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梶尾真治の第2短編集を読んだ。〇ストーリー大学時代から憧れていた梨湖が赴任している辺境の探査惑星からの連絡が途絶えた。そこに赴いた〈私〉の前に,いないはずの奈瀬が梨湖と暮らしている姿が展開される。この彼らは真実なのか?本当の梨湖はどこに消えてしまったのか?-----------「デイ・トリッパー」を読んだことで,梶尾真治の作品世界を探索することを決意した。この作品は「地球はプレイン・ヨーグルト」に次ぐ第2短編集だ。第1作以上に作品の雰囲気,長さなどバラエティに富んでいる。-----------「デイ・トリッパー」では主人公たちを助ける大発明家の役柄だった機敷埜風天が2つの短編に登場するが,ただの奇人変人なのに驚いた。この時と比べると,21世紀に合わせてだいぶ清潔になったんだなあ。古さをほとんど感じさせないのは見事だ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「ローラ・スコネイルの怪物-B級怪物映画ファンたちへ-」:飛行機墜落事故でただ一人生き残った女性・ローラ。彼女を取材に行った私は,彼女が10年前〈コロラドの念力少女〉と呼ばれた人物であることを知る。その後の起き続ける墜落事故,その衝撃の真相とは?・・・サブタイトルにあるようにB級怪物映画へのオマージュのような短編だ。ありがちなスラップスティックに逃げずに,心温まる作品に仕上げているのは驚きだ。「ふうてん効果(たぶん)最後の応用例」:〈大東亜超常科学研究所〉の所長・機敷埜風天は,テレビ番組で,〈ふうてん効果〉の公開実験を試みる。それをインチキと決め付ける大学教授と観客の前で,風天老人がやり遂げたこととは?・・・これが機敷埜風天の初登場なのか?!かなり胡散臭いなあ。ちょっと時代を感じる。「静止人口六億人」:爆発的に人口が増えた日本では,静止人口法が施行され出産は許可制となった。許可を待ち続けている善輔と阿南は,同じビルの老人を殺すことでそれを実現しようとするのだが?・・・またまた登場した機敷埜風天。前の短編では科学者だったが,今回はただの迷惑老人。「プロキオン第五惑星・蜃気楼」:何十年も続く宇宙大戦の中,前線司令官のツルギは上陸休暇で立ち寄った女郎屋でミウという少女と出会う。彼女はなんとツルギの娘だと語り始める。・・・昔懐かしいスペースドラマの香りを漂わせる短編。「エミトンへ魚釣り」:老人は地球から30光年にある惑星エミトンに降り立った。彼の目的はたった1つ,地球では出来なくなってしまった魚釣りをすること・・・ショートショートのような短編で,状況はシュールなのだが,さすがは梶尾真治,独特の哀感で仕上げている。「インフェルノンのつくりかた」:製薬会社に入社した〈俺〉はトリマン星系にある工場に赴任し,万能薬〈インフェルノン〉製造勤務についた。その驚異の製造法とは?・・・筒井康隆を思わせる強烈なブラックユーモア作品だ。そんな中にもSFエッセンスがきちんと入っている。「カクテルパーティ効果」:藤井係長の悪口を言うと,彼はどこにでも現れる。・・・うーん,これはよく分からなかった。「三つの願い」:樹海で自殺をしようとしていた中島は古い壺を発見する。そこから出て来た悪魔は,中島に願いを三つ叶えてやると宣言をする・・・過去の〈3つの願い〉物語のネタバレを含むが,ヒネリがあった悪くない。「御町内の皆様!」:アナウンスをしながらリサイクル車が近づく。男は不要となった〇〇を出し,代わりにちり紙をもらう・・・ブラックなショートショートだ。回覧板風のイラストは必要だったのか?「梨湖という虚像」:宙専大学で〈私〉は友人・奈瀬からガールフレンド・梨湖を紹介される。いつも3人で過ごした学生時代の中で〈私〉はこっそりと梨湖を想っていた。卒業少し前に彼女と奈瀬は婚約をしたのだが,直後に奈瀬は事故死をしてしまう。それがきっかけで梨湖は辺境の星の単独勤務を選ぶ。〈私〉は航宙士として数年に一度,彼女が勤務する星へ補給品を運ぶのだが・・・萩尾望都のSF作品のような切ない短編だ。1979年の短編だが,現代考えられているようなVRシステムが語られていて,さすがはSF作家,先見性がある。「百光年ハネムーン」:奇跡の新エネルギー〈ヤポニウム〉を独占するコンツェルンの会長・五堂は,ビルの146階にあるオフィスからほとんど出ることはなく大企業を経営していた。コンツェルンへの批判をかわすという目的も兼ねて,玄孫が提案してきた惑星トリスタンへの宇宙旅行に出向いた五堂が体験したこととは?・・・SF版「クリスマス・キャロル」と言われていたが,実に的を得た指摘だと思う。ベタなタイトルから始まり,冷徹な展開に驚き,そしてラストに???短編集のラストを飾るにふさわしい見事な作品だ。
2018.02.17
