ナグネのアジアン日記 from CHINA

ナグネのアジアン日記 from CHINA

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2006.04.15
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カテゴリ: カテゴリ未分類
~中国と北朝鮮との国境にほど近い街である琿春(フンチュン)市の市内点描~



人力三輪車。大人二人乗るとこぐのは大変そう






琿春市内の寺(名前は忘れた)に行きました。ちょうど何かの行事のある日だったようで、偉いお坊さんが来て儀式をしていました。境内はたくさんの参拝客で賑わっていましたよ。私も中国のお線香を買ってお参りしました。



境内は城壁のような壁で囲まれています 



仏様にお参りする人々



延辺大学で、ある大学院生と知り合いました。その人は朝鮮文学を専攻しているのですが、在日朝鮮人文学の作家である故イ・ヤンジ(李良枝)を修士論文のテーマに選び、それで日本からきた在日KOREANである私に情報を求めてきたというわけです。私は在日文学に関しては知識も関心もほとんどないと言ったのですが、それでもいいから、在日のアイデンティティの現状などについて教えてほしい、ということだったので会ってみました。これも何かの縁ですから。彼の名前は仮にソギル君ということにしておきましょう。生前のイ・ヤンジと交際していたことがあると告白している在日作家のヤン・ソギル(梁石日)にちなんで。

 ソギル君がなぜ朝鮮族や韓国の作家でなく在日作家のイ・ヤンジに関心を持ったかというと、ゼミの指導教官の先生の影響によるとのこと。ソギルくんの担当の指導教官が、以前日本の早稲田大学に留学した経験があり、その時にイ・ヤンジに詳しい早稲田のある教授にイ・ヤンジの作品について指導を受けたそうです。指導教官の影響でソギルくんはイ・ヤンジの小説を読み、同時に在日KOREANの存在を知りました。中国朝鮮族のように異国で少数民族として生活している在日KOREANに興味を持ち、彼らの書いた文学を通してその内面をより詳しく知りたくなったらしい。私達在日KOREANが中国朝鮮族に興味を持つ場合とちょうど正反対の関心の持ち方であり、その対称的な構図がなんともおもしろく思えます。

 彼の偉いところは日本語で書かれた在日文学を読むために、ちゃんと日本語を勉強して研究している点です。もっとも延辺の高校は外国語の授業で日本語を選択できる学校が多く、彼も高校時代に日本語を学習していたので基礎はあったそうですが。イ・ヤンジの作品は処女作の『ナビ・タリョン』と芥川賞を受賞した代表作である『由熙』を、韓国で出版された韓国語版を読んで内容を理解してから、日本語版で読んで研究しているそうです。イ・ヤンジがどういう小説を書いているのかご存知ない方も多いでしょう。私も『由熙』だけはかろうじて読みましたが、彼女の作品世界について正しく説明する自信がありません。アジアン倶楽部とリンクさせてもらっているおかだだいさんのサイト<実生工房>でおかださんが的確に論評されておられるので、そちらの方をお読みください。

実生工房




 “イ・ヤンジは私より10才年上の作家であり、一般的には在日2世の世代の作家です。『由熙』という作品は、日本社会の中で民族差別を受ける中で民族的アイデンティティを求めたいという心情と、韓国(と北朝鮮)という実在する国家に共感を感じられない現実との間で苦しむ在日の留学生を主人公にしていますね。この主人公の葛藤する姿を通して、“どこにも行き場がない、自分はどこにも所属していない”という在日KOREANが必ず一度は経験するアイデンティティ危機の問題をよく描いていると思います。実は私はこの小説が芥川賞を受賞した当時は読む気にはなれず、実際に読んだのはずっと後になってからです。内容をある程度知っていたので、読むとしんどくなるのがわかっていたから読まなかったのです。主人公の心情があまりにわかりすぎるので。在日KOREANは意外に在日文学を読みません。もちろん読む人もいますが、少なくとも私の周囲にはあまりいません。なぜなら自分自身が常日頃感じていてなかなか答えが見出せない問題を、わざわざ小説を読むことで再確認したいとは思わないからです。特に私のように娯楽として小説を読む人間は、在日文学はあまり好きではないですね。むしろ日本人の読者の方がずっと多いと思います。

 この小説が発表された1988年は韓国はソウルオリンピックの時代でしたね。私もオリンピックは見に行きましたが、当時は韓国に留学したいとは思いませんでした。その頃の韓国国民の在日に対する感情をなんとなく知っていたからです。わざわざ由熙のような経験をしたいとは思いませんでした。その頃の私は、むしろ一度、徹底的に韓国も北朝鮮も日本も、国家も民族も歴史も自分自身もみんな相対化してしまいたい。そうしなければ 在日KOREANである自分は生きていけない、イ・ヤンジのようには死にたくない(長い間私はイ・ヤンジは自殺したのだと思い込んでいました。本当は病死だったのですが)…そんな風に感じたり、考えたりしていました。民族の歴史や文化、言葉等の大切さを知るのはその後でいいと思っていました。そして、むしろ周囲の日本人に対して差別の問題やアイデンティティの問題について語ろうとしていました。その頃考えていたことは私の中にまだ残っているようです。だから今、ここ延辺にいるのかも知れませんね。

 私の考えですが、イ・ヤンジは結局、在日文学という枠の中から抜け出ることはできなかった作家だと思います。そして、彼女が死んだ後の90年代以降、作家のユウ・ミリ(柳美里)やヤン・ソギル、映画『月はどっちに出ている』の崔洋一監督らに代表される在日文化人達が、在日コミューンを超えて日本社会で一定の文化的影響力を持つようになりました。彼らの作品テーマは在日問題に限られず多様化しています。それは在日KOREANが苦しんできたアイデンティティ危機の問題が結局のところ、日本の特に都市住民が抱える様々な問題と共通する部分があるからだと思います。在日KOREANの作家は自らの出自と日本社会との関係について突き詰めて考えざるを得ないからこそ、個別のアイデンティティの問題を普遍化して描くことができ、少なくない一般日本人の読者の共感を得ることができた…私はそう考えています。

 韓国と日本の両国関係が変化し、それに伴って在日KOREANの日本社会における認知度が徐々に向上してきたことも重要な背景です。この間、日本の市民運動と共闘する経験を積んだ世代が在日社会の主流となり(少なくとも運動レベルでは)、日本社会で生きる自己の開放ということが主要なテ-マとなってきました。しかし、イ・ヤンジが提起したアイデンティティ危機の問題は決して過去のものではなく、北朝鮮問題など現実の政治状況と絡みながら未解決の課題として残っています。” 


…というような主旨のことを辞書を引きつつ、根性とテレパシ-で(笑)ソギル君に話しました。次世代の作家である『GO』の金城一紀までは面倒なので説明しませんでしたが。はてさて言いたいことがうまく伝わったかどうか?たぶんソギル君は在日文学について、理解ではなく誤解を深めたことでしょう(苦笑)。ソギル君が卒論を無事仕上げて大学院を卒業できるよう、代わりにおかださんの文章等を紹介しておきましたよ。


(あじくら/2005年7月号 中国留学リポ-ト2より) 


( *掲示板等にカキコミくださった方への返答は日記の本文内でしています )

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Last updated  2006.06.18 18:45:51


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