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松本清張『点と線』~新潮文庫、1987年改版(1995年82刷)~ あまりにも有名な長編作品ながら、今回初めて読みました。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 博多付近の海岸で、青酸カリ中毒で死亡した男女2人の遺体が発見された。 情死として処理されていく中、古参の鳥飼刑事は、男性が持っていた列車食堂の受取証に記されていた「御一人様」という記載に疑問を持つ。なぜ、女性は一緒ではなかったのか。捜査を進めるうち、違和感はますます募るが…。 一方、遺体で見つかった男性―佐山は、汚職事件が摘発の進行中だったある省の課長補佐だった。その線で捜査をしていた警視庁捜査二課の三原警部補が、福岡署を訪れる。三原は、鳥飼の話に興味を持ち、あらためて事件を捜査していく。その中で、男女が特急を乗るのを見ていた目撃情報に、作為的なものがあったのではないかと考えるが、疑惑をもった男のアリバイは完璧なようだった。さらに、事件に関与しているという思いは強くなるが、どう関与しているかもなかなか見えてこず、三原の捜査は難航していく。――― 平野謙氏による解説によれば、本作は「推理小説としては松本清張の処女長編」(228頁)とのことです。また平野氏の解説には、肝心のネタはさすがに割らないものの、やや詳しく説明があるため本作未読の場合は注意が必要ですが、クロフツなどアリバイもののミステリの系譜の中に、本作の意義を位置付けていて、興味深いです。 さて、私は横溝正史作品からミステリに興味を持ち、その後、当時活況を呈していたいわゆる「新本格」(つまり、いわゆる「社会派推理小説」へのアンチテーゼ)を中心に読む、といったあたりから読書を始めているので、本書をはじめとする社会派推理小説はあまり読んできていませんでした。とはいえ、本作はとても面白かったですし、以前紹介した『砂の器』も面白かったので、食わず嫌いはもったいないと再認識した次第です。時間は有限なので、なにもかも読むのは難しいですが、これからもいろいろ読んでいきたいとあらためて思った次第でした。 意味不明な感想になってしまいましたが、あらためて、今回読めて良かったです。 良い読書体験でした。(2024.01.30読了)・ま行の作家一覧へ
2024.05.11
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松本清張『砂の器(上・下)』~新潮文庫、1973年~ あまりにも有名な松本清張さんによる長編推理小説です。――― 蒲田駅操車場で、男の死体が発見される。死体の顔はめちゃくちゃにつぶされ、また、線路に乗せられており、駅員が気づかず電車が出発していたら、つぶれる状態にされていた。 駅近くのバーで被害者と思しき男性と若い男性が話しているのが目撃されていた。被害者は、ズーズー弁をしゃべる特徴があったが、一緒にいた男性は顔を見られないようにしていて、特徴がつかめなかった。 そこから、警察の捜査は難航する。二人が話していたという「カメダ」という言葉が唯一の手掛かりだったが、有力な被害者の身元もなかなか判明しない。 警視庁の今西刑事は、若い吉村刑事とコンビを組み、任意捜査に切り替わってからも、この事件の真相を追い続ける。――― その後も、被害者特定後も、被害者は故郷で善人として評判で、恨みを買われるような背景が全く見当たらないと、捜査が進んでも行き詰ってしまうことがしばしばです。さらには、今西刑事が重要とにらんだ関係者が次々と謎の死を遂げて行ったり、既存秩序を批判する若い文化人たちの集団「ヌーボー・グループ」のメンバーが不審な動きをしたりと、果たしてどのようにそれらが関わってくるのかも読みどころです。 電車の窓から紙吹雪を飛ばす女性のエピソードから一気に事態が進展し、先にも書きましたが、一進一退の調査状況にわくわくしながら読み進めました。 一つだけ、本編ではありませんが、解説にかなり犯人の背景が書かれていたのが残念というか(時代なのか、謎解きに重きを置いていないのか)びっくりしましたが、本編を読んでから解説に目を通してよかったです。先に解説を読んでしまう方は本編の面白さがかなり減ってしまうのでは…。 ともあれ、物語は ラストも好みで、良い読書体験でした。(2023.01.03読了)・ま行の作家一覧へ
2023.04.29
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村山由佳『野生の風』~集英社、1995年~ 村山由佳さんによる長編小説です。 染織家・多岐川飛鳥さんは、「わがままで奔放な女」というレッテルのかわりに、作品に高い値が付き、学生時代からのように海外を飛び回り、様々な色彩に触れることができていました。 そして、ベルリンの壁が崩れた夜、彼女はベルリンにいて、写真家・藤代一馬さんに出会います。これまで様々な国で様々な男性と恋愛してきた飛鳥さんですが、一馬さんにとりわけ惹かれます。…が、国内での仕事のため、いったん帰国します。 その後、様々な事情で彼からもらった連絡先も破棄し、再開していなかった飛鳥さんですが、ついに一馬さんがいるアフリカに(再会目的ではなく)わたります。そこで、衝撃を受けるほどの色を見る飛鳥さんですが、個人的な事態も思わぬ方向に動き始めます。 本書の主要な登場人物として、飛鳥さんの高校時代の同級生で、出版社で編集者として働く柴田祥子さん、そして一馬さんの助手のような存在の浩司さんがいます。 読み進めるにつれて、ぶっきらぼうだった浩司さんが好ましく思えてきましたし、実はすごく重要な役割を果たしていますが、上の概要にはうまく入れられませんでした。 また、アフリカで飛鳥さんの最初の案内役をつとめてくれたロレンスさんが素敵すぎます。 物語自体はややつらいですが、アフリカでの動物たちの、ただ生きる姿や、それを写真におさめる一馬さんの姿勢など、印象的なシーンも多く、以前紹介した『天使の卵』同様、こちらもじっくり味わって読めました。(2022.11.29読了)・ま行の作家一覧へ
2023.03.21
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村山由佳『天使の卵』~集英社、1994年~ 1993年、第6回小説すばる新人賞受賞作の長編小説です。 物語の主人公は、美大を目指しながら浪人生となった一本槍歩太さん。幼い頃に父親が精神を病み入院し、歩太さんは母の営む小さな飲み屋の手伝いをしながら、勉強を続けていました。 ある日、予備校に向かうために乗った電車で、彼は気になる女性を見つけます。満員電車に乗るのをためらっている彼女のために場所をあけたり、押し倒れそうになるときに彼女をかばったり…。話もしないままに駅で降りた歩太さんは、そのことを後悔しますが、後日、意外な場面で再会することになり…。 何年もコミュニケーションがとれない父。母を慕う常連さんと、二人をひやかす歩太さん。また歩太さんは、大学に合格した恋人と少しずつ疎遠になっていき、そんなとき出会った女性…。と、主な登場人物はこうした人々ですが、大きなドラマの連続で、衝撃的な展開でした。 一方、節ごとは短く、緩急ある構成となっていて、大きな出来事と日常がうまくバランスをとっていて描かれるので、重さにやられてしまうこともありませんでした。好みの構成でした。 タイトルはアクセサリーの名前とのことですが、主人公が「画家の卵」であることに気付き、タイトルの奥深さをかみしめた読後でした。 十何年も前に人から「面白いよ」と聞いていた物語で、この度読めて良かったです。 つらくもありますが、好みの物語でした。(2022.11.19読了)・ま行の作家一覧へ
2023.03.18
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武者小路実篤『友情』~新潮文庫、1987年改版~ 武者小路実篤(1885-1976)は、『白樺』創刊(1910年)の中心となった人物。学習院中等科の頃に志賀直哉と親しくなり、後に東京帝国大学哲学科社会学専攻に入ります。そのころから様々なジャンルの創作活動をはじめます(小田切進「武者小路実篤の文学」本書137-145頁参照)。 『友情』は、そんな武者小路実篤による、あまりにも有名な作品のひとつです。 若き脚本家である野島は友人である仲田の妹・杉子の写真をみたときから、彼女に惹かれていました。ある日、友人の誘いで、ライバルの脚本家・村岡の劇を観に行きますが、それは杉子も来るからでした。そして本人に会い、野島はますます杉子に惹かれていきます。 彼女のことをどんどん理想化していく野島ですが、なかなか仲田の恋愛感情などとは分かりあえません。そこで、別の友人、大宮に恋のことを話します。大宮が支えてくれるので、野島は杉子への恋を深めながら、その思いをどんどん大宮に語っていきます。 いろんな場面で嫉妬に苦しみ、杉子への怒りを感じながらも、また杉子と話ができれば気持ちが落ち着き……と、野島のぐるぐると渦巻く内面が描かれます。大宮が杉子にあえて距離をおくなど、大宮は脚本家としても認める野島への友情を大切にします。 しかし、はたして杉子の思いは……というのが、この物語の大きな流れです。 あまりにも有名な作品でありながら、おそらくこのたび初めて読みました。 一節一節が短く、また対話も多くて読みやすかったです(この点、亀井勝一郎氏の「解説」で、武者小路実篤は「小説家と言うよりは戯曲家にふさわしい筆致をもっている。つまり対話が根底となり、対話が原動力とならぬかぎり、筋を発展させていくことができないのだ」(148頁)とやや極端な指摘をされていますが、少なくとも対話が重視されているのは納得でした)。 野島さんと大宮さんの友情と葛藤。1919年から大阪毎日新聞に連載されていた作品のようですが、こういうテーマは今も大きな違和感もなく、すっと入り込めました。(2022.11.16)・ま行の作家一覧へ
2023.02.25
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宮沢賢治『風の又三郎』~角川文庫、1988年~ 9編の童話などが収録された作品集です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「風の又三郎」風の吹いた日、学校に見知らぬ子どもがいました。彼―転入生の三郎を、子供たちは風の又三郎と呼びます。子供たちと又三郎の交流と別れを描く物語。「とっこべとら子」人々を化かす狐のとら子の物語。「祭の晩」山の神の祭に、お金が足りないのに団子を食べてしまって困ってしまった山男。見かねた少年が男を助けると、後日、男は約束を果たしてくれます。「なめとこ山の熊」熊捕り名人の淵沢小十郎と、熊の約束を描くお話。「土神と狐」女の樺の木と話をするのが好きな土神と狐は、仲が良くはありませんでした。ある日、樺の期と仲良く話している狐を見て、土神は嫉妬にかられてしまい…。「虔十公園林」→『銀河鉄道の夜』(新潮文庫版)で紹介。「化物丁場」事故が繰り返される丁場の話。「ガドルフの百合」「マグノリアの木」――― 最後の2編はよくわからず内容紹介を省略しました。「風の又三郎」は有名ですが、おそらく初めて読みました。「なめとこ山の熊」は教科書かなにかで読んだことがあったはず、という淡い記憶がよみがえりました。 好みだったのは、「土神と狐」。神の嫉妬というテーマが面白く読みました。 全くの余談ですが、先に紹介した『銀河鉄道の夜』は新潮文庫版、本書は角川文庫版で買ってしまい、収録作品に重複があるなど、ちょっと失敗したな、と反省。どちらかで統一して揃えていけばよかったと思った次第でした。(2022.11.06読了)・ま行の作家一覧へ
2023.02.18
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宮沢賢治『銀河鉄道の夜』~新潮文庫、1961年~ 宮沢賢治さんによる童話8編と戯曲3編を収録した作品集です。 簡単に内容紹介と感想を(戯曲はタイトルのみ)。―――「虔十公園林」子供たちにばかにされていた虔十は、杉苗を植え、林をつくります。しかし、その林もばかにされるのですが、やがて…。「よだかの星」みにくく、ほかの鳥からばかにされていたよだかが、遠く遠くへと飛んでいく話。「やまなし」蟹のこどもたちが「クラムボン」の話をしたりする物語。(むかし、教科書で読みました。「やまなし」というタイトルだったのですね。)「雪渡り」二人のこどもが、子ぎつねに、幻灯会に招待される話。「銀河鉄道の夜」父親のことを旧友に悪く言われていたジョバンニが、祭りの夜に出かけ、気づけば列車に乗っていました。中には、友達のカムパネルラもいます。二人は、様々な乗客と話しながら、遠く列車に乗って進んでいきます。「双子の星」ボウセ童子とチュンセ童子が、カラスとサソリのケンカを仲裁し、感謝されます。しかし、悪い彗星にだまされて、海の中に落ちてしまい…。「ざしき童子のはなし」タイトルどおり、ざしき童子がどんな存在かを、いくつかのエピソードで紹介します。「グスコーブドリの伝記」イーハトーヴの森に生まれ、飢饉の際に両親と妹と別れたブドリがたどる生涯を描きます。「ポランの広場」(戯曲)「植物医師」(戯曲)「飢餓陣営」(戯曲)――― あまりに有名なのにもかかわらず、恥ずかしながらおそらく表題作や「グスコーブドリの伝記」を読んだのは初めてなので、物語の面白さもともかく、単純に勉強になりました。 特に好みだったのは冒頭の「虎十公園林」。ばかにされていた少年が残した財産が素敵です。 「よだかの星」も有名ですが、好みでした。 表題作は正直よく分からない部分もありましたが、印象的なことばに出会えました。「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでも、それがただしいみちを進む中でのできごとなら、峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから」(99頁)。また、青白い顔のおとなが紹介する、地理と歴史の辞典の話も印象的でした。 「グスコーブドリの伝記」は、ひたむきに働き、学ぶブドリが素敵です。(2022.10.30読了)・ま行の作家一覧へ