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80年代後半に島田荘司が発表した短編集を読んだ。吉敷刑事が登場する作品があるものの,基本的にノンシリーズ作品が多い。○ストーリーガラス張りでエレベータでしか到達できない展望塔で女性が殺害された。警察の考えるとおり,展望塔の売店のアルバイトが犯人なのか?それとも驚異的なトリックがあるのか?吉敷刑事が,都会の恐怖に挑む。---------------探偵・御手洗潔が復活をとげ,ミステリーでもトリックが技巧的なものはそちらにゆずり,よりテーマが重いものはそれ以外で書く,という住み分けができていたころの作品だ。短編であることも影響して,本格ミステリー風の大がかりなトリックは登場しない。その代わり,東京という都会に住むことから起きる恐ろしさが,どの作品にも色濃く表れている。また,他の作品以上に女性が生々しく描かれていると感じた。男性は狂気に捕らわれ,女性は狂った男性に追い回される,というのが,島田荘司が抽出するところの「都会」のイメージのようだ。---------------この短編集は,「社会派」的な作品が集まっていると言われている。この場合の「社会派」は,犯人が事件に手を染めるに至るまでの生い立ちを克明に描く,という松本清張的なルポルタージュ風の作品ではない。犯罪の遠因となっている社会の問題をあぶり出してみせることから,その名で呼ばれている。短編集で扱われている社会問題は,順番に; -戦後になり拝金主義へと豹変して見せた日本人社会 -どこにいても電話に追われる現代人 -会社の地位を利用して悪事を重ねる男 -受験戦争の嘘と真実 -視聴率だけを追求するテレビ会社と企業 -障害者への差別と,ほとんどが20年たった今日でもそのまま解決されずに残っている問題ばかりだ。あまり作品として出来が良くは無いのだが,80年代以降大量に誕生した「新本格」ミステリー作家が舞台から消えようとしているのに,その始祖と言われる島田荘司が生き残っている理由の1つは,こうした骨太の「社会派」作品も並行して書き続けてきたおかげかも知れない。---------------各編について簡単に述べる。「緑色の死」:私は植物に嫌悪感を抱き,野菜が食べられない。だが,その恐怖感は,終戦の混乱期に亡くなった母と関連があったのだった。・・・トリックは反則だと思うが,なかなか考えさせる短編だった。エンディングのひねりがまた巧妙だ。「都市の声」:どこにいても私を追いかける電話の声の主は?とうとう私は声の主に,部屋まで追いつかれてしまった?・・・よく似た「殺人ダイヤルを捜せ」では,主人公にも落ち度があったが,この作品では一方的に被害にあう。トリックは,苦しいものの,超常現象に思えたものに説明がついてスッキリとする。しかし,このエンディングでいいのか?「発狂する重役」:殺したはずの女に追われた男が,その女を殺害すると,その死体は一瞬でミイラになってしまった。・・・吉敷刑事の語る都会の事件だ。怪談めいた物語が,多少苦しいとは言え,最後に合理的に説明されるのは見事だ。真面目な吉敷刑事が,こうした話を居酒屋でするとは思えないのだが???「展望塔の殺人」:展望塔で殺された女性は,売店のアルバイトに刺されたのか?それとも?・・・これも吉敷刑事が登場する。御手洗潔作品に展開するかと思わせて,まったく逆の方向へと進む。「Yの構図」のあるシーンに似ている雰囲気だ。でも悪魔的にアタマの切れる犯罪者が,最後にこんな行動を取るとは思えない。「死聴率」:局の運命をかけたドラマの視聴率が低迷する中,製作者たちが主演俳優にしかけたワナとは?・・・ほとんど実名で俳優とドラマ名が出てくるのだが,問題は無かったのだろうか?ちょっと信じてしまった。「D坂の密室殺人」:身なりの良い男が密室で扼殺されていた。果たして犯人は,近くに住む知能障害の女性なのか?・・・江戸川乱歩風の作品だが,美しさはカケラもなく,重苦しい読後感が残る。
2008.09.18
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イロイロあるけど,やはり強烈な印象を残した「殺人鬼」の続編だ。○ストーリー双葉山の化物が山を下りてきた。殺しそびれた犠牲者が入院している病院にゆっくりと迫る殺人鬼。偶然それを察知した小学校の少年マミヤは,なんとか周りの人々に伝えようとするが,誰も信じてくれない。姉を守るため,マミヤは化物を倒すことを決意する。その手段とは・・・------------------------スプラッターホラーとミステリーを融合させる,という試みが行われている「殺人鬼」の第2弾だ。いきなり冒頭で,親子3人が虐殺されるあたりは,前作同様のイキオイだけど,それ以降は少し趣向が異なるような気がする。キャンプ場のおバカな人たちが,おバカな行動を取って次々に殺人鬼の手にかかる,といういかにもいかにもの前作とは異なり,主人公のマミヤ少年が殺人鬼の動きを予測して,対処するのだ。前作の主人公たちが,IQ80くらいだとしたら,今回の主人公はIQ100くらい,と言えば分かるだろうか?少なくとも,「アンタ,なんでここでワザワザこーゆーあぶない行動取るのよ?」という,イライラを感じることは少なかった。もう1つは僕の気のせいかも知れないけど,殺し方が少しだけマイルドになったような気がする。冒頭の3人は,ともかく,残りの人々は,意外とサクサク(?)殺されている。前作のいちいち,人間の尊厳を奪って,汚辱にまみれさせる,というパターンは少なくなっていた。------------------------綾辻行人だし,前作同様にミステリーの仕掛けはある。が,それが出た瞬間に思いっ切り怪しいので,ほとんどの読者が,「さては?」と思ってしまうに違いない。ミステリーの仕掛けはいらないような気もするが,一方でこの展開のおかげで,クライマックスがむかえられる,ということになっている。スプラッター作品の続編としては,正統的とも言える,戦う主人公たちの登場で,前作と比べエンターテインメント作品として成立しているように思った。殺人鬼の正体も動機も,なんであんだけされて死なないのかも不明だが・・・スプラッター作品の化物だからしょうがないんだろう。------------------------前作と比べてほとんど抵抗なく読め進めることができた。これは慣れなんだろうか?それとも個人的に,気分がすさんでいるためなんだろうか?
