可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

2018.10.16
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↓前回♪
第百五十五段~赤い幻~

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

第百五十六段


『何より先に僕の話しを聞いて。

今のことは後でゆっくり話そう。

いいね?

さっき僕の身体に遅効性の薬剤カプセルが埋め込まれた。

これから僕は半球睡眠の状態が少なくとも7日間続く。

脳のどこかが交代でいつも眠っているってわけだ。




完全には眠らない?

ジョンは首を傾げた。

これがホワイトが言っていたことか。

コーマを避ける。

分化のスピードを落とすのだ。

危険を承知で。

俺のために。。


『君のためにだけそうするわけじゃないよ。』

シアンはジョンの心を読んでいるように言った。

『この7日間の猶予はとても貴重だ。

ニールたちが土星から戻って来て



そして

そのニュースが世界に流されるまで

起きていられそうだから。

そのニュースに人々は平和をやっと実感できるんだ。

素晴らしいだろう?



彼らは、驚喜する。

スティール家とキューザック家、

それに火星と土星。

僕らの結婚が人々に希望を与えるのさ。

一端、世界がその状態になれば

父はしばらく、静観する以外ない。



彼らの圧倒的なパワー、

歓喜と感謝の怒涛の波を

ひたすら受け止める。



人々は長い間、戦いに次ぐ戦いで

疲弊しきっていた。

今の平和についても未だに疑心暗鬼でいるはずだ。

今日、突然のスティール家の粛清。

ああ、やはり、と思いかけたところで、

この祝典の情報だ。

フラストレーションが一気に解放解消されるだろう。

おそらく、それはいっとき、

凄まじいエネルギーで

世界の雰囲気を支配するに違いない。

それに対していかに父であろうと干渉は不可能だし、

そんな愚かしい真似をするとも思えない。


僕は見届けたいんだ。

人々の狂喜乱舞する瞬間。

彼らの爆発を。

その時は世界の支配権が確かに

彼らの手の内にある。

例え、今はそれが一時的なものであろうと。

その日から世の中の変化が始まる。


ただ短期間ではあっても、

そうなるまでの間、僕は多分、

君を直接的な脅威からは守れない。

でも、それについては

少し楽観もしている。

なぜなら、海王星の制圧中に

火星にも手を出すことが出来たはずの父が

何もしなかった。

要するに

父はまだ、僕の所在の確証を得ていない。

あるいは、諦めた。

いちかばちかの作戦で

僕を万が一の目に遭わせることは

父にはやはりできない。

もっと楽観するなら

父は本気で平和を求め始めている。。

どうだい、この考えは?

素敵じゃないか?』


シアンは半球睡眠状態のせいか、

いささかハイだ。


世界のために、と俺のために

彼は生命を賭けている、

そんな悲愴な雰囲気は全くなく、

放っておいてもさほど長くはないだろう、

そんな儚い生命を。


ジョンはシアンに接触している時の常で

自分の心が穏やかに静まっているのを感じながら

今は望ましくないと思われる場所に触れている

シアンの手をそっと動かして外し

王子の細い両腕を撫でた。

シアンは少し不満そうな様子を見せたが

すぐにジョンの慎ましい愛撫を受け入れ

身を一度だけくねらせた。


彼の生命の気配。

特殊な存在理由。

可哀相で、可哀相で。

いじらしい。


そしてその時、ジョンは肝心な何かを忘れ

ささいな何かを思い出した。

ケイレブ。

シアンに話さなければ。

だがきっかけが掴めない。

王子はますます饒舌になり

弱々しい声で話し続けている。


『とにかく僕の部屋に戻ろう。

この屋敷では僕の部屋が一番君を守り易い。』

シアンの声は掠れながらも弾んでいる。

『殿下』

ジョンが何かを言う前に

ラクロアが遮った。

『どうか、無茶をおっしゃらないで下さい。

この部屋で安静に努められるのが肝要かと。

大尉もお側で過ごせるように

部屋を整えますから。』

ラクロアは先程のジョンの様子を見て、

またジョン本人からの指示で持たされたスタンガン

のことも考え、つくづくと

危険は、シアンの分化システムの不調だけではない

ことを思い知った。

二人きりにすることは考えものだ。

誰かが常に見張っていなければ。


王子はどうお考えなのだろう。


なに?

