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マネキンに“菜穂子”と名前をつけて、殺した女の肉片を中に詰める孤独な青年・誠、近親 相姦の兄弟・・・。“菜穂子”によって導かれた男女に、残酷な運命が待ち受ける―――。 アネモネさんにおすすめ?していただいた作品。カルト・ムービーゆえ、体調がよくない方にはおすすめできません。80年代にはこんな衝撃な作品があったこと、改めて面白いと思う。製作から20年、いまの映画にちょっとだけ疑問を感じた。古い映画を観ると、「現在ではふさわしくない言語ですが、本編のオリジナリティを尊重してそのままで放映します」というような字幕をたびたび観ることがある。それは今では使ってはいけなくなった差別用語で、たしかにいけない言葉ではあるけれど、使えなくなってからの映画は、おのずと軟くなりエグ味も頭を殴られるような衝撃も存在しなくなってしまったような気がする。もうこんな映画は生れてこないんだという寂寥感・・。1980年代にはまだ残っていた、そんな懐かしい意味でも、見る価値のある作品だと思った。 “菜穂子”と名づけたマネキンを偏愛し、若い女性を殺しては切り取った生殖器を“菜穂子”の中に詰め込んでいる青年・誠。彼は廃墟の屋上に住み、孤独で人でなしだが、寄せる愛だけは誠実だった。ある時“菜穂子”が妊娠し、新しい家族のために働こうと決心した誠は、小人症の兄妹が経営している下水道清掃の職に就く。その頃、同じ街で、近親 相姦の幼い兄妹ふたりは純粋に寄り添っていたが・・・。「カラスになるくらいなら、真っ白いハトでいたい」街ゆく女子高生は言う。この映画の人々は、愛はあっても欲望に負け真っ黒なカラスになってしまうのだけれど、果たして一生真っ白なハトでいることが正しいのか、それがわからない。たしかに、彼らのような堕ちる姿をみてしまえばカラスになるのは嫌だけど、目くらめっぽうに欲望に突き進む行為は本能的な望みでもある。ただ理性が歯止めとなっているだけ。愛のためには人殺しもいとわない誠。体の醜い痣と、成熟しても体は幼児のままであることを嫌悪する小人症の妹、そしてその兄。性欲を捨てきれない浮浪者。純粋に寄り添う幼い兄妹たち。愛によって生命を得た“菜穂子”に引き合わされ、誰もが欲望に憑り付かれ、残酷でむごい結末へとひた走る。唯一、ほんとうに美しかった兄妹さえ、導かれるようにして誠のねぐらに辿り着いた時、兄の欲望が目ざめ悲劇を迎えてしまう―――。兄妹を描いたシーンは本当に美しくて、少女の純白なイメージが、少なからず過酷な鑑賞を助けてくれた。過激な描写ばかりのなかで、これだけ美しく純粋なものを配置できるのは、審美に長けた監督さんならではのはず。マネキンの美しさもまた、対照としてとてもいい。これがモノクロ映画で本当に良かったと思う。カラーだったらと、想像しただけで身の毛もよだつから。監督がモノクロを選ぶのには、いろんな理由があるのだろうけれど、本作では過剰な刺激を避けるためにそうしたのでは?―なんて思えてくる。映像美が際立つことも、モノトーンならではだ。物乞いの負傷兵や、路地裏の猥雑さが、時代背景を曖昧にしているのは、幻想譚ならでは。幾度も登場する日立の広告塔が懐かしい感じで印象的だった。リバイバル上映時の解説。時代が映画においついた、究極のハードコア・ファンタジー監督・脚本 /松井良彦 製作 /安岡卓治 音楽 /菅沼重雄 出演 /佐野和宏 隅井士門 村田友紀子 大須賀勇(モノクロ/150分)
2009.02.17
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(あらすじ) カトリックとプロテスタントの争いが激化する、16世紀のイングランド。エリザベスは、腹違いの姉メアリー女王の崩御後、世継ぎとして弱冠25歳の若さでイングランド女王に即位する。隣国との関係が切迫するなかで、愛する恋人と政略結婚のあいだで揺れ動く若き女王が、一国の王として独立自尊するまでを、豪華絢爛なセットと衣装で描く――。 豪華でスケール壮大なのだが、なんてことのない内容でおわってしまう。この年のアカデミー賞で『恋におちたシェイクスピア』に敗れたのも、なるほどだ。主演男優陣が被っていての敗北だし、ケイト・ブランシェットは悔しかっただろうなあ。個人的に大好きな女優さんなので、エリザベスの神憑り的な熱演だけみると負けていないんだけれど、、如何せん、波瀾の世のエリザベス1世の恋愛模様が主題では、ちょっとかなしすぎる。コミカルな恋愛劇に負けるのも納得。