世間で「第三波」と呼ばれる現在の新型コロナウイルス感染拡大を、神戸大学教授で感染症内科が専門の岩田健太郎医師は「第二波が収束しきれないまま広がってしまった状況」と説明する。
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なぜ第二波が収束しきれなかったのか――。その理由を岩田医師は「ムード」という言葉で表現する。
「政府がぶち上げたGo To キャンペーンや、繰り返し発信される『経済を回すことの重要性』を説くメッセージに、日本全体のムードが感染対策を緩める方向に傾いてしまった」
得をしたのはウイルスだけだった
そもそも日本人は、「ロジック」や「データ」を重視するよりも、「ムード」や「空気」に流されやすい国民性だ。政府が何の科学的裏付けも持たずに発信する経済対策に、「もう大丈夫なのだろう」と思い込もうとした。そして政府は、そんな国民の「安心したい」という思いを利用して経済回復に舵を切った。結果として得をしたのは、感染拡大を目論むウイルスだけだったのだ。
政府は「感染拡大防止と経済の両立」を「withコロナ」などという表現を多用してアピールするが、岩田医師は感染学の視点から、「それは幻想に過ぎない」と斬り捨てる。
いわゆる“コロナ禍”で大打撃を受けている産業の多くは、観光、イベント、外食など「人の移動」によって成り立つ業種だ。これらの業種を感染が続くなかで動かしたところで、たとえ政府が何らかの施策を講じたとしても元の水準に戻すことは不可能。まずウイルスを徹底的に制圧してから経済を動かす、という手順を踏まない限り、いつまで経っても「外出自粛」と「自粛緩和」を繰り返すだけ。長い目で見れば、経済を弱めていくだけ――と分析するのだ。
「ファクターX」が生んだ“幻想”
そんな政府にとって便利な言葉が湧いて出た。「ファクターX」だ。
日本人は欧米人に比べて感染しにくく、たとえ感染しても重症化しにくい。その背景には何らかの要因、「ファクターX」が存在する――という説だ。ご存じの通り、京都大学の山中伸弥教授が立てた仮説だが、これは「withコロナ」を標榜して経済対策に力を入れたい政府にとっては大きな援軍となった。
もちろん、山中教授は政府をアシストするためにこの仮説を立てた訳でない。科学者として、未知の現象を解明する足掛かりとして打ち出したものなのだが、政府にとっては便利に働いた。そして国民も、この仮説に必要以上の「安心」を求めてしまった。まだ何の科学的裏付けもない仮説に寄りかかり、「日本人だから安心だ」という幻想に浸ってしまったのだ。
しかし、残念ながら現状では、ファクターXを強力に立証する報告はない。細かな、マイナーな報告はなくはないが、それをもって日本人が安全に観光旅行を楽しめる理由付けには到底ならない。
“安心”ではなく“安全”に目を向けるべき
岩田医師は言う。
「日本では“安全”と“安心”という二つの言葉をセットにして使うことが多いが、外国では“安全”は使っても“安心”はあまり使わない。“安全”が根拠に基づくものであるのに対して、“安心”は気分的な問題。外国人は根拠やデータを重視するが、日本人は気分の良さという要素を求めるため、“安心”が付随してくるのです」
情緒を貴ぶ日本人の国民性が裏目に出てしまった。少なくともウイルスに情緒は通じない。理論的、合理的に対応していくべきなのだ。
少なくとも、いまはまだ安心を求める局面でないことは確かだ。ファクターXは、まさに“安心”を醸成するワード。そこに漂う心地よさではなく、いまこそ日本人も、“安全”に目を向けるべきなのだ。
「文藝春秋」新年特別号および「文藝春秋digital」掲載の記事「 『冬コロナ』を乗り越える『ファクターX』の幻想を捨てよ 」では、パンデミックの中での日本の置かれた状況分析や、来夏に予定される東京オリンピック、パラリンピックの開催の是非などについて、岩田医師が詳しく解説している。
長田 昭二/文藝春秋 2021年1月号
岩田 健太郎(いわた けんたろう、1971年 - )は、日本の医師、神戸大学教授。島根医科大学卒業。感染症医。
略歴[編集]
1971年 - 島根県生まれ[1]。
1997年 - 島根医科大学(現:島根大学医学部)卒業[1]、沖縄県立中部病院研修医[2][3]。
1998年 - コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医[2][3]。
2001年 - アメリカ内科専門医、ニューヨーク市ベス・イスラエル病院感染症フェロー[3]。
2004年 - 亀田総合病院で感染症内科部長、総合診療感染症科部長[2][3]。
2008年 - 神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)、同大学医学部附属病院感染症内科診療科長[1][2][3]。
2020年 ー 豪華客船、ダイヤモンドプリンセス内での新型コロナウイルス感染症の対応を批判する動画をYouTubeに掲載し、後に削除。
コロナ・パニック「それでも私が告発をやめない理由」――岩田健太郎医師インタビュー(岩田 健太郎/週刊文春WOMAN 2020 春号)
「すごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました」
神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎医師が、新型コロナウイルスの感染者が続出する「ダイヤモンド・プリンセス号」の内部に入り、その惨状をYouTube動画で「(船内は)ウイルス培養器」と暴露したのは2月18日のこと。世間からは「勇気ある行動」と賞賛の声が挙がる一方で、「恐怖を煽った」との批判も少なくなかった。
あれから1カ月半、世界中で人々の生活は一変した。ヨーロッパ各国は相次いで「外出禁止令」を出し、日本でも3月28日、29日の週末は東京都と隣接4県で外出の自粛が求められた。