2023.01.22
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖III~扉子と虚ろな夢~』~メディアワークス文庫、2022年~ 扉子さん編第3弾の長編です。幕間をはさみながら、大きく3つの本をめぐる物語からなります。 古本屋を継ぐ予定だった男性が亡くなり、元妻は自分の子に相続権があるため、男性の本をすべて子に相続させたい、とビブリア古書堂を訪れます。というのも、亡くなった康明さんの父、正臣さんが、康明さんの蔵書をすべて引き取り、デパートで開催される古本市で売り払おうとしているので、蔵書が売られてしまうのを防ぎたい、というのです。 一方、依頼主の子―正臣さんの孫の恭一郎さんは、正臣さんにお願いされ、古本市の手伝いのアルバイトをします。そこで扉子さんに出会い、本についての話を聞いたり、古本市で起こった奇妙な出来事の解決に立ち会ったりします。 映画パンフレットの袋に書かれたアルファベットが意味するものは。 樋口一葉の数ある本の中から、1冊だけいつの間にか売れてしまった理由は。 夢野久作『ドグラ・マグラ』をめぐる物語とは。 そして、そこまで乱暴な人ではなかったはずの正臣さんは、なぜ亡くなった康明さんの蔵書を相続させず、売り払おうとしているのか…。 これは面白かったです。 後味が良くはありませんが、それでも扉子さんと恭一郎さんのほほえましい交流や、同じく栞子さんと大輔さんの微笑ましいやりとり、古本市で一緒に働く古本屋の人々の人柄など、あたたかい要素も盛りだくさんでした。(2022.07.31)・ま行の作家一覧へ
2022.12.03
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖II~扉子と空白の時~』~メディアワークス文庫、2020年~ 扉子さんが登場する、シリーズ再始動後の第2作。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 2012年。 3姉妹の長女が亡くなり、彼女の秋世が持っていた一冊の本が盗まれていた。長女の双子の妹、春子と初子はお互いにいがみあっていて、初子が疑いの目を向けられていた。―そのように、初子の娘、井浦清美がビブリア古書堂を訪れ訴える。 盗まれたのは、単行本が刊行されたことがないはずの、横溝正史『雪割草』。存在しないはずの本だが、その家にはあったということで、栞子はどのような本だったのか、推理を進める。同時に、盗みについても調べるが、初子にはアリバイがありそうで…。――― 2012年、完全に解決できなかった事件が、9年後(『雪割草』の原稿が発見されて単行本も発売された後)に解決をみる、という、作中でもありますが、『病院坂の首縊りの家』のような構造で、横溝正史の作品が好きな身としては嬉しい物語でした。 同時に、幕間に語られる、扉子さんと『獄門島』をめぐるエピソードも秀逸にして印象的です。 これは面白かったです。(2022.07.30読了)・ま行の作家一覧へ
2022.11.26
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麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』~講談社ノベルス、2021年~ 悪徳銘探偵・メルカトル鮎が活躍する短編集です。6編の短編+2編のショートショートが収録されています。 それでは、それ簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。―――「愛護精神」美袋の大家の犬が死に、近所の学生が埋めていた。大家である、悪い噂も多い未亡人は、犬は殺されたと主張し、メルカトルの捜査を依頼するのだが…。「水曜日と金曜日が嫌い」道に迷った美袋は大邸宅にたどり着く。高名な博士が住んでいたその邸宅には、博士が育てていた孤児4人が、博士の冥福を祈り集まっていた。そんな中、博士を思わせる謎の人物が現れ、その人物が向かった小屋には、多くの血が飛び散っていたが、死体は見つからなかった。さらに、4人の中の一人も殺されて…。「不要不急」ショートショート。「名探偵の自筆調書」同じく。味わい深いです。「囁くもの」知り合いのワンマン社長からの依頼でその邸宅を訪れたメルカトルと美袋だが、肝心の社長は急用で帰宅できず、秘書や家族と過ごすことになる。その夜、賊が侵入したかのような状況で、殺人事件が起こる。果たしてメルカトルの推理法は。「メルカトル・ナイト」トランプのカードがKから順番にカウントダウンするように送られてくる。何かの予告ではないか…。そう依頼を持ち掛けた有名作家の依頼で、彼女の泊まるホテルに一泊することになったメルカトルたちだが。「天女五衰」天女伝説の残る地の別荘地に滞在していたメルカトルたちだが、メンバーの一人が殺される。それまでの行動からメルカトルがたどり着く真相は。「メルカトル式捜査法」体調を崩したメルカトルは、過去に知り合った人物の誘いで別荘地を訪れ保養する…はずだったが、そこでもまた殺人事件が発生。居眠りをするなど、いつもらしくないメルカトルが発揮する捜査法とは。――― 久々のメルカトル鮎シリーズの短編集です。あらためて、メルカトルってこんな悪い人なんですよね…。そして美袋さんはとある企画で最下位となってショックを受けたりと、面白いコンビです。 印象的だったのは、「水曜日と金曜日が嫌い」。血まみれの小屋には被害者がいないなど、いわゆる不可解状況のインパクトの強い作品です。「囁くもの」も解決方法というかメルカトルさんの語り(騙り?)が印象的です。そんなことあるんですね…。 どれも読みやすく面白かったです。(2022.06.23読了)・ま行の作家一覧へ
2022.11.12
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~』 ~メディアワークス文庫、2018年~ ビブリア古書堂の事件手帖シリーズの第2シーズン第1弾です。 栞子さんたちの娘、扉子さんに、栞子さんが過去にあった本にまつわる事件の話をする、という構成の、連作短編集です。 それでは簡単に、それぞれの内容紹介と感想を。 ――― プロローグ 夫の大輔から、置き忘れてしまった大切な本を探してほしいと電話を受けた栞子は、娘の扉子に本が見つからないように、なんとか探そうとする。しかし、扉子も一緒に探し始めてしまう。そんな中、扉子が知り合いの家でも見た『からたちの花』を目にし、その本にまつわる事件について語り聞かせることとなる。 第1話 北原白秋 与田準一編『からたちの花 北原白秋童謡集』(新潮文庫) 強盗事件により逮捕歴のある叔父の家に、病気で倒れた父の依頼で出産祝いと『からたちの花』を持参することになった主人公は、本をビブリア古書堂で購入。強盗歴だけでなく、ある夜の思い出から、叔父に不信感を持っていた主人公だが、、童謡の歌詞から、過去の真相までたどりつくこととなる。 第2話 『俺と母さんの思い出の本』 イラストレーターとして有名な息子が亡くなった。息子は生前、母である依頼主に対して、思い出の本があったから今度見せに行くよ、と話していた。息子のこともその妻も嫌っている依頼人だが、ゲームに関係するという「思い出の本」とは。 第3話 佐々木丸美『雪の断章』(講談社) ホームレスの志田と本の話をするのが好きだった奈緒だが、ある日とつぜん、志田が姿を消してしまう。そのころ、志田のことを知っている風な高校生が奈緒に声をかけてきて、一緒に志田を探すこととなる。また、志田が知り合いに配っていた『雪の断章』は、なぜ奈緒には2冊渡されたのか。はたしてその意味とは。 第4話 内田百聞『王様の背中』(樂浪書院) ビブリア古書堂に店をめちゃくちゃにされたと逆恨みしている男が、ビブリア古書堂に査定のため持ち込まれたばかりの本を奪って逃走する。しかし五浦大輔が彼を追ってきて…。 エピローグ ――― やすくんさん(本ブログのお気に入りブログからリンクあり)の記事を拝見して、ビブリア古書堂シリーズの第2シーズンが始まっているのを知り、手に取りました。 第1シーズンの詳細は記憶が薄れてしまっていますが、関係なしに、また安心して楽しめました。 お二人の結婚後の初々しい感じとか、扉子ちゃんの本大好き、本に関する好奇心の旺盛さとか、それぞれの物語の謎解きもさることながら、栞子さんの家族の様子も楽しく読めました。 第2弾も出ているようなので、また読むのが楽しみです。(2021.05.17読了)・ま行の作家一覧へ
2021.08.21
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麻耶雄嵩『化石少女』 ~徳間文庫、2017年~ 麻耶雄嵩さんの、ノンシリーズの連作短編集です。 舞台は、坊ちゃんお嬢さんが通う私立ペルム学園。古生物部の部長神舞まりあさんは、化石への情熱はすごいのですが、テストでは赤点続きです。まりあさんと幼なじみの桑島彰さんは、彼女のお守りとして、ペルム学園に入学し、古生物部に入ることとなります。 古生物部は2人だけで、過疎部問題に直面していました。それまでの生徒会はまりあさんと派閥が同じなので大丈夫でしたが、今期の会長はそれまでの派閥とは反対の立場で、一定の成果をあげないと古生物部を廃部にするといいます。 そんな状況の中、ペルム学園でいくつもの事件が起こり、まりあさんが推理しては、彰さんがダメ出ししていくという、斬新なスタイルです。千街晶之さんの優れた解説にもあるように、ダメ出しされたまま物語が次に進んでしまうので、なんとも据わりの悪い感覚になります。 それでは、収録されている6つの事件について、簡単に内容紹介を。 ――― 「古生物部、推理する」生徒会に過疎部問題の話をされた後、しぶしぶ勧誘活動にと部室を出た彰は、シーラカンスをかぶった男が疾走しているのを目撃する。その後、新聞部の生徒が殺されているのが発見される。古生物部のシーラカンスを盗んだ犯人の目的は? 「真実の壁」部室棟に体育館の壁が接近しているため、壁には部室内のいろんな情景が影で映し出され、「真実の壁」と呼ばれていた。生徒会の面々が古生物部に来てもめているとき、停電が発生。一瞬停電が解除されたとき、真実の壁には、殺人を行うような影が映し出される。直後、外には生徒が落ちていて、死んでいるのが確認された。 「移行殺人」叡電部に入らないかと、さして親しくもない同級生、八瀬に誘われた彰だが、叡電部の部長たちは、彰が古生物部に入っていると知り急に及び腰に。後日、叡電部で事件が起こる。八瀬が文化祭のために作っていた叡電の模型が壊され、八瀬自身も何者かに殴られて殺された。怪しい人物が、叡電部あたりを通っていたのが目撃されていた。 「自動車墓場」石川県まで化石掘りの合宿のため訪れたまりあたちだが、同じ宿に生徒会も泊まっていると知り、一気に険悪なムードに。翌朝、化石掘りに出かけたまりあと彰だが、道中に不審な車を発見。帰り道、車の中で何者かが死んでいた。それは、ニュースに出ていた、京都で事件を起こした犯人のようで…。 「幽霊クラブ」廃屋のような旧クラブ棟が解体されることになり、一つの問題が持ち上がる。旧クラブ棟でこっそりクラブ活動をしている幽霊クラブをどうするかという問題だった。前生徒会メンバーが、現メンバーに、幽霊クラブを黙認するのか、事故になっては危ないから実態を把握すべきと声をあげる。生徒会メンバーで「ガサ入れ」をしている最中、言い出した生徒が屋上から落下して死亡した。 「赤と黒」古生物部に新入部員!?と喜ぶのもつかの間、彼は生徒会のメンバーとも顔見知りのようで、とつぜん挙動不審になる。そんな中、密室状況の体育館内の倉庫から、新入部員の死体が発見される。 ――― これは面白かったです。物語の概要は冒頭に書きましたが、探偵が赤点続きということで、探偵にダメ出しばかりする助手という設定が秀逸。個々の物語にも(一応の)解決があるので、もちろん謎解きミステリとしても楽しめます。 エピローグではなんともいえない気持ちになりました。 ・ま行の作家一覧へ
2020.02.16
