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カテゴリ: 白銀の炎
*****

 グレンは黙り込んでいた。静かな部屋の中で、シイナが凍った雪を踏み、浚う音が聞こえる。
「グレン、どうしたんだい?」
 何か考え込むように、黙っているグレン。シフィルは紅茶を入れて、グレンの前に置いた。
「……外に、誰かの足跡があったね。きみと、もう一人」
「カイルだ」
 やっと口をきいたグレン。
「……言っていた通りになったね」

「雪はどうにも出来なかったけどな、あいつ」
 グレンはふっと笑って、つぶやいた。
「泣かせちまった……」
「きみもよく泣いていたね」
 ここに来た頃に。シフィルが言う。グレンは苦笑して答えた。
「どうかしてたんだよ……俺」
 シフィルは思う。当然だ。今までとは違うところに、違う状態で一人、取り残されたのだから。あの頃のグレンは身体も精神も不安定で、目が離せなかった。シフィルはどこか懐かしく思い返す。
「あいつも、そうなのかな……」
 グレンはつぶやく。
「カイルのことかい?」
 たしかにカイルは不安定だとシフィルは思う。だがそうさせてしまったのは自分たちだ。この国のすべての人間だ。

「あいつ……すこし様子が……」
 そういって、言葉をとぎらせたグレン。
カイルはおかしかった。自分のことを、俺に重ねているような……。それにあの、腕の痣……。
 誰も気づいてはいないようだけれど……。口元に指を触れて、考えてから、言う。
「あいつ、何か……おかしくないか?」

 シフィルはグレンが何を考えているのかわからなかった。
 グレンは再び黙り込む。そんなグレンをシフィルは不思議そうに見つめていた。
 グレンは紅茶を飲んで、シフィルの名を呼ぶ。
 呼ばれたシフィルはグレンをじっと見つめた。グレンもシフィルの目を見て、言う。
「考えてみてもいい」
 唐突に言われた言葉に、シフィルは何をだろうかと考えた。
 再びしばらく黙り込んで、ゆっくりと茶を飲んだ後、グレンは言う。
「……医者になってみてもいいと、思った」
 なれるなら、な。グレンは自嘲するようにそう言った。
「むいていると思うよ、きみに」
 シフィルが微笑む。グレンは目を閉じた。
「見習いにしか、なれないよな」
 どこか悲しげに笑うグレンに、シフィルは言った。
「優秀な助手は、欲しいと言っているだろう?」
 グレンの、何かが変わった。シフィルは内心驚いていた。グレンがこんなことを言い出すなんて。
「じゃあ、俺はこれからおまえの助手だな」
 グレンは微笑みながら、静かにそう言って、茶を飲んだ。

 シイナが汗だくで診療所に入ってくる。
「あちい~」
 上着を脱いで、ばさばさと仰ぐようにするシイナに、グレンはタオルを差し出した。
「おつかれさん。助かったよ」
 そんなグレンを不気味に思いながら、シイナは汗をぬぐって言う。
「なんか、おまえ、きもちわりいぞ」
 グレンはやけにニヤニヤしている。シフィルがシイナに手を差しのべながら言う。
「失礼なひとだね。私の助手にむかって」
 言ったシフィルにシイナは呆気に取られた。
「見習い医師の次は、助手かよ」
 シイナは呆れながらタオルをシフィルに渡した。
「経歴詐称っつうんだぞ、そういうの」
 シイナが軽く睨んでそういうと、シフィルはくすくすと笑っている。なにがなんだかわからないといった様子で、シイナは天を仰いだ。何が楽しいんだか。
 そんなシイナに、グレンは薄く笑いながら言った。

「……俺は、カルセイグのグレン。診療所医師、シフィルの助手だ」

****** 序章 了 ******


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最終更新日  2010.01.31 18:38:51
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