[ぱんだpandaパンダの文学館]
しだ、羊歯とも書く。
詩のタイトルには、歯だ、の、このダは難しい字だ。
分解すると上に乃、下に木、が使ってある。
旧かなを残したままと、幸せは人偏がつく。
表記が芸術なのでこころしよう。
しだのことをはなさう。
ほかに、話すこともないから。
しなやかな手のうへに
おそる、おそる、そつと
かさねてゐる手のことを。
その手のさきについて
こまくふるへてゐる
五ほんもある、手のことを。
その五ほんともが
せせらぎのやうにふるへる
ほそぼそとしたゆびさきのことを。
擬人法で、金子光春は書き出した。
しだには、詩人のイメージに女性の手がある。
そのなかに、歩きにくい日がやってきたの、1節がある。
それでもなほ、がたぴしと
西洋がはこびつづけられ
おきどころもなくその西洋を
このくにうへにつみかさねた。
このくには幸せになるどころか
自分の不幸をさへ見失つた。
顔色ばかりみる癖がついても
このくにの人をせめてはならない。
一人の正しい判断があっても
このくにもものはおしながされて
新しい歯車にまきこまれては、
世界の砂利場にすてられるのだ。
いまやってきた時代を詩人は予感したか。
この詩は長い、まださきが見据えられている。
それを見ようとしてか、詩人は長寿にして1975年、昭和50年に80歳で逝った。