M17星雲の光と影

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2006.07.17
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カテゴリ: 音楽
音楽ジャンルの中で「ロック」ほど定義しづらいものはない。

定義とはカテゴライズであり、カテゴライズされた枠組みを破壊するのがロック・ミュージックの根源的衝動だから、これは当然といえば当然の事態である。

ロックスターも一般化しづらい。個々の名前を挙げれば、誰がロックスターで、そうでないのかは一目瞭然だが、ではそれらの人間に共通する一般項を指摘しろといわれると、うーんとうなってしまう。

たしかにむずかしい問題ではあるけれども、私の考えるロック、ないしはロックスターには、ある種の破壊性、暴力性、凶暴性と、内面的な繊細さ、センチメンタリズム、詩情の両面があり、その二者の合体、融合、共存という側面があるように思える。

外面的には強烈なビートや炸裂するリズム、絶叫や喧噪、怒声が目につくが、実はそれだけではロックにはならない。それだけでは、せいぜい中学生向きの単純ハード・ロックか、似非パンクがいいところである。

その音楽の内面に、あるいはその音楽を作り出す人間の内面に、もろくくずれやすい砂糖菓子のような繊細さ、膝を抱えてうずくまったまま動かない閉塞感、けっして手の届くことのない憧れに向かって手を差し伸べるセンチメンタリズムと詩情、そういうものがなければ、けっしてロックとはいえない。けっしてロックにはならない。

もちろんそれはあくまでも私見であって、世の中にはそれら(特に後者)の欠落した音楽が氾濫しているが、私はそういう音楽はロックとは呼ばない。(そういえば一時期は「商業ロック」「産業ロック」という呼称が使われていたように思うがージャーニーとかですねー、最近は聞かれなくなった。おそらくはその種の音楽が蔓延しすぎて、あえて名称を付す必要がなくなったからではないかと思うが、そう考えると事態はかなり深刻である)

ビートルズの後期、アニマルズ、キンクス、ドアーズ、レッドツェッペリン、いずれもそのような二面性、あるいは相異なる二者の共存が感じられる。(ローリング・ストーンズはやや微妙か。でももちろんある種の叙情性はこのバンドにも濃厚に漂っている)

プレスリー、ジョン・レノン、ブルース・スプリングスティーン、ジャニス・ジョップリン、ジミ・ヘンドリックス、デビット・ボーイに至るまで、やはり凶暴性と叙情性の共存はロックスターの必須の条件と思える。そして、シド・ヴィシャス。



甲本ヒロト、おっけー。スガシカオも大丈夫。彼の場合には後者の要素がやや勝っている気はするが。後は誰だろう。ああ、そうだ、大事な人を忘れるところだった。「あの人」だ。

あの人は世間的には「ちょっと変わった」というイメージで受けとられることが多いかもしれない。ロックスターと聞くと、ちょっとぴんとこないという印象をもつ人もいるかもしれない。しかし、私の知るところでは彼こそ日本のロックスターである。

彼がタモリの「笑っていいとも」の初期の頃に登場したことを思い出す。ギターをもって登場した彼は、話などせず、いきなりライブ・パフォーマンスを始める。10分間ほど強烈な演奏を展開する。客は口あんぐり。およそその演奏とは無縁な若い女性客ばかりだった。

彼はひとしきり演奏を終えると、茫然としている客席を見渡して、一言。「 ブ キ ミ ナ ヤ ツ ラ ダ ゼー」

私は思わずテレビの前で拍手喝采してしまった。それ以来、自分自身が「なんだこいつら」という集団の中に入れられた場合など、このフレーズをこころの中で呟くのを常としている。これ、けっこー、使い勝手いいですよー。

