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ものすごく久々に小説です。
すみません、白銀じゃないです。
現代物の、恋愛もの? 微妙です。昔に書いたものです。1997年。





 だって、いらないと思った。

 なにやってるんだろう、あたし。

 あたしはごみっための中にいる。

 しょうがないじゃん。こんなあたしは、いらないと思ったんだから。

 ごみのように捨ててしまった、いままでの、あたし。


 髪を切った。

 眉毛の上で切りそろえた前髪。

 サラサラのストレート。




 やめてしまった、煙草。それから――

 ――白いエプロン……。

 『あたし』 を捨ててしまってから、時々感じるおかしな感覚。

 なんなんだろう、これ。あたしがあたしに見下ろされているような……。


 TRASH DUST ~ごみくず~


 誕生日プレゼントは、ワンピースだった。
 うんざりするほどスカート丈が長くて、そのうえ裾が広がっていて、全体的に小花が散らしてあるような。

 『奈々に似合うと思って』 ……そう言って渡されたそれは、まったくあたしの好みではなかった。

 だけど、あたしはきれいにラッピングしてある箱から、それを取り出してほほえんでいる。
「ありがとう。嬉しい」
 さらりと言葉が出てくる。そう言ってしまえば、あたしは本当に嬉しくなったような気がしてくる。
 こんなのを金出して買っちゃう奴の気が知れない、とか思っていたようなそれを、いそいそと身につける。

 信じられないな。こんな格好して喜んでる、あたし。
 もう一度、微笑んだ顔を鏡に映して、あたしは瑛にその姿をみせに行く。きっとあきらは喜ぶだう。ものすごく満足するだろう。
 思った途端、表情がぎこちなくなる。
 いけない。こんな顔して。あたしは今、とても幸せなんだから……。

「やっぱり似合ってるよ、それ。すごくいい。もっとそういうの着ろよ」


 男の好みに合わせる女なんてサイテー。自分の好みや理想、押し付ける男なんてサイアク。自分がタバコ吸ってるくせにさ、ひとに吸うなとか言う男、ソッコー蹴りだよね、ケリ。
 ちょっと前までそんなこと言ってたくせに。

 仕方がない。ほれているのだ。
 だからいいのさ、こんなささいなこと。
 あきらが喜ぶなら、別に服くらい、どうってことない。
 タバコだって、別にやめたっていい。あたしの身体のことを、考えて言ってくれてるんだよね、あきらは。服だって、今まで着ていたようなものより、こっちのほうがいいって、あきらが言うんなら、あたしはきっと今まで、よほど似合っていない服を着ていたのだろう。
 きっと似合っていなかったんだ。今までのあたしのすべて。髪型も、化粧も……友達も。

 三ヶ月。そうやってあたしは、あたしを捨てていった。
 いらないと思った。瑛の好きじゃない、あたしの 『部分』 そんなものはゴミだ。捨ててしまえ。ばいばーい、とか思ったんだ。

 そうやって瑛のために変わっていったあたし。
 なんだかすっかり馴染んでしまって、まるでなんにも知らないおじょうちゃんみたいだ。今までの服も、靴も、化粧も、もうきっと、ぜんぜん似合いはしない。
 そう、きっと似合わない。だけど。
 あたしはなんだか、とてもこわかったのだ。あのワンピースを着て、ほほえんでいる自分が。
 これはいったい、誰なんだろう。あたしであるはずがない。
 でも、それは他の誰でもなく、まちがいなく、あたしだったのだ。

 なんだかもう、とても昔のことのような気がする。
 あの頃のあたしは、ろくに学校にも行かず、友達と一緒に、昼も夜も関係なく、そこらじゅうをふらふらとうろつき回っていた。
 ろくでなしの、あたしたち。

 あの夜、くさるほど飲みまくって、うっかり置き去りにされてしまったあたしを拾ったのが瑛だった。
 それからあきらとの、ままごとのような生活が始まって、ろくに行ってなかった学校へは、完全に行かなくなった。友達にもぜんぜん会っていない。まるで世の中から、切り取られてしまったような、あたしの生活。

 あきらとの出会いを、懐かしく思い出す。なんだか夢でも見ていたみたいだ。本当にあったことだなんて、今は思えない。
 あんなあたしがいたなんて、あたしというものが、あんなふうだったなんて、どうしても今は、信じられないことのようで。

「大丈夫か」
 あきらがたずねてくる。あたしは意外なことを言われて、どう反応すればいいのかわからなかった。
「……なんで? 大丈夫だよ、あたし」
 ほっとしたようなあきらの顔。
「元気が無さそうに見えたから」
 両手でほっぺたを包まれる。ちょっと冷たい手。みつめてくる目が優しい。あたしはなんだか、あきらが気の毒に思えた。
「……元気だよ……そんなふうに、見えた?」
「いや……なんとなくだけど」
 あきらの腕が、あたしを抱きしめる。やさしく髪をなでてくれる。とても大切そうに、とても愛しそうに……肩でぶっつり切ったストレートを……。
 あたしはなんだか、とても悲しいきもちで、その指の動きを目で追った。
「気のせいだよ、きっと」
 そうっと。つぶやいてみる。あきらの指の動きが止まり、あたしの顎と頭を支えられる。近づく瑛のくちびる。目を閉じてあたしは、触れられるのを待つ。そして、その先を……。

 頭の中で、さっきから鳴り響いている瑛の言葉。

 大丈夫か……大丈夫か……大丈夫か……

 ……気のせいだよ、きっと。心の中であたしはくりかえす。
 そう、ぜんぶ気のせい。きのせいなんだ……。

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最終更新日  2010.04.01 14:53:04
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