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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2014/01/14
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カテゴリ: うふふ日記
 「家がみつかったの!」 と長女が云った。  


 家から自転車で30分ほどの場所に、古い文化住宅をみつけたのだ、と長女は胸を張ってみせた。古いものが好き、オンボロのものを直したり磨いたりして使うのが好き、土好きのこのひとにぴったりの家だったらしい。
 昨秋「ひとり暮らし宣言」をし、長女は古い家をさがしつづけていたのだった。それが2013年もそうとうに押し詰まってから、実現した。
 「年の瀬の家の契約は、夜逃げと相場が決まっているのよ。あなたのような若いひとだとわかって、びっくりしたりほっとしたりしています」
 と家主の老婦人は云ったそうな。
 無事契約がすみ、引っ越しは年が明けて10日あまりあとに決まった。
 正月、自転車に乗り、みんなで長女の家を見に行く。なるほど古い家だったが、やさしい老人がきものを着て静かに坐っているような印象を受けた。


 年明けから、引っ越しの準備にとりかかった。
 昨年、訪れた雑誌Kの記者に「山本さん、ほかの食器はどこにしまっているのですか?」と訊かれ、「見えているこれが全部です」と答えて驚かれた食器棚の扉を開く。ここから食器を分けてやろう、と思う。この機会に、この家の風通しもよくしよう。
 そう考えようとしていた時点では、わたしは自分にうそをついていた。
 しかし、器や道具類を新聞紙でくるみ、段ボールにおさめながら、胸のなかに、ごまかしようのない気持ちがひろがってゆく。
 胸がちりちりする。さびしくて、胸が……。
 なんとだらしのない母親だろうか、わたしは。こんなはずではなかった、娘の独立をさっぱりとよろこび、勢いよく背中を押してやるような、そんな存在であるはずだった、わたしは。ところが、胸はちりちりと震えたあと、びりっびりっと、音をたてている。胸の「このあたり」がところどころ破れるようなのである。質(たち)のよくない破け方だ。こんなことでは、身がもたない。長女が引っ越してゆくころには、ずたずたになってしまう。
 けれども、胸が破けそうなことに気づいて、それをみずから認めてしまったら、そこから少しずつ、気持ちを変えてゆくことができた。
 娘に向かって、「引っ越しの準備に口は出さないけど、手を貸させてね。そうすることで、背中を押せるような気がするから」と宣言す。
 それから、必要なものを買いに走ったり、夫の実家の土蔵にしまってある古い器や踏み台なんかをもらいに行ったりした。夫の祖母の嫁入り道具だった下駄箱までもらってきてしまった。
 自分の家のことを自分で整えようとする娘に遠慮して、隠れていそいそ準備をすすめた夜半のこと。冬休みの宿題をしていた三女に向かって、わたしは思わずこう告げていた。
 「お母さんさあ、いま、いちばんやりたくないことに精出してる感じなんだよね」


ブログうさぎの人形.jpg

わたしがもとめたうさぎのちっちゃなぬいぐるみです。
こんなのを眺めながら、
「このうさぎさんの耳をちゅうちゅう吸っていたあなたが、
大きくなったもんだね!」
と云って笑えるまでになりました。
1週間ほど前、思いがけないほどさびしがっていた自分を
つついてやりたかったけれど、つついたら、
泣けてきそうで、それもできなかった……のでした。
あはは。





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最終更新日  2014/01/14 09:57:13 AM
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