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麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』~新潮文庫、2018年~ 麻耶雄嵩さんによる、ノンシリーズの(連作)短編集です。6編の物語が収録されています。 舞台は、一年中霧が深い霧ヶ町。高校生の斯峨優斗さんが語り手で、その叔父さんが真相を明らかにする役回りを担います。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「失くした御守」優斗が恋人の真紀とのおそろいの御守をなくしてしまった頃、町では、有名な女性が教師と二人で死亡するという事件が起こる。最初は心中と思われたが、殺人の可能性も高まっていく。問題は、現場付近は雪で覆われており、犯人の足跡が遺されていないことだった。 「転校生と放火魔」小学生の頃に付き合っていて転校していた明美が、ふたたび町に戻ってきて、同じクラスになる。その頃、町では放火事件が相次いでいた。 「最後の海」優斗と仲の良い、医師の家の次男・司の家族に事件が起こる。彼の兄が警察からみのトラブルを起こし、医者を継げない状況となる。医者とは別の道を目指していた司だが、厳格な父と対立することに。叔父さんとともに司の兄を捜索する中、司の父が殺されて…。 「旧友」叔父さんの旧友が株で儲け、町に帰ってきて、ハイカラ屋敷と呼ばれる立派な邸宅を構えた。しかし、旧友は脅迫され、なんでも屋の叔父さんに相談にきていた。ある日、叔父さんが見守りに訪れている最中、旧友は妻とともに命を落とし、その脅迫者も首をくくっていた。しかし、旧友夫婦の死は、密室状況で起こっていた。 「あかずの扉」優斗が友人の旅館の部屋の片づけのアルバイトを終え、陽介とともに温泉を楽しんだ後、脱衣所にいると、温泉から何か落ちるような音を聞く。忘れ物を思い出し浴場に戻った優斗は、自分たち2人しかいなかったはずの温泉に、同じく手伝いにきていた男の遺体が浮かんでいるのを見つける。 「藁をも摑む」優斗が明美と倉庫で用事を終え、クラスルームに戻っている途中、とつぜん、大きな音がし、気づくと目の前に抱き合った二人の女子生徒が倒れていた。後に、二人は三角関係で対立していたことを知るが、なぜあのような状況だったのか。 ――― 語り手の優斗さん、実家がスナックで情報通の陽介さん、ドラマ大好きの真紀さん、そして優斗さんの元カノ明美さんの4人が主要メンバーで、事件の謎について語り合います。各事件の謎解きもそうですが、優斗さんが何を決断していくのか、ということも物語のもう一つの軸になります。 それにしても、多くを書きにくい作品です。ミステリはいろいろ読んできているつもりですが、とにかくこの趣向は斬新でした。 ・ま行の作家一覧へ
2019.06.19
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松本宣郎『ガリラヤからローマへ―地中海世界をかえたキリスト教徒―』 ~山川出版社、1994年~ 著者の松本宣郎先生は東北大学名誉教授。初期キリスト教史がご専門で、本書のほかに『キリスト教大迫害の研究』(南窓社、1991年)や『キリスト教の歴史(1) 初期キリスト教~宗教改革』(山川出版社、2009年)などの著作があります。 本書の構成は次のとおりです。 ――― 第一章 キリスト教徒の誕生 第二章 迫害の心性 第三章 ローマ都市のパフォーマンス 第四章 性の革命 第五章 魔術師としてのイエス 古代地中海世界の終焉とキリスト教 あとがき 索引/文献案内/年表/地図/図版出典一覧 ――― 本書は、初期キリスト教の諸相を通史的にみるだけではなく、それを同時代の社会状況(時にローマ帝国の中の社会、心性の状況)の中に位置づけながら見ることで、ローマ帝国にキリスト教がいかに見られていたかという点を示しつつ、また両者の類似点や相違点を浮き彫りにする論述となっており、全体的に興味深く読みました。 第一章では、まず、イエスの活動が、戸外で呼びかける点は地中海世界で市民に呼びかける人々のとる共通の方式であったという同時代の状況との類似点を示し、一方で社会的弱者(貧者や女性など)に呼びかけることなどは「前例のない新しさ」だという同時代との相違点を指摘します。その上で、イエスの死後に成立する原始教団を、特に多くの地域に宣教を行ったパウロの活動を中心に見ていきます。 第二章は、先行研究の迫害原因論を検討し、キリスト教徒たる「名そのもの」に付されたマイナスのイメージが迫害の原因となったという説を評価する立場を示します。そのイメージとして、無神論(ローマの神々の像を崇拝しない)、カニバリズムや熱狂性などが挙げられます。ただ、本書で一貫しているのは、先行研究などによりイメージされるほど迫害はローマ帝国全体で継続的に起こったということはほぼなく、基本的には局地的、一過性のものであった、という主張です。 第三章では、ローマ帝国の人々の貧富観や富裕者による共同体への奉仕といった構造、奴隷の問題などをみていきます。ここでは、キリスト教は富を否定するというイメージがありますが、一方では(全体の流れとしては)「個人の財産権を否定せず、能力に応じて献金することを求めた」(139頁)、「富の肯定と教会への献金はやはり密接に結びつけられれている」(137頁)という 指摘を興味深く読みました。 第四章では、キリスト教の禁欲性を見る前に、ギリシャ・ローマでの性の観念をみていきます。面白いのは、いずれでも、男性は男性も女性も愛することができるとされたこと、特にギリシャでは、男性は成人に達すると少年を一人選び彼と関係を結び、それだけでなく「男子市民たるにふさわしい倫理道徳をも教えこんだ」(193頁)という、ある種制度的なものがあったという点は面白かったです。一方、女性の同性愛は断罪されていたとか。キリスト教との関連では、宗教的接吻についての議論や、自ら去勢したオリゲネスという極端な人物がいますが、彼は正統教会からは排除され、「325年のニカイア会議で、去勢した男性が聖職につくことを禁止した」(240頁)といった指摘などが興味深いです。 第五章は、キリスト教が広まる以前から、ローマでは魔術の存在が当然とされていたことが示されます。特に興味深かったのは、多くの為政者が占星術師を側近におき、判断を仰いでいたということ。元首政期に占星術が浸透した理由として、以前の共和政では公の場で決定が行われたことから、将来のことの判断についてはオープンだったことに対して、元首政では、元首一人が全責任を負うことになったこと、その際になにか権威ある保証を欲したこと、占星術は魔術ではなくストア派の哲学者も信奉する科学であったことから皇帝が公の場でそれに頼ってもさしつかえはなかった、というのですね(264-265頁)。ですからキリスト教の批判者は、奇蹟をおこすイエスを「魔術師」と呼んで非難こそすれ、奇蹟自体を否定するようなことはなかった、といった指摘も興味深いです。 15年ぶりくらいの再読になるかと思いますが、あらためて良い読書体験になりました。 なお本書は2017年に講談社学術文庫としても刊行されています。 ・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2019.06.15
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森博嗣『ダマシ×ダマシ』 ~講談社ノベルス、2017年~ Xシリーズ第6弾にして完結編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 結婚詐害にあったと思う。相手を探して欲しい……との依頼を受け、調査を始めた小川。 加害者が、他にも複数の女性に詐欺をはたらいていたことや、その本名も分かった頃、小川に警察から連絡が入る。小川が探しているとおぼしき人物が、何者かに殺されたという。 しかし、依頼人は、加害者(殺人事件の被害者)の生前の様子について、調査を続けてほしいという。 ――― 最終作ということで、いろんなことが急展開です。シリーズを一気に続けて読んだので、感慨深くなりました。 以下、文字色を反転してメモしておきます。 <ここから>事件は、前回の事件の数年後。永田さんは就職し、真鍋さんとの仲は少しぎすぎすしている頃のことです。この中で、小川さんは椙田から事務所を譲り受ける話をもらい、受けることにします。また、真鍋さんは、大学を中退して就職を選ぶことを決意します。また依頼人の正体(これはGシリーズをきちんと読んでいないので今はまだぴんときませんが)も過去の作品に伏線があるようです。素敵なハッピーエンドで、あたたかい気持ちになりました。飄々とした感じの真鍋さんを応援していたので、今回は本当に良かったです。<ここまで> ・ま行の作家一覧へ
2019.03.20
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森博嗣『サイタ×サイタ』 ~講談社ノベルス、2014年~ Xシリーズ第5弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― ある男の尾行をしてほしい。匿名の依頼を受け、調査をはじめた小川令子たち。人員不足から、鷹知探偵の協力もあおぎながら尾行を続けると、対象の男がひとりの女性をストーキングしている状況が浮かび上がる。 一方、同時期に、連続爆発事件が発生していた。犯人は、チューリップと自称し、「キレイニサイタ」「アカクサイタ」といった犯行声明をマスコミに送りつけていた。 さらに、対象の男がつけねらっている女性の知り合いが殺害されるという事件も発生する。しかし、犯行の時間、男は小川たちが尾行しており、アリバイが成立していた。 対象の男と、爆破事件と、殺人事件に関係はあるのか。 ――― サスペンスフルな仕上がりの作品です。尾行中、永田さんがまかれたと思った後に発生する爆破事件、さらに殺人、男から小川さんへの接近と、手に汗にぎるシーンも満載です。 真鍋さんたちが遺体を発見した後、警察にどう対応するか相談する小川さんに対して、椙田さんが適切な回答を即答するシーンはとてもかっこよかったです。やっていることはあれですが、こういう時の椙田さんの能力はすごいですね。 ・ま行の作家一覧へ
2019.03.13
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森博嗣『ムカシ×ムカシ』 ~講談社ノベルス、2014年~ Xシリーズ第4弾です。第3弾の『タカイ×タカイ』が2008年刊行ですので、およそ6年ぶりの刊行ですね。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 金持ちの老夫婦が刺殺されるという事件が起こった。椙田事務所は、主人が遺した美術品の鑑定を依頼され、調査を進める。 邸宅で世話をしていたのは、老夫婦の孫。娘はあまり寄りつかず、また遺族の関係も良くはなかった。 そんな中、河童が出るという噂のある井戸から、行方不明になっていた親族の男の遺体が発見される。また、関係者も次々に犠牲となっていく。 ――― 真鍋さんと同じ大学の永田さんもアルバイトに加わり、賑やかになってきました。小川さんと真鍋さんのやりとりも楽しいですが、永田さんをまじえたやりとりも面白いです。 大正時代に一族の先祖の百目一葉さんが女流作家として活躍されていたというところから、樋口一葉さんの話、さらには女流作家特有の問題も議論されるあたり、たいへん興味深く読みました。作中作のあるエピソードが現実にあるのだとしたら、なんともやりきれない気持ちになります。 ・ま行の作家一覧へ
2019.03.06
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森博嗣『タカイ×タカイ』 ~講談社ノベルス、2008年~ Xシリーズ第3弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― ある朝、有名マジシャン、牧村亜佐美の邸宅で、奇妙な光景が見られた。ゲートのすぐそばに立つ、15メートルほどのポール。そのてっぺんに、男がぐったりとひっかかっていた。 その場に居合わせた真鍋瞬市は、バイト先の探偵社の上司・小川令子にこの話をする。小川がこの事件に興味をもち、調査してみたいと思っている頃、同業者の鷹知から事件についての話がもたらされた。小川と真鍋は、鷹知や、偶然現場近くで出会った西之園と情報交換をしつつ、事件についての調査を進めていく。 ――― 概要は2008.01.29の記事から再掲。10年以上ぶりの再読となります。 2008年の記事にも書きましたが、殺人をめぐる真鍋さんと小川さんの議論(141-143頁)は、今回も興味深く読みました。 本書でふれられている自殺の事件は、『ηなのに夢のよう』の事件のようです。Gシリーズも、完結後にあらためて通して読みたいと思っています。 ・ま行の作家一覧へ
2019.03.02