しかし、3月28日には国内で1日に確認された感染者の数が、初めて200人超え。国内で確認された感染者の数は、空港の検疫で見つかった人やチャーター機で帰国した人なども含めて計2436人、死亡者は計65人となった。そのうちクルーズ船の乗客・乗員の感染者は712人、死亡者は10名にのぼる(3月28日時点)。
3月4日、下船後の「自主隔離」を終えた岩田医師と、『週刊文春WOMAN』 はメディアで初めて対面した。『週刊文春WOMAN』2020春号に掲載した岩田医師のインタビューを、緊急転載する。
◆ ◆ ◆
「誰かを非難した」誤解を与えたことは、申し訳なかった
——クルーズ船の感染対策の何が問題だったのでしょうか。
まず、ウイルスは目に見えないので、ウイルスがいる危険な感染区域と全くいない安全区域、いわゆる「レッドゾーン」と「グリーンゾーン」の分離が感染対策の鉄則です。船内でそれができていないのは一目瞭然でした。ウイルスが付着しているかもしれない防護服を着た人がグリーンゾーンに入ったり、検疫所の人が患者とすれ違って、「今、すれ違っちゃいましたね」と苦笑いしている場面にも遭遇しました。
私は20年以上、感染症の研究をしてきて、アフリカのエボラ出血熱や、03年の中国のSARSなど、感染症の対策現場に立ち会ってきました。それでも、今回ほど身の危険を感じたことはなかった。
——批判が集まるとたちまち動画を削除したことから、先生の告発を信用できないという声もあります。
私は船内から助けを求める連絡を受け、関係筋を伝って災害派遣医療チーム(DMAT)に同行するかたちで、中に入りました。その後、「誰か」の指示が出たため、2時間ほどで「出ていきなさい」と締め出されましたが。それでも「むちゃくちゃな状態」であることは明らかで、少しでも悲惨な現実を知ってもらいたくて動画をアップしました。再生回数は100万回を超えましたが、後に「船内の環境が改善した」との情報を得て、2日後に削除しました。結果的に誰かを非難しているかのような誤解を与える面もあり、その点は申し訳なかったと思っています。
官僚が意思決定をしたのが誤り
——動画では「感染症対策の専門家が一人もいない」と言っていましたが、その後、厚労省や、同じく船内に入っていた沖縄県立中部病院の高山義浩医師が「岩田先生をご存じない方々には、(動画は)ちょっと刺激が強すぎた」として反論。その中で「専門家はいた」と主張しています。
あれはin charge (統括している)という私が動画で言った言葉が外され、微妙に議論がずらされてしまったがゆえの問題です。確かに、船内には国立感染症研究所の疫学チームや日本環境感染学会の災害時感染制御支援チームなどが入っていました。しかし、それは「専門家がいる」という数を合わせていたという程度で、実質的な感染防御機能の向上に寄与していないに等しかった。派遣されたDMATも、災害現場での外傷や熱傷の治療が専門です。もちろん、DMATに専門外の感染対策能力を求めているわけではありません。役割が違うということです。
最大の問題は、指揮権が厚生労働省にあったことです。船内の隔離はどうするか、ゾーニングはどうするか、防護服は誰が着て、どう脱ぐのか、こうしたことを決めるのは官僚の仕事ではありません。彼らは感染対策については素人で、今回のように医学的な意思決定など絶対にしてはいけないはずなんです。
——専門家不在で政治主導で決まる、日本の医療行政に警鐘を鳴らしてきました。
例えば、私たちが食品や医療を語るとき、「安全・安心」という言葉をよく耳にします。安全とは、科学的に検証されたデータに裏付けられたものですが、なぜか、日本人は加えて感情的な保障としての「安心」を求める。マスクについても、米国CDC(疾病予防管理センター)やWHOがあれだけ予防効果がないと発信しても、「安心」だからと多くの人が買い占めに走っています。
今回のクルーズ船でも、政治主導のもと「安心」を求める傾向が顕著で、ネガティブな指摘は絶対にしてほしくないという空気が現場に漂っていました。現に私が、船内で厚労省の幹部に具体的な対策を進言しても、「何でお前がそんなこと言うんだ」と冷たい態度を取られました。
菅官房長官が2月18日の会見で「全て終わった後に検証して(略)次につなげていきたい」と語りましたが、終息して半年もすれば、「やるだけのことをやって、もう終わったんだからいいじゃないか」となるのが日本の国民性です。
——政治主導と言えば、安倍首相が全国の小中高に3月2日から春休みまで臨時休校を要請し、今は一斉休校の真っただ中です。
感染者を「一日でどれだけ減らすか」といった目標設定もなく、専門家の意見も聞かずに場当たり的に発表されたので、今後この判断が妥当だったか検証する必要があります。個人的には子供ではなく、重症化しやすい高齢者の外出を自粛すべきではないかと思っています。
日本の対応は中国より遅れている
——PCR検査が保険適用になりました。
無症状であっても全例PCR検査すべきという議論が巻き起こっています。
しかし、現状では一般の検査機関での準備が整っておらず、優先すべきは重症者への検査です。検査の精度も万能ではなく、結果に対する誤った解釈で感染者数を増やしてしまうリスクも考えると、全例への適応は検査の無駄遣いです。
ただ、必要な検査ができないのも問題なので、検査キャパの拡大自体には反対していません。
——岩田先生は情報提供のあり方について、日本の遅れを指摘されていますね。
米国のCDCは新たな感染症が発生すれば、安全策を講じるうえで必要な情報提供をします。中国でも、SARSの際に実態把握に苦労した教訓を生かし、中国版CDCが今回の新型コロナウイルスでは、いち早くウイルスの遺伝子型を特定し、感染状況を世界に発信しています。
それに比べて、日本は09年に発生した新型インフルエンザの封じ込めに苦心したにもかかわらず、これを教訓とせず、日本版CDCを作らなかった。感染症の専門家の養成もしてこなかった。こうした“専門家軽視”の姿勢が今回のクルーズ船の惨事に繋がったと考えます。