そもそも『恋におちたシェイクスピア』もそれほど面白い作品ではなかった。 続編の『エリザベス:ゴールデン・エイジ』はHDに録画してあるので、そのうちに。あまり期待しないで観てみよう。エリザベスの恋人役にはジョセフ・ファインズ(写真・右)。結局、この男が何を考えているのかよくわからない。エリザベスの苦悩は刺さるほど伝わったのに、男優陣はぼんやりなのだった。それにしても、わたしはいつまでもファインズ兄弟が苦手なのだなあと実感。 監督 シェカール・カプール 脚本 マイケル・ハースト 撮影 レミ・アデファラシン 音楽 デヴィッド・ハーシュフェルダー 出演 ケイト・ブランシェット ジョセフ・ファインズ ジェフリー・ラッシュ 他 (124min)
2011.10.25
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松本大洋のコミックを映像化したアニメーション。原作は未読です。『鉄筋コンクリート』ではなく、てっこんきんくりーと。なんてユニークなタイトルだろう。 近未来の日本“宝町”を舞台に、そこに生きる親を知らない2人の悪童少年クロ・シロが、不穏な再開発計画に反逆する姿を描く―――。 クロがシロの保護者となり、かつあげやかっぱらいをしながら、助け合って生きてきたふたり。ある日、昔なじみのヤクザ “ネズミ”が街に戻ってきて、ずっと変わらなくみえた宝町に、再開発という名目の不穏な動きが見え始める。背後にチラつく謎の男“蛇”の影。やがて、自分たちの街を守ろうと抵抗を始めたクロとシロにも、冷酷な“蛇”の魔の手が迫るのだった。『スワロウテイル』や『千と千尋の神隠し』『CASSHERN』『イノセンス』『オネアミスの翼』、日本が近未来や異次元を描くと、猥雑で混沌としたものが多い気がする。その五月蠅い街並みや、世界観が好きな方には、“宝町”はきっと魅力的な舞台。ちょっと癖のある絵で描かれた、奇抜な登場人物たち。ありえなさの数々も、意外とダークなところもおもしろい。子ども騙しに見えて、じつは子どもの彼らが、命がけで悪と闘ったり、自分自身のもうひとつの人格と闘ったりしている、過酷な物語なのだ。忠誠心とか信頼とか、大事なものをしっかり描いていたりするところも好印象。ヨゴレと無垢と、並べて描く作品はいい。本編では無垢の代名詞であるシロと、闇の側面を持つクロの、魂からの叫びがともにせめぎ合っている感じがとっても良かった。クロはシロの為に存在(い)て、シロはクロの為に存在(い)る―――。切なくもぬるまゆい気持ちになる、異色の良質アニメーションだと思う。声優さんは有名どころが勢揃い。素人ぽさが、この作品には意外と良かったりする。平目みたいなシロが、蒼井優の超脱力な声を受けて、すっごく可愛くなってしまうところもグッドなのだ。シロはずっと女の子だと思って見てたけれど男の子だった! どっちにしろかわいさに変わりなしか。大人も子どもも楽しめる作品だった。● ● ● ●監督 マイケル・アリアス アニメーション制作 STUDIO4℃ 原作 松本大洋 『鉄コン筋クリート』 脚本 アンソニー・ワイントラーブ 音楽 Plaid 声 二宮和也 蒼井優 伊勢谷友介 宮藤官九郎 大森南朋 (カラー/111分)
2010.01.13
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子供の死のショックから立ち直れずにいる、旅行ガイドブックのライターをする主人公ラリー(ハート)。妻サラ(ターナー)との別居などを経て、やがてペットショップの訓練師と、新しい恋に落ちていく様子を丁寧に描く―――。 脚本が素晴らしい。随所にクスクスと笑えるシーンを織り交ぜながら、主演三人の味わいある演技が心地よい。新しい恋の始まり、新しい人生の回り出す音が聞こえてくるような、絶妙なテンポのある良作でした。強盗事件に巻き込まれ、息子を失った夫婦の、別居から物語は始まります。人生を守りに徹してきた不器用な夫は、妻と悲しみを分かち合うこともせず、孤独を抱えた妻サラは、ついに別居を言い渡すのでした。大きな喪失から始まるけれども、物語は確実に再生へと向かっている。旅行がちなラリーが出会った、ペットショップ店員のミュリエル(デイヴィス)は、快活で風変わりな美人さん。彼女から積極的にアプローチして、いつしか付き合うようになる二人でしたが、型物のラリーはいつまでも優柔不断なまま、新しい人生を踏み出すことができずに、妻とミュリエルの間で揺れ動くのでした、、、。なにより面白かったのは、ラリーの実家の人々。