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森博嗣『キラレ×キラレ』 ~講談社ノベルス、2007年~ Xシリーズ第2作の長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 探偵・鷹知から連絡を受けた小川と真鍋は、世間を騒がせている、満員電車の中での連続切り裂き事件に関する調査への協力を要請された。 三人の被害者は、みな背中からカッタナイフのような刃物で服を切られ、皮膚も切られているものの、軽傷ですんでいた。全員、三十代の女性という共通点があった。さらに犯行は繰り返され、第四の被害者は、椙田の事務所でバイトの経験のある女性だった。 その後の調査で、被害者たちが、佐久間クリニックでカウンセリングを受けていること、中野薬局で薬を処方されているという共通点が浮かび上がる。ところが、鷹知や小川が中野と接触をとった後に、中野は殺害されてしまう。 ――― 概要は以前に掲載した記事の再録です。 佐久間先生が語る、ある少年のエピソードが印象に残っていたのですが、今回の再読で、この物語で読んだシーンかと思い出すことができて良かったです。 小川さんと真鍋さんのやりとりをはじめ、登場人物たちの会話が軽妙なところが多く、大好きな空気感です。 ・ま行の作家一覧へ
2019.02.27
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森博嗣『イナイ×イナイ』 ~講談社ノベルス、2007年~ 椙田泰男さんの事務所の留守番・真鍋瞬市さんと、椙田さんの助手(秘書)の小川礼子さん、そして同業他社の鷹知祐一朗さんが活躍する、Xシリーズ第一弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 美術品鑑定・調査・探偵を仕事とする、椙田泰男事務所に、ときどき留守番している真鍋瞬市と、最近椙田の助手(秘書?)として雇われた小川令子は、ある資産家―佐竹家で起こる事件に巻き込まれることになる。 佐竹家の主が亡くなり、椙田は遺産である美術品の鑑定を依頼されていた。実際の仕事は助手の二人がすることになるのだが、真鍋が留守番しているとき、佐竹家の一人、千鶴が訪れる。幼い頃に死んだとされているが、生きている兄を捜してほしい、というのだった。 まずは、美術品の鑑定で佐竹家を訪れた真鍋と小川だが、その日、事件が起こる。小川が一人で、千鶴のいう兄がいる可能性のある地下室を探しているとき、悲鳴が聞こえた。佐竹家の調査に関わり始めた頃に知り合った、探偵の鷹知祐一朗も近くに居合わせたため、二人で悲鳴のした方―地下へ降りると、亡き佐竹の後妻が倒れていた。奥にある地下牢には、二人の人間が倒れていた。千鶴と、双子の妹・千春である。千春は、首をしめられた上に、剃刀で首を切られていた。 ――― 6作で完結したXシリーズが手元に揃ったので、あらためて一通り読み直そうと、10年ぶりくらいに再読しました。上記の概要は、2007.05.13にアップした記事の再掲でした。 ここしばらく、森博嗣さんの作品を読んでいなかったのですが、あらためて面白いなぁと感じた次第です。 一気にXシリーズを読んでいこうと思います。 ・ま行の作家一覧へ
2019.02.16
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舞城王太郎『獣の樹』 ~講談社ノベルス、2010年~ 講談社創業100周年記念出版の書き下ろし作品。俊足でたてがみがあり、成雄という名前の主人公は、『山ん中の獅見朋成雄』にも登場します(本作との直接のつながりはなさそうですが)。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 西暁の河原家の庭で、14歳くらいの僕が馬から生まれた。西暁太郎と名づけられた僕だが、河原正彦に「ナルオトヒコ」からとった成雄と名づけられ、河原成雄となる。とりあえず小学校に通うも、勉強面はなんなくクリアし、飛び級を重ね中学生になる。しかし暴力事件を起こし、校長直々の道徳の特別授業を受けることとなる。 ある日、僕は夢を見る。悪い樹が出て来る夢。その夢で見た少女は実在していて、彼女は蛇に乗っていて、名前は楡という。楡に会いに児童園に行くが、そこでも暴力事件を起こしてしまう。 夜中に僕に会いに来る楡に誘われ、僕は自分の本当の家を案内される。放火や殺人で、家族は殺されてしまい、父親はどこかに失踪しているというが……。 ――― なんともあらすじが書きにくいですが、大きく動き始める前くらいまで略述してみました。 舞城さんの作品を読むのは久しぶりで、本書も購入からずっと読めていなかったのですが、読み始めると一気に物語に引き込まれました。記憶も何もない14歳くらいの少年がとつぜん馬から生まれるというなんとも荒唐無稽な設定ですが、荒唐無稽ながら考えさせるのが舞城さんの作品のすごいところだと思います。 あえて上にも書きましたが、一番印象的だったのは成雄さんが道徳の授業を受けるところです。すでに多くの本を読み、知識はすぐれていた成雄さんですが、道徳では「なぜ?」となることばかり。ここにとにかく共感しました。以前に人類学の文献を読んだときにも感じましたが、ふだん当たり前と思っていることを相対化してくれて、少し立ち止まらせてくれる、そんな貴重な経験が本書でもできました。 『山ん中の獅見朋成雄』の記事を読み返して、その作品が「音」をテーマにしていたことを思い出しましたが、一方で本書は、「名前」が大きなテーマになっていると思います。それは、基本的に各章のタイトルが名前になっていることからもうかがえます。 良い読書体験でした。 ・ま行の作家一覧へ
2019.01.26
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松尾由美『バルーン・タウンの殺人』 ~創元推理文庫、2003年~ 松尾由美さんのデビュー作です。5編の短編が収録された短編集です。 舞台は、未来の日本。人工子宮の利用が普通になり、自ら出産することを選ぶ女性が少ない中で、それでも自分で産むことを選んだ妊婦たちが住む東京都第七特別区、通称バルーン・タウンで暮らす翻訳家・暮林美央さんが探偵役をつとめます。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「バルーン・タウンの殺人」バルーン・タウンのスイミング・クラブでコーチを務めていた男が、妊婦に殺された。目撃者はいたが、誰も妊婦の顔をしっかり見ておらず、警察コンピュータでも犯人特定は困難とされた。江田茉莉菜刑事は、バルーン・タウンに偽妊婦として潜入し、先輩の暮林美央の助言を得ながら、捜査を進めることとなる。 「バルーン・タウンの密室」バルーン・タウンで開催される妊婦のコンテストの直前、表敬訪問を行う予定の市長に脅迫状が届けられた。それでも町を訪れた市長だが、コンテスト再開まで休憩をとっている中、何者かに頭を殴打されていた。現場は、ある種の密室状況だった。警察のコンピュータ「ドウエル教授」と暮林美央の知恵比べが始まる。 「亀腹同盟」暮林美央のもとに、画材店店長をつとめる妊婦、大橋有佳が相談を持ちかけていたところに、江田茉莉菜刑事も居合わせる。大橋は、まるでシャーロック・ホームズの「赤髪連盟」そっくりの状況に巻き込まれているというのだった。 「なぜ、助産婦に頼まなかったのか?」江田茉莉菜が歩いていると、一人の紳士が突然倒れ、死亡した。紳士は死の直前、「なぜ、助産婦に頼まなかったのか?」という奇妙な言葉を残していた。病死なのか、他殺なのか。再びバルーン・タウンで捜査を進める茉莉菜は、外国の要人も関係する大きな背景があることを突き止めていく。 「バルーン・タウンの裏窓」暮林美央の活躍をタウン誌に発表していた有明夏乃は、ある夜、向かいのアパートで、きれいな亀腹の妊婦が歩いているシルエットを目撃する。それは、失踪していた有名女優そっくりのシルエットで…。 ――― 購入からなかなか読めていませんでしたが、これは面白かったです。妊婦が基本存在しない世界で、妊婦だけの町がある、というこの物語(の表題作)は、もともとハヤカワ・SFコンテストに入選した作品ということです。が、謎解きの妙も面白く、創元推理文庫から刊行されているだけあって、ミステリとしても上質の作品だと思います。 ドウエル教授を操作する男性刑事さんが楽しいキャラでした。 ・ま行の作家一覧へ
2019.01.23
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松尾由美『ブラック・エンジェル』 ~創元推理文庫、2002年~ 松尾由美さんによる、ノンシリーズの長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― マイナーロック研究会の俺―加山孝二は、メンバーの協力により、どうしても欲しかった<テリブル・スタンダード>のファーストアルバムを手に入れた。メンバー全員でCDを聞いていたが、「ブラック・エンジェル」というインストゥルメンタルが流れたとき、とつぜん黒い天使が現れる。天使は、メンバーの一人、岡埜映子のナイフを握った手をひねり、そのナイフを心臓に突き刺したのだった。 特に家族に、人生は無意味といった発言をしていたこともあり、警察には自殺として処理されることになったが、真相を知るメンバーは、納得をするために、それぞれでできることを調べ始めた。加山は、中古ショップにCDを売った外国人と接触し、さらに岡野の周囲を洗い始める。 しかし、天使は再び現れたようで…。 ――― 松尾さんの作品は、いわゆる現実世界だけで完結せず、超常現象的なことが起こり(たとえば『安楽椅子探偵アーチー』シリーズでは安楽椅子が話もすれば事件も解決します)、それでも事件自体は論理的に解決される、という趣向ですが、本作では、事件の犯人が超常現象となっています。 解説の大矢博子さんが指摘されているように、本作はミステリのあるジャンルとなっていて、たしかにその点ではミステリなのですが、個人的には「事件の犯人が超常現象」という点がうまく受け入れられず、今まで読んできた松尾さん作品の中ではやや苦手な作品でした。 といっても、物語の展開はとても面白く、惹きつけられるところもありました。 ・ま行の作家一覧へ
2019.01.13
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麻耶雄嵩『貴族探偵対女探偵』 ~集英社文庫、2016年~ 『貴族探偵』の続編の短編集です。高名な探偵の弟子にして、師匠の死後に独り立ちして奮闘している高徳愛香さんが、あの貴族探偵と対決します。5編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「白きを見れば」財宝が隠されているという井戸がある、友人の平野紗知のペンションを訪れた愛香だが、件の井戸を見に行ったところ、そこには宿泊者の死体があった…。ペンションへの道で事故があり、警察の到着が遅れる中、愛香は真相を推理することになるが…。 「色に出でにけり」多くの恋人と同時に付き合う玉村依子のもとに、3人の恋人たちが集まった。学者の男は趣味の占いを披露するが、依子の父と再婚した母の間に生まれた子供の占いのとき、男は動揺し、場の空気が変わってしまう。その後、占いをした男が、部屋で死んでいるのが見つかる。アリバイのない恋人の一人に疑いの目が向けられる。 「むべ山風を」愛香が大学での事件を解決した直後、訪問していた研究室の学生が殺されているのが発見された。研究室には帰属探偵も居合わせ、愛香に解決を依頼する。 「幣もとりあへず」愛香は、座敷童子が出るという宿に平野紗知とともに訪れた。願いを叶えたいという男女3人ずつだけが、閉ざされた別館の中で夜を過ごす。翌朝、メンバーの一人が殺されているのが発見された。 「なほあまりある」何者かの依頼により、愛香は富豪が所有する島の別荘を訪れる。そこにはまた貴族探偵がおり、あの玉村依子も滞在していた。そしてそこでも事件は起こる。一夜に、二人が殺されていたのだった。 ――― これは面白かったです。愛香さんの推理に対して、貴族探偵(の使用人たち)が繰り広げる推理ということで、いわゆるどんでん返しがいくつも用意されていて、読み応えがあります。 特に「幣もとりあへず」は印象的でした。こういう趣向は大好きです。 ・ま行の作家一覧へ
2018.05.23
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麻耶雄嵩『螢』 ~幻冬舎文庫、2007年~ 麻耶雄嵩さんによるノンシリーズの長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― オカルトスポットなどをめぐるサークル「アキリーズ・クラブ」のメンバー6名が、合宿のため、OBの佐世保の別荘「ファイアフライ館」を訪れる。 この建物は、かつて、有名な作曲家にしてヴァイオリニストの加賀螢司が主であったが、彼が10年前にメンバーの演奏家を殺した場所だった。 クラブの一人、諫早は、恋人のつぐみをジョージという連続殺人犯に殺されていた。その悲しみも癒えない中、合宿に参加するが、その最中に事件が発生する。 館主の佐世保が、何者かに殺害されていた。そして、電話線は切断され、豪雨により帰路も断たれてしまっていた。肝試しの中、第三者の女が存在しているのではないかとの疑いも生じてきたが、クラブのリーダー平戸と、一年生の島原の間では、外部犯と内部犯との意見の食い違いが起こる。 果たして真相は。 ――― これは面白かったです。 若者たちが館を訪れ、クローズド・サークルの中で事件が発生する、という状況設定はよくあるかもしれませんが、とにかく色んな趣向が凝らされています。 読後に(私はネタバレサイトも参考にさせてもらいましたが、真相が分かってから)再読すると、伏線の妙にうならされます。 麻耶雄嵩さんの作品をいろいろと読んできて良かったと、あらためて思いました。 ・ま行の作家一覧へ