2006.10.06
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逢坂剛のサイコサスペンス中編集を読んだ。○ストーリー精神科医・坪田の患者は,スーツに身を包んだ美しい女性だった。だが彼女は目を水泳用のゴーグルで覆い,あらゆる光を嫌っていた。坪田は彼女を治療する過程で,徐々に彼女に惹かれていくが,彼女の過去には深い秘密が潜んでいた。-----------サイコサスペンスの中編が3編収録されていて,ひじょうにまとまりがある。その分,展開が読めてしまう部分もあるが,絶妙な長さで飽きさせない。これが短編では物足りないだろうし,長編では中だるみをするだろう。そうした中編をうまく一冊の作品に仕上げている。なにしろバランスが良い。-----------逢坂剛は不思議な作家で,和製のハードボイルド作品,スペインを舞台にした冒険小説は有名だが,一方で脳生理学や精神分析をテーマにしたサスペンスミステリーも数多く手掛けている。この作品はそうした傾向の中編を集めているので,メジャーな逢坂剛を期待した人にはガッカリされる可能性がある。けれどもなかなか佳作が集まっていると思う。また〈岡坂神策シリーズ〉同様に,微妙に歴史の流れを感じさせてくれる。-----------各編について簡単に述べる。「水中眼鏡の女」:門倉千春は,異様に嫉妬深い夫に悩まされ,逆に彼の身辺調査を行う。だがその調査がきっかけで,千春にはとんでもない悲劇が訪れる。・・・さすがは表題作だけあって読み応えがある。謎を解決しても次の謎があり,どんどん引き込まれる。終わったと思ったら,最後に○○○○○○があり,驚き,また読み返してしまう,と言う風に何度も楽しめる。「ペンテジレアの叫び」:大富豪の邸宅で働き始めた美那子は,精神障害で歩行能力と言葉を失ってしまった夫人の面倒を見る。だが,その家には恐ろしい秘密があったのだった。・・・これも時代がかっていて,少しホラーテイストで面白い。ラストの緊迫感も秀逸。逢坂剛のサイコミステリーには,一定の法則で題名が付けられていて,「クリヴィツキー症候群」,「カプグラの悪夢」,「デズデモーナの不貞」という作品がある。その法則で言えば,この中編が表題作になってもおかしくなかったんだなあ。「悪魔の耳」:かつての連続強盗殺人犯の片割れが精神鑑定で無罪となり,5年ぶりに退院した。彼を逮捕する過程で,相棒である弟を射殺した刑事たちの周辺に,謎の男が現れる。・・・3つ続くとさすがに先が読めてしまうが,それをさらに裏切ってみせようとするサービス精神には脱帽する。でも後味があまり良くない。
2011.03.07
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東野圭吾のユーモア短編集を読んだ○ストーリー〈私〉からすべてを奪った矢口育美。彼女を殺害するために,〈私〉は『殺意取扱説明書』を手にする。『取扱説明書』に従い,着々と準備を進める〈私〉が到達したのは?-----------東野圭吾のユーモア短編集〈○笑小説シリーズ〉の3作目だ。これまで「怪笑小説」「黒笑小説」を読んできて,ちっとも評価をしていなかったのだが,なぜか今回は違った。面白い,そしてアイディアに満ちている。サスペンス長編に使えるのじゃないの?という題材を惜しげもなくユーモア短編に使用している。この作品が刊行されたのは1996年だが,書評で「東野圭吾が変わったのは1990年代後半」ということを読んだことがあり,その影響がここにも出ているのではないか?と思ってしまった。-----------具体的なことを1つ述べると,短編の内容,あるいは主人公の行動がこれまでよりぶっ飛んでいて,極端な方向に振り切れている。これによりブラックやシュールな味わいがきちんと出ていて,小説として破壊力が増している。作家としての自信の表れなのだろうか?一皮むけた,という印象だ。-----------各編について簡単に感想を述べる。「誘拐天国」:福富財閥の福富豊作は,勉強・塾・習い事と超多忙な孫・健太と触れ合う時間を持つために,健太を誘拐し,極秘で建造した遊園地で遊ばせようとする。さらに寂しがる健太のために,クラス全員を誘拐し,同じ場所に連れて来る。福富と仲間たちは警察を翻弄し続けるのだが,子供たちは?・・・展開はワリと読めてしまうが,大人側の行動が極端で楽しめる。「エンジェル」:南太平洋で新しい水棲生物が発見され,それはその姿から〈エンジェル〉と呼ばれた。可愛らしい容姿で大人気となった〈エンジェル〉だが,プラスチックおよびオイルを食べて,爆発的に増殖し始めた。野生化し陸生化した〈エンジェル〉は都市にまで生息域を増やし・・・〈エンジェル〉のイメージは,ウーパールーパーやクリオネだろうか?全体の流れは文明批判SFっぽく平凡なのだが,途中でこの生物を食べてしまう,という場面があり,これがブラック。「手作りマダム」:夫の会社の付近のニュータウンで一戸建てを手に入れた安西家だったが,毎月招待される会社重役の富岡氏の夫人主催のティーパーティーには閉口していた。富岡夫人は料理,手芸品など様々なものを手作りし,参加者に食べさせ,また手土産として持たせるのだが,そのすべてに致命的な欠陥があるのだった。さらに・・・うーん,なんだかリアルだなあ。富岡夫人なかなか破壊力がある。「マニュアル警察」:〈俺〉はカッとなって妻を殺してしまった。しばらくして冷静になり最寄りの警察署に行った〈俺〉は,自首をしに来たことを述べる。だが,そこでは意外なことに?・・・なかなかブラックだが,立派に社会批判作品となっている。「ホームアローンじいさん」:祖父の伸太郎は,息子夫婦と孫が景品で当たったフランス料理を食べに出かけることを知り,うきうきする。彼は孫が隠し持っている〇〇ビデオを以前から観たいと思っていたのだった。ビデオを探し出し,デッキに入れるまで,伸太郎はあちこちを荒らしてしまうのだが,そこに泥棒が押し入り・・・ワンアイディアの作品だ。「花婿人形」:御茶之小路家の一子・茂秋が結婚を迎える。だが彼は母親・要子の言いなりの人間だった。そして忙しい母と会話が出来ず・・・うーん,これはパスだ。「女流作家」:女流ベストセラー作家・宮岸玲子は妊娠を理由に,ミステリーの連載小説の休載を申し入れてきた。半年後,宮岸は執筆を再開し,連載もきちんと書き続け,以前通りの人気を博す。