クラウディア・ブリンカー・フォン・デア・ハイデ(一條麻美子訳)『写本の文化誌―ヨーロッパ中世の写本とメディア―』
~白水社、 2017
年~
Claudia Brinker-von der Heyde, Die literarische Welt des Mittelalters
, Darmstadt, 2007
著者のブリンカー・フォン・デア・ハイデ (1950-)
はカッセル大学教授で、中世からバロックのドイツ文学や中近世の書物・図書館の歴史がご専門のようです。
訳者の一條麻美子先生は東京大学大学院総合文化研究科准教授で、中世ドイツ文学などがご専門です。このブログでは、次の雑誌論文を紹介したことがあります。
・一條麻美子「「愛の洞窟」の3つの窓―ゴットフリート・フォン・シュトラースブルク『トリスタン』における名誉の問題―」 『西洋中世研究』 2
、 2010
年
、 83-98
頁
さて、本書の構成は次のとおりです。
―――
序
第1章 本ができあがるまで
第2章 注文製作
第3章 本と読者
第4章 作者とテキスト
訳者あとがき
参考文献
書名・人名リスト
注と典拠
索引
―――
第1章は、以前紹介した クリストファー・デ・ハメル (
加藤磨珠枝監修/立石光子訳 )
『中世の写本ができるまで』白水社、 2021
年
と同様、写本製作の流れを紹介します。特に興味深かった点をいくつかメモしておきます。
・最終的に巻物からコデックス [
本 ]
へ中心が移るのが5世紀のことですが、「この変化は古代の終わり、中世の始まりを意味するものとされている」 (30
頁 )
と著者は述べます。さらに、「巻物から本への移行が中世という時代の始まりを告げたとすれば、活版印刷はその終わりを宣言したといえる」 (85
頁 )
とも述べ、書物の形態変化から時代区分を述べている点は興味深いです。
・羊皮紙は「生きている素材」であり、温度や湿度の変化に反応して丸まったり伸びたりするため、写字室には暖房がなかった」(が、暖房室はそばにあった)という指摘も興味深いです (50
頁 )
。実務として写字室に暖房はなかったけれど、かじかんだ手を暖房室であたためる修道士の姿が想像されます。
第2章以下は、宮廷や都市を主な舞台として、特に詩作品に重点を置いた議論となっています。
第2章では、写本盗難という興味深い事例を通して、写本が政治的にも重要な役割を果たしたことを指摘します。
第3章は主に抒情詩(ミンネザング)をとりあげますが、「ミンネザングはまさに、特別な機会がなくてもふと口ずさめる中世のポップスだったといえよう」 (170
頁 )
という面白い指摘や、その第2節は「身体としての本」と題して、文字や本に使われる身体のメタファー(頭書き、脚注など)、装飾イニシャルが人文字になっている例を紹介するなど、大変興味深いです。
第4章は著名な中世詩人の生涯が「創作」されていることや、「詩人フェーデ」という、詩人同士の批判の応酬などをとりあげていて、こちらも興味深く読みました。
また、全体を通じて、作品のオリジナル復元よりも、個々の写本の独自性を強調する立場をとられていることがうかがえます。
著者の専門もあり、中世ドイツの、とりわけ抒情詩に重点が置かれていますが、中世の写本の諸相にふれられる興味深い1冊でした。
(2026.03.21 読了 )
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