2018.05.16
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麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠也』 ~光文社文庫、2007年~ 摩耶雄嵩さんのデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でも活躍する、木更津悠也さんが探偵をつとめる短編集です。4編の短編が収録されています。 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。 ――― 「白い幽霊」木更津の助手を自認する香月実朝が、知り合いの巻き込まれた事件の解決のために木更津に依頼する。戸梶家で殺人事件が発生した。たまたま、その犯行の時間に、現場の部屋を外から見ていた人物がおり、カーテンが奇妙な形に切り取られるのを目撃していた。家族の証言では、香月の知り合いに不利な証言ばかりが得られるが、真犯人は。 「禁区」文芸部のメンバーが、白幽霊は失踪した部員ではないかと思い、うわさの場所を見に行くと、実際に幽霊が現れた……。後日、メンバーの一人が部室で殺される。死体には、大量の石灰がかけられ、真っ白にされていた。 「交換殺人」ある居酒屋で、見知らぬ男から交換殺人を持ちかけられたという男。話を忘れかけていたが、新聞で、相手に殺害を依頼されていた人物が殺されたと知り、慌てて木更津のもとを訪れる。男が相手に殺してもらいたいと告げたのは自身の妻だが、自分は交換殺人を犯していない、妻が殺される前に、真犯人を暴いてほしいというのだった。 「時間外返却」ビデオに幽霊が映っていると噂になり、出現したとされる場所を訪れた人々によって、実際に死体が発見された。被害者の父は、被害者が失踪していたときから警察に相談していたが相手にされなかったこと、今度は殺害が1年前のことで捜査が進まないと告げられたことに怒り、木更津に依頼をもちかける。被害者の死後にビデオが返却されたと思われるが、はたしてその意味とは。 ――― メルカトル鮎シリーズよりも正当派の作品が多く、安心して読めました。木更津さんの名探偵ぶりに酔いしれる香月さんが、時に木更津さんよりも先に真相に到達し、さりげなく真相解明に導くという趣向も面白く読みました。 この中では、第二話の「禁区」が特に印象的でした。被害者は殺される前、部室でゲームをしているときに、何に気づいたのか。これは面白かったです。 ・ま行の作家一覧へ
2018.04.28
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7~栞子さんと果てない舞台~』 ~メディアワークス文庫、2017年~ ビブリア古書堂シリーズ本編の最終刊です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 栞子の祖父、久我山尚大のもとで書生兼番頭として活躍していた吉原という人物が、ビブリア古書堂を訪れる。前回の事件で他人の手に渡った『晩年』を800万円で譲るという。さらに、栞子の祖母のもとで、祖母が大切にしていたシェイクスピアのフォリオ版の本も入手していた。 そして吉原は、古書交換会に、3冊のシェイクスピアの本を出品するという。本物のフォリオ版は、その中の一つだけだという。 栞子は、本物のフォリオ版を見抜けるのか。しかし古書交換会には、彼女の母、篠川智恵子も姿を見せる。 ――― 明らかに悪役の吉原が持ちかける取引に、手に汗握り、わくわくしながら読み進められました。高額の取引になりますが、栞子さんや五浦大輔さんたちがいかに立ち向かうのかも読みどころです。 シリーズ最終刊、とても楽しく読みました。 そして、本編は本作で終わりですが、番外編やスピンオフのような形での作品の発表は構想されているようで、今後も楽しみです。・ま行の作家一覧へ
2018.01.27
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麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』~講談社ノベルス、2011年~ メルカトル鮎シリーズの短編集です。全部で5編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「死人を起こす」高校三年生の男女が空き家で過ごした夜、メンバーの一人が死亡した。事故と思われていたが、大学生になってから、当事者の一人が事件の再調査をメルカトルに依頼する。そしてメルカトルが到着する夜、新たな殺人が発生した。「九州旅行」作品のネタに困っていた美袋のため、メルカトルはネタを探しに、美袋の住むマンションの角部屋に向かう。そこで「血の匂い」を感じた彼が部屋のドアを開けると、男が何者かに殺されていた。メルカトルと美袋は、現場の状況から、事件の再構成を試みる。「収束」ある宗教を信じる者たちが住む島に、メルカトルと美袋が訪れた。使用人を救い出すためだったが、そこで事件が発生する。聖典を保管している聖室が、普段とは異なる状況になっていた。そしてその深夜、教祖が殺されていた。「答えのない絵本」高校で、問題行動が見られた教師が殺されていた。容疑者は20名の高校生。相反する立場の2名の人物から解決を依頼されたメルカトルが調査にのぞむが…。「密室荘」メルカトルと美袋が別荘に泊まった翌朝、地下室で見知らぬ男が殺されていた。別荘は密室状況にあったが、果たして犯人は…。――― 麻耶雄嵩さんの作品はいろいろ好みが分かれそうですが、これはまた思い切った作品集です。全体でいえば、正直私は少し苦手です。解決方法があまりにもすごいというか、なんというか…。 そんな中で面白かったのは、「収束」です。冒頭の3つのシーンに疑問を抱きながら読み進め、最後に納得いきました。・ま行の作家一覧へ
2017.12.30
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森博嗣『そして二人だけになった』~講談社ノベルス、2001年~ 森博嗣さんの初のノンシリーズ長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 盲目の天才科学者・勅使河原潤がリーダーを務め完成された、世界最大級の海峡大橋を支える巨大なコンクリート塊の内部「バルブ」に、6人が集まった。シェルタとしての役割を期待されたバルブ内での生活を体験することを目的とした実験のために。 しかし、初日の夜、1名が何者かに殺害され、内部のシステムにも異常が発生した。そして殺された男性は、手に二つのボールを握りしめていた。 殺人事件は次々と繰り返され、人々は互いに疑心暗鬼に陥っていく…。――― 本物の勅使河原潤の代役をつとめてきた「僕」と、勅使河原潤の助手の代役として参加した助手の妹の「私」の、二人の視点で物語は進みます。 終盤に提示される真相に感動するのですが、しかしその直後に物語は一気に表情を変えてしまうことになります。果たして何が真相なのか、私にはよく分かりませんでした。一読してすっきりするような性格の物語ではないように思います。 久々に森博嗣さんの作品の世界観にふれられて良かったです。・ま行の作家一覧へ
2017.12.16
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麻耶雄嵩『貴族探偵』~集英社文庫、2013年~貴族探偵シリーズ第1弾の短編集です。2017年にはドラマ化もされましたね(ドラマは観ていませんが)。それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「ウィーンの森の物語」社長の別荘を社員や家族が訪れてた翌朝、密室状況の中で社長が死んでいるのが発見された。前日には、社長の妻と愛人が鉢合わせトラブルになっていたが、はたして真相は。「トリッチ・トラッチ・ポルカ」廃倉庫の中から頭部などの一部が持ち去られたバラバラ死体が見つかった。その後頭部などが発見され、容疑者も浮かんだが、容疑者にはアリバイがあった。「こうもり」女子大生二人が高級旅館に宿泊中、有名な作家たちに出会う。そんな中、作家たちの親族の一人が殺された。しかし、関係者のほぼ全員にアリバイが成立していた。「加速度円舞曲」編集者が険しい山道を運転中、崖から巨大な石が落ちてきた。貴族探偵と出会った彼女が、落下もとを訪れると、知り合いの作家が殺されていた。「春の声」伯爵の娘の婿選びが行われる中、3人の婿候補たちは互いにいがみ合っていた。そしてある夜、3人全員が殺害されるという事件が起こる。――― 貴族探偵は一切調査も推理もせず、貴族探偵の使用人(執事の山本さん、メイドの田中さん、運転手の佐藤さん)が調査と推理をするという、面白い設定です。貴族探偵は名字すら明かされません(探偵の氏名が分からないのは、西澤保彦さんの『腕貫探偵』もそうですね)。 解説の千街晶之さんも強調されていますが、この中で一番印象深かったのは「こうもり」です。これはやられました。 続編もいずれ読んでみたいです。・ま行の作家一覧へ
2017.11.18
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麻耶雄嵩『隻眼の少女』~文春文庫、2013年~ ノンシリーズの長編ミステリです。有名な作品とは知っていましたが、今回あらためて、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した作品と知りました。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 村を救ったスガル様を信仰する村を訪れた種田静馬が気に入っていた岩<龍ノ首>にまたがっていると、奇妙な格好をした一人の少女と出会った。それが、名探偵の血をひく、御陵みかげとの出会いだった。 彼女と出会ったその日、逗留先の宿の主人の親戚が、殺害された。被害者は、村の有力者・琴折家の人物、次期スガルになるはずの15歳の少女だった。 犯人と疑われる静馬だが、みかげは状況の矛盾を指摘し、犯人は琴折家内部にいると考える。そして静馬は彼女の助手見習いとして、事件の調査に協力することとなった。 しかし、事件は繰り返され……。――― これは面白かったです。まず、ワトスン役をつとめる静馬さんの視点で物語が進むのですが、とても読みやすいです。物語にぐいぐい引き込まれました。 <隻眼の少女>みかげさんが、状況の「不整合」を指摘しながら推理を進めていく過程や、その先にまつ結末など、どれも楽しく読みました。・ま行の作家一覧へ
2017.10.18
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麻耶雄嵩『鴉』~幻冬舎ノベルス、1999年~ メルカトル鮎シリーズの長編です。 今回は、地図上に存在しない、奇妙な村が舞台です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 弟の死の原因を探るため、旅を続けていた珂允は、無数の鴉に襲われる。村人に助けられたとき、彼は自分が探し求めていた村にたどり着いたことを知った。 大鏡という「神」の教えに従って暮らす村人たちは、決して穏やかなばかりではなく、村の中にはどろどろしたものが渦巻いていた。たとえば、大鏡の教えにさからって、自ら金を作ろうとしていた人物の死を、多くの人が嘆かなかったように。 人殺しの犯人の手には、大鏡の罰によりあざが浮かぶと信じられている村で、殺人事件が繰り返させる。一人は、珂允の存在を疎ましく思っていた男。次いで、珂允と同様、外から村にやってきた人物が殺されて…。 大鏡の側近を務めた弟、庚はなぜ村を出て、なぜ殺されたのか―。珂允はその謎を解くためにも、村で起こる事件の犯人を解明しようとする。――― これは面白かったです。カインとアベルという主人公たちの名前からも分かるように、兄と弟の確執というものが、本書の主題のひとつになっています。 また、大鏡の教えの真相とは。殺人事件の犯人は。などなど、興味深い謎が盛りだくさんです。 ときおり姿を見せるメルカトル鮎の助言もさることながら、クライマックスのメルカトルは、珍しく(?)かっこよいです。少なくとも、『メルカトルと美袋のための殺人』のような、鬼畜じみた性格は表に出ていません(相手が美袋さんではないからでしょうか)。 10年ぶり以上の再読ですが、とても良い読書体験でした。 これで、現時点で手元にある麻耶さんの作品は全て読みました。その中では、本書が一番自分の好みです。今後、未読の作品も集めていきたいと思います。・ま行の作家一覧へ