妹や兄たちが繰り広げる日常には、とびきり変わったヘンテコなルールが横行しているのです。それでも一家にとっては、それが常、それが平常。まさかおかしいだなんて、思ってもいない。ちょっとはみ出しちゃってる人生にある、豊かさとユーモアの妙味。ちょっとはみ出しちゃってる人たちの、不器用だけど素直な気持ちが愛おしい。ミュリエルがラリーに恋した瞬間や、妻と恋人のどちらと生きるかをラリーが決めた瞬間、それがわかりにくいのだけが残念だった。この微妙なニュアンスまで伝わったら、それこそ非のうちどころない秀作になっていたかもしれません。監督 ローレンス・カスダン 原作 アン・タイラー 脚本 ローレンス・カスダン フランク・ガラチ 音楽 ジョン・ウィリアムズ 出演 ウィリアム・ハート ジーナ・デイヴィス キャスリーン・ターナー (カラー/121分)
2009.05.07
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1900年2月14日。ハンギングロックと呼ばれる岩山にピクニックに出かけた、寄宿女学校の生徒たち3人と、老嬢の教師が忽然と姿を消した。それぞれの事情で寄宿生活を送る少女たちに見え隠れする孤独や嫉妬や儚さを、神秘的に静謐に綴った異色のミステリー。実際にあった謎の失踪事件が元になっているという。 美しさというものは、かくも残酷なものだとあらためておもう。少女とはいえ、成熟しはじめた彼女たちの存在は、あまりにも瑞々しくて眩しくて、それを映像美として捉えたピーター・ウィアー監督の奇才ぶりに唸ってしまう。和やかに過ぎていく時の流れに、静かに見入っていたら、いつしか、得体の知れない胸騒ぎでいっぱいになっていた。10代半ばに抱く不安や死への憧れといった、危うい感情を思い出すかもしれない。大人になるために、子どもの部分は一度死ななければならない――という。実際それは、夢の中で行われているらしいが。寄宿学校で閉塞的な日々を送る少女たちは、危うさでいっぱい。若さと美しさが内包する残酷にゆれる。4人がいなくなってから、警察や学校総出で捜索を開始するのだが、彼女たちを見つけることは誰ひとりできなかった。しかし、事件のあったその日、偶然ピクニックに来てハンギングロックに登る彼女たちを目撃していた名家の子息は、いたたまれない気持ちになり、一人夜通し捜索を開始するのだ。青年が心神喪失の状態になってまでも探したのは、紛れもなく、4人のなかで一番美しいミランダの面影にとりつかれたから。自分の命を危険に晒してまでも発見できたのは、でも結局、別の少女ひとりだけだった。老教師と2人の女生徒は、最後まで発見されることなく、死亡と断定されてしまう。その後、怪我を負い、記憶を失って戻ってきた少女の口からはなにも語られることはなく。疑心暗鬼の学校中を巻き込んで、そのまま事件は収束していく、、。そして、もう一つの孤独な魂が死を選んで、物語は幕を降ろす。神秘な大自然を前にすると、じぶんの存在があまりに矮小で慄くことがある。心臓がドキドキ鳴って不安になって、これがすすむと『インドへの道』のアデラや、青年のようになってしまうのだろうか。でも、彼女たちは? とても同じとは思えないのだった。絶望からの自殺か、はたまた老教師による若さへの嫉妬(殺害)か、ミステリー作品として、見事な脚色がなされて、真実は観客が想像するに任せる。ファンタスティックな映像美に陶酔して、胸騒ぎして、一抹の疲労感をのこして終わるスバラシさ。ピーター・ウィアー監督といえば『いまを生きる』を思いだすが、あの詩的な雰囲気は、この頃からすでに兼ね備えていた魅力だったのだー。本編のなかで朗読される詩がいい。音楽もまた良くて、(調べてみたら)チャイコフスキー「弦楽四重奏曲第1番第2楽章」、バッハ「8曲の小前奏曲とフーガ」「平均律クラヴィア曲集第1巻より第1番プレリュード」、ベートーヴェン「皇帝」などが使われているらしいのだが、どれも静謐さに磨きをかけるかたちでジャストマッチング。† † †監督/ ピーター・ウィアー 原作/ ジェーン・リンジー 脚本/ クリフ・グリーン 撮影/ ラッセル・ボイド 音楽/ ブルース・スミートン 出演/ レイチェル・ロバーツ アン・ランバート ドミニク・ガード ヘレン・モース (カラー/116分)
2011.03.03
