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先日、工房にお越し頂いた横浜のとんぼさんと奈良の陽花さん。お二人ともブログから知遇を得た友人です。それぞれのブログはこちら。とんぼさんの「ほばーりんぐとと」陽花さんの「和楽亭~きものをもっと身近に~」とんぼさんは知る人ぞ知るカリスマブロガー、その着物に対する蘊蓄の深さが人気の的になっています。古裂の蒐集家でもあるのですが販売も。陽花さんは組紐作家、ブログからはその優しさと暖かさが伝わってきます。今回、とんぼさんから依頼された物は男物の羽裏、額裏とも言います。現代は需要の減少で昔に作られた素晴らしい意匠の羽裏は皆無と言って良い程存在しません。女性用なら、岡重さん辺りから昔の型を使った物が高額ながら販売されていて、人気を博しています。今回依頼された物です。楠木正行が描かれています。明治期の作品ではないでしょうか。楠木正行の最後の戦い「四条綴の戦い」の場面だとおもいます。右上には吉野の如意輪寺の門扉に矢尻で書いた辞世の句が書かれています。「かへらじと かねておもへば梓弓 なき数にいる 名をぞとどむる」この羽裏の矢が地色と同化して見難いので、見える様にして欲しいとの注文でした。生地は裂くくなってひび割れています。写真は仕上げをした後なので良く分かる様になりました。矢尻もよく見える様に縁を描き消しに描いています。この羽裏は裏打ちして補強、ご自分の羽織の裏に使われる予定だとか。これだけの逸品、もう手に入る事はないでしょう。素晴らしい物です。とんぼさんが惚れたのはこの楠木正行の顔。良い顔しています。色気がありますね。これだけ良い物が作れなくなっているのは日本文化の損失です。
2010年04月26日
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白生地を引き染めで染め上げる時に「地入れ」と言う染めの準備工程ががあります。呉汁と布海苔を生地に敷き詰めます。時にはアンモニアや界面活性剤も少し入れる事があります。引き染めに使う刷毛と同じ物を使って。この地入れを怠ると染め上がりに問題が出てくるので薄い色でも手を抜けない工程。色の耳溜りや染めムラ、縦に出る「サシ」といわれる縞状の線などを防いでくれます。それだけでなく発色が良くなるのです。ところがこの呉汁は本質的にタンパク質の権化。熱を加えるとやや硬化してしまいます。その結果、チョークマークという事故を呼ぶ事に。つまり爪を軽く立てて生地をこすってやると、凝固したタンパク質がひび割れして白くなってしまうのです。そんな訳で、今では地入れに呉汁を入れないかほんの少ししか入れない様になったのです。ここで問題。この呉汁とは一体何者なのでしょうか?正解は大豆の絞り汁。分かった貴方はエライ。要するに豆乳です。この呉汁、上に乗った染料を濃くする性質があります。その性質を利用して染めたのがこれです。浜の古代縮緬、墨色地の名古屋帯。呉汁に染料を加えて白生地に直接素描します。その上から地色を染めると呉汁の部分が濃く染め上がって写真の様に出来上がるのです。花びらと葉は呉汁描き、匂いの青い色は着拔の描き、そして金泥描きで仕上げ。花丸の中側を薄いろで抜いたぼかしで染上げて。帯ですから、コントラストは強めに仕上げています。ポピュラーな染技法ではありませんが、この技法だけで染め加工をしている染屋さんもいる程です。我が工房でも、この技法をつかって付下はかなり染めました。もちろん付下ですから、仕上がりはもっとソフトに。この帯は木屋町の小料理屋さんの女将さんへ
2008年02月16日
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着物の染には仕上げの工程でどうしても世話になる工房があります。生地に付いた染料を定着させる工程である蒸しを主な仕事にする「蒸し屋」さんと生地の巾を出したり揃える「湯伸し屋」さんです。湯伸し屋さんは蒸し屋さんが兼業している場合もあり、比較的小規模で商いされています。ところが蒸し屋さんは沢山の工程をこなす為、それぞれの機械や作業場を必要としています。ゴムや蝋を落とす揮発水洗の機械、余分な染料や防染の為の糊を落とす水元の機械と川、蒸しをする着物の生地を沢山入れる大きな箱、自然乾燥させる大きな干場など。その為蒸し屋さんは大きな設備投資が必要な為、大きな土地と資金が必要な工場となっています。近年、着物不況は深刻さを増し、耐えきれなくなった蒸し屋さんの数は年々減っていました。残った数少ない蒸し屋さんも毎年続く赤字にも拘らず営業を続けていたのです。蒸し屋さんにも大きな声では言えませんが暗黙の内にランク付けがありました。トップの一軒を除いてはドングリの背比べに近いのですが。そのトップである「辻本」さんがこの八月一杯で廃業する事が決まったのです。