だが不審なのは,彼女が人前に出なくなったことだった。担当編集の〈俺〉は,彼女の庭に忍び込み,そこで見たものとは?・・・平凡な滑り出しから意外な展開となり,徐々に怖くなる。素晴らしい。「殺意取扱説明書」:〈私〉は神田の古書店で『殺意取扱説明書』という不思議な本を手に取り夢中になる。実は〈私〉からすべてを奪った女がいて,〈私〉は彼女を殺したいほど憎んでいたのだ。〈私〉は『取扱説明書』に従って,彼女を殺害しようとするのだが?・・・これは「殺人の門」の女性版なのだろうか?コミカルなのだが結構説得力があり,少し表現を変えればそのままサスペンスになりそうだ。上手い!「つぐない」:ピアノ講師・藤井美穂に栗林家でもピアノを教えてもらいたいという依頼が来る。そこを訪れた美穂は,生徒がそこの1人娘ではなく,これまで全くピアノの経験のない50才の父親であることを知り驚く。不器用な栗林がどうしてもピアノを聞かせたかった相手とは?・・・「秘密」「変身」「分身」などのタイプの東野圭吾らしい作品だ。見えてくる光景は少しコミカルで,短編にしたのは正解だと思うが,なかなか引き込まれた。「栄光の証言」:正木は職場からの帰宅途中に,路地で争っている2人の男を見かける。だが翌日,その一方がそこで刺殺死体で発見された。正木の証言からある男が逮捕されるのだが,そこには大きな錯誤があったのだった。・・・本格ミステリーっぽい流れがあり,あまり笑えないのだが,最後の1行で救われた。「本格推理関連グッズ鑑定ショー」:山田鉄吉は息子に1メートルほどの木の棒を2本遺す。彼の遺言に従い,鑑定番組に棒を出品した息子が聞かされた評価額とは?だがそこには更なる秘密が?・・・「名探偵の掟」の天下一大五郎シリーズのスピンオフだ。しかも意外な形での続編というサービスっぷり。こんなところに収録でいいのだろうか?「誘拐電話網」:〈俺〉にかかってきた電話は,子どもを誘拐したというものだったが,〈俺〉には家族がいなかった。だが電話の主はしつこく〈俺〉に対してその子どもの命の責任を取れと迫ってくる。窮した〈俺〉が思いついたアイディアとは?・・・間違いなく長編ミステリーに出来るアイディアだ。全体に流れるブラックな空気が良い。
2018.01.13
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若竹七海の推理作家協会作品賞を受賞した作品が含まれる短編集を読んだ。○ストーリー弁護士が〈私〉に見せたのは,彼が担当している死刑囚への恋心をつづった女性からの手紙だった。いたずらなのか?嫌がらせなのか?それとも?念のため,〈私〉がこの手紙の差出人について調査することになった。その結果,新たな事件が発覚するのだが?------------女性向けのライトなユーモアミステリーと思わせて,実は日常の裏に潜む人間のダークな部分を描いて見せるのが若竹七海の持ち味だ。古い作品を1つと,新作のいくつかを読むことが出来ていないが,図書館のおかげでほとんど読破は出来ている。〈イヤミス〉の女流作家たちほど話題にはならないが,ミステリーとしての骨子の部分がしっかりしているのと,最終的には人間を見捨てていない,というようなスタンスがあるので,僕は好きな作家だ。------------しかし最近は執筆が少ない。作者本人が「怠け者」というほどで,2010年代に入って数冊しか新刊本が出ていない。やはり寂しいので,もっと頑張ってもらえたら嬉しい。------------各編について簡単に感想を述べる。「蠅男」:廃屋となった実家から母親の骨壺を回収してもらいたい,という依頼に応じ女探偵・葉村晶は,〈蠅男〉に襲われて地下室に閉じ込められる。〈蠅男〉の正体,そして事件の裏にある真相とは?・・・経験を積んで,危険な依頼は回避しようとしているらしい葉村晶だが,例によって見事にトラブルにはまる。そうした構図だけでなく,依頼された場所に向うに連れて,オカルティックな事象が話題になっているという流れが,否応なく物語を盛り上げる。〈蠅男〉の一義的な正体は予想通りだが,その先の展開も控えている。それにしても,”痛い女性”が,身も蓋もなく辛辣に描かれている。さすが女性作家だ。「暗い越流」:無関係の人々を複数惨殺したことで死刑囚となった人物宛てに届いたファンレター。訝しがった弁護士は〈私〉にその背景を調べるように依頼する。この調査をきっかけにあるものが発見された。だがその裏に隠れていた事情とは?・・・この作品で一番短い短編でありながら,日本推理作家協会賞を受賞した短編だ。前の短編からの流れもあり,すっと仕事が依頼されるので,これは〈葉村晶シリーズ〉なのかと思って読み進むと,どうやら違うらしいことが徐々に分かる。表題作であり,受賞作品でありながら,一番短い短編だ。けれどもその中に2つの事件が描かれ,若竹七海らしい苦い味わいの仕上りとなっている。「幸せの家」:行方不明になった美浦編集長が最後に連絡を取っていた人物の中から,彼女を殺害した犯人が突き止められる?ナチュラルな生活をテーマにした雑誌の読者を取材することで見えてきたこととは?そして編集長の行方は?・・・隔靴掻痒を地で行く短編なので,ある意味手強い。直前の短編にも登場していた南治彦という編集者が再登場だ。とすると語り手の〈私〉も同じ人物で,新しいシリーズなのだろうか?「狂酔」:語り手は男で,どこかに施設に立て籠もり,人質に向かって演説をしているらしい。彼の話から徐々に浮かび上がってきた暗い過去とは?・・・短編としては読みごたえがあるのだが,貧困,虐待と暗い内容が多い。これは若竹七海というよりは,〈イヤミス〉系だなあ。がっかり。「道楽者の金庫」:ミステリー専門の書店で働いていた葉村晶は,東北の別荘にあるミステリーコレクションの遺品回収を依頼される。さらにそこには金庫を開けるための鍵となっている〈こけし〉があるというのだった。別荘で依頼の仕事を進めていた葉村は,倒れてきた棚の下敷きとなり意識を失う。この依頼と事故の裏には?・・・〈こけし〉に関するウンチクが語られたり,イラストがあったり,そして金庫を開けるための暗号を解かなければいけなかったり,と,〈葉村晶シリーズ〉に伝統的なミステリーをミックスした不思議な味わいの短編となっている。最初の短編に構成が似過ぎているのは,やはり気になるところだけれど。
2016.01.29
