思想悩労。

Jan 9, 2005
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『忙しいこと』は嫌いでは、無い。

確かに『生きていること』を実感できるから。










相変わらず、毎日は忙しい。

追われるように日々が過ぎていく。

『自宅に帰ること』は『寝に帰ること』に等しい。

帰宅と同時にシャワーを浴び、

寝支度を始める。

そして―

パソコンを立ち上げる。










― 今日の、『彼女』の日記を読むために。 










*****
「奇跡、だ。」とその後、

彼女の主治医は洩らしたらしい。

病状は驚くほど快方に向かっていった。

「人の生きたいという思いの強さには、本当に驚かされるわ。」

ベテラン看護婦は笑顔で、言った。



彼女と最後に会ってから1年が経とうとした頃、

『日記』が突然、更新された。

途切れる前と

何ら変わらない日常。

それが綴られ始めた。

それを目にして、すぐに病院の図書室に走った。

―そこには彼女の姿は無かったが。

代わりにあの、看護師の姿を見つけ話を聞くことが出来た。



彼女はその後、退院できるほどまで回復した、と。

「つい先日、退院したところよ。」と

普段、気難しい顔をしている彼女が笑顔で話す。

―全身の力が抜けるようだった。

安堵。

心から、嬉しかった。





「これを。」

彼女が白い封筒をナースセンターから持ち出す。

「彼女から、預かりました。あなたに、って。」

「きっと、ココに来る筈だからって。」

封を切り、中身を開ける。

便箋が1枚だけ。





そこには、感謝の気持ちが綴られていた。

何も、出来なかった自分宛に。

彼女に会いに行ってから、少しずつ回復に向かったこと。

少しでも早く日記を書けるように治療を頑張ったこと。

また、日記を読んでもらえるように一生懸命書く、ということ。

そして、最後に。



― ありがとう。私は、元気です。 ―



と書かれ、手紙は締められていた。









*****
彼女の日記は、入院していたときのそれと変わらず

生き生きと日常が描かれ、

瞳を閉じるとその風景が浮かんでくる。

けれど。

彼女にとってはその風景はもう、瞳を閉じて見ている風景では、無い。

実際に彼女が目にした風景、

実際に彼女が触れる日常、

実際に彼女が感じた感情、

それが溢れている。





変わった日常では無い。

『普通』の日常。

でも、それはとても喜びに満ち溢れているように見える。

時に迷い、悩み、涙し、

時に笑い、喜び、恋をして。

そんな『普通』の日常を送れること。

彼女にとってそれは、とても素晴らしいことなのだろう。





どんなに忙しくても

寝る前に彼女の日記を読む。

それが日課。

今日も日記に目を通す。

幸せな『普通』の日常が綴られて、

そして日記の最後は、必ずいつも同じ言葉で結ばれる。










― 私は、元気です。 ―









そして、また

彼女の見た風景を見るために

瞳を、閉じた。





The End
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Last updated  Jan 9, 2005 04:11:45 AM
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