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北海道警察音楽隊のコンサートに行ってきた♪隊の歴史は古く、昭和26年編成、道内各地へ赴きコンサートを開いている。年間200本ものステージをこなしているそうだ。道警音楽隊の方の演奏を聴くのは、たぶん初めて。今回は子ども向けの演奏会だったので、曲目は親しみやすいものばかりだった。「クラリネットポルカ」「ジングルベル」「そりすべり」「崖の上のポニョ」「ドレミの歌」そしてドリル・・・etc.見所はなんといってもカラーガード隊と共に繰り広げられるマーチングドリル。真紅の制服に身を包んだガード隊は、とっても華やかだ。演奏するメンバーも、楽しめるようにと色んなパフォーマンスをしてくれて、笑いながら、リズムにノリながら、しっかり交通安全や防犯へのメッセージをアピール。犬の被り物までして(笑)気合の入ったSHOWが楽しい。なにより、演奏がうまいのが一番!すべての曲を安心して聞きほれることができました。むかしから大なり小なり吹奏楽コンサートは身近で、オーケストラとは一味違った感動をいつも感じる。無性にわけもなく音の懐かしさに涙が出そうになって、終始うるうるとしてしまった。音を合わせる歓びが思いだされるのか、単純に青春の音なのか、吹奏楽もいいなぁとひしと思ったのでした。
2008.12.06
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岩井俊二監督のデビュー15周年記念DVD『initial イニシャル』のなかの2作品。 『雪の王様』 関西テレビ「TV-DOS-T」より 全編ほぼ、主人公二人のモノローグ。独白が苦手であまり楽しめず、岩井俊二らしさはまだ見えない。<青山のデザインオフィスで事務をしている康子(石橋有紀)と、同僚のコウちゃん(梅田凡和)の恋物語――>惰性的なふたりの関係は救いがなくて・・・康子が抱えた多額の借金も、捨て猫を拾うようなコウちゃんの愛し方も、ぜんぶが悲しい。監督自ら名付けた "危ない生活シリーズ" の一作だそうだが、危ないというよりは地に足のつかない都会人の、あぶなっかしい生活を切り取っている。タイトルと内容の繋がりはなんだろう。はじまりと終わりの康子によるモノローグ。「幼いころ、初雪が降ると玄関いっぱいに雪だるまを並べた――」という台詞。大人になってからの雪だるま式借金と、語呂合わせ的にややつながっている、、けど、そんなわけないか(笑) 『ルナティック・ラヴ』 フジテレビ「世にも奇妙な物語 冬の特別編」より ひとむかし前の「世にも奇妙な物語」はおもしろくて好きだった。気づけばきっと観ていたはずだけれど、この作品は残念ながら記憶にないのでした。カメラマニアの男(豊川悦司)が、妄想の恋人(ちはる)につきまとい、殺人を犯していく・・・・。一口で言えばストーカー。『Undo』を彷彿とさせる豊川悦司がいい。それもそのはず、この2作品は同じ年(1994)に作られている。画の表情が、慣れ親しんだ岩井監督のもので、真っ赤な画面に差し込む青い光の演出など、たまらなく好きで、15分ほどの小品ながらおもしろかった。こちらも "危ない生活シリーズ" なんだって。 こんないい男が町で見かけた女性を一方的に想い、屋根裏部屋に籠って悶々としているってすごい画だなー、いまとなっては。彼氏と一緒にいる彼女を見つけて、逆上して家にのり込んでくる、狂気の若きトヨエツが見られたのはひとつの収穫だとおもう。
2011.10.23
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誰もが海へと繰り出すヴァカンス時、汽車もバスもすし詰め状態でお客を運びます。我らがユロ氏も、小さなボロ車で海辺を目指します。リゾート・ホテルでの宿泊客の生活を、軽いスケッチをつみ重ねていくモノクロコメディ。お馴染みのユロ氏が初登場した作品。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ほのぼのとした笑いとパントマイム、そして台詞の少ないサイレントみたいな趣。ジャック・タチ作品独特のおっとりとしたコメディです。‘ユロ氏’初登場の作品で、全部で4作品に登場する人気のキャラになりました。以前に紹介したことのある「ぼくの伯父さん」はこちらの続編。ユロ氏ひとりで休暇を過ごしにやってくる設定で、伯父さんが大好きな甥っ子はでてきません。製作はこちらが6年も前ですが、日本で先に上映されたのは「ぼくの伯父さん」の方。それゆえ、このタイトルなのだそうです。ただ居るだけで、なぜか周囲の人に迷惑をかけるユロ氏。冒頭、今にも止まりそうな彼のポンコツ車は、悲しくなるくらいゆっくりとバカンスへ向かって走ります。