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2016.03.31
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カテゴリ: びしびし本格推理
有栖川有栖が紹介していた山田風太郎のミステリー連作短編集を読んだ。

○ストーリー
老刑事・八坂は,新宿駅でこぎれいなカバンを持った浮浪者に注目する。だが彼はトイレの中で立派な紳士姿に着替えて帰宅するのだった。それから半年後,富士五湖周辺の別荘で若者4人が惨殺され,大金が強奪される事件が発生した。容疑者の目撃証言の中に,かつての新宿の浮浪者と姿が似た者がいた。ところが自首をしてきたのは?

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山田風太郎は,大正生まれでありながら,90年代まで一線で活躍していた。〈忍法帖〉ものなどの伝奇小説,洒脱な推理小説など,大衆小説を多く書いているが,渋い時代小説にも光るところが多い。

定期的に作品が映像化されているので,今でも人気は高い。

僕自身は10年ほど前に,山田風太郎の〈忍法帖シリーズ〉を読み漁っていた。この作者のミステリーは,短編アンソロジーで読んだのがほとんどで,2年ほど前に「明治断頭台」を読んだのが例外だ。

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今般,ミステリー作家・有栖川有栖が,この短編集を紹介していたので手に取ることにした。社会派と謎解きのバランス,哀愁を漂わせる主人公,そして主人公の決めゼリフと,期待にたがわず高いレベルだったので,改めて感心した。



山田風太郎は,終戦の時に医大生であり,まさにその時代の生き証人だ。この短編集からは戦後の暗い風景が浮かび上がっていた。消えつつある,この風景を忘れないことが,本当の歴史への直視にもつながるのではないだろうか?

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各編について簡単に感想を述べる。

「第一話 証言」:八坂刑事の故郷である山あいの村道で母娘を殺してしまう交通事故が起きた。容疑者の青年は,たまたまいた男性の証言で救われたのだが,数年後その男性は青年の運転手を勤めていた。それから数年後,八坂刑事を訪ねてきた男性が告げたこととは?!・・・ストーリーラインの2重の変化球,さらに全体を貫く情感。最初の短編からズバンとやられた印象だった。

「第二話 精神安定剤」:刑務所に勤める医師が自殺未遂を犯した。彼が八坂刑事に告白した犯罪とは?・・・医師も,彼が危害を加えようとした相手も,単純な人物造形となっておらず,リアリティがあり,刑罰とは何なのかはひじょうに考えさせる。その絶妙なバランスの描写が美しい。

「第三話 法の番人」:やくざな男が殴られて川に浮かんで死んでいた。八坂刑事は,正義感の強い若手の南部刑事と捜査に当たるが,彼は意外な場所から容疑者を見つけてきた。事件の真相と,その裏に隠れていた過去の因縁とは?・・・なんだろう,このやるせない気持ちは?3つ目の短編で,この連作短編集の歪みに直面して,寒々とした気持ちになった。
くはないので、この中では最も低い評価となった。

「第四話 必要悪」:代議士夫人は複数の女性を自宅に招いて昼食会を開催していた。停電が生じた後に,夫人が飲んだ茶には毒が盛られており,彼女は死亡した。調べてみると,招待された女性たちは,それぞれ夫人に対して恨みを抱いても不思議ではない状況にあった。そして八坂刑事が突き止めた犯人とは?・・・犠牲者が恨みを抱かせても不思議ではないのだけれど,そこから斜め上の犯人の心理はなかなか面白い。このブンガク的な犯罪を追い詰めるのが科学というのも意外性があり良い。そして何よりも東京でも米軍対策で慰安婦が職業として存在したことを,さらりとリアルに描いていることが重要だと思う。これが体験した人の説得力の強さだよな。

「第五話 無関係」:郊外の新興住宅地で,ある美容院の周辺で事故が続いた。そこに調査に行った八坂刑事は,美容院の人々が,ある別の家族に対して悪意ある噂を流し続けていた事を知る。そして彼がつきとめた真相とは?・・・前の短編と同じで,ミステリーとしての体裁は取っているものの,そこから投げかけられるテーゼはネットが普及した現代でさらに重く受け止められるものだ。先見性に驚く。

「第六話 黒幕」:娘を守ろうとして不良を刺してしまった店主がいた。彼は服役したが出所し,元通り店を続ける。不思議な事は,彼が不良たちと親交を深め,さらに彼らの犯罪を煽るようなことをしていたことだった。そこに隠れていたこととは?・・・読んでいて認識がゆがんでしまってショックになる短編だ。この短編はドラマとして映像化されているということだが,確かに不気味なインパクトがある。その事件の犯人はお前かも知れない?!!

「第七話 一枚の木の葉」:八坂刑事は,新宿駅のトイレで浮浪者が紳士に着替えて帰宅するのを目撃して不思議に思う。それから半年後,富士五湖周辺の別荘で若者4人が惨殺される事件があったが,その犯人としてあの時の浮浪者が自首をしてきた。だが犯人が本当に隠したかったこととは?・・・短編なのに3つくらいひねってある意外性とそこから浮かび上がる情念と言う意味で,個人的にはこの短編集のナンバーワンだ。かつての東京板橋は犯罪が多い土地だったのか?今でもそうだけど。



「第九話 敵討ち」:左右田の娘は,あるメーカーの新製品の機密情報を恋人に流してしまい,その結果,ライバル会社がほぼ同じ製品を先に売り出してしまった。娘は精神を病み,その後自殺をした。左右田は露骨なアクションを繰り返し,ついに関係者の運命は変わっていく。だが?・・・以前から思っていたけれど,八坂刑事ってお節介だよな。被害者はいつから扇動者や加害者になるのか?この短編もひじょうに先見性があって驚かされる。やや小粒だが。

「第十話 安楽死」:冬場にふるさとに戻った八坂刑事は,自動車事故を起こした夫婦が妻だけ凍死してしまうという事件に遭遇する。その捜査に立ち会った彼は,生き延びた夫の証言に不審な点があることに気付くが?・・・純愛なのか,嫉妬なのか,一方からの視点で構成された物語なので,どちらとも取れるようになっている。最後の短編は最初に戻って個人的な距離感で留まる世界でまとめていた。この終わり方は美しくて良いと思った。











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Last updated  2016.04.02 21:53:35
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