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2022.03.12
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カテゴリ: 書籍
マーダーボット・ダイアリー(下)

マーダーボット・ダイアリー(下)

 今回の原因は不安です。こんなときの対策はいつもおなじ。メディアに耽溺します。(192ページ)
著者・編者 マーサ・ウェルズ=著
出版情報 東京創元社
出版年月 2019年12月発行

「暴走プロトコル」
プリザベーション補助隊の事件をきっかけに脱走ボットとなった“弊機”は、ミルー星へ向かうため、騒々しい年季契約労働者たちが乗ったボット運航船に同乗しました。そこで弊機は、アビーン博士、ヒルーン、ウィルケン、ガースらがテラフォーム施設を調査に来ていることを知りました。弊機はまず、アビーンのペットロボット、ミキに接触し、情報を集めます。ことデータ管理に関して人間はまったくあてになりません。
調査隊はドローンの襲撃を受けましたが、人間は警備ユニットに劣っており、急速な状況変化についていけません。弊機は一行の救出に成功し、自分で自分をほめました。だれもよくやったと言ってくれないからです。しかし、ヒルーンが捕らえられています。
弊機が囮となって被ルーンを救出する作戦です。ガースが「幸運を」と言いましたが、弊機はクソ野郎と思いました。
いろいろあって、弊機はメンサー博士に渡すべきデータを地質学ポッドから入手し、ミキの友人である人間たちも救いました。あとは去るだけです。

「出口戦略の無謀」
ヘイブラットン・ステーションに帰ってきた弊機は、銃弾で穴だらけになった服を何とかしようとして、意を決して大きな旅行用品店にはいりました。自動販売機を使ったことはありますが、本物の商店は初めてです。着替えると気分が変わりました。娯楽フィードでおもしろそうな新作ドラマをみつけたときの気分と似ています。
ニュース・フィードを読むと、メンサー博士がグレイクリス社から企業スパイとして告発されています。そもそもメンサー博士は非法人政体の惑星理事長です。なのに企業スパイ容疑とはどうしたことでしょう。
どうやらグレイクリス社はメンサーが弊機をミルー星へ送って、同社の悪行を暴露したと思っているようです。これはまずい。グレイクリス社は人間の集まりです。理にかなったことをするとはかぎりません。不安です。こんなときの対策はいつもおなじ。メディアに耽溺します。
弊機は、メンサーの救出交渉をしている、かつての仲間、ビン・リー、ラッティ、グラシンを捜し出しました。どうやらメンサーはグレイクリス社に捕らえられているようです。彼らは、グレイクリス社の代理人セラードとの交渉に臨みます。これまで何度も人質交換交渉を見てきた弊機の考えでは、相手の態度ははったりです。本音ではとにかく身代金がほしいのです。
ピンが返ってきたことで、弊機はメンサーの居場所を特定しました。弊機はセラードの首を絞めました。人間たちが「侍て」「やめろ」と騒ぎますが、弊機は「殺してはいません。自制しています」と答え、セラートをカウチに横たえました。
弊機はメンサーに再会しました。「まあ、どうしても必要なら、抱き締めてもらってもかまいません」。メンサーは弊機を抱き締めました。弊機は胸の温度を上げて、これは救急医療だと自分に言い聞かせました。
弊機は戦闘警備ユニットと不利な戦いを強いられます。しかし、負けたくない。
弊機は砲艦と一体化し、ついにメンサーを救い出しました。
〈やったぞ。ざよあみろ〉弊機は考えました。
突然、弊機は重大な障害に見舞われました。記憶の再構築に時間がかかります。
メンサーはポットや構成機体は人間そっくりの外観だから、いつかは人間になりたいはずだと思われている」と言いますが、弊機は「そんなばかげた話は聞いたことがありません」と言いました。
弊機は何をやりたいのか分かりません。しかし、メンサーは仕事を選択するチャンスを与えてくれました。選択肢があり、すぐに決める必要はない。いいことです。考えるあいだの居場所もあるようです。

対人恐怖症で、仕事の合間にダウンロードしたドラマを見て過ごす警備ユニット(アンドロイド)“弊機”の一人称で話が進む――ケチな弊社による束縛を嫌い、善良なハッカーではあるけれど、顧客との直接対話は苦手で、けっして本名を明かさない。まるで自宅警備員のような“弊機”が可笑しい――『灰羽連盟』の原作者・安倍吉俊がカバーイラストを担当しているのも秀逸だ。
「システムの危殆」では、統制モジュールを自らハックして自律した弊機が、メンサー博士と出会い、社会的にも保険会社から自立するまでの話。つづく「人工的なあり方」「暴走プロトコル」で、失敗と成功経験を積んだ弊機は、「出口戦略の無謀」でメンサーを救出する。自己犠牲を厭わず進んで人助けをする弊機なのだが、なぜか「人間にはなりたくありません」と主張し、「自分がなにをやりたいのかいまだわからない」と言う。
本作は紛れもないロボットSFなのだが、弊機の立ち位置は、恐怖の象徴としてのメアリー・シェリーのフランケンシュタインとも違うし、人類に限りなく奉仕をするアシモフのロボットでもない。幸せの青い鳥を探して自分探しの旅を続けるロマンティストのようでもあり、面倒くさいオタクのようでもある。ともかく現代人臭いのである。人類学の学位をもつ作者ならではの、新しいSFロボットが誕生したようだ。






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最終更新日  2022.03.12 18:55:45
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