——今後、私たちは新型コロナウイルスとどう向き合えばよいのでしょうか。
国立感染症研究所は、クルーズ船内の感染流行の度合いを示す「エピカーブ」を2月19日に発表しています。一見すると多くの患者が隔離前から感染しており、二次感染者はごくわずか。隔離政策が成功したかのように理解できる結果になっています。しかし、データは不完全なもので、発症者不明のデータも現時点で多くあります。このデータの不備も動画で指摘しましたが、「データはあるのにないと勘違いしている」と的はずれな批判もされました。「データがある」と「データが完全にある」は同義ではないのですが。
ご存知のように下船後の発症者は国内だけではなく、オーストラリア、米国、香港などで発見されており、まだ予断を許さない状況です。
今はいかに封じ込めるかが大事で、手指消毒や閉鎖空間でのイベントを避けるなど、個人で、できることをすること。中国で封じ込めできつつあるのだから、我々にも希望はまだあるとは思います。
取材・構成:内田朋子
岩田健太郎(いわたけんたろう)
1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。
日本で新型コロナの重傷者や死者が少ない要因を、京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけた。その正体はなにか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「さまざまな研究からファクターXは2つに絞られた」という――。
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※本稿は、小林弘幸著、玉谷卓也監修『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■アジア諸国と他地域の死者数の差
今回の新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックでは、アジアと欧米で大きく被害状況に差が出ました。欧米諸国の肥満率の高さなど健康水準のちがいが指摘されていますが、それだけでは説明できません。
日本では、中国のように強権的なロックダウンを行ったわけでも、台湾のように各国から賞賛される国家レベルの対策を打ったわけでもありません。
2020年4月の緊急事態宣言の発出によって感染の広がりをある程度抑えられたことは確かですが、欧米に比べ1カ月近く中国からの入国制限は遅れ、宣言発出まで満員電車は変わらずに走り続け、すでにかなりの数の国民に感染していることは明白でした。
しかし、PCR検査の体制が整わず、発症した患者にしか検査が行われなかったため、その実態も見えないままに時が経っていったのです。
それでも、世界、とくに欧米と比較すれば奇跡のように少ない発症者数、死亡者数で今日まで推移しています。国民の健康水準だけでなく、感染または発症を防いだ、なんらかの外的要因があったことは間違いないでしょう。
日本において被害が抑えられた未知の要因を、京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけ、その解明が進められています。ここでは、日本に限らず広くアジアの範囲で「ファクターX」について考えてみましょう。
■示唆的な「BCGワクチン」と「交差免疫」
まずは、新型コロナウイルス感染症による被害状況をデータで見てみましょう。以下の表は、2020年10月1日時点での新型コロナウイルスの流行状況のデータです。
「感染者数における死亡率」を見ると、感染症の被害が甚大だった欧米、中南米と日本・中国・韓国の数値に大きな差はないように見えます。しかし、実際のところ「感染者数」は各国の検査体制に左右されるため、あまり参考になりません。
そこで、注目すべきは「人口100万人あたりの死亡者数」です。アメリカやブラジルでは100万人あたりで500人以上が死亡。同等かそれ以上の死者が、欧州や南米地域で出ています。
一方、日本、中国、韓国のほか、この表にはない東南アジア諸国を含むアジア全体で、100万人あたりの死者数は低い数値を示しています。また、死者数だけでなく、100万人あたりの感染者数も少ない傾向にあります。
結論からお伝えしましょう。
アジア諸国の被害の少なさの要因であるファクターXは、「BCGワクチン」と「交差免疫」の存在なのではないかと考えられています。
■BCGワクチン接種国と比較的少ない感染者数・死亡者数の相関性
BCGワクチンは子どもの結核予防で接種するワクチンで、日本では1949年から接種が法制化されています。二の腕に痕が残る、あの注射ですね。
ちなみに、かつては乳幼児、小学生、中学生の計3回接種が行われましたが、現在では乳児期に1回接種するだけに変わっています。
BCGワクチンによる新型コロナウイルスの感染・重症化の抑制には懐疑論もありますが、実際に接種を行っている国では感染者数・死亡者数ともに驚くほどはっきりと抑えられているのが事実です。
例えば、スペインとポルトガルは同じイベリア半島にあり、人の行き来も多く、人種や食文化は似ています。
しかし、BCG接種国であるポルトガルの感染者数・死亡者数はスペインよりもずっと低いのです。人口100万人あたりの死亡者数(2020年10月1日時点)では、スペイン687人に対し、ポルトガル192人。3分の1以上の被害状況の開きがあります。
アジア圏のほとんどの国では、BCG接種が義務づけられています。
■BCGワクチンによる訓練免疫の効果
それに対し、新型コロナウイルスによる甚大な被害を受けているアメリカやイタリアでは、BCG接種を義務づけてきませんでした。また、欧州では多くの国が1970年代以降、BCGの接種を中止していたのです。
118カ国のBCG接種状況と新型コロナウイルスの被害状況との関連性を調べた、昭和大学の大森亨准教授の研究によれば、感染者数の増加速度で約1.7倍、死亡者数の増加速度で約2.4倍の差が生じていることがわかっています。