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姉がイチオシの児童文学作家・高楼方子のデビュー作を読んだ。〇ストーリー金色の鍵を拾おうとして,人形のココは動けるようになり,子供部屋から町に出て,外の世界へと歩みだす。川辺でボートに乗ろうと思ったココは,ネズミのヤスに騙され,猫のカーポに売られてしまう。そうとは知らず,ヤスが迎えが来ることを待っていたココは,画学生のネズミ・モロと知り合い,ヤスの正体を知る。またカーポが贋作を作り,美術館の絵画とすり替えていたことを知り,ココはモロたちとそれを阻止しようとする。悪党の猫とココたちは絵画を前に大衝突となり,そして???-----------人形とネズミの物語,古典的な少女マンガのような表紙,そして驚きの分厚さに尻込みして,なかなか手を出していなかった。「時計坂の家」「十一月の扉」から読み始め,今では絵本までも手に取るようになっていた。今般,「ココの詩」と上記の2作が福音館から再出版されることを知り,ほんの少しだけ小ぶりになっていたので読むことにした。-----------物語は低学年向けの作品のように,人形・ネズミ・猫を主人公に始まる。人形は動けるようになるし,ネズミと猫は人間と同じように読み書きや経済活動をしている。安心して,読み進んでいたら,ココは悪いネズミのヤスに一度騙されたのに,どうしようもなく惹かれ,二度三度と同じことを繰り返す。この辺りはさすが高楼方子だ。児童文学作品なのに,容赦なくリアルな人間心理が登場する。頭では分かっているのに,心では別の行動を取ってしまう,格好良いやさ男についほだされてしまう,って,大人の女性の世界だよ。でも児童文学だから,と枠組みを作ってしまわずに,こうした心の動きを導入することもこれからは必要だろう。-----------〈第一部〉で,人形のココは人間の女の子になり,〈第二部〉では少女になる。ココにも仲間は出来て,ネズミたちの冒険はクライマックスを迎える。ここで〈第三部〉と〈第四部〉が登場し,事前情報がなかった僕は心底驚いた。〈第三部〉は文字の色も変わり,一大叙事詩が展開される,そしてとてつもなくアンハッピーな〈第四部〉で物語は終わる。〈第二部〉までは,多少変則的な部分はあっても,児童文学作品としてのセオリーに則って進んでいたが,〈第三部〉の異次元っぷり,そして〈第四部〉の”きちんと元に戻らない”展開は,もうブンガク作品とも言える。-----------〈第三部〉はただただ驚きなのだが,”元に戻らない”〈第四部〉が実に切ない。内容をあまりネタバレしないように伝えるのが難しいが,後ろから思いっ切り押されたような,夜中に無理やり起こされたような,それぐらい急展開で別方向に行く衝撃があった。そして大事なのは,それが何やらヒリヒリと心に痛みを伴うということだ。大人の僕がひどく驚いたのだから,少年少女へのインパクトを考えると恐ろしいとさえ言える。本当によくもまあこのまま出版したものだ。ある意味慧眼だけどね。-----------20年間経っての原点回帰,おめでとうございます。でもこの作品は,なかなかの決心が必要なので,あまり多く人にはオススメできない。
2017.08.03
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短編ファンタジーの名手・エリナー・ファージョンの有名な短編集を読んだ。〇ストーリー若いロタは仕立屋として抜群の腕を持っていたが,元請けの仕立屋にいいように使われていた。隣国を治めている甥に伴侶がいないことを心配した女王は,王国中の若い女性を呼んで舞踏会を開催する。会場に毎日ドレスを届けるロタが会ったのは?ーーーーーーーーーー本来の「ムギと王さま」は20編ほどの短編が収録されていたが,岩波少年文庫に収録する際に,半分だけが選ばれたという昔の大人の都合がある。けれども現代の岩波少年文庫では,まったく同じ「ムギと王さま」というタイトル,同じ装幀イラストで,本来の20編を「ムギの王さま」と「天国を出ていく」に分けて収録している。知っている人は知っているのだろうけれど,検索しても作者も書名も同じなので,細かく出版年数を確認しない限り,どちらがどちらか分からない。古い版で10編ほどの「ムギと王さま」を読んだ僕は,きちんと20編を読み終えるには,またもう2冊を借りないといけないようだ。混乱する。ーーーーーーーーーーエリナー,というかエレノア・ファージョンの作品の魅力は,昔話と現代のファンタジーの間で絶妙に良いとこ取りをしているバランスだと思う。昔話のような単純さと怖いほどの割り切り方を持ちつつ,現代の我々が読んでも納得の行く人々の行動や運命流転が描かれている。単純さと奥行きの深さを併せ持っていて,子供は子供,大人は大人で楽しめる。多くの児童文学は再読なのだけれど,この作品は初見だ。これまでこれを知らなかったのは人生損をしていたんだなあ。ーーーーーーーーーー各編について簡単に感想を述べる。「ムギと王さま」:村の神童だったウィリーは,過去のエジプト王・ラーの持つ金銀よりも,自分の父親が育てたムギの方が貴重な宝だと主張する。エジプト王はムギ畑を焼いてしまうが,残ったのはムギは何千年も残り,ウィリーの父親の畑に実りをもたらす。・・・過去に飛んだと思っていたら最後に戻ってきてすとんと終わる。見事な短編だ。「月がほしいと王女様がないた」:月がほしいと思った王女は,屋根のてっぺんに上り行方不明となる。王国の探偵たちは王女を探し,昼の生き物は昼に反乱を,夜の生き物は夜に反乱を企てる。そして・・・繰り返しも多くてマザーグースのようだ。とてつもなく大きな物語となりかけるのだが?「ヤング・ケート」:ドウさんの女中ケートは,なかなか外出できない。でも機会をみつけて・・・これもマザーグース,あるいは教育的な逸話のようだ。裏の意味がありそう。「金魚」:誰よりもエライと思っている金魚は,海の王・ネプチューンに呆れられて金魚鉢に入れられる。・・・これも短くて切れ味が良い。「レモン色の子犬」:木こりのジョーは,父親の死後に木こり小屋を追い出されてしまう。いじめられている子犬と凍えている子猫を救い,父親と同じような木こりの元でジョーは暮らし始める。その頃,王国の王女がなくしたものを探しており・・・繰り返しが多くて昔話のようだが,ラストの部分などいろいろ考えさせられてしまう。「モモの木をたすけた女の子」:シシリー島の農村の近くで火山が噴火し,村まで溶岩が迫る。