ドールの考えだ?


王子がまともなドールだと仮定するなら

ドールにはそもそも

主人から自分を守るための考えなどない。


彼らはそうできているから価値があるともいえる。

主人に決して逆らわない。

主人がしたいようにさせる。

そのせいで死んだドールを何人も見てきたのだ。


王子は喜んで婚約者に命を捧げるだろう。


ただ、いちるの望みがあるにはある。

先程ホワイト長官に話したことと同じ。


彼はドール。

さらに

彼は突然変異種。

欠損と奇形はつきものだ。

頭脳や心の問題となると

いっそう未知だ。

牧場の科学者たちにとって

アズールの様々なことが

初めてのケースだった。

バグが出切ってしまう前に死亡した母親。

彼女の残した大量の不思議。

そしてその息子。

皇帝の希望で

史上初めてであったアズールに次いで

自由恋愛型となったドール・シアン。

世界でただ一体の恋する人形。


彼は自分の命を守るかも知れない。


そうだろうか。。


自ら湖に沈んだ逸話を持つ身で?





『院長。長官がいらしてます。』

受付から連絡が入った。

『お通しして』

ラクロアはほっとしたように応えた。

ホワイトなら、王子を説得できるだろう、

むろん確信はないが。

すると、受付がまた言った。

『院長。

長官からキューザック大尉にお訊ねです。

ケイレブはどうするのかと。』

ああ

それを聞いて

ジョンは今出来る範囲で精一杯、

居ずまいを正した。

『殿下。ケイレブが殿下を見舞いたがっています。

受付で、待たせていたのです。』

と言った。

どのように礼儀正しく振舞おうとしても

結局はシアンの耳元に囁くようにしかならなかった。

『そう?』

シアンは首を傾げた。

くすぐったそうに、嬉しそうに。

ジョンは他の人間がいる前なので

王子に無礼を働いているような気がしたが

仕方なく続けて言った。

『彼女は殿下のお側仕えでしょうから、

殿下の許可があれば、見舞えばよいと

申し伝えてあったのです。』

すると

シアンの顔に無邪気ないぶかしみの表情が浮いた。

『ボクに側仕えなんて居ないよ。

しいて言えば、ニールだけど。。

ケイレブは優秀な警備スタッフで

たまにボクを手伝ってくれはするけれど

自分を侍女だとは思っていないはず。

でも、構わないよ。

彼女を通して。』

ホワイトがお側仕えか、

なるほど。。

確かに脱皮を手伝ってきたのは、彼だ。

脱ぎ着を含む身の回りの世話全て、

おそらくホワイトが常に手伝い、

できるだけ他の人間がシアンに触れることが

無いようにしてきたのだろう。

だがそれを厳格にやってのけるのは、

多忙な長官職にある身では到底無理というものだ。

自分に代わる人間をと見回した時

頑固で実直そうなケイレブが目にとまった。

そういうことだろう。

ジョンはベッドを降りた。





王子のお許しが出たぞ。

ホワイトはそう言って、ケイレブを促し

彼女を従え歩き始めた。

『なぜなんだ』

すこしして突然ホワイトは独りごちた。


私に言っているのか?