BCGが新型コロナウイルスを抑えるメカニズムは明確になっていません。しかし、以前からBCGが免疫力を強化し、とくに乳幼児では結核以外の病気に対する耐性を高め、死亡率を半分にしていることがあきらかになっています。
また高齢者に対しても、呼吸器への感染を減少させる効果があることが報告されています。
さまざまな研究から、BCGには免疫系を訓練して、活性化しやすい状態にする効果があると考えられているのです。
■「メモリーT細胞」の存在
もうひとつのアジア圏におけるファクターXは、「交差免疫」です。
アジア圏では、過去にも別種のコロナウイルスに感染した経験のある人が多く、新型コロナウイルスに対して獲得免疫が機能したのではないか、と考えられています。
このように、近縁のウイルスで得た獲得免疫が機能することを「交差免疫」といいます。近年に確認されたコロナウイルスは7種類あります。
・新型コロナウイルス
・SARS(重症急性呼吸器症候群)……2002年に中国で発生
・MERS(中東呼吸器症候群)……2012年にアラビア半島で発生
・そのほか、4種類の普通の鼻風邪ウイルス
これらはすべて、コロナウイルスの仲間たちです。前半の3種類は下気道(気管・気管支・肺)に感染し、肺炎などの重篤な症状をもたらすコロナウイルスですが、あとの4種のコロナウイルスは上気道(鼻・口・咽頭)に軽い風邪の症状を起こすだけ。
日本の風邪のなかではライノウイルスに次いで2番目に感染が多い、ありふれた鼻風邪のウイルスです。おそらく、多くの方に感染の経験があるはずです。
新型コロナウイルスも、SARS、MERS、鼻風邪のウイルスも、同じコロナウイルスである以上、遺伝子の構造は似通っています。
そのため、別のコロナウイルスの情報を記憶した「メモリーB細胞」や「メモリーT細胞」などの免疫細胞が、新型コロナウイルスにも共通する目印を見つけて対処したのではないかと考えられています。
■近縁のウイルスで得た獲得免疫が機能しているのか
実際に、アメリカでは新型コロナウイルスの症状がない健康な人の4割から6割が、新型コロナウイルスに反応するT細胞を持っていたことがわかっています。
SARSは中国で発生してアジアに広がり、MERSも中東から発生して中国にも広がったように、コロナウイルスの中心地はアジアといえます。
そのため、アジアではアメリカ以上に、交差免疫による新型コロナウイルスにも反応するT細胞を持つ人の割合が高い可能性があるのです。
まだまだ検証段階ではありますが、これが実証されれば、PCR検査や抗体検査だけではなく、T細胞の検査によって感染リスクを測ることが、新型コロナウイルス感染症の拡大抑止に重要な役割を果たすでしょう。
さらに、新型コロナウイルスに対する免疫の状態だけではなく、感染・重症化リスクの遺伝要因および環境要因が研究で明らかになってきています。
このような研究をもとに、新型コロナウイルス感染症の感染・重症化リスクを判定する検査も受けられるようになってきています(筆者プロフィールにリンクあり)。こうした検査によって自分のリスクを把握することで、適切な新型コロナウイルス感染症への対策が可能となります。
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。スポーツ庁参与。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。近著に『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』、『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
順天堂大学医学部教授 小林 弘幸
厚生労働省クラスター対策班でデータ分析に従事し、「8割おじさん」と呼ばれた数理モデルの第一人者が、新型コロナ対策の舞台裏で繰り広げられた政治との格闘、サイエンス・コミュニケーションの葛藤と苦悩、科学者たちの連帯と絆まで、熱い本音を語った奮闘の記録。そんな新刊本『新型コロナからいのちを守れ!─―理論疫学者西浦博の挑戦』(中央公論新社)が12月10日に刊行された。
出版を記念して、Go To トラベルやイートが導入された10月半ばに行われた対談記事(西浦博教授と、同書の共著書・川端裕人氏による対談)の「前半部」をお届けする。
先に掲載した同対談の「後半部」(https://chuokoron.jp/science/115452.html)もご参照ください。
京大で「司令官」養成
川端》北海道大学教授だった西浦先生は新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染症拡大を抑えるべく、厚生労働省に缶詰になって「クラスター対策班」で活躍。感染症理論疫学を駆使し、接触の8割を制限して感染拡大を抑えようと訴えたことから、「8割おじさん」として注目を集めました。「第一波」が収束して緊急事態宣言の解除を受け、西浦さんは東京から引き揚げましたが、その直後の八月、京都大学に移りましたね。この経緯をお聞かせいただけますか。
西浦》京大教授就任のお話をいただいたのはコロナ以前、昨年の初夏でした。北大で公衆衛生学修士が取得可能なコースを立ち上げ、医師や保健師、臨床検査技師など少数精鋭の感染症専門人材を得て五年ほど、北海道での育成モデルが軌道に乗り始めた時期でしたから、あまり移る気はなかった。しかしコロナの流行が起きてみて後から実感したことでもありますが、この分野でリーダーになる存在がいないことに気づき、質の高い次世代の専門家を育成しておく必要性を強く感じました。それができるのは今の日本では東大か京大しかない。期待していただいているのならやろうか、と。とはいえ、北大では春に医学部も修士課程も集中講義の責任を担っていたので、異動は八月に。春以降、東京の厚労省に詰めることになり、北大の講義はリモートになってしまったのですが。