村を救ったのは?・・・予定調和の物語だが,味わいがある。「小さな仕立屋さん」:若いロタは仕立屋として抜群の腕を持っていたが,元請けの仕立屋にいいように使われていた。隣国を治めている甥に伴侶がいないことを心配した女王は,王国中の若い女性を呼んで舞踏会を開催する。会場に毎日ドレスを届けるロタが会ったのは?・・・〇〇と思わせて実は?という結末が良い。とても好きな短編だ。「天国を出ていく」:天国を出て行った2人の兄を探す弟は,パリに行き人間たちに温かく接してもらう。だがそれよりも大事なことは?・・・フランスの遊び歌に触発されて書かれている短編だ。かなりシュールな展開なのに,そこはかとなく侘しい味がある。「ティム一家」:ある村にはティム一家が住んでいて,皆は困ったことがあると彼らに相談していた。だがそれは・・・さくっと終わる短編。なるほどね。「十円ぶん」:5才のジョニーは学校の帰りに10円玉を拾う。駅でお菓子を買おうと思ったジョニーは,間違って券売機で切符を買ってしまう。そこで彼が冒険したのは?・・・シュールな部分もあるのだけれど,10円あれば少年はどれだけ楽しめるか,というシミュレーションでもある。通貨を円にしたのは正しいけれど,さすがに今では100円くらいにしないといけないだろうな。一番の傑作だと思う。「《ねんねこはおどる》」:110才のひいおばあちゃんと暮らすグリゼルダは10才だが,2人はとても仲良くしていた。だがグリゼルダが倒れて入院をしていた間に,ひいおばあちゃんは養老院に入れられてしまった。グリゼルダの起死回生の手段は?・・・可愛らしいおばあちゃんと,頑張るグリゼルダの物語だ。このまま終わってしまうのかと思ったら,あることが起きる。でもよく分からない。よく分からないけれど,面白い。
2018.07.17
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2月も下旬に入り,明らかに寒さが和らいできた。金曜日で給料日後で温かい。しかも退社してすぐなら,まだかすかに陽が残っている。そんな追い風にすっかりと身を任せて,街へ繰り出した。でも街中に到着してすぐは,1時間近くマンガ喫茶で時間をつぶした。仕事が終わらない友人を待つためだ。当然ながらソフトドリンクのサーバーはあるが,ここはじっと我慢。何も飲まずに呼び出しを待つ。落ち合って向かったのは,「さ○ら水産」。サラリーマンの味方系の居酒屋で,一番安いメニューが50円からだ。生ビール→瓶ビール→ホッピーと,ビンボーっぽいドリンクのコンボを決めつつ(?),そのまま飲み続けること4時間。「おー,安く上がったぞ」と,帰ればいいのに,「社会見学だ」と,日頃行かない系の飲み屋へ。結局,大きいお札が消え,さらにタクシー帰り。春だなあ(苦笑)。
2011.02.26
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冲方丁(うぶかた とう)の大ヒットシリーズの第2部を読んだ。○ストーリー大企業の裏取引のために犯人と仕立てられ殺されそうになった少女バロットは,ドクターとウフコックという2人組に救われる。危険な証人となったバロットを,企業に雇われた殺し屋はどこまでも追ってくる。だがバロットたちも,決定的な証拠をつかむために,反撃に出る。その場所はカジノだった。-------------「ばいばい、アース」の下巻を読み終えるまで手を付けないつもりだったが,ガマンできずに先に読んでしまった。なにしろ主人公バロットに,殺し屋ボイルドが銃を向けたところで,第1部が終わっているのだから,気になってしょうがない。第2部はそのシーンから始まり,バロットたちの逃避行,ボイルドの追撃が描かれる。その後,証拠を手に入れるために,バロットたちはカジノに向かう。なんと第2部の後半は,カジノでのゲームが語られる。カジノでは,スロット,ポーカー,ルーレットが順番に丁寧に語られ,これからブラックジャックに挑戦する,というシーンで第2部が終わる。-------------これには驚いた。サイバーパンクSFのカラーを持ったアクション物語が,一転してカジノゲームの物語になってしまった。ところが冲方丁の筆にかかれば,ギャンブルがひじょうに奥深く,手に汗握る駆け引きのゲームとして,生き生きと描かれる。ひょっとすると第1部の銃撃シーン以上に,エキサイトさせてくれたかも知れない。いきなりスペードやクラブなど,カードの模様が文章の中に並びだした時は,物語がどこへ行ってしまうのかと不安になった。だがそれは全くの杞憂で,こちらも,まるでカジノのテーブルに座っているような臨場感で楽しめる。ゲームのことは基本ルールしか知らない僕でも,これだけ物語に引き込まれるのは,冲方丁の文章力と,それぞれのゲームへの深い理解があるからだろう。まったく不思議な作家だ。-------------バロットたちが避難した場所は,ドクターやウフコックたちのふるさととも言える軍事技術研究所だ。ここでドクターとウフコックだけでなく,追っ手のボイルドの過去が明らかになる。彼らの過去を知り,自分と同じような特殊能力者を知り,バロットはいよいよ積極的に,自分をはめた相手と対峙をすることを決意する。第1部で無気力な少女として登場したバロットだが,ドクターたちに救われて自分で生きようとし始める。第1部の終わりには感情に負け,一時的に暴走してしまったが,第2部の半ばでようやく強い意志を見せ始める。こうしたていねいな心の動きの描写も,この作家が生半可な器ではないことを示しているのだろう。-------------ストレートなノンストップ物語だと思っていたが,意外な変化球で攻めてきた。第3部がどのように決まるのか,とても楽しみだ。
2010.03.18