全てのものに噛み合わない彼のギャグは自虐的。スローテンポでゆるゆるで、でも味わいがある。どうやって撮ったの? というシーンもあってこだわりが多いです。歩き方や仕草が多少浮いてるように見えたのは、より洗練された続編の「ぼくの伯父さん」を先に観てしまったからなのかもしれませんね。無声に近いほのぼのしたこの雰囲気はジャック・タチにしか作れません。バカンスムード漂う音楽が、何度も繰り返し流れると、自然に気が抜けていくよう。洒落たセットも、目立ちすぎないユロ氏の存在も、私としては「ぼくの伯父さん」の方が好きでしたが、それも、モノクロとカラーの差や、6年という歳月の進化あってのことかもしれません。スウェーデンのロッタちゃんシリーズも同じだったのを思い出します。日本で始めに紹介された「ロッタちゃん はじめてのおつかい」はかなりツボで楽しめましたが、そのあとで、1作目の「赤いじてんしゃ」のほうを観たら少し残念。。有名なのはそれだけの理由があって、洗練された次作のほうがシリーズ中では面白いということも多いのかもしれませんね。今度はロッタちゃんシリーズと同じ原作者の作品で「やかまし村」のシリーズも2作品観比べてみようと思います。内容が逸れましたが...そういえば、「ぼくの伯父さん」で気に入っていた音楽は本作では流れませんでした。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・監督 ジャック・タチ 脚本 ジャック・タチ 、アンリ・マルケ 撮影 ジャン・ムーセル 、ジャック・メルカントン 出演 ジャック・タチ 、ナタリー・パスコー アンドレ・デュボワ 、ヴァランティーヌ・カマクス
2006.10.26
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日本列島の沈没という未曾有の危機を迎えパニックに陥る日本国民の姿と、その中で出会った一組の男女の運命の行方を描く。1973年に製作された『日本沈没』のリメイク版。 海底プレートの急速な沈降で、日本列島が1年後に沈没する――存続の危機に直面した日本を、大迫力のCGを駆使して描きます。一夜経てば、いろんな荒が見えてくるのですが、全体としては見応えあって、日本らしいパニック映画に仕上がっていたのではないでしょうか。国柄がよく出ていて、総理大臣(石坂浩二)が独り言のように呟く言葉が印象的。「沢山の解決方の中で、この国と共に何もせずに沈むのが一番しっくりとくる」もちろんただの気持ちですが、総理にこういう台詞を話させたりするところが面白い。避難民が海外で受け入れられなかったり、アメリカには裏切られたりする日本。こういった政治的なシーンも、自然環境の危機も(この話はプレートが問題なので自然破壊ではないけれど)、ただのお話だとは思えませんでした。大地震で怪我をした潜水艇パイロットの小野寺(草なぎ剛)は、ハイパーレスキュー隊員・安部怜子(柴咲コウ)に助けられます。これが二人の出会い。その時、一緒に救助した少女・美咲の母は意識不明で入院、彼女を実家のお好み焼き店で預かることになるのです。美咲と玲子や家族に関する人間ドラマに期待するよりは、小野寺と玲子の恋愛模様に期待したほうがよさそうです。脇を固める役者さんはしっかりしていて、玲子の家族(吉田日出子ら)、富士山を観測する教授(柄本明)、総理の変わりに指揮を執ることになる危機管理担当大臣(大地真央)など、安心して観られます。つきもののくさいシーンにはいつも引いてしまうけれど、この監督は意外とさらっと観られる気が。本職である映像のすごさは、文句なしといえるかもしれません。これだけ日本の都市を破壊しまくった映像は、今まで観たことありませんし、それが身近な場所だとさらに怖いですね~次々に山という山が噴火して、大津波が押し寄せ、日本が沈没する!残された時間の中で、唯一の解決方法を知る科学博士・田所(豊川悦司)の指示により、プレートを断裂する爆薬を海底深くに仕掛ける任務は、潜水艇のパイロットに託されるのです――冒頭から登場する小野寺のパートナー役には、及川光博が好演。沢山の方が書かれていましたが、この及川光博の演技は驚くほど良いです。今まで上手いと感じたことがなくて、わりとキザで変わった役柄が多かったように思いますが、普通の父親役を見事に演じているので注目です。細部の荒は、やはりいっぱいあります。大パニックの中、小野寺と玲子がピンポイントで会えるなんておかしい!! と思いながら観てました。けれど、ハリウッド映画顔負けのアクションシーンと、危機を日本人だけで(陰で海外の協力もあったけど)解決するところに好感持てます。日本が沈没していく様子を生々しく再現して見せてくれる作品。CG映画は劇場で観るのがいいです。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・監督 樋口真嗣 原作 小松左京 脚本 加藤正人 音楽 岩代太郎 出演 草なぎ剛 、柴咲コウ 、豊川悦司 、大地真央 及川光博 、福田麻由子 、吉田日出子 柄本明