ケイレブは緊張した。


『"スローガン"を忘れたか?』

ホワイトは立ち止まり、振り向いた。


長官の背後に立ち昇る

ひんやりとした何かが見えた気がして

息をのみ

ケイレブも立ち止まって

気を付けの姿勢で固まった。


私に言っているのだ。。


『ノーサー』

素早く返事を返した。

背筋を嫌な汗が一筋流れた。


『ではなぜなんだ?』

ホワイトはケイレブをにらみすえた。

『お前の意思だな、この見舞いは?』

『イエスサー』

『個人的な関係は許されない。』

『イエスサー』

『惚れるなと言ったろう?』

『違います。。そんな。。』

『お前が傷つくだけだ』

『本当に違うんです、長官』

『王子はああいう性格だから、酒や食事の付き合いを

皆と気軽になさるが、勘違いはするな』

『はい、長官、、そのつもりです。』

『彼に近しい人間ほど、危険なのだ。

彼は皇帝陛下の息子なんだぞ。』

ケイレブはホワイトの静かではあるが

いつにない剣幕に完全にすくみあがって

眼をまんまるにして彼を凝視した。

力が入るあまり

眼底出血しそうになる。

『ただ、心配だっただけです。

日報に入力しました。

王子はお着替えの時に倒れられたのです。

どうか、王子にお尋ねください。

私は王子に報告を禁じられました。

でも日報には書いて良いと、、。

王子がこんなに具合がお悪くなられたのは

私の責任です。

申し訳なくて、長官にも謝罪したかった。

私のドレス選びは失敗でした。

あのドレスは、、』

『ドレス?』

ホワイトの眉間に皺がより

目が細くなった。

『見事なドレスだったと思うが。。』

と、

戦時中に見かけた時のように鋭くなって、

一層美貌が際立つ男の薄い唇が

小さく動いた。

彼は腕組みをして顎を上げた。

いやな兆候だと、ケイレブはますます身を硬くした。

直後、かすかな溜め息が聞こえ、

ホワイトは腕組みを解いて少し表情を穏やかにした。


まだあのような高価そうなドレスが残っていたかと

安堵したくらいだったが、それを彼は

ケイレブに言う訳にはいかない。

『あのドレスは宝石が多く、重かったのです。

そのせいで多分王子はお倒れになられたかと。。

私は王子の体調について

存じ上げませんでしたから

王子の指示に従って、

私の一番嫌いなタイプのドレスを

選んで差し上げたのです。

王子がお病気だと知っていれば、

もっと配慮致しました。』

ケイレブは早口で一気に喋ったところで、

はっとなって口を閉ざし眼を伏せた。

ひょっとすると、彼を暗に責めるような

言い方になったかも知れない。

ケイレブは自分のうかつさに

胸の内で舌打ちをした。

『失礼を申し上げました。サー

お許しください。』

ケイレブは言った。

『いや、いいのだ。

確かに、お前に言っておくべきだったな。』

ホワイトは応えた。


彼は判断しかねていた。

義務感からなのか、感情からなのか、

いずれにしても

ケイレブらしくないと感じられた。



やはり、王子を好きなのだろうか?

