冒頭文


     -1-

「こりゃあひどい」
町に入ったところでカレノは独り言。
彼の目の前には無残にも破壊された建物が累々と。
「この町の宿屋は無事でしょうか。少し心配になってきました」
一つ前に立ち寄った町で列車が来ないらしく仕方なくこの町まで徒歩で来たのだった。
その距離100km。
ここまで旅を続けてきた彼はもう疲れきっていた。
「何でこう疲れることばかり起こるんでしょうかねぇ」
そう言うとカレノは宿屋を探すために歩き出した。


5,6分歩いてみると、まあどこの町にもありそうな三階建ての宿屋が見つかった。
だが少し、いやだいぶ違うところがある。
「うわぁ、すごいギリギリ」
宿屋のすぐ横の建物がスクラップ同然の状態になっていたからである。
「何とか無事らしいですけどね」
そう言うとドアの取っ手に手をかけ、中に入った。
内部を見渡す。
どうやら一階が酒屋になっていて、二、三階が宿屋のようだ。
だがそれにしては人がやけに多い。
まだ昼を過ぎて4時間程度しか経っていないとゆうのに満員である。
そんなにこの店は町の人たちに人気があるのだろうか。
思考をめぐらしていると店主らしき人物に話しかけられた。
「旅人かい」
「はいそうです、それでここの宿屋に泊まりたいのですが」
「三十万グゥル」
「・・・え」
「泊まりたいんだろ。だったら三十万グゥルだ」
「そんなに高いんですか。もう少し安くならないでしょうか」
グゥルとはお金の単位。
付け加えるとこの国の民の平均収入は一月で約三十五万グゥルである。
「なんだ払えねぇんなら出ていきな」
鋭い目つきに圧倒され言葉を発せられなくなるクレノ。
そんなところに助け舟が渡る。

「おいおい旦那、そんなんじゃかわいそうだろ。いくら収入がなくなってるとはいえそんな額じゃあ誰も泊まってくれねぇぞ」
「収入がねえのは町のみんなをこの店にかくまってるからだろうが」
「ごもっともで」
「しゃあない、五万グゥルにまけてやるよ」
店主がしぶしぶといった感じで言った。
だがそれでも十分高い。
「どうする、泊まるのか、泊まらねぇのか」
 財布の中身とご相談。
 残金七万八千グゥル。
「泣きたくなる値段ですが泊まらせていただきます」
「ヘイ、まいど」
そう言うとあまりうれしそうでない顔でお金受け取った後、今日泊まることになるであろう部屋の鍵をわたされた。
その鍵には302という番号が書かれている。
「良かったなあ、まけてもらえて。俺はユガワってんだ、よろしくな」
助け舟を出してくれた男性が話しかけてきた。
「わたしはカレノです。まあ泊まれるだけましだと思っておきますよ」
「そんな泣きそうな顔するなよ兄ちゃん。あいつは結構頑固者で有名なんだ、一度決めたことを変えることなんてめったにないんだぞ。まぁ今日はゆっくりと泊まっていけや」
「お金を払ったからにはそうさせてもらいますよ。それであの聞きたいことがあるのですが――――」
「この町の建物は何故壊れているのか、だろ」
 何度かいろいろな人に聞かれたことがあるのだろう。言い馴れている。
「突然現れた爆弾魔にどんどん破壊されていっちまったのさ」
「爆弾魔ですか?」
「ああ」
「犯人はまだわかってないのですね」
「ああ、町の若い衆で見回り隊を結成したんだが、いまだに犯人が誰なのか分かってねぇんだ。ほれ、飲むか」
 ユガワさんがコップをカレノに差し出した。
 中には水が入っていてカレノはそれを受け取った。
「ありがとうございます。それでいつからこんなことが?」
「だいたい二ヶ月ぐらい前の町長の家が最初だったな。それで町長夫妻は死んじまってな、まあその息子は生き残って見回り隊の第二チームに所属してんだけどな。ほれ、そこにいるのがその息子のキミオウだ」
 ユガワさんが顎で示した先には黒い髪で華奢な身体つきをした二十代前半であろう青年が見回り隊の仲間であろう人物たちと談笑をしていた。
「あいつはいいやつだぜ。誰にでも優しくて思いやりのある男だ、見回り隊を結成したのもあいつだ」
そんな話をしていたら見回り隊第二チームの面々が宿屋から出て行こうとしていた。
「見回り交代の時間みたいだな」
 ユガワさんが言った。


 カレノは宿屋を出た。
月明かりが荒れ果てた町を照らす。
 外に出た理由はただこの町を見ておきたかったから、それだけだ。
 カレノは歩き出した。

 町を見渡しながら歩く。
どれだけ歩いただろうか、もう小一時間は歩いている。
そろそろ戻ろうかと踵を返そうとしたとき、どこからか声が聞こえてきた。
「そろそろいいんじゃねーの。あの宿屋吹き飛ばしちまおーぜ」
 若者の声が聞こえた。
 声の聞こえる方向へ静かに進んでいく。
 人影が見えたところで瓦礫の陰に隠れ、人影の方を窺う。
 一、二、三、四、五、人影は五人いる。顔までは暗くて見えない。
「まだ待ってくれ、爆弾が足らない。急いで作れば明日の午後には出来上がる。それまで待ってくれないか」
「そんじゃあ明日決行か、このときを待ってたんだよ。爆発と共にあがる叫び声」
「あんだけあの宿屋に人を集めたんだ、どんな光景を見れるか楽しみだな。こんな特大イベントを見られるのはあんたの出した提案のおかげだぜ、リーダー」
「いえいえ、僕もできるだけ楽しめた方がいいですからね」
最後に聞こえた声それは聞き覚えのある声だった。
 その声はキミオウのものだった。
 何とかして彼らの顔を見ようとしてほんの少し、ぎりぎりまで近づいた。
 顔が見えた。そこには見回り隊の第二チームの面々が揃っていた。
「そろそろ戻りましょう。ばれますよ」
 彼らは宿屋の方へ帰っていった。
 どうやら気づかれなかったようだ。
 カレノは彼らが見えなくなるまでじっとしていた。
 そして見えなくなったら先ほどまで彼らがいた場所まで行きそこにあるであろう物を探した。
「見ーつけた」
それはすぐに見つかった。


次回

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