その話は内緒で一年程前に聞きつけていたのですが、誰も信じませんでした。京都の染で高級な物を染めている染屋さんは大方この「辻本」さんに蒸しを依頼していました。腕も良いけど工賃も高く我が工房とは取引がありませんでしたが、親父の頃は同じ染の同人として仲が良かったそうです。京都の蒸し屋仲間の間では常にリーダーシップを取り続け、別格扱いされていたのです。そんな蒸し屋さん廃業ですから、良い物を扱う染屋さんに取っては寝耳に水の大ショック。代わりをする蒸し屋さんが居ないと嘆く事しきり。しかし、他の蒸し屋さんも後追い心中する可能性が無いとも言えないのが実情。大きな設備を保持していくのは至難の技。潤沢な資金が裏打ちされないと舞っていかないのです。我が工房の依頼先の蒸し屋さんは「染の地図が変りそう」と言っていました。続けられる赤字の年数は限られています。震災以来のどん底不況が本当に地図を塗り替えそうになってきました。我が工房はお客様の支援があり、着物だけでなく小物にも色んな形で注文が来ています。しかし、問屋筋からは仕事が消滅、初めての経験をしています。今こそ心細やかな工夫が必要だと思います。さあ、智慧を出し合って勇気を持って立ち向かいましょう。
2011年07月29日
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着物に使われる柄は様々。草花に代表されるも、小道具や四季に関わる風物など沢山あり過ぎて、紹介しようとすれば何年もかかることでしょう。そこから、少しではありますが気になる柄から紹介を始めていきたいと思います。今日は「源氏香」源氏物語と直接の関係はないのですが、聞香での一種の遊びである「組香」にその名を利用したものです。五種の聞香でその香りの異同を当てる図を書き記したものが「源氏香」という訳です。正式の組香「源氏香」では五種の聞香当てを五回行なってその当たった数を競うのです。宇治で良く行なわれる茶歌舞伎と良く似ています。つまり、一回目の聞香と三回目が同じ香、二回目四回目五回目が同じ香だと「匂宮」になる訳です。組香の席では折り畳んだ和紙にこの「匂宮」と書き入れます。縦五本の組み合わせですが、四つの聞香を競う「系図香」や三つの聞香を競う「三種香」が有り、それぞれ縦棒の頭を結ぶ形で表現しています。この源氏香を素材にした友禅に使われる「源氏香」の草稿図案の一部です。
2008年03月14日
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先だって十三参りの着物を企画中と言うお話を致しました。今まで、子供さんの着物は工房一番人気の「遊小紋」で作られる事が殆どでした。遊小紋には¥48,000と言う価格設定があるので、柄を大きくするにも限度があります。今回の注文は振袖のデフォルメ。問屋さんの注文ではそれなりに作ったのですが、工房のお客様では初めての注文でした。振袖に使う生地は五丈、反物一反半をつかいますが、十三参りに着る着物は小振袖。大人の着物と同じ長さで何とかなります。袖丈も短め、身幅も狭め、柄数は三分の二程度で済みます。ご覧下さい。ゴールデンウイーク中にお参りされました。此処は嵐山の渡月橋、お隣に居るのは妹嬢、何年か先にはこの着物を着るはずです。このお嬢様、工房で打ち合わせしていた時は、とても美形で可愛いけど純朴そのものでした。写真を見てびっくり、大人そのもの。これほど変るとは驚きです。無茶苦茶な美人です。ぼかすのが勿体ないですが、ご辛抱を。渡月橋を渡りきったところ。これから、虚空蔵法輪寺へお参りです。法輪寺からの帰りの石段で。帯は当工房はタッチしていなかったのですが、良いものを選ばれています。着物との相性が抜群で、それぞれを生かす良いコーディー。お参りの帰り道、渡月橋では振り返ると頂いたご利益が無くなってしまうとされています。小さい頃に従姉のお参りについて行った事がありました。その時に叔母が従姉に「振り返ったらあかんで」と強く言っていたのを憶えています。四月の十三日が十三参りの当日なんですが前後各二ヶ月がお参りする期間となっています。お参りが四月の十三日であったら、新聞社のインタビューを受けていた事は間違いない程。真っ赤に見えますが、実物はもっと深めの臙脂色です。着物とお嬢様の美しさは他を寄せ付けない程、目を引いた事でしょう。この元になった振袖は小売屋さんや問屋さんで、まだスタンバイしているかも知れません。小売上代、百を越えたらぼったくり、大体八十前後だと思います。工房では振袖デフォルメの十三参り着物つまり小振袖を企画中です。仕立て上がりで十五から十八を予定。まだまだ、準備に時間がかかりますが、ご期待下さい。
2010年05月22日
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