もしそうだとすれば

王子がジョンと婚約した今

この女は危険だ。

嫉妬は人間を変える。



しばしの沈黙があり、かたやケイレブの頭には

叱責されている最中にもかかわらず

あの噂についての思いが浮かんでいた。


長官は王子と結婚するつもりか。


という屋敷の人々の密やかな疑念が存在したのだ、

少なくとも、今日の王子の勅を耳にするまで。


ふたりは非常に仲が良いように見えた、

親密、と言えるほど。



王子が現在の平和な生活を

我々に与えてくれた張本人であろうことは

ここの誰もが理解している。


どのような手段でそうなったかも

おおよその想像はできていた。


そのことについての

感謝の気持ちもあるにはある。



ただし

不可解。


王子のその行為の原動力が何であるのか

推理するのは

難しい。


それで皆は一番平凡な結論を導き出した。


恋だ。


どこかで長官を知り、王子は恋に落ちた。

ロミオとジュリエット症候群。

気違いじみた命懸けの駆け引き。


ケイレブの知る限りにおいて、ここでもどこでも

誰一人、彼らの恋を歓迎する者はいないはず。


王子が思いもかけず庶民派で

誰もが好ましいと思える

無害そうなボウヤちゃんだった

と分かっても。


彼が、

オタクで風采の上がらないテックたちを

お気に入りで

しかも彼らからも気に入られてもいて

時間があれば彼らの作業室に入りびたり

結構いじられキャラだと評判になっていても、、


それでも誰一人、長官と結婚すればいいのにと

言い出す者はいなかった。


それは、プライドの問題と言えた。



ただ、そうであっても

ホワイト長官の命とあらば皆

王子のために惜しみなく

犠牲を払ってきたのだ。


彼の存在のせいで

官邸より遥かに厳しい掟と内務調査。

王子がここに居る限り

一生、この屋敷に縛られ続ける。

この屋敷を出るには

洗脳されるか屍になるか以外の

選択肢はないという

暗黙の了解。

そのかわりに法外な待遇と報酬が

約束されているにしても

長官に対する敬愛と忠誠心が無ければ

受け入れがたい屈辱的な任務だった。

仇の息子の子守り。


そしてその上、今回の王子の婚約で

彼らの感情はもっと込み入ってきた。


ケイレブは陰気な物思いに沈む。


王子が長官以外の人間と結婚すると言う現実は

私たちを打ちのめすのだ。


かてて加えて

失恋が長官をこのように

平静でいられなくしているという現実は

長官がドール王子の愛人になる以上に

私たちを打ちのめす。


彼女の胸が痛み始めた。


長官のいったい何が

気に入らなかったというのだ?

そして、あのサイコ野郎のいったいどこが

ホワイト長官より優れているというのだ?



彼女の胸は

自分の現在おかれている

憂慮すべき状況にもかかわらず

ますますずきずきと激しく痛んだ。

"我らが"ホワイト長官の胸中を思って。



ああ?


それどころではない。



私はここを追っ払われるかもしれない。

覚悟しなければ。

その後、多分、軽からぬ処罰が待っている。

出過ぎた真似。

あのクソ忌々しい血まみれジョニーに小言を言われた時に

引くべきだったのだ。

私は立ち入り過ぎた。

分不相応に。


私にはこういう欠点がある。

気を付けていたのに。



『ケイレブ』

長官が言った。

『イエスサー』

『お前は今夜、私と外海に出る。』

イ?

イ、イ?、、、、


『返事は?』

『イ、イエスサー』

『質問は?』

『ノーサー』

『よし。そうであるべきだ。』


ケイレブの小さな体全体から

滝のように汗が噴き出した。





つづく








↓次回です♪



最初からお読みになりたい方は
下記の


『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表


からどうぞ♪




2018.07.15
ウイリアム・フォン 馮紹峰 #冯绍峰# 
フォン・シャオフォン
に関する記事のまとめというか覚書きのようなもの。
前回のと大いにダブリます。





京都祇園祭前祭山鉾巡行 
2018.7/17 行ってみました早見表


★最近のお勧め

『三蔵、妊娠したってよ』
シリーズ第百五十五段 ~赤い幻~ 
映画『西遊記之孫悟空三打白骨精』によせて




J-COM関係ドタバタ関連早見表 (2018.06/18現在)



2018.04.24
どんま母の『2018年春の富士吉田行』早見表


リー・ペイスとエドワード・ノートン
に関する記事のまとめ。
常に未完






『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑ってことでヨロシク♪↓最近のもの
第百四十五段~大天使~ 第百四十六段~孤独~
第百四十七段~運~ 第百四十八段~勅~
第百四十九段~誅滅~ 第百五十段~巡り合い~
第百五十一段~別れ~ 第百五十二段~養父~
第百五十三段~あの二人~ 第百五十四段~マザー~
第百五十五段~赤い幻~


⇩以下の5カテゴリは娘が担当☆
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★本当は
もっと練りたいところでしたが
取り急ぎアップします。

しばらく、訂正しつづけるでしょう、と
思います。

★2020.9/1
一部訂正しました。

この屋敷を出るためには洗脳か死

↑この部分です。





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Last updated  2020.09.01 11:43:31


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