2017.05.10
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麻耶雄嵩『メルカトルと美袋のための殺人』~講談社ノベルス、1997年~ 麻耶雄嵩さんの初の短編集です。メルカトル鮎が探偵役、その活躍の記録者である美袋三条(みなぎさんじょう)さんがワトソン役をつとめる7編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」美袋は、友人の紹介でその恩師の別荘を訪れていた。メンバーの一人を愛してしまう美袋だが、その女性と別荘の所有者が死亡する事件が起こる。女性は、美袋の隣室で頭を銃で撃たれて死んでいたが、美袋の証言によれば、現場は密室状況であった。「化粧した男の冒険」友人の経営するペンションに訪れていた美袋とメルカトルは、そこで事件に遭遇する。宿泊していた大学生のサークルのメンバーの一人が殺されていた。しかも被害者の顔には、濃い化粧が施されていた。「小人閑居為不善」メルカトルは、事件に遭いそうな人を抽出して、ダイレクトメールを発送したという。そして、一人の依頼者がやってきたが、なぜかメルカトルはその依頼を拒もうとする。(※タイトルのうち、閑の漢字が、正式なものは機種依存文字のためはじかれてしまうので、閑の字にしています。)「水難」美袋が訪れていた旅館には、幽霊が出るという噂があった。過去に修学旅行に訪れて災害にあった一団の中で、行方不明になった女学生の幽霊だという。時を同じくして、その女学生の同級生のメンバーが訪れていた。そしてその中の二人が、密室状況の小屋の中で死んでいた…。「ノスタルジア」メルカトルが美袋のために書いたミステリ。雪の密室状況で起こった事件の真相は。「彷徨える美袋」美袋は何者かに頭を殴打され、気づいたときには山奥にいた。さまよううちにたどり着いたペンションは、行方不明になった友人の弟が経営しており、さらに、友人の知り合いたちも集まっていた。そして翌朝、経営者が何者かに殺されていた。「シベリア急行西へ」ツアーでシベリア特急に乗っていた美袋とメルカトルは、また事件に遭遇する。事故で電車がとまった後、気むずかしい小説家が、何者かに殺されているのが発見された。――― かつて読んでいましたが、久々に再読。 冒頭の「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」は、詩的なタイトルが印象に残っていました。事件の真相も個人的には好みです。 その他、死者に施された化粧の謎や、メルカトル作の雪密室など、バラエティに富んだ謎解きが楽しめます。 メルカトルさんが、決していわゆる良い探偵ではなく(むしろ美袋さんに鬼畜呼ばわりされるような存在です)、美袋さんもメルカトルさんを毒づきまくっているという設定も面白いです。・ま行の作家一覧へ
2017.05.06
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麻耶雄嵩『あいにくの雨で』~講談社ノベルス、1996年~ ノンシリーズの長編作品です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 「塔」に、明かりがともっている―。報せにきた友人の獅子丸、祐今に誘われ、塔に訪れた烏兎は、そこで一人の浮浪者が死んでいるのを目撃する。 塔のまわりを覆う雪には、被害者のものと思われる、塔に向かう足跡しか残されていなかった…。 塔では、8年前にも、同様に密室状況で殺人事件が起こっていた。当時の被害者は、祐今の母親だった。果たして今回の事件に関係があるのか。 一方、以前生徒会に在籍していた獅子丸と烏兎は、現在の生徒会長から依頼され、生徒会の情報漏洩をした犯人捜しを依頼される。強い権限を持ち、秘密の捜査機関も有する生徒会を揺るがす事態に、烏兎たちは巻き込まれることになる。―――物語は烏兎さんの視点で進み、内容紹介のとおり、塔での殺人事件(しかも雪の密室状況)と、学校での生徒会の機密漏洩事件の解明の2つの課題に巻き込まれることになります。 いずれも手に汗握る状況ですが、烏兎さんのキャラクターもあり、どこか淡々とした展開です。だからこそというべきでしょうか、結末で明かされる真相のインパクトが引き立っているように思いました。 これは面白かったです。・ま行の作家一覧へ
2017.05.05
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麻耶雄嵩『痾』~講談社ノベルス、1995年~ タイトルは、「あ」です。こじれた病を意味するようですね。 本作は、前作『夏と冬の奏鳴曲』の後日譚となっています。ふたたび、如月烏有さんが主人公で、木更津悠也さんとメルカトル鮎が探偵役として登場します。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 和音島での事件の後、入院中にバナナの皮で足を滑らせ、如月烏有は頭を強打した。そして、あの事件の記憶を完全になくしてしまう。家にやってくる“桐璃”は、自分と烏有は付き合っていたというが、その記憶すらも失われていた。 仕事に復帰し、正社員になれた烏有は、先輩とともに風変わりな画家のもとへ取材へ訪れる。弟子のわぴ子を見て、思わず昔の恋人の名を叫ぶ烏有だが、わぴ子と元恋人は別人だった。 定期的にわぴ子と会うようになる烏有だが、ある日、彼は事件を起こしてしまう。気づいたら、灯油のタンクをもち、神社に放火していたのだった…。 その後、烏有は、放火現場から、他殺された遺体が発見されたことを知る。 さらに事件は繰り返され…。――― シリーズを順番に読んできて良かったです。独立した物語としても読めますが、今までの作品が伏線になっている部分もあるので…。 さて、烏有さんは自分が放火をしてしまったことは知っているけれど、殺人犯の方は分からない。そこで、木更津悠也さんも参加するミステリ愛好者たちの飲み会に顔を出し、事件のヒントや、自分の行動の意味を探ろうとしていきます。 一方、メルカトル鮎さんがやたら絡んできて、別に起こった殺人事件の真相解明を烏有さんに任せようとします。 不思議な印象もありますが、今までの二作よりはミステリとして分かりやすくなっています。 インパクトのあるタイトルと辰巳四郎さんの印象的なカバーデザインで、ずっと気になっていた作品です。入手してから何年も経ちましたが、このたび読めて良かったです。・ま行の作家一覧へ
2017.04.29
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麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』~講談社ノベルス、1993年~ メルカトル鮎シリーズ第2弾です(木更津悠也も名前が登場)。 今回は、出版社で編集者のアシスタントをしている如月烏有さんが主人公となります(第三作『痾』の主人公でもあります)。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 出版社でアルバイトをする如月烏有は、高校生の舞奈桐璃とともに、真宮和音という一人の女性の魅力に憑かれた人々の取材をすることになった。20年前、孤島、「和音島」で、和音とともに生活していた彼らは、和音と、もう一人のメンバーの死の後、離ればなれになっていた。20年ぶりに集まり、和音の命日には、彼女が主演をつとめた映画を上映して、和音を偲ぶという。 しかし、メンバーのなかにどこかぎくしゃくした空気が漂っていた。初日のディナーの際、着飾った桐璃を見た彼らの異常な反応。そして和音の絵が切り裂かれ、ますます緊張が高まっていった。 そんな中、真夏にもかかわらず、異常気象で島は雪に覆われる。そして、足跡のない密室状況で、首のない死体が発見された…。――― なかなか事件が起こらないので、序盤は少し読むのがしんどかったですが、絵が切り裂かれ、さらに真夏の雪密室という事件が起きてからは、どんどん引き込まれました。 映画のシーンは圧巻です。 全ての謎がきれいさっぱり解決されるというわけではありませんが、個人的には『翼ある闇』よりこちらの方が好きなタイプの物語です。 ノベルス版で500頁という大作で、すべてが理解できたわけではありませんが、これは面白かったです。 15年ほど前に一度読もうとして序盤で挫折していましたが、今回読めて良かったです。・ま行の作家一覧へ
2017.04.26
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麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』~講談社ノベルス、1993年~ 麻耶雄嵩さんのデビュー作です(単行本は1991年刊行)。なお、画像は新装版のものです。 デビュー作が、いきなりシリーズ探偵であるメルカトル鮎の最後の事件という、非常に衝撃的な試みです(以降の作品を、もうそういう目でしか見られなくなるという…!)。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 探偵・木更津悠也のもとに届いた2通の手紙。それは、京都で知らない人はいない資産家・今鏡家の人物から届いた依頼と、何者からの脅迫状だった。木更津は、友人の香月とともに今鏡家に向かう。 しかし、今鏡家に到着したときには、既に事件は起こっていた。依頼者の今鏡伊都が、首を切断されて殺されていた。そしてその首は、密室状態の部屋の中に、別の人物の胴体とともに置かれていた…。 木更津たちが今鏡家にとどまってからも、殺人は繰り返され、全ての被害者は首を切断されていた。 木更津でも予見できなかった衝撃的な事実が明らかにされた後、名探偵メルカトル鮎が今鏡家を訪れるが…。――― 密室、繰り返される首切り殺人、脅迫状、密室に落ちていた柑橘類の種などなど、魅惑的な謎がこれでもかと提出されます。 そして、木更津悠也、メルカトル鮎という(今後麻耶さんの作品に登場する)2人のシリーズ探偵がこぞって推理を展開するという、ぜいたくな謎解き合戦も繰り広げられます。 真相については…私の理解力では結局「?」です。10年以上ぶりの再読ですが、やっぱり分かりませんでした。 そして野崎六助さんという方による解説も私には意味不明でした。 と、決して万人にはおすすめできない作品だと思いますが、とにかくパワーのある作品だと思います。 しばらく、手元にある麻耶さんの作品を読み返していきたいと思います。・ま行の作家一覧へ
2017.04.15
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~』~メディアワークス文庫、2014年~ ビブリア古書堂の店長・篠川栞子さんと、店員の五浦大輔さんが活躍するシリーズ第5弾です。江戸川乱歩をめぐる第3弾同様、今回も長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――太宰治の稀覯書を巡る事件を起こした青年が、ふたたびビブリア古書堂に接近を図る。彼が言うには、彼の祖父が有していたはずの太宰の稀覯書を取り戻したいというのだ。彼の祖父と交流のあった人々は、栞子や五浦たちの祖父母とも関わっていたことが浮かんでくる。厳重に管理されていたはずの研究者の書庫から盗まれた稀覯書、そして青年の祖父の手から離れた太宰の稀覯書の行方は。――― こちらも面白かったです。なんとなく、話が重たくなってきたような…。 シリーズももう終盤のようです。次作を読むのが楽しみです。
2016.08.13
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖5~栞子さんと繋がりの時~』~メディアワークス文庫、2014年~ ビブリア古書堂の店長・篠川栞子さんと、店員の五浦大輔さんが活躍するシリーズ第5弾です。今回は第3弾以前同様、連作短編集となっています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――プロローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)第一話 『彷書月刊』(弘隆社、彷徨社) 栞子と気まずい状況になってしまった五浦大輔は、知り合いの古書店主から、興味深い話題を提供される。それは、『彷書月刊』という雑誌のバックナンバーをまとめて売りに出した後、自分が売った分をそのまま買いに来るという女性客の存在であった。はたして彼女の目的は。第二話 手塚治虫『ブラック・ジャック』(秋田書店) 依頼人の父は、ブラック・ジャックの同じ巻を重複して持っていた。そのうちの何冊かを持ち出した家族の思惑は、そして重複して持っているその理由とは。第三話 寺山修司『われに五月を』(作品社) 過去に栞子から出入り禁止を言い渡された男が依頼人としてやってきた。亡くなった兄から、死の直前に、コレクションのうち貴重な一冊を譲ると言われていたという。家族からも信用されていない男の言葉の真意とは。エピローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)――― それぞれの話もとても面白いのですが、五浦さんの言葉に栞子さんがどんな返答をするのか、そちらの方が気になりながら読み進めました。 物語としては、第二話が印象的でした。さらに、本体の短編が終わるに断章が挿入され、五浦さん以外の人物の一人称で物語の裏側が提示されるのも興味深いです。
