Nonsense Story

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きみのこと 4


 チリンチリン・・・・。ドアに付けてある鈴が鳴る。
「ちょっと待っ・・・・」
 智樹もフジコちゃんを追って外へ出ようとしたが、鈴の下で人とぶつかった。
 智樹はフジコちゃんが思い直して引き返してきたのかと思ったが、ぶつかった人物はスーツ姿の大男だった。
「トモ、こんなとこで何やってんだよ」
「菅田?」
 大男は大学時代からの友人である菅田だったのだ。
「菅田、ごめん! あの女の子捕まえて!」
「はぁ? 女の子ぉ?」
「今ここから出てった子。ぶつからなかった?」
「誰にもぶつかったりなんかしてねーよ。それよりトモ、お前なぁ、携帯くらい出ろよ」
「あ。悪い。昨日新幹線に乗る時から、ずっとマナーモードのまんまだった。サイレントカーだったんだ」
 菅田は額に手を当て、大袈裟に天を仰いで見せた。
「着信の確認くらいしろよな」
「あはは、悪い悪い。で、何でここにいるって分かったの?」
「あははじゃねーよ。お前が帰ってきてると思って、家に行ったんだよ。どうせトモのことだから、俺の電話のせいで、ろくでもないことウダウダ考えてんだろうと思ってさ。そしたら、小母さんがバイトに行ったって言うから、びっくりしたよ」
 菅田と電話で話したのは一昨日。帰省する前日だった。
 智樹はぶすっとして言った。
「ろくでもないこと考えてそうで悪かったな」
 菅田は智樹の不機嫌な表情に動じる様子もなく本題に入ろうとした。
「高町には連絡したんだろうな」
「そんなことできるわけないだろう。それより、あの子追いかけたいから、ちょっと店番しててくんないかな」
 智樹は友人を押しのけるようにして、ドアの外に半身を乗り出した。むっとした夏の空気が顔を撫でる。
「あの子? そういえば、さっきなんか言ってたな。お前、まさかもう新しい・・・・」
「違うよ、お客さんだよ。お前と入れ違いに出てった子。N高の制服着た女の子」
「N高の女の子?」
「紺のブレザーにチェックのスカートって、N高だろ?」
「紺のブレザー? お前、嘘つくならもうちょっとマシな嘘つけよ」
「嘘なんかついてないよ。今お前とすれ違っただろ?」
 たしかに智樹は二人がすれ違うところを見たわけではない。ショーケースを回ってドアへ顔を向けた時には、フジコちゃんは店から出た後だった。しかし、鈴の音を一つにして菅田が入ってきたのだから、二人は入り口付近ですれ違っている筈だ。
 菅田は智樹を店内に引き戻すと、目を覗き込んだ。智樹が話を逸らしたいが為に、そんなお客を創造していると思ったらしい。が、智樹の瞳は少女の存在を疑っているようには見えなかった。
 菅田は心底心配といった表情になって言った。
「このクソ暑い時に、誰がブレザーなんか着てんだよ。いくら日焼けを嫌う女の子だって、そこまで厚着してないぞ。お前、ショックでおかしくなってんじゃないのか」
 智樹はハッとした。店の中はクーラーで涼しくても、外は真夏日を記録するほどの暑さなのだ。智樹は背筋に冷たいものがつたうのを感じた。
「ショックなのは分かるけど、高町はお前以上に辛い状況にいるはずなんだぞ。お前、明日にはあっちに帰るんだろ。帰るまでに一度、きちんと話し合えよ」
 菅田の言うショックとは、もちろん高町のことだ。
「・・・・・・・」
 答えられずにいる智樹に構わず、菅田は腕時計を見て店を出ようとした。
「そろそろ仕事に戻らないと。営業の途中なんだ」
 しかし、彼はもう一度振り返ると、智樹に人差し指を突きつけて言った。
「おせっかいやいて悪かったな。おせっかいついでに、高町にはトモは今日バイトで捕まってるから電話できないって弁解しといてやる。夜には電話しろよ」
 菅田が帰った後には、冷房のせいではない冷気が漂っていた。
「暑気あたりかな」
 智樹は声に出して言うと、レジの方、自分の定位置へと戻っていった。


-つづく-



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