北大で学んでくれたメンバーのような、専門技術を持ちながら地域に根を張りベッドサイドで最善を尽くせる人材も必要ですが、それに加えてラボで司令官的な役割を果たせる人が全国で五~一〇人いると、感染症に対する日本の布陣は盤石になります。まずはそこを達成しようと、異動を決意したのです。
現在、厚労省のリスク評価機関であるアドバイザリー・ボードにも参加しています。京大での立ち上げが忙しかったので、一部はリモート参加にさせてもらえて助かりましたね。
「解禁」イメージの罠
川端》七月にお話を伺った際には、七~九月に多少感染者数が増えるかもしれないが、問題は十月以降、交通の往来が通常に戻った時だとおっしゃっていました。第二波の印象はいかがですか。
西浦》人々の接触が戻れば流行が再び拡大に転じる、つまり第二波が到来することは予測していました。治療手段が次第に出来上がってきて、重症化した患者が死亡するのを防ぐことが可能になることや、高齢者の接触自粛により若年者中心の軽症者間で感染が起きていくことも、概ね予想通りです。
ただ、接触の戻りがここまで早いとは思っていませんでした。これは日本の緩和政策が欧州各国より丸一ヵ月以上早かったことに帰するもので、結果として第二波は予想より、そして欧州各国よりも相当に早く到来しました。往来の再開による影響が出るのはこれからなので、最小限に抑える方法について研究をベースに必死に考えているところです。
さまざまな制限が解除されると、皆さんは「あ、解禁されたんだ」と思い、一気に活動し始める。それがこの感染症の非常に興味深いところです。二月の接触率と七月の接触率は、相当に違う。感染者が急増し、休業要請や外出自粛が叫ばれている時には、人々の行動が明らかに抑制され、逆に「解禁」となると一気に増える。GoToキャンペーンも、七月には流行の明確な加速はさほど見られませんでしたが、十月に東京発着が加わったことで、事情が変わる可能性があります。現在、データを慎重に分析しています。
川端》未だに続くこの第二波は、新規感染者数こそ第一波よりずっと多いけれど、重症患者数や世間の危機感は、はるかに小さい。どう分析されていますか。
西浦》第二波では、致死率と重症化率が明確に低下しています。若年層の患者が増えたせいなのはもちろん、年齢別で検討しても減っている。第二波の重症化率は第一波の六~七割です。致死率はそのさらに三分の一まで下がっている。
重症化率の低下は、主に診断バイアスの是正によるものだと思います。これまでは検査数を抑えるため、発病していても未受診や未検査のケースが多かった。きちんと診断されるようになったことで、軽症や無症状の感染者が診断されることが増えました。比較的早期からの治療も可能になった。致死率の低下は、副腎皮質ステロイド薬「デキサメタゾン」や抗ウイルス剤「レムデシベル」、抗血液凝固薬「ヘパリン」による治療が重症患者の治療法として確立してきた成果でしょう。適切に早期治療すれば、かなりの割合で救命できるようになったと伺っています。第一波で亡くなったような人の半数以上は、助かる可能性がある。多くの臨床現場で、論理的なオプションが総当たり的に試されるという状況からはひとまず脱したわけです。
川端》何もせず野ざらし状態であれば被害想定の数字のままだったけれど、現在では重症になった人も救える割合が高くなってきたのですね。
西浦》はい。「アビガン」の有効性は臨床研究としての実証はまだで、重症化を未然に防止するための治療法は、今のところ検討中の状況です。しかし、重症条件を満たした人の約三分の二は高度医療によって助かっていて、命を落とす割合は劇的に減っている。残りの三分の一がなぜ助からなかったのか─治療機会自体がなかったのか、治療が奏功しなかったのか─がわからないのですが、臨床現場のデータが出揃って分析されれば、治療の成果がより明確になるかもしれません。
しかし、まだ手放しで喜べる状況ではありません。八十代以上の高齢患者の中に、重症患者の定義を満たさないまま亡くなっている方が相当な割合でいるのです。施設や病院内で感染し、積極的治療を受けずに看取られた人たちもいる。彼ら全員を治療しようとすると病院に負荷がかかりすぎ、過度な需要は医療崩壊のリスクにつながります。第一波の時ほど恐れる必要はありませんが、大規模流行を起こしても大丈夫というわけではない。
「夜の繁華街」をめぐる真実
川端》夜間の繁華街のようなハイリスクエリアの制御と市中感染の関係性について、現在の知見を伺えますか。
西浦》大阪では「五人以上の会食をやめてください」と知事が要請され、飲食店への営業自粛要請が出ると、その翌日に感染時刻ベースの実効再生産数が1を下回りました。東京でも同様の現象が見られた。新宿やミナミのような大規模歓楽街は、全人口に波及する流行のリザーバー(伝播が維持される機構)の役割を担っていることが明確になりつつあります。つまり、夜間の接待飲食業の方たちは感染や風評の被害者である一方で、人口全体にとっては感染源にもなり得る。当事者たちは被害者だと思っていますが、感染すれば社会の他の層に流行を拡大させる起源にもなってしまう、という難しい状態です。しかしこれまでの流行では、繁華街での流行が収まれば他の場での伝播も比較的収まったと言えます。コロナは、皆が密な場を避けている状況で最も接触の起きやすい場で伝播が止まれば、それ以上広がり続けるような感染症ではないのです。防ぎ得るのだから、対策をしよう。クラスター対策班が唱えてきたコンセプトが、実証されてきたと感じます。
でもまだ問題はあります。一つは、じゃあどうするのか、ということ。夜間の接待飲食業の方たちが合意の上で営業自粛をして、十分な政府の補償とともに皆が納得するというオプションは現実的には難しそうです。また、抗原検査やPCR検査を集中的に受けてもらいたくても、お店側は感染者が出れば営業停止になるので、検査は絶対にしたくない。検査センターが設置される構想はありますが、実効力がありインセンティブも明確な制御戦略への道のりは険しいと思います。
