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「……なんで?」
 サラの話をおとなしく聞いていたグレンが、唖然として口をはさんだ。
「だって、ヨギって絶対、あたしのこと嫌いだもん!! あのひと、リオのこと、好きだったんだよ? あたしのこと、好きなわけがないよ!!」
「……そうは思えねぇけどな」
 絶対にありえない。もしそうだったのだとしても、今のヨギの心を占めているのはサラだ。
 グレンが思っていると、サラはぽつりと、つぶやくように言った。
「あたしはね……セツのことが好きだったの……」
 やっぱり。グレンは思った。
「あのなぁ……」

「ヨギのやつは、おまえのこと、本当に心配してるぞ」
 サラは再び目を閉じる。
「……わかってるの。ほんとうは」
「じゃあ、嫁に逃げられた、情けない男のままにしておくのは、やめてやれよ」
 グレンが言うと、サラは思いに沈むように、しばらく沈黙した。そして唐突に言う。
「あなた……命の力が、とても弱い」
「…………え」
「腕は……あたしじゃ……どうしようもないけど……からだのほうは」
 躊躇うようにそう言って、サラはグレンの胸に手を触れる。触れられたグレンの胸と、サラの手が、ぼんやりと輝く。グレンは何が起こったのか、わけがわからないまま、その様子を見ていた。やがて光が消えて、グレンは自分の身に起こった事に驚いた。
「おまえ……なに……やったんだ?」
 グレンは戸惑いながら、サラにたずねる。

 グレンは思う。おとぎ話の世界の話だ。そんなもの。だが、自分の今の状態は……。
「おまえが、使えるって言うのか……?」
 グレンの胸の痛みも、息苦しさも、消えた。信じてしまいそうになる自分のことが、グレンにはなにか、恐ろしく感じられた。
「不完全だけど……だから、無理したら……だめだよ」
 グレンは信じられない思いで、サラの言葉を聞いていた。そして――

 動かなかったはずの、あいつの腕。説明がつかない出来事。
「リオは……リゲンは……違うよ」
 サラは静かに、けれど確信を込めて、言った。そして続ける。
「――リオじゃ、ないの」
 どういうことなんだ? グレンには、わけがわからない。

「カイルが成長していくのに、あたしはなんにも変わらない。時間の進み方が違うみたいに……。あの子が大きくなっていくのに、あたしは年をとらない。辛かったの。とても……」

 サラは涙をこぼしながら、そう言った。
 グレンには、何を言ったらいいのか、自分の聞いたことがどういうことなのか、わからない。
 こいつは何を言っているんだ? グレンは呆然として、サラの泣き顔を見ていた。

「……だから、あたしは戻れない。戻れないの……」
 グレンは、サラの言葉を信じてしまいそうになる自分に呆れた。
 ――だけど……自分の身体は、確実に、良くなっている。
 魔法って、どういうことだ? リゲンじゃないって、何だ? なにか他の者が関与しているのか?  わけがわからない。

 確かに、こいつの姿は変わらない。リゲンの姿も変わっていない。年齢よりも若く見える、なんて言葉じゃ、説明がつかない。 変化がなさ過ぎる。目の前のこいつは何歳のはずだ? そろそろ40に手が届くはずの年齢じゃないか――

 グレンは言葉もないまま立ち上がり、逃げ出すように、炭焼き小屋から離れた。

 ――忘れよう。今聞いたことは忘れよう。自分の身に起こったことも、全部夢だ。幻だ。

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最終更新日  2010.03.10 09:46:56
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