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カテゴリ: 白銀の炎
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玄関の扉をノックすると、シフィルが顔をのぞかせた。

「……あの」

 カイルが話そうとすると、すかさずシフィルは口をはさんだ。

「お怪我でも?」

「そうではなくて……その、グレンは」

「ああ、グレンね」

グレンにと、父上が。そう言って紅茶の缶が差し出される。シフィルは微笑んで受け取った。




 口篭もるカイルを見るのは珍しい、シフィルは思った。カイルはどちらかというと、

いつもかたくるしくて、年のわりに落ち着いた雰囲気であったはずなのに。


 彼もグレンには調子を崩されるのかもしれないな。シフィルは思った。

けれどグレンは文字通り、調子を崩している。

「彼は、奥で安静にしています。雨の日などは、どうも体調が思わしくないらしい」

 シフィルが部屋に視線を向けて言うと、カイルは言葉も無く振り返り、外へと走り去る。

 ずいぶん懐かれたものだ、シフィルは思う。カイルはやや気難しいところもあり、

多少扱いづらい部分もあった少年なのだが。

 シフィルは湯を沸かし、茶器に葉を落とす。湯を注いでしばらくすると、

ノックもなしに、カイルがずぶぬれで所内に上がってきた。

 手には根ごと引き抜かれ、雨に打たれてうなだれた花が握られていた。



 その花を差し出して、カイルは言った。

「……ありがとうございます」

 シフィルは礼を言ってそれを受け取り、奥で広口の空き瓶に据えた。

 カイルにタオルを差し出してやると、断られてしまう。

「必要ない。帰りはまた濡れるのだから」



「いい」

 シフィルは断るカイルの頭にタオルをかぶせて、拭いてやった。

おとなしく拭かれるままになっている。カイルは憮然とした顔で言った。

「グレンは、どこか悪いのか」

「胸の調子がね、よくないのですよ。雪の日も辛そうにしていましたし」

「……グレンの右腕は、以前から動かないのか」

「動かなくなったのは、ここ一年ほどの間ですけれどね」

 語りたくはないのだと思いますよ。彼には聞かないでやってください。シフィルは言った。

もう聞いてしまった、カイルは後悔する。

「……グレンに、腕はどうしたのかと聞いてしまった」

「そうですか」

「もう動かないと言っていた」

 それだけか。シフィルは安堵した。それ以上のことを、カイルが聞く必要は無い。

カイルはそのままでいい、二人が深く対話すれば、カイルに悪い影響を与えられるとしか思えない。

けれど、ここまでなついているのならば、逆にいろいろと良いほうへ動くのかも知れない。

シフィルは複雑な思いで考えていた。

「……いずれ、グレン自身から語られるまで、どうか待っていてやってください」

「わかった」

 カイルは神妙にそう言って、玄関に向かう。

「グレンには、会わなくてもよろしいのですか?」

 カイルの背中に問い掛けると、彼は振り向いて言った。

「わたしは庶務を済ませてからここに来たのだと、伝えておいてくれないか」

「はい、伝えておきますよ」

 難しい顔をして告げ、遠ざかっていくカイルに返事ををする。

カイルの靴音を、シフィルはほほえましく思いながら、聞いた。

グレンとカイル、話せば互いに、得ることも多いのかもしれない。

シフィルはカイルのことを思った。グレンの口から、いろいろと話してもらえれば、

この国の皆がカイルに背負わせてしまったものを、取り除くことが出来るのかもしれない。


 だが、それはとても難しいだろう。シフィルは思って溜め息を吐いた。

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最終更新日  2010.01.09 10:28:20
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