もう一つは、夜の繁華街ばかりが注目され、他の可能性が検討されていないという問題です。繁華街で伝播が起きたのは確かですが、日本での流行は、いきなり銀座や新宿で発生したわけではない。流行初期に伝播が起きた場は、例えばフィットネスクラブ、宴会、バスの中などでしたよね。伝播に関わった感染者の多くは高齢者でした。今そうした場で伝播が起きていないのは、ハイリスクを自覚した高齢者の多くが接触を避けているからだと思われます。彼らの接触が戻れば、繁華街のようにリザーバーとなるかもしれない。理論的には、夜の繁華街における流行制御は必要条件でこそあれ、十分条件かどうかはわかっていないのです。
川端》ごく普通の場所でクラスターが発生することってありますよね。例えば「昼カラ(昼カラオケ)」。昼間だし、普段からやっていることだしと、危機感を持っていなかった。
西浦》そうなんです。感染者が増えている中で(社会の感染リスクが高い中で)従来通りのような接触が起こると、あっという間に戻ってしまう。第一波の時、屋内空間に高齢者が集まり、窓を閉め切って食事や話し合いをした結果、クラスターが起きたことがありました。その関係者が「油断した」と真摯にコメントされていましたが、まさにそういうことなのです。密閉空間で密な接触があれば伝播するのは当然なのに、繁華街が大きく取り沙汰されたことで、この感染症の伝播の本質が見えなくなってはならないのです。
ワクチンの普及は春以降
川端》ワクチンの開発については、どんな状況でしょうか。
西浦》第2相試験である程度の安全性が評価され、より多くの対象者を相手にした第3相試験が始まっています。すでに言及されているように、この冬に間に合うのは極めてごく一部で、冬を越えたあたりから実際の接種が始まると考えています。
接種の優先度については、新型コロナウイルス感染症対策分科会(医師などのメンバーが政府に助言してきた「専門家会議」が廃止された直後の七月、幅広い有識者を集めて設置。以下、分科会)が医療従事者と高齢者からと提言しました。国は新型インフルエンザの時の混乱を踏まえて、国民全体のコンセンサスを得たいと考えているようです。これは数理モデルでも分析可能な部分なので、研究者として私も検討してきたのですが、第一波以前と第一波後では、優先度の結果が違うんですよ。高齢者が覚悟を持って危険な接触を避けていて、感染が相当減ってきている。自粛の呼びかけ以前のデータだけ見れば、感染のしやすさに年齢差はなく、死亡リスクを勘案すると高齢者を優先させるべきという結果が出ますが、第二波のデータを使えば、伝播を止めるには若年者を優先すべきという結果が出得る。つまり、皆さんがリスクの高い場所を認識し、そこを避けることによって、伝播の動態自体が変わったのです。この結果には僕らも圧倒されました。コロナ感染対策における、コミュニケーションの重要性を痛感しました。
川端》ということは、今なら、重症化しやすいハイリスク集団、例えば高齢者よりも、流行のリザーバーになっている集団にワクチンを接種したほうが、全体のためにはよい結果が得られるということですか。
西浦》伝播を止めるための理論上はそうなりますが、それが最適な政策とは言えません。若年者の間で伝播が起きているからと、若者に接種しても、流行が完全に収まっていないうちに全年齢層で接触行動が戻れば、犠牲になるのはやっぱり高齢者なんです。巷では、自粛期間中の実効再生産数の推定値を使って集団免疫のを議論している方もいますが、その数値は集団免疫閾値の議論に有効ではない。流行対策が始まる前のまっさらな状態を基に必要な対策を分析しないと、接触が戻ってきた社会では免疫保持者が足りないということが起こり得るので、対応困難ということになりかねませんから。
川端》第一波が起きた時、西浦さんは恨まれる覚悟で「接触を八割削減」とまで唱え、そのおかげで日本はなんとか医療崩壊を防ぐことができた。これはすばらしい成果だと思いますが、世間では逆に「あそこまで必要だったの?」と言う人が出てきたし、第二波が思ったよりマイルドだったために気を抜く人もいた。そこでまた感染者数が増えると、「やっぱり気を抜いてはダメなんだな」と多くの人が実感した。この感染症の場合、こうした「人々の実感」が予防に大きく影響していたような気がします。
西浦》そうですね。皆さんのちょっとした行動変化が、ここまでダイナミックに感染状況に影響する感染症は珍しいです。一人の感染者あたりが生み出す二次感染者数のバラつきが広く、伝播が密な環境で起こることにもそれは表れていますよね。そういう場での伝播が起こり得る接触行動を取るのかどうか、が二次感染動態を大きく左右するということだと思います。トランプ米大統領の感染とホワイトハウス内のクラスター発生は、市中の制御と自身らの接触行動をそのまま映し出しているのでしょう。要人の感染も、市中の感染リスクに大きく依存すると考えています。
川端》日本でもまだニューヨークのように、至るところで感染が発生する状況は起き得るのでしょうか。
西浦》第一波の時の可能性と比較すると相当低いですが、一つの想定として考えています。ニューヨークでもそうだったと思いますが、伝播は屋内環境でかつ濃密な接触に集中して、二次感染が連発して起きていました。そういう場を削減すれば、防ぐことはできる。今、東京はくすぶっている状況で、ここから感染が広がっていく可能性はもちろんまだあると思います。皆さん気をつけてはいますが、カフェでコーヒーを飲んだ時に隣に大声で話す人がいるとか、知人にばったり会って一五分だけ室内で立ち話したとか。それぐらいの「隙」を突いたような場面で、伝播は起き得るようなのです。メリハリのある対策といっても、専門家でさえそういう隙はあると思います。
欧米圏の人はハグやキスといった身体接触の習慣があるから伝播しやすいのではないかと思う方が多いのですが、それだけでしょうか。至近距離で顔を突き合わせて話すような文化の浸透度まで定量化しなければ、因果関係の実証は困難だと思います。
「ファクターX」はあるのか?