2016.08.10
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖4~栞子さんと二つの顔~』~メディアワークス文庫、2013年~ ビブリア古書堂の店長・篠川栞子さんと、店員の五浦大輔さんが活躍するシリーズ第4弾です。今回は、江戸川乱歩の作品をめぐる長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 10年前に失踪した篠川栞子の母、篠川智恵子がビブリア古書堂に現れてから、大輔と栞子は新たな事件に巻き込まれることとなる。 資産家の別荘で同居していた女性から持ちかけられたのは、開かずの金庫を開けて欲しいという依頼だった。資産家は、家では厳格に過ごしながら、別荘には趣味の江戸川乱歩の著作を、稀覯本も含めてほとんど網羅していた。 栞子は、本邸に、金庫の鍵と、暗号解読のヒントがあるとにらみ、本邸の調査を進めていく。そこから浮かび上がる、資産家の素顔、そして金庫の中身の正体とは。――― ビブリア古書堂シリーズを読むのは久々ですが、夢中になって読みました。 江戸川乱歩は不勉強ながら、まだ読んだことのない作品の方が圧倒的に多いのですが、少しずつ光文社文庫版の全集を集めて読んでいきたいと思っています。この点、これから読む楽しみとして、プラスにとらえています。 栞子さんと母親の関係、そして栞子さんと大輔さんの今後の行方はと、ますます今後の展開も楽しみになっていく一冊です。
2016.08.06
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緑川聖司『晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語』~ポプラ文庫ピュアフル、2013年~ 図書館と本が大好きな小学5年生、茅野しおりさんが活躍するシリーズ第2弾です。 本編5話、エピローグ(紹介は省略)、そして番外編が収録された、連作短編集です。それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「第一話 移動するドッグフードの謎」ある日は図書館の外に置かれていたドッグフードが、図書館の中に置かれるようになっていった。なぜ図書館の中にドッグフードが置かれるのか?「第二話 課題図書」図書館で知り合った女性が、姪のために本を探しているという。わたしの課題図書が読みたい、というその言葉の意味とは?「第三話 幻の本」図書館近くの喫茶店「らんぷ亭」で話をしていたしおりと美弥子たちは、昔読んだ物語を探しているというおばあさんに出会う。物語を探すしおりたちは、意外なところでその物語を見つけ、戸惑ってしまうこととなる。「第四話 空飛ぶ絵本」講演会の帰り道、友人に声をかけたしおりだが、その友人は泣いていて、その日からしおりと話さなくなってしまった。彼女に何があったのか?また、風邪をひいた日に、母がほんの数分でしおりが読みたがっていた本を手にしてきた理由とは?「第五話 消えたツリーの雪」図書館ロビーに飾っていたツリーから、なぜ飾り付けの雪が消えてしまったのか?「番外編 九冊は多すぎる」「九冊は多すぎる…」。電話でそう言っていた男の言葉の意味とは?――― 第1巻に引き続き、こちらもとても楽しめました。 特に気に入ったのは第二話と第三話です。第二話は、娘への接し方(本について)を気をつけなければと自省させられる作品。第三話は、素敵な運命を感じる話です。
2016.07.30
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~』~メディアワークス文庫、2012年~ 有名なシリーズの第3弾です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーープロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・I 栞子さんの妹、篠川文香さんが語る日常。第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫) ビブリア古書堂の絶版文庫コーナーが充実していないことに気づき、栞子さんと大輔さは古書交換会に参加する。しかし、栞子さんをよく思っていない古書店主から嫌な言葉をかけられるだけでなく、自店は何も出品していないのに、ビブリア古書堂が出店したことになっている古本の束も出てきて…。第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』 以前の事件で知り合った坂口しのぶさんから、子供の頃に読んだ絵本を一緒に探してほしいという依頼が舞い込む。しかし、しのぶさんのご主人も言うように、それはただの本探しではなく、仲違いしてしまっている両親との和解へのステップのようで…。第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店) 栞子さんの両親を知る人から、盗まれた本を探してほしいという依頼がなされた。犯人は、おそらく親族の中にいる。しかし、犯人と思われる二人には、本を盗み出す時間がなかった。エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)・II 後日譚。ーーー 今回も面白かったです。特に好きなのは、第二話ですね。しのぶさんには、幸せになってもらいたいものです。 栞子さんとお母さんとの関係も、いずれ進展していくのでしょうか。主人公たちの今後がますます気がかりにもなる一冊でした。次作を読むのが楽しみです。
2014.11.08
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緑川聖司『晴れた日は図書館へいこう』~ポプラ文庫ピュアフル、2013年~ 緑川聖司さんのデビュー作。図書館(と、市立図書館で働くいとこの美弥子さん)が大好きな小学五年生、茅野しおりさんが主人公の、日常の謎を解き明かす短編集です。 本書には、番外編も含めた6話が収録されています。 簡単に、内容紹介と感想を。ーーー「第一話 わたしの本」図書館の中で迷子になった女の子が、わたしに声をかけてきた。たまたまわたしが手に取った本を、その子は「あ、わたしの本」と取り上げてしまい…。「第二話 長い旅」同級生の安川くんが、図書館の返却期限を過ぎてから返すと何かあるのかな、と訊いてきた。話を聞くと、60年前に借りた本があるというのだが…。「第三話 ぬれた本の謎」図書館のブックポストにコーヒーの空き缶が投げ込まれるという、悲しい出来事があった頃。わたしが気になっていた本も、水をかけられていたらしい。どうも空き缶事件とは事情が違いそうなのだが…。「第四話 消えた本の謎」図書館では、勝手に持ち出されるなどの理由で所在が分からなくなる不明本がけっこうある―。そんな悲しい話を聞いた矢先、わたしの気になっていた本も不明本になっていた。最近急に、児童書を中心に本がなくなるというのだが…。「第五話 エピローグはプロローグ」図書館祭りの日。自分の子供が騒いでいても注意しない、図書館の司書に叱られたら「お姉さんに叱られるからダメ」という言い方しかしない親の姿を見て、悲しい気持ちになっていたとき、静かにその女性に注意した人がいた。その人が、図書館祭りで講演することになっていた、関根要という作家だった。「番外編 雨の日も図書館へいこう」雨の日に本を借りて、傘を差して公園で音読している女性の行動の理由とは…。ーーー 本屋さんでふっと見つけ、そのままの勢いで購入した一冊です。最近、こういう買い方は珍しいのですが、買って良かったです。 日常の謎は好きなジャンルですし、児童向けのやさしい雰囲気も好きです。 私はあまり図書館を利用しませんが、その雰囲気にふれられるのも、そしてなにより主人公たちが本好きなのが嬉しいです。 シリーズ第2作も文庫で出ているようですし、また読んでみたいです。
2013.12.21
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森博嗣『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』~新潮新書、2013年~ 久々に森博嗣さんの著作を読みました。 本書の構成は次のとおりです。ーーーまえがき第1章 「具体」から「抽象」へ第2章 人間関係を抽象的に捉える第3章 抽象的な考え方を育てるには第4章 抽象的に生きる楽しさ第5章 考える「庭」を作るあとがきーーー あとがきでふれられている執筆直後の原題『抽象思考の庭』の方が素敵なタイトルだと思いますが、新書という性格上、仕方なかったのかもしれません…。 とまれ、構成に示したとおり、本書は抽象的・客観的な思考のあり方の重要性を指摘します。抽象的な思考が重要だ、という趣旨のため、内容もあえて具体的な事例は書かないようにされています。 領土問題などなど、主観的に考えられがちな諸問題について、もう少し引いて、客観的にみてみよう、と指摘されています(これらの問題について、具体的な根拠の少なさも指摘されています)。関連して、「『決められない』という正しさ」「『決めない』という賢さ」の小見出しで示されたあたり、私には特に有意義な内容でした。
2013.10.19
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松尾由美『九月の恋と出会うまで』~新潮文庫、2009年~ 新潮文庫では、『雨恋』に続く作品です。表紙の感じも、内容も、どことなく似たような世界観で、そしてその感じは大好きなので、とても面白く読みました。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーー 写真が趣味の、わたしこと北村詩織は、現像液のにおいのことでアパートの住民から苦情を言われていた。そんななか、雑貨店で見つけたぬいぐるみの熊が、「引っ越しちゃえば」と言っているように思えて…。 そして、なんらかの芸術活動をしていることが条件となっているアパートに入ることになる。快適だったアパートの部屋だが、ある日、エアコンのホースを通すための穴から、声が聞こえた。声は、穴とは逆側の部屋に住んでいる平野で、1年後から声を届けているという。一週間分の新聞の見出しを読むことで、未来からの声ということは納得したものの、詩織の聞き間違いから、シラノと呼ばれるようになるその声の持ち主は、奇妙な依頼を持ちかける。それは、詩織の定休日の水曜日に、平野を尾行してほしいという依頼だった。奇妙な依頼に応じるなか、その目的を話してくれる約束の日から、急に声が聞こえなくなり…。 詩織は、平野とともに、シラノの正体を探ろうとし始める。ーーー あらためて、これは面白かったです。 松尾由美さんの作品は、安楽椅子が探偵だったり、幽霊がアドバイスをしてくれたりと、不思議な設定が特徴ですが、本書でも、未来からの声と、それによる過去の改変(?)という、SFにつきもののテーマがひとつの主題となっています。最近、広瀬正さんの作品を読んだりして、SFにふれていたので、このテーマについて、こういう解決があるのかと、いっそう興味深く読めたように思います。 もうひとつのテーマは、タイトルにもある「恋」なのですが、こちらも素敵でした。 良い読書体験でした。
2012.11.23
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖2~栞子さんと謎めく日常~』~メディアワークス文庫、2011年~ 前回紹介した「ビブリア古書堂」シリーズの続編です。 今回は、栞子さんの家族について、その一端が語られます。 それでは、簡単な内容紹介と感想を。ーーー「プロローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)・I」 栞子さんに言われ、均一本コーナーで売る本を運ぼうとしていた大輔さん。彼は、その中に『クラクラ日記』という本が何冊もあるのに違和感を覚える。栞子さんも珍しく、その本にあまり良い印象がなさそうで…。「第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)」 以前の事件で知り合った小菅奈緒が店にやって来た。彼女は、妹の結衣が書いた読書感想文のことで相談にきた。『時計じかけのオレンジ』についてのその感想文で、家にごたごたが起きているという。しかしそれ以前に、栞子さんは、結衣がその本を本当の意味では読んでいないと指摘して…。「第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)」 大輔さんの昔の恋人、高坂晶穂さんの依頼で、彼女の亡くなった親族の本の買い取りに出かけた栞子さんと大輔さん。複雑な事情から、家族とうまくいっていない晶穂さんだが、彼女たちから状況を聞いていくにつれ、栞子さんは何かの疑問を感じ始め…。「第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)」 本の買い取りにきた客が、本を置いたままいなくなってしまった。途中までしか書かれていない住所と名前、そして持ってこられた本をたよりに、栞子さんはその客の家を突き止める。客が話した『UTOPIA』という作品と、栞子さんの関係が、そこで語られることになる。「エピローグ 坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)・II」 その、後日譚。ーーー 本作も面白かったです。安心して読めますね。 大輔さんの昔の恋とか、栞子さんとのちょっともどかしいところが楽しいももちろん、ちょっと重たい栞子さんの家族の話など、どきどきしながら読めるのも良かったです。 続編も予定されているようで、楽しみです。
