結局男は、ちいさな広告会社にころがり込んだ。
社長に、事務員ひとりの会社だった。
なりふり構っていられる状態ではない、
きょうの糧のためにもと、履歴書から大学卒と商事会社つとめをはずした。
毎日、足を棒にしてスーパー・商店をまわった。
ひとつの契約高が 数万円の仕事を取ることに、なんど頭を下げただろうか。
炎天下を、自転車で走りまわりもした。
夜になると、疲れはてて泥のように眠りこけた。
ミドリは、相変わらずやって来た。
しかし男の帰りが遅いことが多く、すれ違いの日々がつづいた。
そんなある夜、帰りが十一時を過ぎた。
鍵のかかっていないドアに驚きながらも、疲れから深く考えもせず部屋にはいった。
と、暗闇のなかにミドリがいた。
月明かりで、辛うじてミドリだとわかった。
ミドリは、男の胸にとびこむと、火がついたように泣きじゃくった。
こんな遅くまで男を待ちつづけたことはない。
ただ事ではないと感じ なんとか落ち着かせようとするが、ミドリはさらにはげしく泣いた。
男は、久しくミドリを抱いていないことを思いだした。
しかし、そのことではないようだ。
男がミドリの唇を吸うと、ミドリは激しく求めてきた。
久しぶりのミドリの感触に、男の性欲が爆発した。
「夕食後の団らんの時だったの」。
ミドリは、ポツリポツリとことの顛末を話しはじめた。
「母と妹の3人で、貴方のことを話してたの。
毎日お部屋に行って、お掃除をしたり、夕食の支度をしたりしていることを」
男はあくびをかみ殺しながら、ミドリの話が早く終わってくれることを待った。
こんな時間までなぜ待っているのか?
そのことが気になって仕方がない。
会社帰りに寄ったにはしては、服装がカジュアルすぎることが気になった。
「ふたりはわたしたちのことを応援してくれているし、武さんのことが好きだから、にこにこと聞いてくれたわ。
ここ2、3日は残業の連続やら、兄が迎えにきたりしてアパートに寄れないから、寂しいって」
いつ帰ってきたのか分からない道夫兄さんが、キッチンにはいるなりだったの。
「冗談まじりの会話だったのに、とつぜんに道夫兄さんが怒りだしたの。
7月28日 火 長編恋愛小説 ~水たま… 2026.07.28
[ブルーの住人]第五章:蒼い情愛 ~は… 2026.07.25
[淫(あふれる想い)]舟のない港(八十… 2026.07.24
PR
キーワードサーチ
カレンダー
コメント新着
フリーページ