「 コ イ ツ ラ ブ キ ミ ナ ヤ ツ ラ ダ ゼー 」

こう念じると、少しだけこころが和む。

彼の破壊性、攻撃性は次の曲によく表れている。私の大好きな曲である。心屈した時には大音量でよく聞く。イントロのタイトなリズムセクションもすばらしい。


あきれて物も言えない

どっかの山師が オレが死んでるって 言ったってさ
よく言うぜ あの野郎 よく言うぜ


どっかの山師が オレが死んでるって 言ったってよ
よく言うぜ あの野郎 よく言うぜ
あきれて物も言えない

ところが おエラ方 それで血迷ったか
次の週には 香典が届いた


オイラ その香典集めて こうして遊んでるってワケさ
ますます 好き勝手なことができる オー ベイビー
さあ オマエに何を買ってやろうか

山師が 大手を振って歩いてる世の中さ
汗だくになって やるよりも
死んでる方が まだマシだぜ

おっと社長さん「オマエは死んだ もうクビだ」と言いたい
さあ さあ ハッキリ言ってみな オマエはクビだと 言ってみな

何をビビってるのよ 社長 みっともないぜ
さあさあ あのガッツは どこ行った
今までに何人も クビ切った アンタじゃないか

どっかの山師が オレが死んでるって 言ったってさ
よく言うぜ イモ野郎 よく言うぜ
あきれて物も言えない

低能な山師と 信念を金で売っちまう おエラ方が
動かしてる世の中さ 良くなるわけがない
あきれて 物も言えない

だからBaby さあ 今夜はどこで遊ぼうか
まだまだ 香典 集まりそうだ
当分 苦労はさせないぜ


彼のボーカリゼーションはおそらくこの時、絶頂期を迎えていたと思う。
何度聞いても鳥肌が立つ。こういう「ロック」をもつことができた幸せをわれわれはもう一度じっくりと噛みしめる必要がある。切実にそう思う。

だが、彼の音楽性のアルバムをくるっと持ち上げてひっくり返し、B面をターンテーブルに載せてみる。さて、どんな曲が聞こえてくるだろうか。


エンジェル

調子にのってるぜ 運のいいエンジェル
また想いだしちゃう やさしくされたこと
歩道橋渡る時 空に踊るエンジェル
お月様 おねがい あの娘をかえして

うそつきだから 甘いメロディ 知ってる
いつも笑い返して ぼくに見えないことしてる

調子にのってるぜ うそつきエンジェル
ガード・レールけとばして 見上げる空

調子っぱずれだぜ うそつきエンジェル
また想いだしちゃう やさしくされたこと
歩道橋渡る時 空に踊るエンジェル
お月様 おねがい あの娘をかえして


この曲は、彼のバンドのファンだった10代の少女が自殺した知らせを聞いて、彼が作った曲である。かの名曲「スロー・バラード」に比べると知名度は高くないが、一度聞いてみてほしい。失われたものに向かって、これほど切実に、ひたむきに、手の届く限り、せいいっぱいに腕をさしのばした曲が、他にあっただろうか。これほど哀切な「ロック」をこの国がもったことがはたしてあっただろうか。

私はあるライブで、甲本ヒロト、彼、永積タカシを同じステージで見たことがある。会場は渋谷アックスだった。

すばらしい瞬間だった。おそらくは日本のロックを代表する三人が互いにはにかみあいながら、ライブでパフォーマンスを繰り広げている。そして、その私の隣には。

まあ、いいや。私にとっては人生至福の時間だった。

彼の名は忌野清志郎。

この国が生んだ最高のロックスターである。彼が喉頭癌であるということを先日ニュースで知った。

癌がなんぼのもんじゃい。彼のロックスピリッツを奪える癌などこの世には存在しない。そして、あのライブで聴いた彼のギターの繊細で甘美な音。

最悪の場合でも、彼にはギターという喉がある。

「うそつきだから 甘いメロディー知ってる」

もう一度、あの破壊衝動とやるせないセンチメンタリズムをまぜあわせた毒団子をオレたちの口の中にねじりこんでください。

忌野清志郎兄。祈、快癒。














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Last updated  2006.07.17 20:33:11
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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

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