2012.06.17
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』~メディアワークス文庫、2011年~ テレビで観て、気になっていた作品です。マスコミが取り上げる話題書は、なかなか手に取らないタチなのですが、本書は古本をテーマにした物語ということで、とりわけ気になったのでした。 さて、本書は、北鎌倉駅のそばにある古本屋「ビブリア古書堂」の店長(怪我のため入院中)、篠川栞子さんが、古本(とその持ち主)にまつわる謎や物語を解き明かしていく、連作短編集です。 本が読みたいのに、幼少の頃に祖母の本を見ていたときにあまりに激しく怒られたせいか、本を読めなくなった青年、五浦大輔さんの一人称で、物語は進みます。ーーー「プロローグ」 五浦さんとビブリア古書堂のつながり、そして本を読めなくなったきっかけが語られます。「第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)」 五浦さんが本を読めなくなったきっかけの一冊、夏目漱石の全集の『それから』には、謹呈署名が書かれていた。しかし夏目漱石の署名では、時代が違うのでありえない。もともとビブリア古書堂で買った本と思われたこともあり、五浦さんはビブリア古書堂を訪れる。 そして解き明かされる、祖母の秘密とは…。「第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)」 ビブリア古書堂に、貴重な本を売ってくれるせどり屋(古本を安く買って高く売る)の志田さんが持ち込んできた依頼。それは、彼が大切にしている小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』が盗まれてしまったので、探してほしいということだった。そしてたどり着いた犯人が、本を盗んでいった理由とは…。「第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)」 少し変わった雰囲気の、スーツ姿の男性が売りに来た、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』。査定に時間がかかる旨を伝え、男性が帰った後に、その妻から電話がかかってくる。その本を、買い取ってほしくないというのだった。40年も大切にしていた本を、男性が売ろうとした理由とは…。「第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)」 栞子さんが怪我をしたのは、太宰治『晩年』の希少本を、どんな手段を使ってでも栞子さんから買おう(あるいは奪おう)としている人物の仕業だった。作戦をたて、その人物を罠にかけようとする、栞子さんと大輔さんだが…。「エピローグ」その、後日譚。ーーー どれも良かったですが、特に第三話が面白かったです。その過去は許されるものではないと思いますが、奥様のためにも、この夫婦は幸せであってほしいと思わされる、そんな物語でした。 本の内容だけでなく、古本にはその本自体の物語がある、というのが大きなテーマになっています。 私にとって、中学生の頃に出会った横溝正史『本陣殺人事件』が、本好きになるきっかけであったり、高校生の頃に読んだ江國香織「デューク」や島田荘司『異邦の騎士』がとても大切な物語であったりするように、誰かに読まれた本は、その内容だけでなくて、その本に対する読者のいろんな思いがあると思います(だから、たとえば『本陣殺人事件』は本屋に並んでいますが、私にとっては、自分が当時買って読んだその一冊こそが、特に大切なのです)。 ちょっととりとめのないことを書いてしまいましたが、本が好きな方なら、きっと楽しめる物語だと思います。
2012.06.15
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松尾由美『銀杏坂』~光文社文庫、2004年~ 不思議な設定でありながら、すっとその世界に入っていけるような松尾由美さんの連作短編集です。今回は、金沢市をモデルにした、少し変わった世界の、刑事さんが主人公です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。ーーー「横縞町綺譚」 幽霊が住むというアパートで、住人が宝石をなくしたと届け出た。木崎刑事と若い同僚の吉村が捜査を進める中で、二人は本当に幽霊を目撃することになる。そして衆人環視状況の中で消えた宝石の行方は…。「銀杏坂」 刑事部長の安岡から呼び出された木崎は、また妙な事件(?)に関わることになる。安岡の親戚にあたる女性は、昔から予知夢を見ると評判だった。そんな彼女が、近い内に夫を殺す夢を見たという。予知夢になるのではと心配する女性に、木崎は過去の予知夢が本当に全て現実に起こったのか証明することで、安心させようと試みる。「雨月夜」 雨の夜、男が何者かに襲われた。その男が犯人の心当たりとしてあげた人物は、眠っている間にもう一人の自分が徘徊するという…。木崎たちはその生霊を目撃するが、はたして事件の犯人は…。「香爐峰の雪」 休日、ふとある寺院の石段をのぼった木崎は、二人で遊んでいる子どもたちに出会った。少女の言葉にしたがって、少年はビー玉を浮かせていた。感心して見ていた木崎だが、その近所でいわゆる密室状況での殺人が起こったのを機に、二人の子どもたちが急に気がかりになる。「山上記」 幽霊アパートを発端に、いくつもの奇妙な事件を経験した木崎は、ある事件を捜査する中で、ふたたびあの幽霊と出会う。そして木崎は、あることに気づき…。ーーー 読了から感想を書くまでにちょうど2週間かかってしまいましたが、メモを書いておこうと思っていたせいか、案外内容も覚えていました。 この中では特に「香爐峰の雪」が(悲しくもありますが)美しい、と思いました。 松尾さんの作品では、だいたい本書のように幽霊が出現するなど、なにげなく日常を過ごしている私たちには「非日常」な要素が登場し、そしてそれがうまくとけ込んでいます。突飛な設定でも、無理がないですし、そうした「非日常」の要素をふまえつつ、作品内での論理性もしっかりしているのですね。ここが松尾さんの作品の魅力だと思います。 ずいぶん前に購入していましたが、表題作にある「銀杏」の言葉にあわせて、読むのを秋まで待っていました(今年はものすごく暑い日が続いたと思ったら急に冷え込んできて、あまり「秋」を感じられませんでしたが…)。楽しい一冊でした(ただし最終話がやや??でした)。(2010/11/06読了)
2010.12.19
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麻耶雄崇『神様ゲーム』~講談社、2005年~「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」の中の一冊です。 それでは、内容紹介と感想を。ーーー ぼくは、今年の誕生日にも、ろうそくを全部吹き消すことができなかった。実は、本当の誕生日はまだきていないのではないか、と思ってしまう。そんなぼくは、気を取り直して、警察官の父親に尋ねる。町で最近起こっている連続猫殺害事件の犯人が分かったのかどうか。ぼくたちが結成している探偵団のメンバー、ミチルもかわいがっていた猫が殺され、ぼくたちは犯人に怒りを燃やしていたのだった。父親は、まだ分からないと答えるけれど、探偵団は犯人を探そうと動き始める。 * 一方ぼくは、トイレ掃除で一緒になった鈴木太郎に興味を覚える。転校生で、口数の少ない鈴木くんは、自分は神様だという。そんな鈴木くんにいろいろ尋ねると、なんでも知っている彼は答えてくれる。ぼくの本当の誕生日は、家族と祝っている日とは違うというし、連続猫殺害事件の犯人の名前も答えてくれた。 ぼくは、探偵団に、情報の元は隠しながらその名前を伝える。猫殺害の犯人を追い詰め始めたと思われたが…。ーーー 麻耶雄崇さんの作品を読むのは久々です。どの作品についてもまだ記事を書いていないので、つまりどの作品のこともすっかり忘れてしまっているのですが(メルカトル鮎が嫌なキャラクタなのは忘れられませんが)、はじめて読んだ本作は、とても楽しめました。 猫殺しに、ついに起こってしまう身近な友人の死。それらの真相を全て知っているという、自称「神様」の存在。標題が『神様ゲーム』となっていることもあってか、私は主人公と鈴木くんのやりとりを特に楽しく読みました。 主人公は自分の寿命まで知ってしまうわけですが、願わくはこの結末の後、寿命までは、主人公に幸せが訪れますように…。『翼ある闇』などを読んで麻耶さんに抱いているイメージがあると、ちょっと本作を読むにも構えてしまっていたのですが、いらない心配でした。とても楽しめた一冊です。(2010/05/02読了)
2010.06.01
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松尾由美『安楽椅子探偵アーチー』~創元推理文庫、2005年~ 安楽椅子が探偵をつとめるシリーズ第1作。4編の短編からなる(連作)短編集です。 主人公は、小学5年生の及川衛くん。10月半ばのある日―衛くんの誕生日に、ゲームを買うためのお金を渡されて買い物に出かけていた彼は、骨董屋の安楽椅子に目をとめます。近くに誰もいないのに聞こえてきたため息が、その椅子から聞こえた気がして。そして衛くんは、ゲームではなくてその安楽椅子を購入するのでした。 安楽椅子で眠っていると、不思議な夢を見て転げ落ちてしまいます。それから、安楽椅子が言葉を喋ります。意識をもち、話せるようになって60年ほどになるその安楽椅子は知識も豊富で、まるで名探偵のような推理も披露するのでした。 それでは、それぞれの短編の内容紹介と感想を。ーーー「第一話 首なし宇宙人の謎」11月。同級生の中西くんは、頭脳明晰、運動神経もかなり良いけれど、やや偏屈なところから「宇宙人」とあだ名されていた。そんな彼にも苦手があって、それは家庭科の授業。発表会に展示するナップザックも中西くんだけ作業が遅れていたため、ある日彼は、放課後に残って作業を進めていた。ところが、しばらく席を外していたあいだに、事件が起こっていたのだった。ナップザックが切られ、それに描いていたタコ型宇宙人の足のところだけが残されていた。そこに、×印も縫いつけられて…。「第二話 クリスマスの靴の謎」12月。帰宅途中、酔っぱらいのいざこざに出くわした父親は、靴を振り上げて、そのまま落としていった男の靴を拾った。男を追い、それを返そうとしたが、男は受け取ろうとせず、むしろ逃げていったのだった。冒険心のある父はその靴を持ち帰り、調べてみるが、なんの異変もなかったという。「第三話 外人墓地幽霊事件」2月。社会科見学で横浜外国人墓地を訪れた衛くんたち。衛くんと芙紗さんは、白いコートの女性を気に留めていた。また、芙紗さんは張り紙に書かれた文字のいくつかに、ピンクのチョークで印が付けられているのに気付く。後日、当日の写真を見てみると、コートの女性がますます謎めいてくる。「第四話 緑のひじ掛け椅子の謎」3月。推理小説雑誌の新人賞選考結果ページに載った、「緑のひじ掛け椅子の謎」というタイトルとあらすじ。それは、衛くんの安楽椅子、アーチーと関わりの深いものと思われた。衛くんたちは、その小説の作者のことを探ろうとする。ーーー 安楽椅子が喋って、鋭い推理で謎を解く。まさに「安楽椅子探偵」そのものという設定はネットなどで知っていて、いくらなんでも…と正直思っていました。その先入観が、良い意味で裏切られました。 本書は、とても面白かったのです。 安楽椅子が喋るという設定それ自体も面白かったですし、なにしろ「安楽椅子探偵」ものですから、魅力的な謎の提示も綺麗な解決もしっかりしていて、楽しく読めました。 いずれ続編も読むつもりですが、続編も楽しみです。(2010/01/25読了)
2010.01.28
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