田中およよNo2の「なんだかなー」日記

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2007年04月22日
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カテゴリ: 硬派
「前編」 から…

そして、感覚的になるのだけど、この挟み込みもいやらしくない。
読むだけではつかめない書き手の技術があるように、僕は感じてしまうのだ。
きっと、村上春樹さんは物語のスキームを、やりやすいものに落とし込んだとしても、それとは違ったものが書ける自信があったのだと思う。

「タイランド」の凄さは物語のスキームの巧みさだけではない。
一つ一つの言葉が物語りや、さつきの感情の流れにものすごく沿っているものなのだ。

例えば、地震の「液状化(リクイダイゼーション)」って言葉に説明がかなり割かれている。
これは単に地震の描写をしている用語である。

この「液状化」の描写はくどいなあって。
ちょっと、引用。

「私たちは足元の地面という固くて不動のものだと、頭から信じています。『地に脚をつける』という言葉もあります。ところがある日突然、そうではないことがわかる。堅固はなずの地面や岩が、まるで液体のようにぐにゃぐにゃになってしまう。そのようにテレビのニュースで聞きました。液状化(リクイダイゼーション)と言いましたっけ?幸いなことにタイには大きな地震はほとんどありませんが」(単行本 107頁)

でもね、この説明はあとで凄く、聞いてくる。
なぜならば、この話は堅固に誇っていたさつきのココロが、それこそ、ぐにゃぐにゃにされる、さつきの心境の小説でもあるからだ。
つまり、この液状化の説明は地震の液状化の説明でありながら、なおかつ、小説自体の流れや、目的をもあらわしている。
論理から響の世界に下りてゆく話なのだ。

そんなの偶然じゃないかって、思うかもしれない。
村上春樹さんは地震の説明をしてるだけだって。
なるほど、そうかもしれない。
僕だって、その可能性は捨てきるわけではない。


他にもこんな描写がある。
ジャズについての説明だ。
「…胸の中からなんとか抜け出そうとしている自由な魂についての物語なんだ。そのような魂は私の中にもあるし、お前のなかにもある…」(単行本 115頁)
これはジャズの説明でありながら、なおかつ、さつきが抜け出そうとして抜け出しえなかったココロの描写とも言えるのではないか。
少なくとも、僕はそう思う。


言葉と、物語が互いに響きあっている。
無駄に見える話が、実はボディブローのように読者に効いてくる。

さて、余計に見える描写ではジャズとともに、水泳の描写も多い。
ジャズの記憶はさつきの父親につながり、水泳はさつきの若い頃を思い出させる。
小説の中盤はこの描写に大半が割かれている。
堅固な志向の世界から、肉体的で、無意識の世界にさつきが向かうブリッジの役割をしている。
さつきが徐々に原初的な世界に引きずり込まれていく過程である。

「…なにも考えないことだった。」(単行本 113頁)

水泳っていうのは「プールサイド」( 「回転木馬のデッド・ヒート」 収録)とうい作品でも書かれてますよね。
立場は随分と違いますけど。

この水泳と音楽にさつきが耽溺し、完全な休暇で、いわば生活していくためのガードのようなものが半ば外された状態になるから、最後の老婆とのやりとりに説得力をもたせるのだ。
いきなり、老婆を登場させれば、ここまでの説得力を「タイランド」は持つことはなかっただろう。
そこに、老婆とのシーンに向かって、主人公にきっちと準備させるために我慢しながら、筆を進めている作者の姿が浮ぶのだ。

…では、 「後編」 へ…

※もっと、「なんだかなー」なら『 目次・◎村上春樹さん 』まで





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最終更新日  2007年04月22日 17時01分19秒コメント(0) | コメントを書く
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