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スペインを舞台にした逢坂剛の冒険小説を読んだ。○ストーリー通信社の記者・龍門は,内戦時代のスペインで,フランコ側で戦った日本人義勇兵サトウタロウがいたことを知り,その調査に赴く。だがその調査は,内戦時代に失われた金塊の行方と,複数の人物の隠された過去をも探ることとなり,龍門は命を狙われるようになる。さらに彼は,自分の血筋の秘密までも知ることになるが・・・------------日本のサラリーマンが調査のためにスペインへと飛び,過去の秘密を暴いてしまい,事件に巻き込まれる,という物語だ。正直,20年以上前に読んだ逢坂剛の出世作「カディスの赤い星」を思い出してしまった。スペイン,歴史上の謎,ギター,カンテ(民謡),情熱,特殊警察,大人の恋・・・と,まさに逢坂テイストが全面に出された作品で,「カディス」に似ていることよりも,「これが読みたかったんだ」という気持ちの方を感じた。作品は1991年に朝日新聞に連載されたらしいので,〈現代〉である90年代を舞台に進むが,時々〈内戦時代〉である1936年も語られる。当時スペインを訪問していたヘミングウェイやエロール・フリンもカメオ的に登場し,作品に歴史の厚みを加えている。------------とは言え,よく考えてみれば一般紙での連載を考慮して,「カディス」での〈ギターの謎〉に代えて,「斜影」では〈日本人義勇兵の謎〉と,これでも逢坂テイストを抑えているのではないだろうか?そう思うと,マドリード,サラマンカ,トレドなどを巡り,取材調査の一環と称して,有名なレストランで食事をするシーンが多いのも,一般紙の読者向けサービスなのかも知れない。作品の冒頭に,マドリードとサラマンカの市外地図が掲載されている。個人的には地図は大好きなのでうれしいのだが,リアリティを出す以外には,あまり作品の内容には関係が無かった。とくにサラマンカの地図は不要で,それよりもスペイン全土図を拡大してくれた方が良かったように思う。------------〈現代〉と〈内戦時代〉の謎が,どんどんと解き明かされるが,最後にはキチンとサプライズが待っている。主人公の恋愛も決して全て順調ではないあたりも含め,逢坂剛の職業作家としての上手さが光っている。「カディスの赤い星」の時とワンパターンと批判するのは簡単だけど,マクリーン,ヒギンズなどの有名冒険小説作家も,それぞれウリとするパターンがあった。これは逢坂テイストとして味わうべきだろう。------------現代調査研究所のあの人が,国際電話の相手として一瞬だけ登場する。だから一応シリーズ作品。
2011.01.14
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現役SF作家の中ではベテランと言われている梶尾真治のデビュー短編集を読んだ。〇ストーリー初めて地球に訪れたETの会話の方法は,味覚を通じてだった。徐々に言語パーツを増やし,有意義な対話を始めた2つの種族だったが,そこに・・・----------最新作「デイ・トリッパー」を読んだが,イージーな展開に落胆した。それなのに,梶尾真治読んでみるかと決心して,デビュー作を手に取った。なんだろう?東野圭吾ばかり読んでいて,生真面目な作品に食傷気味なんだと思う。どこまで続けるかは分からないけれども,確かに”センス・オブ・ワンダー”成分は確かに補充できた。----------各編について簡単に感想を述べる。「フランケンシュタインの方程式」:金星に向かう宇宙船には2人の乗員がいた。だが手違いで酸素が不足していることが分かり,乗員たちは究極の選択を迫られる。・・・「冷たい方程式」の別バージョンというか別パターンで,SFファンとしてはひたすらうれしい。結末はちょっと弱いと思うが,それまでのスラップスティックがあり,十分楽しめる。「美亜へ贈る真珠」:1人の人間の時間経過を遅くすることで,その個人を未来に送るという時間旅行計画。その設備を管理する〈私〉は,時間旅行者に強い感情を抱く女性を発見する。それから何年も経過し・・・前作と異なりリリカルな短編となっている。不自然な公共施設だが,まあ雰囲気は伝わる。「清太郎出初式」:1900年にロンドンを襲った宇宙からの侵略者は,同時期の熊本にも来襲していた。そこで営まれた人々の物語とは?・・・パロディあるいはパスティーシュとしてスタートしているのに,その規模を上回る情念を込めた物語が展開される。この驚異的なイマジネーションと感性の重ね合わせには脱帽だ。「時空連続下半身」:〈私〉の友人・岡の下半身が時間軸をずれて脱走してしまった。・・・〈鼻〉と同様のシュールな物語に,SF的で理性的な解釈を加えている。「詩帆が去る夏」:恋人・詩帆を失った私は,彼女のクローンを生成し,娘として育てる。・・・うーん,これは想像するとかなりキモイ。実際に息子・娘というものはクローンではなくても,親の期待や希望が上乗せされる存在なので,それに恋心まで乗せるのはアウトだろう。「さびしい奇術師」:驚異的な超能力を持っているのに,売れない奇術師に扮している男の理由とは?・・・あっ,そう,で終わらせたいくらい,内容がない。「地球はプレイン・ヨーグルト」:地球に来訪した異星人と対話をするのは味覚を通じてだった。そのために味覚の巨人を準備し,あらゆる味を提供できるシェフを並べた地球政府だったが?・・・さすがは表題作品,コメディからグダグダに流れると思わせて,やはりしんみりと考察させる。高い評価もむべなるかな!映画『メッセージ』のオリジンがこれだったのでは?とさえ想像させられる。これくらいファーストコミュニケーションって意表をついていても良い。オススメだ。
2018.02.06
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久々に道尾秀介の作品を読んだ。「光媒の花」とゆるやかにシリーズを形成するらしい。○ストーリー小学2年生の章也は,姉と一緒に,自分が生まれる前に両親が暮らしていていた家を訪ねる。そこには妻に先立たれ,息子は独立し,1人暮らしとなった老人・瀬下が住んでいた。章也はこの家であることを突き止めようとしていた。そして章也と翔子が抱えていた秘密とは?------------6つの短編で構成された連作作品だ。それぞれの短編で語り手が抱えている悩みがあり,それがあるきっかけで解かれるという展開を基本として進む日常ミステリだ。けれども3つ目の短編くらいから,露骨な違和感がゴロリと示されていて,それがまた別のミステリ要素として読者を引っ張る。その謎解きは,「光媒の花」から続く異界からのメッセンジャーとしての白い蝶,そして第六章で語られる物語で解かれることとなる。------------いろいろな作家の作品を読む僕だが,道尾秀介の文章には毎回感心する。自然な会話文,ごく普通の地方都市の情景の描写や,老若男女の心情の描写の的確さ,読者の想像を掻き立てるために一歩手前で筆を止める巧みさ,どれを取っても高いレベルで,最近は本当に全方位にスキが無いという印象だ。