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カテゴリ: 白銀の炎
*****

 靴の雪を落として二人は中に入り、グレンは沸かした湯に手を伸ばした。カイルがそれを止める。
「茶なら私が淹れよう。おまえは休んでいてくれ」
 カイルが茶を淹れている間、グレンは暖炉の前にしゃがんで、手をかざして、温めていた。茶のいい香がする。グレンの顔がほころんだ。

 キッチンで、二人で茶を飲みながら、話した。
「あの二人は、まだ起きてこないのだな」
「二人とも、そうとう飲んでたからなぁ」
 まあ、寝かせておいてやれよ。グレンが笑いながら言う。カイルは何を話せばいいのかと考えて、グレンに聞いてみたいことがあったことを思い出した。

 自分の腰骨のあたりを示して、カイルが言う。グレンの顔がわずかに曇ったことに、カイルは気づかない。
「……紋様が入っているだろう? あれはおまえの国の風習か」
 きれいだったと、改めてカイルは思う。
「……あれは、奴隷印だ」
 問いに答えるまでに、少し時間がかかった。まずかったかな。グレンは思う。
「奴隷……?」
 カイルは思った。奴隷なら焼印を押されるのではないだろうか。
「普通は焼印なんだろうけどな。俺を使っていたやつが、裕福だったから」
 あんな感じになったわけだ。グレンは茶を飲みながら、なんでもないことのように言った。カイルの顔色が見る間に冷める。

 どうしてわたしは、このようなことばかり尋ねてしまうのだろう。以前も腕のことを聞いて、グレンのことを泣かせてしまった。どうしよう。どうしたらいい。グレンは微笑んでいる。泣かれても辛いが、こうして微笑まれても苦しい。

 カイルの顔を見たグレンは、驚いてしまった。青ざめている。

「わたしは……わたしは……」
 目を潤ませているカイルの肩を、グレンは片手で揺さぶった。
「どうしたんだよ、おい、カイル?」
「……すまない……余計なことをきいた……」
 言って、カイルは歯を食いしばる。涙がこぼれた。自分が嫌になる。

 きつく目を閉じ、うなだれているカイルから流れ続ける涙。声をかけても、返事もなく泣き続けている。グレンは困ってしまった。
「ごめんな。……俺のせい、だよな」
 カイルはその言葉に目を開け、言い放った。
「違う!!」
 開いた目から大粒の涙がこぼれ落ちる。語気を強めてカイルは言った。
「わたしがいけないんだ!! おまえを傷つけるようなことをいつも! いつも!!」
 グレンは左腕を伸ばして、カイルの頭を撫でた。
「今だって、わたしが、泣いたりなどして……泣きたいのは、おまえのほうだというのに」
 涙声で、言葉をとぎらせながらカイルは言う。グレンは微笑んだ。
「どうして、笑うのだ……」
 しゃくりあげそうになるのをこらえながらカイルが言う。グレンは指で、カイルの涙をぬぐった。カイルは12歳だ。まだ子供だ。俺みたいなのに関わって、傷つく必要はない。
「いや……おまえも困ったんだろうな、ってさ」
 俺が泣いたときに。グレンは静かに言った。
「傷ついてないよ。おまえが悲しむことはない」
 カイルは拳で涙をぬぐった。
「この国にだって、奴隷制はあったんだろう? 今は無いのかもしれないけど、印を刻まれたやつらは、この国で今も、生きている」
 カイルはじっとグレンを見つめた。
「もう、そういうことが起こらないように、おまえがこの国を、みていかないとな」
 グレンは微笑みながら、言い聞かせるように言った。リゲンだって、今でも生きているやつの一人だ。たった十数年でこの国はこんなにも平和になった。それを失うな。グレンは思った。
「わたしが……?」
 カイルはつぶやくように言った。わたしがこの国を、見ていく。わたしが……。
「そう、おまえが」
 グレンは真っ直ぐに言う。カイルの涙は止まっていた。
「おまえは、すごいな……」
 カイルはつぶやいた。
「何がだよ」
 別にすごくなんかは無ぇよ。グレンが苦笑するように言った。カイルは首を左右に振りながら、言う。
「わたしはもう、泣いたりなどしない。いつか、おまえのように、なりたい」
 言った傍からカイルは再び涙をこぼす。
「……あ」
 自分でも驚いたようにカイルは言葉を放つ。どうして泣いてしまうのだろう。グレンのようになりたいと、思ったばかりなのに。
「……謝るなよ?」
 グレンが笑みを浮かべながら言った。すまないと、カイルは言おうとしたところだった。グレンはカイルの頭をわしわしとなでて、言う。
「泣いたって、かまわねぇんだよ」
 そう言われてカイルは、言おうとしていた言葉を飲み込んで、言った。
「……わかった」

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最終更新日  2010.01.21 06:31:16
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