カレノが説明を終え、家の外に出たときだった。
 先ほどまで気絶していた男がムクッと起き上がったのだ。
 それに気づいてカレノたちは身構えたが、すぐに警戒を解いた。
 それは彼の瞳が先ほどまでの虚ろなものではなく、しっかりと自分の意思を持った瞳だったからである。
「あれー、ボクどうしたんだろ。こんなところで寝て」
 彼が頭を掻きながら言う。
 まだこちらに気づいていないようだ。
「・・・あのー」
「え、あ、うわっ――――」
 カレノが彼に話しかけると、彼はこちらに気づき、そして驚いてこけた。
 ゴンッと、かなり鈍い音がした。
 頭を打ったようだ。
「っ―――痛たたたー。あなたたちは・・・いったい誰ですか?もしかして幽霊?うわっ、やった生きてるうちに幽霊に合えるなんて、なんて運がいいんだボクは!あっ、そうそう、ボクの名前はタイテル25歳あなたたちは?」
 あんなにすごい音を出していたのにまったく平気そうだ。
 最初はゆっくり話していたが、途中からいきなり早口になり、言いたいことを一気にまくしたてた。
 先ほどまでの彼とはまったく違った雰囲気にカレノたちは唖然としていたが、なんとかもとの世界に戻ってこられたので、この未知なる生ぶ・・・いや人間に応答することにした。
 ユウキはまだ向こう側の世界にいるのでカレノだけで応答する。
「ええとですね。わたしはカレノといいます。そしてこちらの少女がユウキです」
 自分の名前が口に出されたことによって、ユウキはやっと元の世界に戻ってこられた。
「あ、ああそう、あたしがユウキだ」
「そうですか。カレノさんにユウキさんですかよろしくです。初めまして」
 少しおかしな言語を使ってくるタイテルに対し、本気で未知なる生ぶ・・・に遭遇したのではないかと思ってしまうユウキ。
 だが彼は正真正銘ただの人間である・・・・・・たぶん。
「あれ?そういえばコウロウスさんの姿が見えませんね」
「彼に操られていたことをご存じないのですか?」
「えっ、そうだったんですか」
「そういえば、先ほどのいい方から察するに、あの男性と知り合いなんですか?」
「ええ、まあ一応」
「では彼がにんげ―――――」
「ただの人間じゃないってことも分かってますよ」
「そう・・・ですか」
「その言い方ですとコウロウスさんはもう逝ってしまわれたんですね」
 そう言ったタイテルの顔は少し悲しそうな顔をしていた。
「ええ。・・・・・あの、そのことで少し詳しく聞かせてくれませんか?」
「ええ・・・いいですよ。まずは彼がどういった人間かということをお教えしましょう。彼の名はコウロウス・J・ビアロッド、60年前にこの大陸で起こった戦争のときの革命軍の指揮官の一人です。彼は革命軍の領地の中でも、最も激戦区となった最前線、ここら辺一帯の部隊の指揮を執っていました。この町は最も最前線にあるということで革命軍の最前線基地として使われていました。最初は5部5部といった戦況でしたが兵の数も二倍以上、さらに新兵器の開発にも成功した政党軍の前にいつの間にか戦況は圧倒的に不利になっていきました。なので――――」
「あのさぁ」
 タイテルの話している最中にユウキが割り込んだ。
「なんです?」
 話を途中で切られてもタイテルは嫌な顔ひとつしなかった。
「そのとき開発に成功した兵器ってなんなんだ」
「ああ、それは戦車やマシンガンですよ。今でこそ軍の中で普及していますが、昔はあれが最新兵器として恐れられたんです」
 タイテルが説明する前にカレノが言った。
「へー、そうなんだ」
 ユウキはその説明にひとまず納得する。
「それでは、話を元に戻していいですか?」
「ああ、ごめん止めちゃって」
「それでは、革命軍の戦況は悪化し、もう攻め込まれても反撃するだけの力がなくなった革命軍は仕方なくこの基地を放棄しようとしたのですが、政党軍が攻めてくるのが一歩早く、なので彼は先に女・子供を逃がし自分たち軍が囮になることに決めたのです。まあ実際逃げ切れた人は少なく政党軍の無差別攻撃にほぼ大体の人たちが死んじゃいましたけどね。もちろん囮になった革命軍の部隊は全滅です。そしてこの町は廃棄されたまま今に至るというわけです」
「だから地図にも載っていなかったのですね」
「ええ、そういうことなんですよ」
「だけど、やけにこの町のことに詳しいよな。あんた」
「・・・・コウロウスさんには奥さんがいました。その奥さんはちょうど軍の追っ手から逃げ延びたんです。逃げているとき奥さんは身篭っていました」
「?それで?」
 ユウキは突然話を昔話に戻されたので、頭の上にクエスチョンマークを三つ出現させた。
「ぼくの名前は、タイテル・P・ビアロット。彼、コウロウス・J・ビアロットの実の孫です」
「なるほど、だから地図にすら載らない町のことを詳しく知っていたのですね」
「はい、ですから始めてこの町にたどり着いたときにはびっくりしました。何せ毎日のように祖母に見せられていた祖父の写真と瓜二つの姿の人物で、名前まで同じものを名乗っていたんですから」


「・・・・・・さて」
少し間をあけてからカレノが言って立ち上がる。
「わたしたちはそろそろ行きます」
「もう行っちゃうんですか。どうせならこの町に今日ぐらい泊まっていけばいいのに」
「それもそうですが、まだ日も落ちていないし、なんとなくここに居座る気がそがれてしまったので。そうでしょう、ユウキ」
「ああ、そうだな」
「そうですか。じゃあ出口まで案内しますね」
 そう言うとタイテルは少し寂しそうな顔をした後、先頭に立ち、歩き始めた。


「あなたはどうするのですか?」
 出口まで案内され終わったときカレノが聞いた。
「ぼくは・・・・・ぼくはこの町を再建しようかなって、そう考えているんですよ」
「そうですか。がんばってくださいね」
「はい。がんばらせてもらいます。それではまたいつか」
「ええ、それではまた」
 カレノとタイテルは静かに言葉を交わした。
「またいつかこの町に来るから、そのときまた会おうな」
「ええ、そのときまでにはこの町を立派にしておきますよ」
 一方ユウキは元気だった。
 それに答えるようにタイテルも笑顔を作って言った。
「約束だぞ。絶対な」
「はい、絶対です」
 その言葉を最後にカレノたちは旅立っていった。

次回

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