2006.07.21
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かつて馬肉屋をしていた男は刑務所から出所後、愛人のもとで暮らしていたが、何もかもに嫌気がさし、施設に入っている娘に会うためパリへと向かう。施設から娘を連れ出し、ふたりは安宿に入るのだが、鬱屈した男は取り返しのつかない行為に及んでしまう―――。『カルネ』の続編で、監督・脚本は同じくギャスパー・ノエ。 以前、松本人志の「シネマ坊主」を読んだとき気になって、オンラインリストに追加していた作品。前作『カルネ』は未見。乱暴で猥言ばかりの主人公の饒舌がすごい。多くのフランス映画が描かない、国の暗部を描いているけれど、それがいかにもフランス的だったりするのでおもしろい。人間はみんな利己的と言った男の第二の人生は、身重の妻に支配されて絶望の色。新しい馬肉店を開こうにも、財産は妻が握っていて、わずかさえも自由にはできない情けなさ。いつしかなにもかもが嫌になり、妻をさんざん殴ったあげく家を飛び出し、銃片手に唯一の希望である娘に再会するため、トラックを拾いパリを目指すのだが・・・。はみ出し者の中年男が辿り着いた境地は、ノーマルのわたしにはたしかに共感しがたかった。けれどあと20年生きていく意味を探したくなる気持ちはわかる。誰だってなんのために生きるのか、理由がなければ辛いのだ。冒頭に、駆け足で見せられる前作のダイジェストは、男の過去を教えてくれて、それなりに屈折した人生のわけがわかるようになっている。筋違いのこじつけで、ドイツや富裕層を憎悪したり、娘に手を出すなんていう醜猥極まる行為も、男の開き直りを前には怒りが湧かなかった。知能の弱くして生まれてきたらしい娘は、はっきりと感情を表に出すことはない。ただただ男の独白で物語は続いていく。「これから30秒以内に映画館を出たほうがいい」思わせぶりな字幕のあとに繰り広げられるカウントダウン後のおぞましい光景も、死を覚悟した男が出した答えも、やっぱりどうしようもない。普段ならば、そんな主人公をいとおしく思えることが多いけれど、こちらは違っていた。モラルなんて、所詮人間同士の決め事。自分を徹して生きるには利己的であるしかないのだろうか。監督・脚本・撮影・編集/ギャスパー・ノエ 出演/フィリップ・ナオン ブランディーヌ・ルノワール フランキー・バン (カラー/95分)
2009.01.25
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妻と一人娘を持つ平凡なサラリーマン、オ・デス。彼はある日、突然何者かに誘拐され、小さな部屋に監禁されてしまう。15年後、突然解放されたデス。いったい誰が?何の目的で? デスは偶然自分を介抱してくれた若い女性ミドの助けを借り、監禁組織のなぞを探り始めるのだったが、、。すべてを企んだ男・ウジンとの対面により、さらに悲劇のゲームが幕を開けてしまう―――。 おそろしくエゲツない、救われない物語だ。内容も映像も、どこかハリウッドの二番煎じを思わせるが、原作は日本のマンガなのらしい。ある日突然、理由もわからず、15年も監禁されたオ・デス。その理由は、過去にあった。答えを探して否応なくゲームに挑むこととなった、彼の野獣のような風貌は、見たい心を触発する。知り合ったミドとともに、真相を探るうち、ふたりの間にはいつしか愛(のような感情)が芽生え、ついに結ばれるのだが・・・。オ・デスもミドも、気づかぬうちに、すべて謎の男・ウジンによって操作されているのだ!その怖ろしさ。ウジンはなぜそこまでオ・デスを憎んでいるのか?! 驚愕の真実が明かされるラストまで、目を逸らせなかった。痛々しいシーンの連続で満腹になったところへ、なお怒涛の暴力シーンとあざといほどのどんでん返しが突き付けられる。理由を知らされず15年ものあいだ監禁される恐怖、精神の崩壊、自殺未遂・・・ただでさえ恐ろしい。そもそも監禁組織なんて存在があると想像するだけで恐怖だ。