に「どうせ忘れる」が悪用されていたから主人公はアイリウムから逃げられたし、映画監督編の記憶タイムスリップでは世界が変化し過ぎたことへの驚きと焦りと虚しさが勝ったから主人公はアイリウムの恐ろしさに気付くことが出来た。

 だけど、この兵士は今更アイリウムの服用をやめることは難しいのかもしれない。

 覚えていたら責任が生じる。
 覚えていたら躊躇が生じる。
 覚えていたら自分が殺される。

 一か月目の新米なら、普段の日常以外の記憶がないのなら、戦友が死んだ記憶すら残っていないなら、繋いで行ける。首の皮一枚で。

 彼は過去を忘れる事の出来ない薬の服毒を、未来を忘れる事を続ける。


 過酷な現実を、終わらない断続的な夢とし続けて。


「記憶って何なんだろうな」


 目が覚めた時にあるものは、薬を飲んでいる間に産まれたものをどう捉えればいいかも分からず。

 酒で酔っ払って覚えていない状態とある意味「未来を殺す」意味で共通しているアイリウムに抗うものは、人間の意志や好意だけでは到底力不足。

 だからこそ、忘れても脳味噌に染みついているものが必要となる。

音楽か、
恐怖か、
罪悪感か、
憎悪か、
愛情か、
悪意か、



それとも、それらを総称しての

狂気があるからこそ、アイリウムはまだ人の支配下に置かれうるのかもしれない。




……とはいえ、アイリウムは単なる道具に過ぎなくて、
本当に未来を殺しているのは過去の「いいやこれから数時間忘れてやる!!」っていう衝動、決意なんだけどね。




未来の自分と過去の自分、どちらに比重を置くか。
それが記憶の話の最も面白いところだと思う。



アイリウム1巻【電子書籍】[ 小出もと貴 ]



辛い事があると、忘れようと思う人が居る。

忘れた自分なら懲りずに挑めると思うから。

この人は、未来を常に見ている。
何故ならこの人の視座は常に過去にあるから。


辛い事があると、変わろうと思う人が居る。

変わった自分なら耐えられると思うから。

この人は、過去を常に見ている。
何故ならこの人の視座は常に未来にあるから。





アイリウムは、そんな「過去からの訪問者」ばかりを大量生産する薬。

弱い人を弱いままで生かす薬。
無知な人を無知なままで生かす薬。



弱くても生きてみようと思った記憶を殺す薬。
無知でも挑んでみようと思った記憶を殺す薬。


楽しい記憶を抱きかかえ、
逃げなかった日の景色を踏みにじる薬。





私も、ある課題やある人に接する時は歪んでしまう自分自身に耐えられなくて、自分自身が歪まないように飲むかもしれない。

悪感情は全て忘れたら生きやすくなるわけじゃなく、ふとした瞬間に噴き出して大変なことになる…それを噴き出さないようにしてくれる鍵がアイリウムなんだとしたら、それに縋るかもしれない。

宗教も、だれだれが居るから耐えられると言う文言も、しばし常世の憂さを忘れられるピンク色の極楽浄土もアイリウムと近いものがある。
全部弱い人間を生かす為の道具として人気を集めている。


そんなものに頼ってしまうけれど結局正常で居られる人は弱いのだろうか。
そんなものに頼らないようにして結局壊れる人は強いのだろうか。


人はいつから、強い道を選ぶことと弱い道を選ぶことを自分の手で決められるんだろうか。




*******
追記。

個人的にはこの話、大喜利で色々なパターンの話とかけあわせてみたいと思う。

・恋する相手をいつまでもうぶで居させたい場合とか
・他の相手に目移りせず、永遠に「自分に惚れた時」の相手のままで居てもらいたいとか
・アイリウム呑ませる→相手に対して自分の都合悪い部分を明かす→反応を見る→記憶喪失後もういちど試す
・DVひとしきりやる前にリセット
・→逃亡防止

 ってことが可能そうなヤンデレ・後ろめたいことがある人御用達薬なわけだし・・・。





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最終更新日  2017.05.27 19:39:48
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