この作品では,似たような短編が続くので,どうしても終盤にかけて「またかよ・・・」みたいな中だるみが来てしまう。それも第六章で語られる別展開に向けての伏線となっているので,ゆるせてしまう,というのが,これまたこの作者の恐ろしさだ。もっとも,道尾秀介ならば,もっと面白く緊迫感のある作品があるので,この繰り返しの多い作品は,個人的にはオススメ出来ない。------------各編について,ネタバレの無い範囲で簡単に感想を述べる。第一章「やさしい風の道」:自分の家族がかつて住んでいた家を突き止めた章也は,姉とともにある目的を持ってその家を訪ねる。そこで出会った老人から,聞かされた話とは?・・・バスの乗客,姉弟の微妙な交流,家庭菜園の作物,どの描写も巧い。意外な結末も含め,楽しめる短編だ。第二章「消えない花の声」:栄恵は息子とともに,かつて暮らした海辺の街に一泊をする。そこで彼女は否応無く夫が死んだ事故を思い出すが,意外な事実を知る。・・・この章では一気に老境に達した主人公となり,それに合わせた作風となっているのが見事だ。花の描写も見事。第三章「たゆたう海の月」:瀬下夫婦は1人息子が転落死をしたという報せを聞き,その町へと急ぐ。果たして息子は何かを悩んでいたのか?不思議な蝶の葉書に誘われ,2人がたどり着いた結論とは?・・・この章は重いし,主人公が老人なのでひじょうに陰鬱だ。前の章の内容と合わせると,いろいろと考えてしまう。第四章「つめたい夏の針」:翔子は友人・真恵美の弟・直哉と隠れて仲良くなったために,彼女と気まずくなる。そんな中,2人は夏のオリオン座を見に出掛けるが・・・主人公が若い人だと,感情の振幅があるものの,全体的に透明で明るい物語になる。第五章「かけそき星の影」:妊娠中の葎(りつ)は,母の見舞いの帰りに出会った姉弟と,プラネタリウムに行く。姉弟はある秘密を抱えていて・・・ここまで来ると,「ほう,そう来ましたか?」という気持ちになる。で,どうなの?とも思うけど。第六章「鏡の花」:幼い頃の事故で顔に怪我をしてしまった美代の家は,民宿を経営している。そこに2つのグループが泊まりに来た。その夜,美代は蝶に誘われて,ある所を目指して行ってしまう。美代の家族と,宿泊客たちは,彼女を捜して不思議な体験をする。・・・ここに来て新キャラですか?!と思ったら,やはり原因は旧キャラにある?後半はいろいろ気になって,1つ1つの短編に集中や感動出来ないのが,この作品の欠点だと思う。
2014.03.25
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東野圭吾の大長編「幻夜」を読み終えた。今回,この作品と「白夜行」の比較をしたいと思う。僕にしてはネタバレをしているので,両方の作品を未読の方はパスをお願いする。----------この作品と比較されることの多い「白夜行」は3年前に読んだ。その頃は東野圭吾を系統的に読むつもりは無かったのだが,中山七里の「嗤う淑女」を読んだことで,似たような悪女のピカレスクロマンがあることを聞き付け,この作品にも手を出した。東野圭吾を読み進めている現在としては,「こんな逆の理由で大傑作を手に取り,東野圭吾ファン,ごめんなさい」という気分だ。----------「白夜行」を読んだ際に,「幻夜」という姉妹編があることは知った。だが,前者が文庫版で900ページ,後者も700ページと知り,”もうお腹一杯”状態だったのでパスをしてそのままとなっていた。東野圭吾を読破することと決意して,とうとう「幻夜」も読み終えた。割と事前情報を入れない主義の僕なので,これが「白夜行」の姉妹編で,同じテーマを描いたパラレルな別作品だと思ったまま読んでいた。ラストが近づくと,どうやらこの2つの作品にはリンクがあり,続編としても読むことが出来るという仕掛けが分かってくる。この是非については,東野圭吾があいまいにしているので,僕としてはそのまま読者が自分の解釈をする,ということで良いと思う。作品を読んだ限りでは,決定的なことは何も描かれていなかった。----------それより気になったのは,2つの作品の相似形と差異だ。男女が関西で出会って,東京へと移り住み,女が社会的に成功を収め成り上がる。だがその裏では,男が彼女のために障害を排除し,ライバルを傷付け,非合法な手段で彼女を支え続けていた・・・という部分は姉妹編と言われるように完全に相似形だ。----------だが「白夜行」の男女は幼馴染で,2人とも貧しく品性の低い親の家で,虐待を受けており,互いをかばい合い,助け合って生きていくという姿が,ピカレスクロマンとして成立をさせていた。それに比べて「幻夜」の男女は,阪神淡路大震災の際に出会い,身寄りを喪った2人が,ある事件から逃げるように東京へと出ていくのだが,ここにあるトリックがあったことが後々分かってきて,ひじょうにイヤな展開となる。「白夜行」の女性・西本雪穂は美しく,さらに冷静で賢い。一方の男性・桐原亮司も売春のあっせんする一方でソフト開発をするなど,なかなか多才だ。2人の関係は雪穂と亮司で五分五分ではなくても,せいぜい六分四分だろう。それが「幻夜」では,女性・新海冬美は大人しそうだがどんどん美しくなり,男たちを手玉に取る。男性・水原雅也は機械加工,金属仕上げの技術は素晴らしいが,それ以外は何もしない人物だ。2人の関係は,七分三分と大きく冬美が支配的で,それだけでなく・・・という設定だ。----------「白夜行」では2人の幼馴染が世界に対して挑んだ戦いの記録と解釈が出来る。「幻夜」ではミステリー要素はより楽しめると思うが,肝心の主人公たちの行動原理が冷え切っていて,中盤以降読んでいるのがツラくなってしまう。海外旅行から帰ってきた冬美が夫と交わす会話などは,もう正気とは思えない。中山七里の「嗤う淑女」に対しては,非現実的で上手く行き過ぎるという批判を述べたが,「白夜行」はともかく「幻夜」に関しては同じような匂いを感じてしまった。ミステリー要素以外はあらゆる部分で「白夜行」の方がレベルが上だと思う。----------さらなる続編で3部作を構成という構想もあるらしいが,またまたレベルを下げるだけならば,止めておいた方がいいと思う。
2018.02.28
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