りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年09月22日
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今日の日記




「ある女の話:アヤカ35」



水も忘れずに。

仕事がどうだったか聞いてくる。
残業も、ホントは社員がやるべきなんだろうけど、
社員の残業代より派遣の時給の方が安いから、
派遣をなるべく使うようにするのが会社の方針だってことを謝っていた。

別にウエノさんのせいでは無いのにね。

関西の方の会社と何かプロジェクトをいっしょに立ち上げるとかで、
これから忙しくなるって言っていた。
今回の資料もそのためのものらしい。

そういえば、よくどっかの会社の企画室の、
スマさんとか、アヤベさんって人から電話がかかってきているって、
取次ぎの声を聞いた。
その人たちはタイプが全く逆だから、指示が違ってて、
社内の人たちが苦労してそうだって笑ってた。

私は、そういった仕事の内情をいろいろ聞いたことで、
上に立つ人はいろいろと大変なんだろうな…と思った。

最近、ウエノさんは私達の間で評判良かったんですよ。
なんて話をしたら、ウエノさんはちょっと照れたように笑った。
最初はどうしていいのかわからなかったし、
態度悪かったからなぁ~、俺。
なんて、僕から俺に代わっていた。

時々、目が私をジッと眺めるので、
少しドキッとした。
女性扱いされているような気がして。

あはは。
まさかね。
この人、眼鏡はずすと雰囲気変わるから困るよ。

この前と同じようにコーヒーで酔いを醒まして、
同じように家の近くまで車を走らせてくれる。

「今日も車でラッキーだったな。
タカダさんと最後にこんなふうに過ごせたし。」

ウエノさんがそんなこと言い出すので、
よっぽど家で独りなんじゃないかと思った。
家で食べられないのかな?

「やっぱり家で食べたいって、
奥さんに言った方がいいですよ。」

私の言葉に、
そうだね~、
すっかり子供ペースになっちゃったからね~、
って流したように笑う。

「タカダさんが会社に来てくれて良かったよ。
ホントにありがとう。」

話を逸らされたような気がしたけど、
私もそれに合わせる。

「こちらこそ、今日も本当にありがとうございました。
いい送別会をしてもらいました。」

「うん…。
何て言うかさ…」

ウエノさんが何か言いたそうにしてるけど、
なかなか言わないので、
私は次の言葉を待つ。

「タカダさんと飯食べてから、
会社に行くのがすごく楽しかった。
まるで高校生の時に戻ったみたいでね。
好きな子を遠くから眺めるみたいに。
来週からいないと思うと残念だよ。」

いきなりの告白に、
一瞬で車の中の空気が変わった気がした。

「カミさんの気持ちがちょっとわかった気がしたよ。
ありがとう。」

ウエノさんは穏やかにそう言った。

ああ、そうか…
もしかして、そういうことだったんだ?
ウエノさんの一言で、
何となく、ウエノさんちに何があったのか、
わかったような気がした。

淋しい。
心の揺れが淋しい。
それが伝わってくる。

車が止まる。
私の家の近くで。
この前降ろしてくれた所だ。

ウエノさんが私をちょっと淋しそうにジッと見て言った。

「懐かしい、イイ気分にさせてもらったよ。
ありがとう。
元気でね。
これからも、ガンバって下さい。」

私も目を逸らせなくて、
堅い空気をほぐしたくて、
何とか言葉を絞り出す。

「いえ、そんな…。
ウエノさん、まだまだ魅力ありますよ!
年上の魅力!
イケてますって!」

何だソリャ?
浮気の勧めか?
って、自分でもワケがわからなく力説する。
ウエノさんがアハハと笑った。

「今日も、本当にありがとうございました。
送別会してもらえて嬉しかったです。
ウエノさんも、仕事ガンバって下さいね。」

ウエノさんが優しくうなずいたので、
私は安心して車を降りようとした。

「タカダさん」

はい?って振り返った一瞬だった。
ウエノさんの唇がスッと私の唇に触れた。

ウエノさんはいたずらっぽく笑って、
「さよなら」
って言った。

私は何が起こったのかよくわかってなくて、
「はい、さよなら」
って。
わかった時には車を降りてて、
笑顔で手を振るウエノさんについペコリと頭を下げてた。

ウエノさんの車はププッとクラクションを鳴らして去って行った。

人間、思いがけないことが起こると、
何してるかわからないものなんだ?
って思った。

今何された?
何でお辞儀なんてしてるの私?
え?え?え?

家の明かりは点いて無かった。
そのことに安堵する。
電気をつけたら、
ついヘニャヘニャと足が崩れた。
自分の唇に指を触れてみた。

心臓が大きな音を立てているのは、
酔いが残ってるせいなのか、
走って帰ったせいなのか、
キスされたせいなのか…。

でも、ちょっとわかったことがある。

結婚したから心が揺れないってことは、
やっぱり無い。

私は思い出さないように、
首をブンブン振った。

ただいま~ってヒロトが帰ってきたので、
私は、おかえり!って抱きついた。

わっ!何?何?どしたの~?

まるで怖いことがあった時に、
お母さんに抱きついてた子供の頃のように、
私はヒロトに必死でしがみついていた。

ヒロトはハイハイって、私を抱き締め返した。







続きはまた明日

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最終更新日  2009年09月22日 18時47分29秒
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