川端 徹底的な検査に基づく感染者の同定と社会全体の活動縮小以外の感染抑制要因、山中伸弥氏が言うところの「ファクターX」について、何かわかったことはあるでしょうか。
西浦 二つあります。一つは、一時期、毒力がマイルドなウイルスが存在していたということです。シンガポールやマレーシアで流行の初期に出回っていたウイルスで、ほとんど死者を出していなかった。シンガポールは死亡者の絶対数が著しく少なく、日本の致死率は一・五~二倍。それはウイルス自体の毒力が弱かったからだと考えられています。
また、伝播のしやすさについても、エビデンスが出てきています。ウイルス遺伝子の変異プラスアルファの条件が揃うと、感染性の高いウイルスができ得ることが実験上わかってきた。このウイルスは、ちょっとした変異でその本質が変わり得るようなのです。
こうした変異ウイルスが日本の流行に影響したかどうかはわかりません。医療崩壊を防げたこと、国民一人ひとりが接触を減らしたことで感染の連鎖が止まってきた─日本の状況の本質はそちらのほうにあると思います。今循環しているウイルスが弱毒化しているという明確な知見はありませんし、マイルドなウイルスも日本で出回ってはいないので、そこは考えないほうがいいでしょう。
あと、BCGワクチンや細胞性免疫の関与なども一部判明していて、今後それらがより詳細に整理されてくると思います。
構成:高松夕佳
〔『中央公論』2020年12月号より抜粋〕
◆西浦 博〔にしうらひろし〕
1977年大阪府生まれ。宮崎医科大学医学部卒業、広島大学大学院医歯薬総合研究科修了。博士(保健学)。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学、香港大学、北海道大学などで専門研究と教育を経験。本年8月より現職。専門は感染症数理モデルを利用した流行データの分析。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で3密を特定。人との接触機会の8割減を唱えたことから「8割おじさん」と呼ばれた。
◆川端裕人〔かわばたひろと〕
1964年兵庫県生まれ。東京大学教養学部卒業。日本テレビ報道局で科学報道に従事し、97年よりフリーランス。ノンフィクション作品に『PTA再活用論』『我々はなぜ我々だけなのか』(科学ジャーナリスト賞、講談社科学出版賞)など。フィールド疫学者が主人公の小説作品『エピデミック』を執筆・刊行した2007年当時、西浦博氏に取材した経緯がある。近刊に『「色のふしぎ」と不思議な社会』。
ファクターXは続くか?(12月1日)
日本は何らからの原因(ファクターX)で、これまで死亡者が欧米に比べてはるかに少なく済んできました。ファクターXが何か、に加えて、今後もファクターXが続くか?は今後を予測するうえで極めて重要です。ファクターXの候補と、それぞれが今後も続くかについて、考察してみました。図のように、多くのファクターX候補は、第1波、第2波の時に比べて、減弱する可能性があります。またこれからの冬の到来は、感染症対策からはマイナスに働きます。私の家族の多くは医療関係者ですが、第1波、第2波の時とは比べ物にならないくらい、新型コロナウイルスが迫っていることを痛感します。アクセルを外すだけではなく、しっかりブレーキを踏まないと、医療が限界に近づいています。
新型コロナウイルスの国内感染者数が連日2000人を超えていて、過去最多を更新する都道府県も相次いでいる。コロナ禍のピンチは深刻さを増しているが、感染者数世界最多の米国などから見ると、ケタが2つ異なる。そんな中、マスクの効果が見直されるなど光が見えつつあるのも事実だ。新型コロナ第3波から身を守るべく、具体的な対策をまとめた。
注目は、米疾病対策センター(CDC)の報告だ。ある美容室で2人の美容師が新型コロナの陽性と確認されるまでの数日間、合計139人を接客。客は2人と15分以上会話していて濃厚接触者と定義されたものの、感染者は1人もいなかった。美容師2人はもちろん、139人の客全員がマスクを着用していたという。
そのことを重く見たCDCは報告書にこう書いている。新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせる手段として、社会全体でマスクなどで顔を覆うことの重要性が強調される――。
そんなマスクの効果を裏付けた研究が、東大医科研の河岡義裕教授(ウイルス学)らのグループによる実験だ。グループは、本物の新型コロナウイルスとマネキン2体を使って、マスクの種類によってウイルスの吸い込み量の違いをチェックしている。
■免疫学者がたどり着いた推論
マスクは、医療現場で使われる「N95マスク」「不織布マスク」「布マスク」の3種類で、感染者に見立てたマネキンはウイルスを吐き出し、非感染者仕様のマネキンはウイルスを吸い込む設定だ。