凶器は金槌、人を操る催眠術、ありとあらゆるおっかな所のオンパレード。さすが日本アニメ原作というべきか(?)ウジンとデスの接点が初めてわかる、後半の回想シーンまで、オチすら予想できなかった。しかも、このシーンはエロくて、ウジンの過去は意外にも切なくて、流石、韓国映画はこれでもか! というほどあらゆる素材をぶち込んでくる。本編を語るのに欠くことができないキーワードは近親 相姦(ネタバレ反転)だろう。ネタバレになるので、これから観ようと思っている方は反転しないほうがベターです。その禁断のキーワードがダブルでやってくるとは、、、オ・デスとミドの関係が好きだっただけになかなかショックだった。ミド役には、先日の『トンマッコルへようこそ』で少女ヨイルを好演していたカン・ヘジョン。本作でもかわいくて、存在感抜群。デスを演じたのは、役所広司似のチェ・ミンシク。彼の濃厚な本能炸裂の演技と、ボサッボサの髪はインパクト絶大です。パク・チャヌク監督の作品は『JSA』以来、久しぶりの鑑賞でした。なんとなく、この作品やその他のタイトルを眺めると、日本でいう黒沢清監督に似た匂いを感じるのだけれどどうでしょうか。† † †監督/ パク・チャヌク 原作/ 土屋ガロン・作 嶺岸信明・画 『オールド・ボーイ』 出演/ チェ・ミンシク ユ・ジテ カン・ヘジョン (カラー/120分)
2011.01.20
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ニコラス・スパークスの長編デビュー小説を映画化したラブ・ストーリー。運命的な恋に落ちながらその関係を引き裂かれてしまった一組の男女の、時を経た永遠の愛をロマンティックに描く。とある療養施設に独り暮らす初老の女性。彼女は若かりし情熱の日々の想い出を全て失っていた。そんな彼女のもとへデュークと名乗る初老の男が定期的に通い、ある物語を読み聞かせている。それは古き良き時代、アメリカ南部の夏の恋物語だった――。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 号泣にちかく、泣きました。純愛が実るお話は数あるけれど、老いてまだ、臨終の時まで添い遂げる恋人たちの物語は、別の感情を与えてくれます。どこか童話のような、若い二人ノアとアリスの物語。強く深く愛することができる人は、本当に幸せです。若き日のふたりを演じた、ライアン・ゴズリングとレイチェル・マクアダムスが素晴らしい。ひと夏の恋から永遠につづく愛へ、初初しい出会いから別れへ―――何年にもわたる姿を、見事に演じています。恋する喜び、痛み、喪失感、再会、別れの砕けそうになる思い。どれも素直に受け取って泣けてきました。冒頭ではまだ、痴呆症の老婦人と、彼女に物語を読むデュークの関係は明かされません。すこし謎めいたまま、ゆっくりとふたりの関係に気づかされます。勘のいい方はすぐにわかるような、ゆるい設定なので、ネタバレにはならないですよね?デュークと名乗る老人はノア。婦人はアリス。お話は彼らふたりの思い出なのです。平均寿命が延びて、痴呆をテーマにした作品もにわかに増えつつあるのかもしれません。長生きしても、記憶がなければ果たしてそれが幸せなのかどうか・・・みずからの幸せな半生を思い出せなくて、愛する人も家族もわからなくて、それでも生きることは悲しい。周りの人間もとても悲しいと思います。けれどノアのように諦めず、一瞬でも記憶が戻った時に傍にいたいと頑張っている人は、世の中に多くいるのかもしれませんね。とにかくキレイに描かれていて、痴呆症の症状だって、ゆるすぎる描写なのかもしれませんが、全編通して‘物語’であることを感じて、淡く美しい情景で綴られるので、気にはなりませんでした。私的な一番のツボは、若きノアが彼女を失ってからの生き方。喪失の後、でも諦めはない。こんな風に女性を愛せることが素敵です。監督は老婦人を演じたジーナ・ローランズの息子、ニック・カサヴェテス。同じく親子で組んだ「ミルドレッド」は、ニック初監督作でしたが、心温まる良質なヒューマンドラマした。才能溢れる両親と息子。すごい一家ですね~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 監督 ニック・カサヴェテス 製作 リン・ハリス 、マーク・ジョンソン 原作 ニコラス・スパークス 『きみに読む物語』 脚本 ジャン・サルディ 、ジェレミー・レヴェン 音楽 アーロン・ジグマン 出演 ライアン・ゴズリング 、レイチェル・マクアダムス ジーナ・ローランズ 、ジェームズ・ガーナー (カラー/123分)