どちらか一方がマスクを着け、もう一方がマスクを着けずに実験したところ、感染者のマネキンがマスクを着けた場合、着けなかった場合と比較して、「N95マスク」だと非感染者の吸い込み量は100%抑えられた。「不織布マスク」か「布マスク」だと、60~80%カットされたという。
非感染者がマスクを着けた場合は、着けなかった場合に比べて「布マスク」で60~80%、「不織布マスク」で50%、「N95マスク」で10~20%にまで抑えられた。
両方が「布マスク」を着けると、着けない時に比べて30%程度、「不織布マスク」で20~30%程度だったという。「布マスク」同士で、両方着けなかった時に比べて吸い込むウイルス量が7割も抑えられるのは意外だろう。この結果を踏まえると、米国の美容室で感染者がゼロだったこともうなずける。
東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏(感染免疫学)が言う。
「これからの時季、マスクの効果として注目したいのは、飛沫の飛散や拡散の防止というだけでなく、喉の保湿です。マスクを着けることで、喉の乾燥を防ぐと、繊毛の働きでウイルスや細菌が排除されますから」
藤田氏が着目するのが、米メリーランド大の研究グループの報告だ。グループは今年1~3月の間、世界50都市で新型コロナの拡大状況と季節性を分析。このうち感染が拡大した8つの都市では、2カ月の平均気温が5~11度で、かつ空気の乾燥を示す絶対湿度が4~7グラム/立方メートルで一致していたという。
今の気象条件に当てはめると、東北や北陸の一部。東京や大阪の周辺は12月以降の状況だ。要は寒くて低湿度の状態がコロナ感染にとってもよくないということ。今後、日本列島は沖縄や伊豆諸島などを除いて、メリーランド大が突き止めた気象条件に広く覆われるだけに要注意だ。
欧米の研究者は、3月から4月にかけて第1波が広がる中、日本の感染者数が突出していないことに触れ、「ファクターX(未知の何か)」に思いを巡らせた。当初、マスクについては世界的に半信半疑だったが、WHOは6月、「マスクは発症前の人から感染するリスクを減らす」と利点を強調している。
藤田氏は「『ファクターX』をひもとくカギが、加湿ではないか」というのだ。どういうことか。厄介な冬を乗り切るヒントと併せて聞いた。
42度20分の入浴で免疫細胞が活性化する
新型コロナが流行する前から、日本では、風邪やインフルが広がるとマスク姿が目立つ。
冬にマスクをするのは今や当たり前だ。それで、喉の保湿ができるのは前述した通り。日本ならではの保湿事情がもう一つあるという。
「入浴です。世界的に毎日の入浴が定着しているのは日本くらいです。しっかりと体を温めることで保湿ができるのに加えて、外敵から身を守る免疫細胞の活性がアップします」
免疫には、細菌やウイルスの“初期消火”に当たる自然免疫と自然免疫から漏れた特定の細胞を攻撃する獲得免疫に分かれる。入浴で体温を1度上げると、自然免疫の活性が3~5倍上昇するという。
「新型コロナに対応する免疫は、特に自然免疫が重要です。日本の入浴文化は、新型コロナ予防の点でも役立っています。41~42度のお湯に10~20分かけてじっくりと温まるのがベターです」
一汁三菜。ワカメや昆布などを
食事の時には、水やコーヒーなどの飲み物のほか、汁物を取る。それはどこの国でもそうだろうが、とりわけ日本は汁物が充実していて、コロナ対策にもなっているという。
「和食の基本は一汁三菜で、ご飯と汁物に3つのおかずを組み合わせています。朝に晩に味噌汁を取ることは珍しくありません。それで、喉を保湿できる。味噌汁の味噌やご飯の供の納豆や漬物は発酵食品で、腸内細菌を善玉菌優位にしてくれます。さらには、海苔をはじめとする海藻を分解できる特別な腸内細菌の存在です。その腸内細菌は、免疫細胞が適正に働くという重要な役割を担っていることも分かりました。つまり、毎日ワカメの味噌汁やヒジキなどと一緒に朝食を取れば、喉を保湿しながら、免疫細胞にカツを入れられる可能性があるのです」
汁物はどの国にもあるが、この働きは見逃せない。時間がない人もサンドイッチとコーヒーの欧米型の朝食より、牛丼チェーンなどで朝定食をチョイスするのが無難か。
ストレートに室内を加湿する手もある。が、加湿し過ぎて窓に結露ができるほどだと、カビや細菌が増殖し、別の病気を招く恐れが高くなる。
「部屋に洗濯物やタオルを干したり、観葉植物を置いて水をやったりすれば十分保湿できます」
3密対策や換気などはもちろん欠かせない。ほかに「ファクターX」の要因が、日本人の生活の中にあるとすれば、風呂と食事の可能性が大きいという。あなたの生活に「ファクターX」があるか。一度見直してみるといい。
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