2007.07.02
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1994年、ルワンダの首都キガリ。多数派のフツ族と少数派のツチ族の内戦はようやく終息したものの街は依然不穏な空気に包まれていた。ベルギー系の高級ホテル“ミル・コリン”で働く有能な支配人ポールは、妻がツチ族だったことから“ミル・コリン”に避難するのだが、ホテルは命からがら逃げ延びてきた人々が続々と集まってくる……。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 映画の評判というよりは日本公開を求める会の動きで興味を惹かれていた作品でした。良質な映画が興行面の採算が合わないことで観られない~という図式は、いつも残念に思っています。大作しか小さな町には来ないのも淋しいことです。ネットを通した若者達の活動が、日本での上映を叶わせる力になったことで、多くの人がこの作品と出会う機会を得たのは素晴らしいことと思います。北海道でも、略称「ルワ会」による尽力で十勝、苫小牧、函館で(たぶん)一日のみではありますが上映されたそうです。今回わたしが行ったのは札幌駅の北口にある蠍座で、現在、道内唯一の上映映画館となっています。 12年前、学生だった自分がこの大量虐殺を知らなかったことに、驚き情けなくなりました。わたしが青春を謳歌していたその頃、ニュースに対する興味も薄いあの時期に、アフリカではこんなにも凄まじい恐ろしい争いが起こっていたなんて。。動かない政府に対して学生運動を行った男性が「今更遅すぎる」――というコメントを残しているのをみつけました。そうやって行動を起こしていた人がありながら、当時の社会の様子さえちっとも覚えていないのが、本当に情けないです。たった12年前のことなのに…民族間の争いが、歴史的な背景の複雑さから酷い状況を生む。それは世界各国で起きてきて、今現在も続いていること。たしかにルワンダの惨状を今更知っても遅すぎるのかもしれませんが、ここから現在起こってる紛争のニュースに耳を傾けたり、難民を救う募金に協力したりなど、何かできることはきっとあると思います。知らないよりは知っていた方がいい。意識が変わるというのは大なり小なり、良いことなのではないでしょうか。演技派のドン・チードルが、4つ星ホテル“ミル・コリン”の支配人役を熱演しています。外資系ホテルと、支配人として身に付けた話術や機転を盾に、1200人もの命を救った実在の人物を基にして映画化されたルワンダ紛争の真実。国連軍も海外からの助けも当てにならず、ホテルに孤立した人々は、いつ来るやも知れない暴徒と化した民兵からの攻撃に怯えるばかりでした。何度も死を覚悟しながら、ポール・ルセサバギナは皆の為に奔走し続けました。時には命を金で買い、酒で買収し、絶望の淵から這い上がり、危機に直面しながらも諦めなかったポール。もし自分がその場に居たら―と考えると、その恐怖感は想像を絶するものであったと思います。監督はアイルランド生まれのテリー・ジョージ。イギリス・イタリアが主な製作国であることもあってか、ドキュメンタリーに近いような、入り込む隙もないほどの迫真の作品というのではなく、観る側も考慮に入れられた実話に基づいたフィクションに近いという印象でした。ドラマ性もあります。 100万人が命を落としたという惨劇から12年。関心を持つことが大事だと、伝えたいことはちゃんと伝わってきました。‘94年のルワンダ、ヨーロッパ諸国が見て見ぬふりの如く手を差し伸べなかった事実が、これだけの犠牲者を生んだ――本編ではそう訴えています。でもその時、日本は?自分は?と考えると、それもまったく同じで無関心でいただけでした。観た人のたくさんの意識を変えるきっかけを作った作品ではないでしょうか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・監督 テリー・ジョージ 製作 テリー・ジョージ 、A・キットマン・ホー 製作総指揮 ハル・サドフ 、マーティン・カッツ 脚本 テリー・ジョージ 、ケア・ピアソン 音楽 ルパート・グレグソン=ウィリアムズ アンドレア・グエラ 出演 ドン・チードル 、ソフィー・オコネドー ホアキン・フェニックス 、ニック・ノルティ デズモンド・デュベ 、デヴィッド・オハラ ジャン・レノ
2006.09.13
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